美しい想い出、愛する人、永遠――
人工知能は人を幸せにするのか?
右から)浅丘ルリ子さん、相島一之さん、香寿たつきさん
新国立劇場にて開幕した『プライムたちの夜』。舞台写真とご観劇されたみなさんからの感想が届きました。優れた現代戯曲を紹介するシリーズにふさわしい、今を生きる私たちにとって多くの考えるヒントを投げかける作品です。お寄せいただいた感想も実に多様。あなたは何を想うのか…。11月26日(日)まで。
『プライムたちの夜』おけぴ稽古場レポートはこちらから
<開幕リリースより>
とある家の居間、85歳のマージョリー(浅丘ルリ子)が30代のハンサムな男性(佐川和正)と会話している。だが、昔の二人の思い出に話が及ぶと、その内容に少しずつ齟齬が生まれる。戸惑うマージョリー。実はその話し相手は、亡き夫の若き日の姿に似せたアンドロイドだった。薄れゆくマージョリーの記憶を何とかとどめようとする娘夫婦(香寿たつき、相島一之)。愛する人を失いたくない家族の愛をテクノロジーはどこまで補えるのだろうか......。
愛した故人をアンドロイド ―プライム― としてもう一度蘇らせるが、「この人ってこういう人だった」と、データをインプットするのはもちろん人間。これは近未来を舞台に人の記憶と永遠の愛をテーマにした少し切なく、胸が暖かくなる物語です。
演出を手がけるのは新国立劇場芸術監督の宮田慶子。そして宮田の熱望により浅丘ルリ子、香寿たつき、相島一之、佐川和正といった開場20周年にふさわしい豪華な四人の顔合わせが実現しました。
<お寄せいただいた感想>
右から)浅丘ルリ子さん、香寿たつきさん
◆70代の母と一緒観たせいか、老いた母へのテスの心と私の心がシンクロして涙が止まりませんでした。人間の記憶には持ち主の心も存在していて、機械のメモリーとはまったく違うものなのですね。
前者は「思い出」であり、後者は「情報」なのです。300席くらいの小さな劇場、キャストは4人だけ。とても濃密な空間で芝居を堪能出来ました。
◆十字架のような梁が重くのしかかる舞台で生きる主人公たちが恐れているのは、死か、生きることなのか。人工知能やアンドロイドとの共存というよりも、人間そのものを描いている作品だと思いました。クスッ、あははと笑えて、そして泣けました。
◆家族、つまりそれは血の繋がりであり、そしてその繋がりに関係、母と息子、母と娘の違いを改めて考えさせられる。良いとか悪いとかではなく、現実としてそこにある感情、想いの強さを考えるドラマ。「プライムたちの夜」おーーー、そう来たか。
◆素晴らしい脚本と演出です。人間にとって避けられない「愛するものの死」。残された家族は、AI(プライム)で再生させ、心を通わせることが出来るのか? そして、なんといっても浅丘ルリ子さんがチャーミングすぎます。テレビや映画でしか見たことのない人は、ぜひ劇場に足を運んでください。クールな佐川和正さんも見事。
◆現実に人工知能というものが私たちの生活圏に姿を現し始めている今、これからの未来について考えてみる、いいきっかけを与えてくれました。
誰もがいつかは老い、死んでいく。そんな人間の姿を写し取っていながら、いつまでも在り続けるプライムたち。ある意味で対極的な両者が浮き彫りにしていくのは、何が人を人たらしめるのか、『人である』とはどういうことなのか、という問いかけでもあったように思います。アニメやCGではなく、生身の人が演じる『劇』だからこそ面白いであろう題材でした。人同士であれば言えないこと、言わないこと(それは相手を慮ってのこともあれば、自らの心が邪魔をして、という場合もあります)。それをあっさりと口にしてしまえるプライムたち。それぞれの会話は時折噛みあわず、時には思いもよらない効果を引き出すこともあれば、ひやりとするような一言を導いてしまう場合もある。会話とは、それを学習していく人工知能とは、そうしてそれに期待を抱く人とは、といういくつもの視点から見ることができる劇でした。
◆愛する人のため、愛した人を思い続けるためにプライムという存在を受け入れ、そして壊れていく人の心。科学は進歩しても、人の心はそう簡単に変わる事はないと思うと、愛ってなんだろうと考えました。
◆実は世界のどこかで実際に存在する世界なんじゃないか…と思えるような設定。
ひとつ間違えると、そら恐ろしい世の中ではありますが、AIにここまで依存するのもありかなと思えてしまう。
◆浅丘ルリ子さんのキレのある芝居。彼女の卓越した美と存在感が特に感じられる(特に後半)素晴らしい舞台でした。
◆非常に評価の難しい作品です。賛否という意味ではなく、感想が千差万別に細かく分かれてしまいそうな。直感的に、私自身の住まいには将来に渡って持ち込まれたくないと感じたプライムですが、一方で、老人ホームを頻繁に訪れて痴呆の方を見る機会の多い身としては、あんな風にずっと寄り添い続けて話し相手になってくれる相手がいたら、精神的に安定した日々が過ごせてよいかもとも思いました。
◆前半は一体何が起こっているのか把握するのに時間がかかりましたが、後半、思いもしなかった展開にびっくりしました。百聞は一見に如かず、まずは見てみてください。
舞台写真提供:新国立劇場 感想寄稿:おけぴ会員のみなさま
編集:chiaki 監修:おけぴ管理人