『現代演劇ポスター展2017-演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶-』トークショーレポート

渋谷の街を舞台にした、あなただけの演劇が生まれる!

 ポスターを貼る事で「街」と「演劇」と「デザイン」と「観客」を繋げてきたポスターハリス・カンパニーの30周年を記念した『現代演劇ポスター展2017』が渋谷の3会場で開催されています。2万点ものコレクションから、60年代後半のアングラ演劇ポスター、70年代の演劇ブーム、静かな演劇、新劇なども含めた479点(チラシでは約300点でしたが、実際にはなんと!!)を展覧。

 会場に足を踏み入れると、時空を旅しているような感覚がしてきます。ちょっと怪しくて懐かしくて美しいポスターから感じる、それぞれの時代における演劇の姿。
 また、名だたるアーティストが手掛けた現代美術としての評価の高い作品も数多く展覧され、芸術作品としても見ごたえがあります。



東學さん、長塚圭史さん、宇野亞喜良さん、笹目浩之さん

  会期中はトークショーも開催、この日はイラストレーターの宇野亞喜良さん、劇作家・演出家・俳優の長塚圭史さん、絵師・アートディレクターの東學さん(この展覧会のポスター、チラシも手掛けられています)がご登壇されました。進行はプロデューサーでポスターハリス・カンパニー代表の笹目浩之さんです。話題盛りだくさんのトークショーの様子をほんの少し(笑)、レポートいたします。


【劇作家・演出家とポスターのデザイン】


 演劇のポスターやチラシは観客にとって、その作品との出会い、入り口になることが多いですよね。では、どうやってデザインが決まるのか。まずはその辺りについて、宇野さんの寺山修司さんとのお仕事のエピソードを。



宇野さん:
 (寺山さんは)僕のことは使いやすかったんじゃないかな。戯曲が書き上がっていない段階で描くのが平気なんですね。タイトルと多少の説明“こんな感じ”というので描いちゃう。それでこちらがこの辺にコピーライトを何行か欲しいというと寺山さんが書いてくれて。そうして出来上がったポスターは戯曲とは全然関係ないことも。コピーライター的な興味で書いてくれていたんだろうね。演劇にはそういう適当なところがあって、その“適当”っていうの、僕は好きなんですよね。



學さん:
 僕が経験した中でよく覚えているのは、「南河内万歳一座」のある公演。打ち合わせの段階では戯曲はまだ全く出来ていなくて、イメージで作りました。すると(座長の)内藤(裕敬)さんは、出来上がったチラシを目の前に貼って戯曲を書かれたそうなんです。チラシに影響されて戯曲が変わってくると言われたとき、「ええ仕事してるやん、オレ」って思いました(笑)。

 ポスターと戯曲についてはこのようなお話も。

宇野さん:
 寺山さんはいろんなものが好きで、僕や横尾忠則のほかにも林静一もあれば金子國義もある。頭に浮かべたアーティストによって、自らの劇構造が変わる、今風に言うとコラボレーションって言うのかな。それは寺山さんの特色かもしれません。

笹目さん:
 長塚さんはポスターを作るときにどのくらいイメージを伝える?

長塚さん:
 結構言いますね。

學さん:
 言った言った!シアターコクーンの『ドラクルGOD FEARING DRACUL』のときはアール・ヌーボーにしたいって。



長塚さん:
 そう、やっぱり見たことないものを見たかったから。でも、まずはプロデューサーに聞きます。デザインしていいのか、俳優さんの顔を前に出したいのかって。デザインしていいと言われると盛り上がるし、そうじゃないと…それはそれでね(笑)。『ドラクル』のときは確かにミュシャのイメージがあって、そういうことを言いましたね。

