孤独、友情、愛憎、復讐、破滅、運命… 魅惑のワード盛りだくさん、音楽はドラマティック、描かれる人間ドラマには語れる余白もあり、主要キャストはタイプの異なる2役を演じ、さらに男性ツートップはダブルキャストというではないですか!それはリピートしちゃいますよね。
そんな、クセになる
ミュージカル『フランケンシュタイン』が日生劇場で開幕いたしました。
写真左から)加藤和樹さん、中川晃教さん
おけぴ製作発表レポはこちらから(どんな2役を演じるかなどのお話も!) このミュージカルが誕生したのは2014年、韓国・ソウル。制作段階から、大劇場向け韓国創作ミュージカルとしては初となる、海外へのライセンス輸出を視野に入れて作られた大作。パワフルな歌唱と豊かな感情表現が魅力の韓国俳優たちが、これでもかの力で届ける音楽、愛憎のドラマに圧倒された『フランケンシュタイン』の日本版が上演される!発表されてから、ずっとワクワクしていました。
原案は、イギリス人作家メアリー・シェリーが1818年に発表したゴシックロマン小説。おなじみの生命創造という神の領域に足を踏み入れたビクター・フランケンシュタイン博士のお話です。
しかしながら、ただの『フランケンシュタイン』ではございません。
ビクターとその創造物である怪物が、もとは固い友情で結ばれた友人同士だったという設定を加えることで、ドラマはより複雑に、ドラマティックに変わるのです。-あらすじ-HPより
19世紀ヨーロッパ。科学者ビクター・フランケンシュタインは戦場でアンリ・デュプレの命を救ったことで、二人は固い友情で結ばれた。“生命創造”に挑むビクターに感銘を受けたアンリは研究を手伝うが、殺人事件に巻き込まれたビクターを救うため、無実の罪で命を落としてしまう。ビクターはアンリを生き返らせようと、アンリの亡き骸に今こそ自らの研究の成果を注ぎ込む。しかし誕生したのは、アンリの記憶を失った“怪物”だった。そして“怪物”は自らのおぞましい姿を恨み、ビクターに復讐を誓うのだった…。
はじめは“生命創造”は神への冒涜だと反対していたアンリが、ビクターの描く理想、その情熱に共鳴し、二人が固い友情で結ばれる過程をギュギュっと凝縮したのが、
♪ただ一つの未来というナンバー。
加藤和樹さん演じる生きる意味を失い冷めた心のアンリと、
中川晃教さん演じる熱っぽく語るビクターの温度が徐々に交わっていき…強い絆で結ばれる。力強いシーンです。
研究の場をビクターの故郷ジュネーブへと移すと、そこで待っていたのはビクターを見る人々の冷ややかな目。その理由は回想シーンとして描かれるのですが、少年ビクターら子役のみなさんの表現力にも感動!このエピソード
♪孤独な少年の物語がとても丁寧に届けられます。(それがすごく効いてくる!)
その後、殺人事件の容疑がかかり、ビクターのために死刑台へ向かうアンリがその想いを歌い上げる
♪君の夢の中ではビッグナンバーぞろいの本作の中でも名曲のひとつに挙げられる美しさ。それまでクールだったアンリの瞳がキラリと輝くのです(涙)。加藤さんの落ち着いた声もクラシカルな歌唱も役にバッチリマッチしています。極限状態なはずなのに…そこで、いつもクールなアンリが笑う、これはもうズキューンと心を撃ち抜かれるお客様続出ではないでしょうか。
そして、さぁ、ここからです!!ついに、ビクターは神の領域へ…。研究のため?アンリのため?野望のため?…徐々に常軌を逸して、一線を越えてしまう中川ビクターのカリスマ性もまた見る者を惹きつけるのです。ここで歌う
♪偉大な生命創造の歴史が始まる は、メロディやリズムの難解さ、音域の広さと、初めて聞いたときは何事だ!!のプチパニックでした。歌っている内容もすごいです(汗)。この超ビッグナンバーを中川さんがクレッシェンド~~、壮絶な歌い上げで圧倒します。す、すごい。
こうしてアンリが甦る…とはならずに、怪物が誕生して1幕終了。
神をも畏れぬビクターは、ともすれば傲慢さばかりが印象付けられるのですが、中川さんのビクターは、その根底にある幼少期の記憶、孤独な少年の面影を強く感じました。どこか少年の心のまま大きくなったようなビクターの純粋さが、哀しく愛おしく、勝手にエレンな心境でした。
中川晃教さん、濱田めぐみさん
さて、そのエレン(ビクターの姉)を演じるのが
濱田めぐみさん。韓国でこの作品を見たときから、エレン/エヴァはこの方しかいない!と思っておりましたが、想像以上!!エレンだって誰かに守られたかっただろうに、それでもただひたすらに器用に生きられない天才、弟のビクターを守る。ここまで愛せるのだろうか、愛することで何かを保っていたのだろうか。そんな濱田さんは第2幕では血も涙もない女エヴァを演じます。エレンで抑圧していたものを一気に爆発させるかのごとき欲望むき出しの、発散型キャラ!
