少額訴訟とは?
チケット掲示板を利用する上で、チケット詐欺を未然に防ぐための方法を知り、実際に対策をとることはとても重要です。しかし、もしあなたが不幸にもチケット詐欺に遭ってしまったら……
通常「裁判」というと長い時間と莫大な費用負担を必要とするので、チケット詐欺等の少額の被害金額を取り戻すためには骨折り損、というイメージがありました。
しかし、「少額訴訟」を利用すれば、弁護士に相談しなくても簡単な形の裁判を起こすことができます。手数料も安く、通常1日で判決が下ります。
そんなわたしたち一般市民のための裁判、「少額訴訟」について、できるだけ簡単に説明してみますね。
1.少額訴訟は「普通の人(=一般市民)」のための制度です
少額訴訟を使うと、弁護士などを雇わずに自分の手で裁判を起こすことができます。分からないことがあれば、簡易裁判所に行って相談することもできます。安価で期間も短く終わり、莫大な費用と長い期間を要する通常の裁判と違って一般市民が気軽に利用することのできる制度です。
2.少額訴訟にかかる費用は安価です
少額訴訟にかかる費用は大きく分けて2つあります。一つは、裁判所に手数料として納める
所定の金額の収入印紙。そしてもう一つは、裁判所から被告に連絡をとる際に使用される通信費として納める切手です。その2つを足しても、通常の訴訟にかかる費用や弁護士への謝礼などを考えれば破格です。
3.少額訴訟は、「60万円以下の支払いを求める事件」に限られています
少額訴訟は、60万円までの金銭の支払いを求める内容の事件に限られています。事件の内容を限定しているから、よりシンプルな形での裁判が可能になるわけですね。
4.少額訴訟の審理は、原則として1回で終わります
裁判のために何度も裁判所に足を運ぶ必要はありません。裁判は通常1日で終わり、判決も即日言い渡されます。
そのほかの少額訴訟の特徴
・証人を必要とする場合で、証人が裁判当日に裁判所に出頭できない場合には、電話で証人尋問することもできます。
・原告の請求を認める場合でも、3年以内の範囲で分割払いや支払い猶予の判決を言い渡す場合があります。
少額訴訟のココに注意!
安価で手続きも簡単な少額訴訟ですが、注意しなければないない点もいくつかあります。
相手の居場所が分からない場合は不可
少額訴訟は、原告と被告が協力して簡易な形式で行う裁判であるため、被告がそれに同意しなければ行うことができません。したがって、被告の現在の居場所がはっきりしない場合は少額訴訟を起こすことはできないのです。チケットの取引の際は、相手の住所をきちんと確認しておくことも重要です。
控訴はできません
判決の内容に不服であっても、少額訴訟では、控訴をすることができません。代わりに「異議申し立て」という手続きが用意されていますが、これを行うと、通常訴訟(通常の形式の裁判)に移行することになります。つまり、少額訴訟をすることのメリットがほとんどなくなってしまうわけです。よって、少額訴訟は「確実に勝訴できる見込みのある事件」で利用するとよいと思います。
長引くこともあります
被告には通常訴訟を選択する権利が認められています。したがって、原告が少額訴訟を提起しても、被告が通常訴訟での審理を希望すれば通常訴訟に移行します。
また、その訴訟が少額訴訟で審理するのに相当しないと認められる場合には、裁判所の職権で通常訴訟に移行する場合もあります。
金銭の支払いを要求するものでなければいけません
少額訴訟は、金銭の支払いと求める裁判に限定されています。「送られてこないチケットの送付を求める」といった目的では利用できません。
少額訴訟の手続きの手順
1.簡易裁判所の窓口で相談してみましょう
まず、地元の簡易裁判所に直接行ってみましょう。各簡易裁判所には、少額訴訟手続きの内容を説明した書面(リーフレット)やビデオがあります。また、裁判所の書記官から、手続きについての説明を受けることもできます
2.証拠書類を集め、訴状を作成して提出しましょう
簡易裁判所で受けた説明をもとに、訴状を作成してみましょう。
