1987年、ロンドン、ニューヨークに続き世界で3番目、非英語圏では初めてとなる上演となった『レ・ミゼラブル』日本初演。そこでジャン・バルジャンを演じた鹿賀丈史さん、滝田栄さんから数えて、11番目のジャン・バルジャン俳優として、
ヤン・ジュンモさんがその歴史に名を刻んだのは前回公演、2015年のことです。
さらに同年11月には韓国での公演にも同役でご出演され、今年、30周年を迎える日本公演に再びご出演です!まさに日韓文化交流を体現するヤン・ジュンモさんにお話をうかがいました。
──ご自身2度目となる製作発表を終えた、今のお気持ちは。 今回は、ソロ曲の歌唱披露がありませんでしたので、とてもリラックスして会見に臨めました。前回は
トップバッターとして、「独白」(バルジャンのビッグナンバー)を歌いましたので、非常に緊張したんです。それも少し思い出しましたね。
──こうして、ジュンモさんにとって2度目のシーズンが始まりますね。そして、今年は日本初演30周年記念公演でもあります。 韓国の状況に鑑みて、一俳優として、まず感じるのは「うらやましい」ということです。ひとつの作品を30年という長きにわたりくり返し上演できるミュージカル市場が形成されていること、その作品を愛し育てる観客の存在をうらやましく思うのです。
そして日本の『レ・ミゼラブル』は人生を変える、人生の目標になる作品です。さきほどの会見でも、多くの俳優が『レ・ミゼラブル』を観て、ミュージカル俳優を目指したとコメントされていました。そのような中で、こうしてまた日本の公演に参加し、ジャン・バルジャン役を演じられることを幸せに感じるとともに、心地よい緊張感を持っています。
──韓国で同役を演じられたことは、どのような影響を与えますか。 『レ・ミゼラブル』に関しては、母国語でありながら韓国語で歌うことに難しさを感じました。それは、日本で日本語で歌うことに慣れていたので、新たに発声を変えなければならなかったからです。それぞれの言語で声の出し方、ポジションが異なりますので。そういった技術的な部分も含め、日本と韓国の2カ国で経験したことは、とても勉強になりました。
また、私自身の環境の変化にも伴い、より広い視野で作品をとらえられるようになったと感じます。作品全体を通して、今の、この厳しい世の中で希望を感じてもらえるように表現したいと思います。
──製作発表の質疑応答でおっしゃっていた、バルジャンの最期「誰かを愛することは神様のおそばにいることだ」というフレーズ。神様とは。 先ほど申し上げた通り、この作品で深く表現されている神様の愛。われわれ人間は、それを直接的に見ることはできません。しかしながら、この物語に描かれている神を信じる人たちの姿を通して、その愛を感じることができます。ファンテーヌも、エポニーヌも、そしてバルジャンも自らの命をかけて誰かを守り、そのために犠牲になることもいとわない。その使命感、彼らの姿を通して感じるものこそが、神様なのだと思います。
──ラストのバルジャン、ファンテーヌ、エポニーヌの三重唱の神々しさ、美しさ。こうして改めてお話をうかがうと、さらに感じることの多いラストシーンになりそうです。
ここからは、ジュンモさんご自身についてうかがいます。学生時代は声楽を専攻され、そこからミュージカルへ。その転機になったのは。 大学時代はオペラを学び、ミュージカルにはまったく興味を持っていませんでした。それが偶然、ミュージカルに出演する機会を得ました。それは北朝鮮での大規模なミュージカル公演でしたが、当初、ガイドさんからは、観客が涙を流すことはあっても、笑うことはないですよと言われていました。それが、実際に公演を行うと、当時の私の表現は未熟であったにもかかわらず、観客が泣き、ケラケラと笑ってくれていたのです。それを目の当たりにしたとき、ダイレクトに人の心を動かすミュージカルの力を感じました。その帰りの飛行機の中で、ミュージカル俳優になることを決意したのです。
──そういったキャリアのスタートだったのですね。そこからは。 実は、その後、オーディションに落ちまくったんです…(笑)。私の周りには、ミュージカルの勉強をする環境が整っていなかったので、ポップスタイルのミュージカルでもオペラ的に歌って落ちたり、ダンスシーンのある作品のオーディションにスーツで行ってしまったり。それぐらい無知な人間でした(笑)。
──そのご経験が、現在、後進の指導にも力を入れる理由にもつながるのでしょうか。 舞台公演をしながらも、いつも考えていることがあります。育てるに値する後輩たちに、どうしたら僕のスキルを与えることができるか、分かち合うことができるのかということです。それは私が何かを教えるという大それたことではなく、学ぶ機会を欲している若者たちに、経験を分け与えるというのが正しい表現だと思います。分け与える精神は、いつも意識しています。それは私の使命とも言えるでしょう。
──それを実践されていること、素晴らしいと思います。では、最後に、ジュンモさんが表現者として一番大切にされていることは。 さまざまなキャラクターを演じる中で、まず大切にしていることは、どんなキャラクターでもひとりの人間であるということです。たとえば、『スウィーニー・トッド』という作品のタイトルロールの殺人鬼、実際にあのような人物がいたら大変なのですが、観客として観たときに、どこかで「このキャラクター理解できるな」と感じてもらえるように演じたい。描かれているキャラクターを観客が理解できる、その手助けすることを意識しています。それによって、そのキャラクターを観客と演者が共有できる。この“共有”というのは人しかできないことですから。
──その通りですね。『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンという人物をその物語を“共有”するのが、楽しみです。 ヤン・ジュンモさんは5月27日の『レ・ミゼラブル』おけぴ観劇会にもご出演です
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) 監修:おけぴ管理人