『お気に召すまま』ゲネプロレポート

 シアタークリエにて開幕した舞台『お気に召すまま』。観劇後には、ブロードウェイの最前線で活躍するクリエイターたち、ここに集結した役者さん、そして、シェイクスピア…、それぞれの「As you like it!」というメッセージが頭をぐるぐる。これってまんまと術中にはまってしまったのかな?
 そんな「As you like it」な世界をレポートいたします。

【あらすじ】
 ロザリンド(柚希礼音さん)の父(小野武彦さん)は、自身の弟であるフレデリック(小野武彦さん/2役)に地位を奪われ、政界から追放の身となるが、ロザリンドはフレデリックの娘シーリア(マイコさん)との友情からワシントンD.C.に留まることが許され、2人は姉妹のように仲良く暮らしていた。
 今は亡きローランド・ド・ボイスの息子たちも彼女たちの近くに住んでおり、その三男オーランドー(ジュリアンさん)は長男オリヴァー(横田栄司さん)から苛酷な生活を強いられていた。オーランドーは自分の運を試そうと、フレデリック主催のレスリングの試合に出場し見事に勝利する。この試合を見物していたロザリンドは彼に一目惚れし、2人は恋に落ちる。
しかし、ロザリンドはフレデリックから突然の追放を告げられてしまう。ロザリンドは男装して素性を隠し、シーリアとタッチストーン(芋洗坂係長さん)を伴ってアーデンの森に辿り着く。
そこには、ジェークイズ(橋本さとしさん)やアミアンズ(伊礼彼方さん)たちが悠々自適に暮らしていた。森でロザリンドはオーランドーを見つけるが、男装しているロザリンドにオーランドーは気付かない。ロザリンドは彼の愛の告白の練習相手になることを自ら提案して……。




柚希礼音さん、マイコさん

 シェイクスピアが描いた1600年代ヨーロッパを舞台にした傑作喜劇を、ブロードウェイの鬼才マイケル・メイヤーが手がける。なんといっても、その仕掛けの妙は、物語の舞台を1960年代のアメリカに置き換えるというポイント。
 保守的な宮廷生活はワシントンD.C.へ、アーデンの森はヒッピーの聖地 ヘイトアシュベリーへと置き換えることで、見えてくるもの。そこから新たな問いが投げかけられているように感じました。


 設定はガラリと変わってはいるものの、台詞や出来事はガチのシェイクスピアだったりもして、なかなか大胆!でも、それもご一興(笑)。「なぜ突然レスリング?」「サンフランシスコで羊飼い?!」そこはぜひとも軽やかに思考をジャンプさせて、お気に召すままに楽しんだもの勝ちです!(何かの形で、『お気に召すまま』に触れていると、その辺りはさらっと突破できるかも!)

 そうなるとしめたもので、無機から有機な世界への鮮やかな場面転換や、アーデンの森での自由な暮らし、そこで繰り広げられる恋物語など、明るく喜劇的な要素が押し寄せてきます!そこでは森での生活を彩り、ヒッピームーブメントの象徴でもある“音楽”に身を委ねるのがおススメ。(そして、ドラッグ…。そこも、正直に言うと若干抵抗アリなのですが、森が持つ不可思議なパワーと脳内変換してみました・笑)



柚希礼音さん

 父の追放、そして、自らも追放をよぎなくされるヒロイン・ロザリンド。逆境にあっても、明るさを失わず、もちまえのバイタリティで人生を切り開いていく強さと、恋する乙女のかわいらしさ。柚希礼音さんの新しい魅力あふれるロザリンド!


【恋の花が咲き乱れる?!】



ジュリアンさん、柚希礼音さん

 ジュリアンさんが演じる、賢く、カリスマ性もあるオーランドーも、恋となると話は別?!恋い焦がれる想い人、まさにその人(小姓ギャニミードとして振る舞う、ロザリンド)に恋の指南を受けるという、ちょっとおまぬけな一面も。恋の病ですね。



小野武彦さん

 「いや、わかるだろう!」を、森の不思議な力、はたまた演劇のお約束という力で飛び越えるのが、男装した実の娘に気づかない老侯爵。小野武彦さんが、この穏やかで、人に慕われる老侯爵と、その老侯爵を追放する実の弟・冷徹な新公爵の2役を、どちらも説得力たっぷりに演じます!



