30代の演出家が、それぞれの視点で昭和30年代に書かれた秀作を読み解く、シリーズ「かさなる視点―日本戯曲の力―」第2弾は、
安部公房(作)×上村聡史(演出)の『城塞』。戦争責任を問う、骨太な作品です。
この作品は、昭和37年(1962年)初演、当時のとある富裕層の邸宅にある一室を舞台に繰り広げられる会話劇です。登場人物は「和彦」と呼ばれる男(
山西惇さん:
『木の上の軍隊』)、その父(
辻萬長さん:
『アルトナの幽閉者』)、妻(
椿真由美さん:
『横濱短篇ホテル』)、その家の従僕(
たかお鷹さん:
『國語元年』)、そして男に雇われた若い女(
松岡依都美さん:
『紙屋町さくらホテル』)の5人。
()内はおけぴレポ 作者の
安部公房、演出の
上村さん(
『炎アンサンディ』)と、このキャストの並びを見ただけで、「買いだな!」と思った方、大正解!そんな、稽古場レポートをお届けします。
-ものがたり-(HPより)
とある家の広間。爆音が響く。電燈が尾を引いて消える。どうやら戦時下のようである。「和彦」と呼ばれる男とその父が言い争っていた。父は「和彦」とともに内地に脱出しようとするのだが、「和彦」は母と妹を見捨てるのか、と父を詰る。
しかし、それは「和彦」と呼ばれる男が、父に対して仕掛けた、ある"ごっこ"だった......。
この日は第1幕の通し稽古が行われました。

男:山西惇さん
男はこの家の主人。お金持ち(いわゆる戦争成金)。
プライドは高いけれど、自らの過去、現在に対する葛藤を抱える。
とても人間的だな、日本人だなと感じます。

父:辻萬長さん
父は、あるときから自らの時計を止めた。
医者によると「拒絶症」という病で、自分の部屋(城塞)に閉じこもっている。

従僕:たかお鷹さん
父の代からこの家に仕える従僕は、決して主人に逆らうことのない男。
でも、どことなく不思議?不気味?な存在感が漂う。
自らの時間の中に閉じこもった父が、正気に戻り、自分の部屋から出るのは例の“ごっこ”、幻想の儀式のときだけ。そこでは、戦時下の大陸、特権を利用して内地(日本)へ帰ろうとする父がいる。迎えの飛行機には2つの座席、誰を乗せて、誰を置いていくのか…。そこで繰り広げられる父と息子(男)の対話。語られる妹や母の存在。劇中劇が進みます。
「男」と「その父」のお話、そして山西さんがご出演と知ったとき、なぜか勝手に「山西さんが父役で…」と思ってしまいました。でも、実際は「男(=息子)」が山西さんで父は辻さん。坊やとパパではなく、大の大人たちがする“ごっこ”なのです。「大の大人たちがする」というところが、なんとも奇妙に映るのです。
登場する男たちは、ものすごく大きな闇を抱えながら、(ちょっと語弊があるかもしれませんが)どこか可愛らしさを持ち合わせています。そして、とてもハードでシリアスなことが起こっていても、“ごっこ”という状況なのです。観ている間、目の前で起こっていることと自分の距離感を計るような…それが第1幕の“ごっこ”の印象です。さながら劇中劇、Take1といったところです。
続いて、もろさと可愛らしさを感じた男たちに対して、現実世界を生きる女たちは、シャープな妻としたたかな若い女といった印象。

妻:椿真由美さん
もともと裕福な家から嫁いだ妻。
“ごっこ”で男の妹役をやらされることに嫌気がさし、父を精神病院に入院させることを男に迫る。
さもなければ…男を禁治産処分にすると言い出し。
※禁治産:心神喪失状態にある者を保護するため、法律上自分で財産を管理・処理できないようにする。今で言うところの成年後見制度のようなもの。
男に雇われた若い女:松岡依都美さん
妻に代わり、妹役を演じるために雇われた女。
ストリッパーとして自分の身体で稼いでいる女の持つ色気とふてぶてしさ
この家の誰も持っていないたくましさを感じます。
父と子、夫と妻、妻と若い女…さまざまな対立軸を見せる第1幕はあっという間に終わります。ただ、これは序章。(といっても、すでに作品からはいくつもの問いかけを投げかけられておりますが!)これを踏まえた第2幕は、いよいよ“城塞”が…。劇中劇Take2が始まるのですが、それは虚と実の綱引きのようにスリリングに展開します。その果てには!
脚本を読むと、第2幕の結構な展開に、「おおおお」と吠えたくなるような気もするのですが(笑)、魅力的な5人のキャストのみなさんがこのやり取りを、どう見せてくれるのか、楽しみでもあります。

上村聡史さん(演出)
作品が持つ閉塞感や繰り返し“ごっこ”をする虚しさは、どこか「今」にも通じ、幕開きからの言葉の応酬、登場人物それぞれの言い分、必死に主張する姿は観客へ、日本人へ戦争責任、愛国心とは、を鋭く問うようでもあります。
上村さん曰く「胸を掻きむしられるところもあるかもしれないが、観終わった後にとてもスカッとする展開になるのではないか」。早く本番が観たい!!心の底からそう思う稽古場取材でした。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人