2017年12月20日(水)18:30の回で、
全国各地の映画館に生中継する「ライブ・ビューイング」決定 ヘンリック・イプセン原作の『ペール・ギュント』がアジア演劇の最前線として立ち上がる!!世田谷パブリックシアター+兵庫県立芸術文化センター共同制作/世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演『ペール・ギュント』の制作発表が行われました。
後列左より)浅野雅博さん、趣里さん、ユン・ダギョンさん、マルシアさん、キム・デジンさん
前列左より)ヤン・ジョンウンさん、浦井健治さん
平昌冬季オリンピック 開・閉会式の演出を手掛ける演出家ヤン・ジョンウンさん(上演台本・演出)、
タイトルロールの浦井健治さんらの、現在進行形の愛とエネルギーを感じる会見の様子をレポートいたします。
【ヤン・ジョンウンさんご挨拶】
-ヤン・ジョンウンさんご紹介-
芸術監督を務める「劇団旅行者(ヨヘンジャ)」は、これまでアジアのみならず、欧米、エジプトなど世界20の国・地域を巡り、自作を上演しています。そして脚色・演出した『真夏の夜の夢』で06年に韓国演劇史上初めて、イギリスのバービカン・センター、12年ロンドン・オリンピック記念公演としてシェイクスピア・グローブ座*へも招聘されました。
「現在、我々を取り巻くアジア周辺国の情勢はよろしくありません。しかし、演劇、文化ならば、国を越えて人が集まりひとつの作品を作る。それを成し遂げられるのです。稽古場で作業しながら、我々の間にはボーダーがないことを、日々、感じています。人間は似ている、同じなのだという普遍性がそこにあります」*2012年カルチュアル・オリンピアードとして「ワールド・シェイクスピア・フェスティバル」が行われた。シェイクスピア演劇の総本山、ロンドンのグローブ座では「グローブ・トゥ・グローブ・フェスティバル」を開催。シェイクスピアの37の戯曲が37カ国語にて上演された。日本からは「劇団地点」が参加。 「15年の『トロイラスとクレシダ』を拝見し、“浦井健治さんのペール・ギュント”を見たいと思い、本作を選びました。浦井さんは遊び心もありスマート、ポイントを掴む人、直感的、即興的な人であり、心で経験する人。そういうイメージが私の考えているペールに合致しました。ペールのドッペルゲンガーです」【『ペール・ギュント』の魅力】
150年前に書かれた戯曲が、今もなお世界中で上演されるのはなぜ?その答えのヒントを会見でのみなさんのコメントからピックアップ。
「『ペール・ギュント』には男女の差、人間のエゴ、宗教、政治、成長、愛…さまざまなメッセージが込められ、描かれています。そこからお客様それぞれの感想を持ち帰っていただきたい。もしかしたら10年後に、ふとその意味を感じることもあるかも、というようなシーンがちりばめられています。このエネルギーがみなさんに届きますように」(ペール役:浦井さん) 「この公演で、お客さま一人一人と「今のままの自分でいい」、その慰めとお互いの人生に対する祝福を分かち合うことを願っています。そうなれるのであれば、本当に美しい世の中になるでしょう」(緑衣の女役ほか、ユン・ダギョンさん) 「ペール自身が自分を探していく旅ですが、我々、現代人が抱えている混乱、見失った自分を見つけていけるような作品になるでしょう。イプセンの哲学的なテーマ、私の自分探しというテーマ、そして観客の人生がクロスオーバーする場になればと思います」
(演出:ヤンさん)【日韓版はどんな公演になりそう?稽古の様子は?】
「イプセンは本作を喜劇と表現しました。我々の作品は非常にイメージ的で、言語と共に美術、照明、ビジュアル的なものが一緒になった表現になると思います」
(ヤンさん) 「稽古場はエネルギーに満ちています。さまざまなセクション、場所でボーダーを超えるということが巻き起こっています。オープンマインドで、家族のような「劇団ペール・ギュント」の航海はすでに始まっています。行き着く先は、新大陸なのか理想郷なのか…。国を越え、自分探しにおける一番大切なものとはというメッセージが届くと思います」(浦井さん) 「(稽古では)さまざまな角度から物事、世界を見せてくれる稽古では、充実した幸せな時間を過ごしています。お客様にも一緒に空気を作っていただき、気持ちを分かち合いたいです」(ソールヴェイ役ほか、趣里さん) 「同じ舞台に、日本語と韓国語を喋る人が出てくる…。稽古前は言葉の壁を心配しましたが、稽古をしてみると、それは杞憂に終わりました。僕らのほかに14人の個性豊かな俳優がいて、音楽も生演奏(稽古段階から!)。その音を感じながらの贅沢な現場です。言葉の壁、国境というものを芸術は簡単に消し去るのですね」(ソールヴェイの父役ほか、浅野雅博さん) 「私にとって4回目の『ペール・ギュント』です。同じ作品を繰り返しやることは、とても大変なこと。何か新しいものを創造したい、同じことはやりたくないというのが役者の心理ですので。ただ、今回は日本の役者さんと一緒に作ることがとても楽しみでした。もちろん新しいことに挑戦するときは、期待と同時に怖さもあります。でも、1週間ですでにアンサンブルが出来上がっているんです!