簡易裁判所の定型フォーム(定型訴状用紙)を使用すれば、請求する金額や理由などを記載するだけで比較的簡単に訴状を作成することができます。
また、相手とやりとりしたメールのコピー(メールヘッダー部も含む)などの証拠書類を準備しましょう。
そして、訴状を提出する際には、請求額に応じた額の手数料(収入印紙で納めます)と、裁判所が被告側に連絡を取る際に必要な切手代(扱う裁判所によって額が異なりますが、通常4,000円程度です)が必要になります。これらは、勝訴すれば被告に支払わせることができます。
手数料一覧
訴額 |
〜10万円 |
〜20万円 |
〜30万円 |
〜40万円 |
〜50万円 |
〜60万円 |
手数料 |
1,000円 |
2,000円 |
3,000円 |
4,000円 |
5,000円 |
6,000円 |
これらの準備ができたら、訴状と証拠書類のコピーを簡易裁判所に提出します(この時点で少額訴訟を提起したことになります)。
提出するのは、「被告の住所地を管轄する簡易裁判所」となりますので、注意が必要です(基本的には自分の住所地の簡易裁判所に提出することはできません)。
3.審査/訴状・呼出状の送達
訴状を提出すると、裁判所で審査が行われ、電話で聴取の連絡があります。
・相手方の裁判期日の出席の見込み
・訴状の送達の可能性
・それまでの当事者間の交渉の経過
・和解の希望の有無
などの質問に答えましょう。
これらの質問をもとに、「通常審理が妥当である」と裁判所が判断すると、少額訴訟ではなく通常の審理に移行することになります。また、相手方が通常審理を希望する場合にも通常審理に移行することになるので注意が必要です。
「少額訴訟が妥当である」として審査が通ると、被告に対して訴状と証拠書類のコピーが送られ、裁判期日(通常は半月から1ヵ月後となります)について、原告と被告の双方に裁判所から連絡があります。
4.裁判当日
裁判当日は指定された時刻に簡易裁判所に出頭しましょう。よくテレビ等で見るかたちの法廷ではなく、一つのテーブルの周りに裁判官と原告、被告が座って裁判は進められます。裁判官から手続きについて説明を受けたあと、質問に答えていきます。30分から1時間程度の時間がかかります。
裁判終了後、20分から30分経つと裁判官により判決が言い渡されます。判決の前に原告、被告双方に対して和解の提案がある場合もあります。
判決の内容に納得がいかない場合でも控訴をすることはできませんが、その代わりに「異議申し立て」という手続きをとることができます。原告、被告のどちらかが異議申し立てを行った場合、通常の形式による訴訟に移行することになります。
(異議申し立ては判決から2週間以内に行わなければなりません)
他の方法
紛争を解決する手段としては、他にもいくつか方法があります。ここでは代表的なものを2つ紹介します。
内容証明郵便
内容証明郵便とは、郵便局が手紙の内容を公的に証明してくれるものです。この方法で相手に請求書を送れば解決する場合もあるでしょう。そうなれば、少額訴訟より安価に、早く解決することができます。
調停
調停では、民間から選ばれた民事調停委員が双方の話を聞き、紛争解決のあっせんにあたってくれます。訴訟手続きのように公開されませんので、比較的になごやかな雰囲気で話し合いをすすめることができます。
しかし、相手方と既に話し合いをもっており、もう話し合いの余地がない場合には有効とはいえません。
相談するには……
もし少額訴訟のことで困っているのであれば、早速最寄りの簡易裁判所に行って相談してみましょう。最寄りの司法書士事務所、弁護士事務所や、各都道府県の司法書士会、弁護士会などでも相談することはできますが、相応の費用を払わなければなりませんので、簡易裁判所で相談するのがおすすめです。
少額訴訟は独力で行うことができることがセールスポイントですので、簡易裁判所でリーフレットやビデオの解説を見て、分からないところは質問しながら、定型の用紙に記入して訴状を作成することは十分可能なはずです。
参考資料:『誰でもできる少額訴訟』小澤吉徳著,こう書房(1998)