欲望、恋、夢、喜び、情熱、不安…人生の全てがここにある。
ようこそ、松尾スズキのキャバレーへ ヒトラー政権の台頭へと向かう時代のベルリンを舞台にした、ミュージカル史に輝く傑作『キャバレー』。松尾スズキさんバージョンの初演は、今から10年前(ちょっとビックリ?!あれから、もう10年!)。そんな、一夜の夢のような、退廃的で、猥雑で、刺激的で、哀しい『キャバレー』の世界が帰ってきました!
キャバレー「キット・カット・クラブ」の歌手サリー役に長澤まさみさん、妖しげなクラブのMC役に石丸幹二さん。ベルリンの地を訪れるアメリカ人作家クリフには小池徹平さん。そして、サリーとクリフの恋物語を軸に進む物語のなかで、もう一つの恋物語を繰り広げるのは、クリフが暮らす下宿の女主人シュナイダーと、心優しい果物屋シュルツ。演じるのは初演に引き続き、秋山菜津子さんと小松和重さん(初演でもグッときました)です。
芝居、音楽、ダンス…やっぱり名作!を実感したゲネプロレポートをお届けします。
ミュージカル初挑戦の長澤まさみさん、ビジュアル公開から大反響でしたね。宣伝用だよね…と思ったら、そのビジュアルを超えてくるエロティックなサリー!ドキドキです。甘い声はとろ~んと、歌声は意外にも
(大変失礼しました!)パンチが効いていて力強い!キャバレーでは人々を魅了し、でも、私生活ではどこか虚しさを漂わせるサリーです。
♪ママに言わないで
そんなサリーと恋に落ちるクリフには小池徹平さん。ベルリンという街、キャバレーという空間においては、“外の人”なクリフ。一番、観客の感覚に近いところで『キャバレー』の世界を見つめ、ささやかな幸せを大切にする普通の人をしっかりとした存在感で演じます。
♪完全に素晴らしい
小池さんは、もはやミュージカルシーンに欠かせないお一人ですね
全く別の世界を生きてきた二人…
妖しい世界へ誘う、神出鬼没なMCを演じるのは…石丸幹二さん!長澤さんのサリーにもドキドキさせられっぱなしでしたが、石丸さんのすべてにもドキドキでした。
あらゆるものを超越したような存在ですが、一番印象的だったのは“強さ”。虚の世界で、ゾクッとするような実を感じさせる、歌声と視線。
オープニングの♪ヴィルコメンで観客を作品世界へ誘います
「いやらしいでしょ…」のセリフで始まる♪トゥー・レイディーズはエッチでオチャメ
まさに新境地な石丸MC!!
オフィシャル動画でも、ご自身がやるということを一番想像できなかった役と、おっしゃっていますが、観客にとってもまさにその通り。まぁ、クリフキャラだよね~という予想をふわりと飛び越えてきました!
続いては秋山菜津子さんと小松和重さんをご紹介。こちらのお二人によって物語の奥行きが増します。なんといっても振れ幅がすごい。コミカル(一部謎)、シリアス、大人で純粋…変幻自在です。初演を見たときもお二人が生み出す陰影がとても印象的でしたが、今回も健在、というか磨きがかかっている!!
小松さんの動きもなんとも言えなく、クセになる!
秋山さん演じるシュナイダーさんの♪文句ある、お二人の♪パイナップル・ソング、♪結婚すればなども名曲ですよね
こちらも初演からの続投組、シュナイダーさんの下宿の住人コストには平岩紙さん、クリフから英語を学ぶエルンストに杉村蝉之介さん。お二人とも、絶妙のイラッと感と薄気味の悪さです。
時代はついに…というところで一幕は終了
クラブのガールズ&ボーイズから市民、水兵さん…、作品の世界観がご出演の一人ひとりにまで徹底している、アンサンブルのみなさんも、また、松尾演出の大胆さと緻密さを体現しています。
狂乱の世界と市井の人々のささやかな幸せが共存する『キャバレー』の世界。歴史・文化を描き、芸術的で娯楽性もある…やっぱり『キャバレー』は名作です!
初演は1966年、50年の時を経ても突き刺さる作品、どこか不穏な空気が漂う今の世にどう映るのか…。
人生の全てがここにある、キャバレーへ、ようこそ!
公演はEXシアター六本木にて22日まで、その後、KAAT神奈川芸術劇場、大阪フェスティバルホール、仙台サンプラザホール、刈谷市総合文化センター、福岡サンパレスホールへと続きます。
昨年、トム・サザーランド版が、そして、現在、宝塚歌劇団でトミー・チューン版が上演されている、ミュージカル『グランドホテル』。1920年代、同じ時代を描いていますね…そんなことも感じました。
-あらすじ-
1929年、ナチス台頭前夜のベルリン。キャバレー「キット・カット・クラブ」では、毎夜毎夜、退廃的なショーと、刹那的な恋の駆け引きが繰り広げられている。
妖しい魅力でお客を惹きつけるMC(司会者)。そしてショーの花形、歌姫サリー・ボウルズ。
ここは、日ごろの憂さを忘れられるバラ色の場所。
大晦日の晩、アメリカから到着したばかりの、駆け出しの作家クリフは、たちまちサリーと恋に落ち、一緒に暮らし始める。彼らが暮らす下宿の女主人シュナイダーは、長年女一人で生きてきたが、心優しいユダヤ人の果物商シュルツと結婚することを決意。しかし迫りくるナチスの脅威に、結婚を断念せざるをえなくなる。希望に溢れていたサリーとクリフにも、ナチズムの足音は高く聞こえ始め、そしてついに、キット・カット・クラブにも…
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)