その代わり、エネルギーの消耗は激しく、稽古帰りは、毎日心から肉を欲するくらい疲れます(笑)」(見知らぬ乗客役ほか、キム・デジンさん) 「日本のアーティストと作業を通して、言語を越えてお互いに心で感じ合えることが、こんなにも自分を豊かにしてくれるということを実感しています。これまで演劇をやってきたのは、この出会いのためだったと思えるほど、一瞬一瞬が美しくて感動的です」(ユン・ダギョンさん) 「国境を越えて、言葉を越えて、すべてを越えた舞台がすでに始まっています。私自身も毎日自分と闘いながら旅をしています。お客様にも、たくさん想像していただき、自分の中にある“役たち”に共感していただければすごく嬉しいです。実生活では娘はいるのですが、男の子の親になったことはありません。こんなにかわいい子がね!
遊園地に行ったような、素晴らしい旅にいたします。本日はありがとうございます、カムサハムニダ、オブリガード、サンキュー、愛してます♪」(ペールの母オーセ役ほか、マルシアさん) みなさんのご紹介にもあるように、本作ではペール・ギュント役の浦井健治さん以外の出演者は、複数の役にる扮し、魅力的なアンサンブルを作りあげます!
【『ペール・ギュント』は○○の物語】
浦井さん:
「おのれ自身の物語」~自分と向き合うってかなり大変。無意識に逃げていることにも気づかされます~ 戯曲(今回の上演台本ではありませんが)を読むと、ペールはだいぶ破天荒というか、目の前の出来事から逃げる男です。逃げる男がたどり着くのは、そこには自然に「自分自身とは」の答えも見えてくる…のかな?趣里さん:
「救いの物語」~人は寂しさと共存している。でもやっぱり生きているからには前に進みたい、救われたい、報われたい…と思うので~ キラキラの瞳でお話しされる姿が印象的だった趣里さん。ペールを愛するソールヴェイ役をワークショップ・オーディションで手中に収めました。しなやかな強さに期待です!浅野さん:
「魂の物語」~ペール・ギュントは旅をして、人に出会い成長していくのですが、最終的には変わらないものもあって…~ 韓国キャストの愛とエネルギーに引っ張られ、芝居への貪欲な姿勢にも刺激をもらっているとお話しされていましたが、浅野さんも気合十分ということがひしひしと伝わってきました!若い座組の中でお兄さんとして頼もしい存在!マルシアさん:
「魂の物語」言われてしまったので(笑)、「生から死への物語」~人間はエネルギーがあるから、愛したり嫌ったり救ったり守ったり。水も木も宇宙も、すべてにエネルギーが宿っているんですよね~ みんなに「愛してる」と語りかけ、カンパニー全体を大きな愛で包んでいるマルシアさん。自由奔放なペールに対しても厳しいもの言いながら愛を持っているオーセ、どんな“男の子のお母さん”を見せてくれるのか楽しみです。 韓国キャストのユン・ダギョンさんは理知的で美しく、日本文化からもたくさん影響を受けてきたと、キム・デジンさんは日本キャストのエネルギーとオープンマインドな姿勢が印象的とお話されていました。
ヤンさんも昨夏のワークショップを振り返り
「固定観念や偏見が何の意味も持たないことを私自身発見できた良い機会であり、演劇とは絶えない偏見との戦いであることにも改めて思いをはせました」(公演資料より)と仰っています。
実際に一緒に作業することで見えてくる、肌で感じることがたくさんある。交流企画の成果は日々積み上げられているようです。観客としてそれを分かち合う日が待ち遠しいですね!
【『ペール・ギュント』って…】
“ペール・ギュント”と聞くと、まずあの音楽。学生時代に聴いた「朝」「ソールヴェイの歌」などが思い出されます。その元となったのがイプセンの劇詩『ペール・ギュント』。
ここで『ペール・ギュント』についてのプチ解説を。
ノルウェイの劇作家・詩人ヘンリック・イプセンが150年前の1867年に書いた劇詩*『ペール・ギュント』。もともとは上演を想定して書かれていなかったのですが、エドヴァルド・グリーグによりかの有名な劇音楽が作曲され、1876年に初演されました。通常の戯曲形態をとらないために、無限の表現が可能となり、多くのアーティストの創作意欲をかきたててきました。ヤンさんもそのひとりで、これまでにも09年初演の韓国版は高い評価を得て、12年に再演、オーストラリア公演、13年には来日公演も果たしました。(第20回BeSeTo演劇祭)
日韓版・新生『ペール・ギュント』は韓国版以上の壮大なスケールと、同時代性をたたえた作品として甦るとのこと!150年の時を越え、未来志向の『ペール・ギュント』に期待が高まります。*劇詩:韻文(特有の規律に従い)書かれているため独特のリズムをもつ。(近代以降は散文形式が主流となっている)
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人