新国立劇場「リチャード三世」稽古場レポ
2012年9月16日16:00
全三部9時間に及ぶ上演で2009年の演劇界の話題をさらった「ヘンリー六世」のキャスト・スタッフが新国立劇場中劇場に再集結!
注目の稽古場の様子をレポートいたします。
赤薔薇の紋章のランカスター家と白薔薇を紋章とするヨーク家の王位をめぐる争い“薔薇戦争”を描いた「ヘンリー六世」三部作の続編とされる「リチャード三世」は、シェイクスピアが初めて大ヒットさせた作品であり、世界の名優が一度は演じたいと願うのがそのタイトルロールです。
これまでも名だたる名優たちが挑んできた究極の悪党・リチャード三世に岡本健一さん!強烈な自己紹介(?!)に始まるこの芝居で、シェイクスピアの戯曲を“体現”しているという言葉がぴったりなその姿や振る舞いです。
台詞回しは“重厚”、“朗々と”というより、見ている側にすっと届くような、これまでのリチャード像とは少し異なるものの、その言葉の力は決して揺るがず、それでいて“体温を感じる”リチャードに目と心を奪われます。
中嶋朋子さん演じるヘンリー六世の妻・マーガレットが発する言葉は、呪いのように、その後の登場人物たちの運命を操ります。彼女の怒りと狂気の存在は、リチャードとはまた違う“悪”であり、マーガレットが登場した時の人間関係、対立軸の鮮やかな変化が見事です。
そしてもう一人、芝居をがらりと変えるのが、リチャードの野望が渦巻く世界に颯爽と登場する浦井健治さん演じるリッチモンド伯ヘンリー(後のヘンリー七世)です。
長きにわたった薔薇戦争を終結させるリッチモンドにふさわしい、新しい風、希望の光のような爽やかさです。
前回、ラストでリチャードに殺された「ヘンリー六世」タイトルロールを演じた浦井さんが、リッチモンドを演じるというキャスティングにはグッときますね。浦井さん、きらめいています。
浦井健治さん、浦野真介さん、立川三貴さん、関戸将志さん、勝部演之さん
そしてリッチモンドがもたらす光はリチャードの闇や孤独をより一層際立たせます。それぞれが率いる両陣営の決戦前夜の対比、歴史のうねりの見せ方が素晴らしい!!鵜山仁さんの演出が冴えわたります!!これはぜひ劇場でご覧ください!
物語に話を戻すと、王位を奪うためにあらゆる策をめぐらせ、裏切り、陥れ、優位な王位継承者を蹴落としていくリチャード。残忍で非道な彼に向けられるのは侮蔑するような態度、冷ややかな視線。それでも、いつの間にか言葉巧みに操られてしまう人々のドラマもそれぞれ色濃く見えてくるのは、やはり「ヘンリー六世」からのキャラクターや世界観の共有がなされているからでしょう。
リチャード三世の長兄エドワード四世に今井朋彦さん。その声と存在感には圧倒されます。病床にある王が激高する決して長くないシーンですが、強烈な印象を残します。
川辺邦弘さん、前田一世さん、吉村直さん
ロンドン塔に幽閉されたクラレンス卿とリチャードが放った刺客のやり取りは、まさに丁々発止。この小気味よい言葉の応酬もやはりシェイクスピアの魅力です。
この時代の諍いに翻弄されるのは男性ばかりではありません。
前王妃マーガレット(中嶋朋子さん)と現王妃エリザベス(那須佐代子さん)
リチャード三世の母ヨーク公爵夫人(倉野章子さん)
エドワード四世の妃エリザベス、エドワード四世、リチャード三世の母ヨーク公爵夫人、義父と夫をリチャードに殺されながら求婚に応じてしまうアン・・・。妻として、母としての女性たちの愛憎には心を締め付けられます。この女性たちの葛藤、ドラマも大きな見所です。
リチャードに殺された夫の葬列に加わるアン(森万紀さん)
このように「ヘンリー六世」からの蓄積が見事に「リチャード三世」に結晶し、それぞれの役者さんがその役の人生を背負っているような奥深さを感じます。
そして、ともすれば重くダークな景色に息苦しくなる印象のこの作品ですが、劇中に流れる優しく、軽やかな音楽も手伝い、ただ“悪”を見せつけられるだけでなく、その時代を生きた“人間ドラマ”として丁寧に作り上げられています。
ちなみに、コスチュームデザイン画も拝見しましたが、とても素敵です!さらにある演出効果が加わるとか!リチャード三世という男が口先で人を動かし、王座に上り詰め、そしてクライマックスのボズワースの戦いで死を迎えるまでの生き様と死に様、その壮大な歴史劇を言葉の力で魅せる!
「リチャード三世」本番がますます楽しみです!
続編と位置付けられますが「リチャード三世」は独立した作品ですので、「ヘンリー六世」を見逃した方もご心配なく! 新国立劇場HP内の特設ページでも人物相関や背景など詳しい解説がありますので、そちらで少し予習するのもおすすめです♪
2012年10月3日から@新国立劇場中劇場
おけぴ管理人の「リチャード三世」制作発表レポ
UK15
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おけぴ取材班:文&撮影:chiaki 監修:おけぴ管理人