宇野さん:
 僕らのころは、割とイラストレーターが勝手に描いていたけれど、近年は出ている役者さんで観客動員が決まるから。

笹目さん:
 それがポスターやチラシのデザインにも影響を及ぼしている。


【ポスターの過去、現在、そして未来】


 ここから話はポスターやチラシとは何なのか。ポスターを取り巻く現状とその裏にある演劇の今について熱いトークが繰り広げられました。

長塚さん:
 問題ですよ。ポスターやチラシ、ビジュアルのセンスで惹きつけられることってあると思うんです。俳優の顔で惹きつけられているのはちょっと危険です。

學さん:
 作品以前の問題で、その人のファンなだけやから。



笹目さん:
 今回の展示では入口のほうはジャパン・アバンギャルドの時代。もちろん商業演劇は最初から役者の顔だったのですが、「状況劇場」、「天井棧敷」などアングラ劇団のものでは顔写真ではなく、イラストなどを多用しています。

長塚さん:
 それが顔写真になっていくんですよね。展示を見ていて、あるとき世界が決定的に変わったのを感じました。
(ポスターサイズ毎に、ほぼ時系列に展示されています)

笹目さん:
 つまり作品に寄り添ったポスターか、役者に寄り添ったポスターかの違い。最近は役者のほうが多すぎる。



宇野さん:
 大入袋はもらったほうがいいんですけどね。観客動員ができない演劇って言うのも…。

長塚さん:
 難しいですよね。以前、『タンゴ-TANGO-』という作品のポスターを横尾忠則さんに依頼し、骸骨が描かれたメチャメチャかっこいいポスターを作って頂いたんです。僕はとても満足していたのだけど、周囲からは「これが芝居だと伝わらない」と言われてしまって。するとある日、当時は今ほど外国の方がいなかったのですが、Bunkamuraで外国人観光客がそのポスターの前に立ち、じっと見入っていたんです。カッコいいと思ったのでしょうね。そういうことだと思うんです、ポスターって。顔写真もいいんですけど、「なんだこれは!」と立ち止まらないと面白くないでしょう。

笹目さん:
 公演の日程がわからないから文字をもっと大きくしてくれとか言われますけど、ポスター自体に立ち止まらせる、惹きつける力があれば、近づいて行って小さい文字を読めばいいんですよ。



學さん:
 そうそうそう、それもメッチャ言われる!でもそうするとデザインが…。

笹目さん:
 みんな気を使い過ぎるのかな。

長塚さん:
 それをやめればいいんですよ。スターが出ていないとそこで何かが起こっているように思えないのかもしれないけれど、折り込みチラシがあまりにも写真だらけというのはどうなんだろうって。

學さん:
 そこ(チラシの束)で生き残るのがすごく大変なの。これ、捨てられたらどうしようとか。



長塚さん:
 ただ、写真祭であるのと同時に、写真という表現に行き詰まっているとも思う。だから発想を少しずつ転換しはじめている気もします。學さんの『ラストフラワーズ』(大人の新感線)のように写真をイラストにするとか。僕も含めて“ここからどうなっていくのか”、ポスターというものが、“(演劇が)劇場から外にはみ出しているもの”というような感覚を取り戻したいですね。1回ゼロにしてみるなんてどうだろうか、1年間、顔写真を使うのは無し(笑)!

學さん:
 いい!!それ、どうやったら実現する?あ、演劇協会が決めたらええねん!

一同:
 演劇協会?!

長塚さん:
 でも、これは本当にどうにかしないと。


【デジタル化のなかでのポスターの可能性】



宇野さん:
 僕は、演出家の主体的なイメージがもっとポスターに出てきてもいいんじゃないかなと思います。
 それと、最近のことで言うと紙媒体の衰退や、そもそも都市が変容してポスターを貼るスペースが減っていますよね。

長塚さん:
 本当に。最近の演劇ではポスター作るのをやめようかみたいな議論が起きます。折込みチラシは本当にいるのか、つまり紙にどれだけの効果があるかということ。きれいな画像を作ってHPで発表してSNSで拡散する方法とか、それもあっていいのですが、なんだか悲しいですね。