2役を演じる仕掛けも、この作品の魅力の一つ、こうやって表裏を成すようなキャラクターをひとりの俳優がやることで見えてくるもの。それを強く感じる濱田さんの2役です。
写真右)鈴木壮麻さん
また、ビクターを見守る人物はほかにも。もう、まさかのルンゲ!こんなに心が安らぎ、チャーミングなルンゲに会えるなんて、
鈴木壮麻さんのルンゲ最高です。一途な献身、愛は「やっぱり親の代から、いやもっと前、代々執事としてこの家に仕えたのかな」の説得力の塊。「坊ちゃん!」の響きも心地よいです。
写真右より)音月桂さん、相島一之さん、中川晃教さん
そして、ビクターを愛するジュリアも忘れてはなりません。韓国での再演時にカットされたジュリアの曲が復活したこともあり、ジュリアの存在感が増しています。
音月桂さんもまた、2幕では両極端な役を演じるのですが、ハードな役に体当たり!また、ジュリアの厳格な父を演じるのは
相島一之さんです。土地の名士、ジュリアの父として説得力のあるステファンです。
孤独な少年の面影を残しつつ、こうして身内3人に支えられ、愛されているビクター、一方で独りぼっちのアンリ。本当に太陽と月のような二人です。
第2幕では、ビクターの研究室を逃げ出した怪物が、その後、人間たちに受けた仕打ちが描かれ…物語はさらに怒涛の展開へと突入。そこでも数々の名曲が次々に繰り広げられるのですが、なかでも、怪物と彼が迷い込んだ闘技場の下女カトリーヌが歌う
♪そこには…という曲、そこに大きな問いかけがあるように感じました。(大好きな曲!)
この怪物という役は心身ともにハード、そのひと言。身体はつぎはぎだらけの異形のものではあるのですが、加藤さんの怪物姿は痛々しくも美しくもある。苦しみ、訴えかける場面は、本当に胸が張り裂けそうになります。お楽しみポイントというのはややはばかられますが、アンリの凛々しい姿とのギャップも見どころです。
紆余曲折を経て…(ぜひ劇場でご覧ください)、最後は原作にもあるように、ビクターと怪物は北極で対峙します。そこでの二人のやり取りというのは、見る人に解釈が委ねられているなぁと思うのです。ビクターの目に映るのは、怪物?アンリ? 実際、そこに居るのはどっち? 考えているうちに、さまざまな解釈が浮かんできて、どうしましょうというほど(笑)。そして、そのカギを見つけに、また見に行きたくなるのです(それだけではないですけど)。演出は板垣恭一さんです。
さらに、ダブルキャストの組み合わせが変わると見え方も変わってくるものですよね。だいぶ猥雑と噂の柿澤勇人さんのジャック(2幕闘技場の主)や小西遼生さん演じる憂いの怪物などなど、次の観劇が楽しみです。
柿澤勇人さん、小西遼生さんバージョンも楽しみです!!
最後に、ビクターと怪物の物語とは少し離れますが、心にチクリと突き刺さったのは、ビクターがアンリ以外にもう一人ある人物を実験台に乗せるシーンです。あの状況でも、まだやるのか、ビクター。科学技術の発展と倫理、その制御。19世紀に執筆された古典小説からの警鐘が、時を超えて届けられたような衝撃を受けました。
さまざまな解釈のできる(こうだったらいいな…の希望も含め)『フランケンシュタイン』、1月29日まで日生劇場にて、その後は、大阪、福岡、愛知にて上演です!
ちょっと気の早い話ですが(笑)、4月には、中川晃教さんはこちらの作品でスヌーピー役です。
ミュージカル『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』村井良大さん&中川晃教さんインタビュー!
舞台写真提供:東宝演劇部
おけぴ取材班:chiaki(文) 監修:おけぴ管理人