2015/05/08 宝塚歌劇団雪組 ミュージカル 『アル・カポネ—スカーフェイスに秘められた真実—』開幕レポ


主演・望海風斗さんが熱演! 快演!
宝塚歌劇が描く“アル・カポネの真実”とは…?



 史上最も有名なギャングのひとりアル・カポネ。

 その半生を虚実織り交ぜながら、あくまで“宝塚歌劇的”に、ひとりの男の物語として描くミュージカル『アル・カポネ —スカーフェイスに秘められた真実— 』がいよいよ開幕!


 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて初日を前に行われた公開舞台稽古の様子をレポートいたします。






「宝塚歌劇でアル・カポネ!?」

 このミュージカルの上演決定を知ったとき、こう思った方はきっと多いはず。

 アル・カポネといえば、1920年代、史上最悪の法律といわれた禁酒法の時代に、アメリカ・シカゴの闇社会を牛耳り、警察や政治家を意のままに操ったと言われているギャングスター。

 酒の密売、聖バレンタインデーの虐殺、そしてエリオット・ネス率いる“アンタッチャブル”との攻防…とトピックスには事欠かず、数々の映画やテレビドラマのモデルにもなった彼ですが、けっしてクールなハンサムというわけではなく、女性関係もどちらかといえば地味目な印象。

 はたしてこれがどうやって宝塚歌劇に? 

 その答えはどうやら劇中で繰り返される「真実はひとつではない」という言葉にあったようです。



特別待遇で刑務所に収監されているカポネのもとを訪ねてきたのは
映画『暗黒街の顔役』の脚本家ベン・ヘクト(永久輝せあさん)。




 劇場に入りまず驚かされるのは、舞台上にドドーンと鎮座する巨大な「樽」。この樽の舞台セットがときに酒場に、ときにカポネの執務室になるという仕掛けです(舞台へ続く階段も…! ぜひ劇場でお確かめください)。

 カポネといえば、酒の密売や違法な醸造…この樽のなかに渦巻くものは果たして…? と妄想しているうちに樽がくるりと回転し、いつしか舞台はカポネが特別待遇で収監されている刑務所へ。

 刑務所といっても、このとき(1929年)の逮捕はカポネが自ら仕掛けたもの。ギャング同士の抗争に一般市民を巻き込んでしまったことから、世間の目が厳しくなり、「ほとぼりがさめるまで」と自作自演の軽微な罪で刑務所に“避難”をしていたのです。

 というわけで、望海風斗さん演じるカポネは刑務所の中でも余裕しゃくしゃく。退屈まぎれに自分をモデルにした映画の脚本家を呼び出し、「良く書けている。しかしあんたには本当のことを知っておいてもらいたい」と語り始めます。


<♪おけぴ的観劇ポイント>
ここでぜひ心に留めておいていただきたいのが、ハワード・ヒューズ(製作)&ハワード・ホークス(監督)コンビによるギャング映画の傑作『暗黒街の顔役』の存在。
アル・カポネをモデルにしたこの映画、実はカポネの存命中、もっと言えばカポネがついに(自らの意志に反して)捕らえられ刑務所に送られた1932年に封切られているんです。

実在のギャングの物語を、同時代に映画にしてしまうというのがいかにも狂乱の20年代的ですが、そのことを至極当然に受け止めているカポネ(を演じる望海風斗さん)もカッコイイ!

この映画の存在が頭に入っていると、観劇中のぐっとくるポイント倍増! なのでございます。



 脚本家ベン・ヘクト(実在の人物です)を演じるのは、雪組期待の若手スター・永久輝せあさん。登場シーンはそれほど多くありませんが、最初はおっかなびっくり、その後カポネの人間性に触れて次第に心をひらいていく様子を丁寧にみせてくれました(物語後半、彼が歌うソロナンバーこそが作品のテーマでもあるかも!)。

 映画『暗黒街の顔役』の原題は『SCARFACE(スカーフェイス)』。これは顔に大きな傷があったカポネのあだ名から来ていますが、この傷がついた理由についてカポネは「真実を知ってもらいたい」と言うのです。

 ここからカポネが回想する形で、舞台は1917年にさかのぼります…。

 貧しいナポリ移民の二世として生まれ、堅気の世界での成功を夢見るひとりの青年として描かれる若き日のカポネ。さきほどまでのいかにも“ギャングのドン”といった風情から一気に爽やか男子に変身する望海さん! 
 