ジュリアンさん、横田栄司さん

 小野さんが、正反対の人物、2役を演じるのに対して、オーランドーを追放する兄のオリヴァーを演じる横田さんは、ひとりの人物の変化として、その2つを表現。つまり、オリヴァーは、最初と最後では、別人?! その変化が、まぁ、楽しい!フランク・シナトラの♪夜のストレンジャーを、全身で体現するような登場シーンは、なかなかの衝撃です。それも恋の仕業。(シェイクスピア演劇然とまくし立てる横田さんも、でれ~~っとした横田さんも素敵です)



伊礼彼方さん

 ミュージシャンのアミアンズ役の伊礼彼方さんが歌う、♪森の木陰で、♪風よ吹けよ、などの手がけたのは人気作曲家のトム・キット氏。軽やかに歌い上げます!これらアミアンズのフォークソングや、オーランドーが想いを歌う♪ロザリンド、ロザリンドが客席へ歌いかける♪お気に召すままなど、音楽溢れる作品です。



橋本さとしさん、マイコさん、柚希礼音さん

 マイコさんが演じるロザリンドの従妹シーリアはクルクルと変わる表情、森でオーランドーを見つけたことをロザリンドに知らせるときの、ちょっともったいぶらせるようなやり取りのかわいらしさがとーっても魅力的!

 物事を斜めから見ているようなシニカルなジェークイズを演じるのは橋本さとしさん。「この世界はすべてこれ一つの舞台、人間は男女を問わずすべてこれ役者にすぎぬ、それぞれ舞台に登場してはまた退場していく…」から始まる、名台詞も音楽に乗せて語られ、より豊かな響きとなります。



ジュリアンさん、平野良さん、平田薫さん、柚希礼音さん

 『お気に召すまま』の世界をいきいきと生きているのは、羊飼いのシルヴィアスを演じる平野良さん!恋の問答も切実、でも、可笑しみもいっぱい。「フィービーが好き!」その純粋さで突き進むシルヴィアスを待ち受けるのは…!

 ほかにもオーランドーに親の代から仕えるアダムと、登場すると目が離せなくなるサー・オリヴァー・マーテクストを演じる青山達三さん、愛嬌いっぱいの“阿呆”タッチストーンを演じる芋洗坂係長さんのときどき真理を突く言葉など見どころいっぱい、色とりどりという言葉がぴったりな舞台です。


【森から出るとき】


 物語は大団円を迎え、幸せいっぱいのフィナーレへ!そこで、登場するのがジェークイズでございます。過去を悔い改めた者にこそ学ぶべきと新公爵のもとへ向かう、最後まで皮肉屋さんなジェークイズ…ニヒル!

 オリヴァーはアーデンの森に残ることを決意し、地位・名誉・財産を取り戻した老侯爵、オーランドー、ロザリンドは晴れやかな表情で宮殿へもどるでしょう。でも、ロザリンドやオーランドーたちにとっても勝負はこれから。そして、私たち観客もまた、アーデンの森をあとにするときがやってきます。劇場の外、現実の暮らしへと散り散りにもどっていく。そこでは、トランプ大統領が就任し、英国はEUを離脱、日本は少子化が加速…政治・経済・社会の問題が山積。私たちは、森を出て、何に学び、何をするのか。

 再びジェークイズ、「この世界はすべてこれ一つの舞台、人間は男女を問わずすべてこれ役者にすぎぬ、それぞれ舞台に登場してはまた退場していく…」。この世界は、人間はこの先どこへ行くのだろう。こんなにも、“その後”を考えさせる『お気に召すまま』は初めて。 シェイクスピアが描いた1600年代、物語の舞台1960年代、そして、今が一直線に結ばれた瞬間です。

 ヒッピームーブメントのファッション性・文化的側面はまだしも、その政治的、思想的な面への理解は決して深くないので、アメリカの観客にとっては、異なる解釈になるかもしれないマイケル・メイヤーの『お気に召すまま』。産声をあげた、日本で、これからどんなムーブメントを巻き起こしていくのか。語りたくなる作品です。

 そして、なんだかいつも感じることですが、どの時代にも置き換えることのできるシェイクスピアって、やっぱりすごいですね。悲しいかな、間違いを繰り返す人間の普遍性とも言えますが、恋する力もまた普遍。「As you like it」、やっぱり喜劇として楽しんだもの勝ちなのかな!!なんだかんだで、やはりハマっているのかもしれない…。


 公式サイトのこちらのページから、「AS YOU LIKE IT~舞台『お気に召すまま』特別ガイド~」がダウンロードできます!【人物相関図】【キャストプロフィール】【クリエイター紹介】など充実の新聞!デザインもオシャレですよ♪

【公演概要】
『お気に召すまま/As You Like It』
2017 年1 月4日(水)~2月4日(土)@日比谷シアタークリエ

2017年2月7日(火)~12日(日)@大阪:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
2017年2月15日(水)@香川:レグザムホール
2017年2月24日(金)~26日(日)@福岡:キャナルシティ劇場

<スタッフ>
作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:マイケル・メイヤー
音楽:トム・キット

<キャスト>
柚希礼音
ジュリアン/橋本さとし
横田栄司/伊礼彼方/芋洗坂係長/平野良/古畑新之/平田薫/武田幸三/入絵加奈子/新川將人/俵木藤汰/青山達三
マイコ/小野武彦

公演HPはこちらから

写真提供:東宝演劇部
おけぴ取材班:chiaki(文)
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