笹目さん:
 ポスターやチラシが単なる情報、広告宣伝の売るためだけのものになっているということですね。ちなみにポスターを貼るスペースは減ってはいますが、そこはポスターハリスにお任せください(笑)。

長塚さん:
 僕はポスターやチラシが好きで、気に入ったチラシをファイルしているくらい。だから、チラシをなくそうと聞くと、涙が出そうになります。

宇野さん:
 でもチラシの束、あれ結構重いですよね。僕はグラフィックデザイナーでもあるから紙媒体が衰退してくことはすごく悔しいけど、現実にはそうなんですよね。

長塚さん:
 実際、ちょっとしたアンケートを取ると、ネット、SNSで公演のことを知ったという人が多いです。

宇野さん:
 今までと違う種類のジャーナリズムになりつつあるのかもしれません。

長塚さん:
 僕、電車の中で新聞読むんですけど、そんなときに若い俳優に会うと「新聞っすかー」みたいな反応が…。あと、本もマンガもスマホとかで読むんですよね。だから網棚にマンガがなくなってしまって。

學さん:
 あれね。ちょっと読もかいなみたいなのがなくなったな。



長塚さん:
 僕、思うんです。ネットが完全に使えなくなったとき、みんながどんなにイキイキするんだろうって。何が大切かをわかるような気がして。



學さん:
 (技術的なことでいうと)僕は合成写真が嫌で、一発撮りを目指していろいろやっているんです。「維新派」の公演で役者全員を琵琶湖の水面に立たせた写真を撮ったんだけど、前日に琵琶湖の水深を計って、イントレ(足場)を沈めて、ボートで一人ずつ役者を運んで、“せーの”で撮ってすごいカッコよく出来たの。そうしたら「これ、合成?」って言われた。いやいや2日かけて撮ったんやけど…って。

ちなみにその映像がこちら【維新派 - ishinha - 『呼吸機械』 チラシ撮影】



長塚さん:
 でも、やったほうがいいですよ。そうやって出来上がったものを大切にしたほうが絶対にいい。エネルギーが違いますから。今日、会場内を歩き、ポスターを眺めていると「こんなことがあったんだ…」と、歴史、時代を旅することができる。いろんな時間が詰め込まれていて、文字情報も含めて非常に面白いから。





 ポスターがもたらす偶然の出会い、デザインが呼び起こす想像力や記憶、作り手の想い(長塚さん曰く、そこには少々の狂気めいたものやとびぬけたユーモアがあっていい!)、ポスターやチラシとの付き合い方、向き合い方を今一度考えてみたくなるお話でした。
 ちなみに、最近、チラシの束でひときわ輝きを放っていたのは『作者を探す六人の登場人物』(KAAT、長塚圭史演出)です。「ベースのグリーンが超好み」、それだけで観劇を決めてしまったほど。

 また、トークショーでは、宇野さんや東さんの作品を実際に見ながらお話をうかがえるというひとコマも。この上ない幸せな時間が流れました。




宇野さん:
 『人魚姫』、あれは僕が寺山演劇に関わった最初の作品です。ひょっとしたら「天井棧敷」ができる前、66年だからね。「人形の家」という劇団名をつけたんですけど、そこのレパートリー。でも、67年の「天井棧敷」旗揚げはね…僕じゃなくて(笑)。

笹目さん:
 その下は粟津潔さん、シルクスクリーンですね。『犬神』(「天井棧敷」)凱旋公演なので、元のポスターと同じ版を使って一色刷りにしたんです。

學さん:
 あの一色刷り、カッコイイですよね。


<質疑タイム>


──宇野さんが影響を受けたポスターはありますか。

宇野さん:
 ポスターではないのですが、山城隆一の「デザインに悲しみは盛れないか」という言葉、それは悲しみのような感情をポスターで表現したいということの裏返しだと思うんです。その言葉が好きで、今でも僕の中にあります。情感をポスターで作りたいなと。