 正義感にあふれ、子どもにやさしいキャラクター(衣装もまだ“ギャング仕様”ではないシングルスーツ♪)に、ほっと安心。凄みのきいたボス役もかっこいいですが、やはり好青年風の役柄もお似合いです。



生涯の伴侶となるメアリー(大湖せしるさん)との出会い。
対立するイタリア系とアイルランド系という障害を乗り越えて結ばれるふたりです…。


 “スカーフェイスの真実”…カポネの顔に傷がついたいきさつは、ぜひ劇場でお確かめいただきたいのですが、史実とは異なる宝塚歌劇ならではのオリジナルエピソードとなっていて、これがカポネが闇の世界に生きることになったきっかけでもあり、同時に最愛の人を得ることのできた理由でもあるんですね。このあたり、さらっと描かれているのですが、タカラヅカ的に「うまい!」と思わされるポイントです。

 カポネの妻となるメアリー役を演じる大湖せしるさんとのシーンでは、ちょっとした台詞の端々、そして表情から感じられるさりげない愛情表現がなんとも素敵。闇の世界の頂点にのぼりつめた後も、妻そして家族を大切にするカポネの姿に思わず胸がキュンっとなってしまいます。望海さんがみせる“ギャング”から“夫”への表情の変化にも注目ですよ!

 その他の登場人物たちもおおむね実在した名前がずらり。

 専科から出演の夏美ようさんは、一幕ではカポネを引き立てるギャングの大物、ジョニー・トーリオ役を、二幕では“アンタッチャブル”エリオット・ネスの上司でもある連邦政府の財務長官役という正反対の立場の二役を演じわけます。

 さらに香綾しずるさん久城あすさんといった雪組の芝居巧者たちが、役名のついた人物のほかに数人を演じているのも注目ポイント! カポネと敵対するギャング(香綾さんの小芝居最高です)や、腹心の弁護士(久城さんのメガネ姿も最高です)を演じていたかと思えば、次の場面であっという間に善良な市民や、裁判官に変身。これ、気が付きにくいのですが、衣装の早替えがけっこう大変そう。もちろん衣装だけではなくシーンによってキャラクターを変える演じ分け、ぜひ劇場でご注目くださいね。



実在の人物が多数登場するこの作品。
なかでもカポネに次いで有名なのがこの人、
月城かなとさん演じる“アンタッチャブル”エリオット・ネスです!


 カポネの生涯を淡々と語っているように思わせながら、ときに「おおっ」というフィクションを盛り込んでくるのがこの宝塚歌劇版アル・カポネ。そのなかでも特に脚色(というかほぼ創作)されているのが、カポネとエリオット・ネスの関係です。ケビン・コスナー主演の映画『アンタッチャブル』で描かれていたような、ネスがカポネを追い詰めていく様子にスポットを当てるのではなく、「学生だった頃のネスとカポネの出会い」というフィクションを入れたことで、ふたりの男の奇妙な絆にクローズアップ!

 憎むべき敵でありながら、どうにも心惹かれてしまうカポネという存在。その前で苦悩する月城かなとさん演じるネスが…美しい! その心の内を見透かしているようなカポネの眼差しも…美しい!

 ふたりで酒を酌み交わしながら、ふとカポネが心情を吐露する場面での望海さんの演技、そしてそれを受ける月城さんの表情…これこそ宝塚歌劇版「アル・カポネ」! と言いたくなる素晴らしいシーンになっています。

 このほか、カポネに直談判して手下になる少年を演じた真那春人さんも、一人前のギャングになるまでの姿を思い切り良く好演。客席の注目を集めました。

 舞咲りんさん透水さらささんら、歌って踊れる雪組娘役のみなさんが集結した大人っぽくセクシーなショーガールたちや、スーツ姿でクールなダンスを見せてくれる男役のみなさんなど、主要人物たち以外の見どころもたっぷり。

 「どんなナンバーも歌いこなしてしまうのでは」と思わせる望海風斗さんの歌唱力にあわせてか、聴き応えのある楽曲も多数! フィナーレナンバーでの“色気ダダ漏れ”っぷりは、花組からの組替えを経てより一層魅力的な男役になった望海さんの魅力を堪能させてくれますよ!



「真実はひとつではない」
はたしてカポネの“真実”とは…?


 大胆にフィクションを取り入れながら、淡々とすすむ印象もある物語。実在の人物を題材にしているからこそ、歌劇の世界の中で、演者それぞれが役柄に肉付けしていく楽しみがありそうです。梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演は5月17日まで。その後、東京赤坂ACTシアターにて5月26日から上演が始まります。

 博多座では雪組トップスター早霧せいなさん率いる『星影の人』が上演中。日本物もスーツ物も楽しめる層の厚さ…! これからも注目作品の続く宝塚歌劇から目が離せません!


宝塚歌劇団雪組 ミュージカル『アル・カポネ —スカーフェイスに秘められた真実—』
作・演出/原田 諒

梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演 2015年5月9日(土) - 5月17日(日)
赤坂ACTシアター公演 2015年5月26日(火) - 6月1日(月)

梅田芸術劇場 公式サイト


おけぴ取材班:mamiko(撮影・文)  監修:おけぴ管理人

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