──デザイナーとして大切にされていることは。

宇野さん:
 依頼主である出版社や劇団の担当者が喜んでくれること。広告など媒体を通して大衆の目に触れたときにどうかより、先ずうちに来た人がうれしそうな顔をしてくれるのがいい。その人がなにかを象徴しているような感じがするんですね。
 僕は児童文学から好色文学、そして寺山作品までいろんなものと付き合ってきたけれど、その可能性は依頼してくれる人によって広がった。依頼されるとそういうのも描けるような気がしてくる、そして、彼らの表情を見ていると自信が出てくる。そんな後付けの感覚が強いですね。

學さん:
 僕が手掛けているのはほとんどが演劇のチラシとポスター。心掛けているのは戯曲やあらすじを読まないこと。あらすじを読んでもらい、なるほどなるほどと聴くだけ。そして残ったもの(イメージ)でポスターを描くんです。戯曲を読むとわけわからん。俳優がしゃべらないとおもろないし(笑)。

長塚さん:
 そういうこと言われると困るんです!今の発言は戯曲を殺しかけましたよ(笑)。確かに最初は読みにくいけれど、読めるようになると、戯曲を読むことで舞台を思い出すことが出来る。あるいはその舞台を見たことがなくても自分で自由に舞台を作りだすことが出来る。真船豊さんという劇作家は「家に一冊でも戯曲を置いてもらえるように僕らは書かなくてはいけない」と言っているんです。はい。戯曲もなかなか印刷されなくなり、それもちょっとどうなんだろうと思っています。今日はそういうことを言う場ではないんですけど(笑)。

後日談
 トークショーののち、早速、學さんは戯曲を購入したとか。(げきぴあTwitter


 ほかにも、かつてゲリラ的にポスターを貼りに行ったことや、立て看板を立てるスペース争奪戦、電話ボックスのピンクチラシまで、歯に衣着せぬトークの数々でした(ゆえに一部記事化不能!!)。ここだけの話満載のトークショーは会期中、多数開催です!

 たとえば…12月30日17時にはヒカリエホールにKERAさん登場、1月7日14時はアツコバルーにて劇団青年座・文学座・劇団民藝そろい踏み!などなど。詳しくはこちらをご覧ください。


【展覧会情報】

『現代演劇ポスター展2017-演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶-』
2017年12月21日(木)~2018年1月10日(水)
会場1:ヒカリエホール ホールB、会場2:渋谷キャスト スペース、会場3:アツコバルー arts drinks talk

トークショースケジュールはこちらから!


【みなさんの予定】


宇野亞喜良さん(美術)
Project Nyx『奴婢訓』
2018年3月9日(金)~18日(日)@東京芸術劇場シアターウエスト
作:寺山修司、美術:宇野亞喜良、構成:水嶋カンナ、演出:金守珍
HPはこちらから

東學さん(絵師)
禅問答ライブペイント『蠢雲(しゅんうん)』
2018年1月7日(日)8日(月・祝)@下北沢 ザ・スズナリ
舞描:鉄秀、舞踏:向雲太郎、音師:築山建一郎(G)、絵師:東學
東學さんHPはこちらから

長塚圭史さん(作・演出・出演)
『かがみのかなたはたなかのなかに』
2018年1月7日(日)、8日(月・祝)@新潟県 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館
2018年1月11日(木)~14日(日)@兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2018年1月16日(火)、17日(水)@富山県 オーバード・ホール
2018年1月20日(土)、21日(日)@大分県 iichiko総合文化センターiichiko音の泉ホール
2018年1月25日(水)@福岡県 大野城まどかぴあ大ホール
2018年1月27日(土)、28日(日)@福岡県 北九州芸術劇場 中劇場
2018年2月1日(木)@広島県 はつかいち文化ホール さくらぴあ 大ホール
作・演出:長塚圭史、振付・音楽:近藤良平
出演:近藤良平、首藤康之、長塚圭史、松たか子
作品HPはこちらから
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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