さわやかな風が吹き抜ける ミュージカル『ポストマン』公演レポート

遠い記憶の愛しい人……。(♪いにしえの恋歌)

 もの悲しくも美しいメロディで幕を開けるミュージカル『ポストマン』。2010年に初演されたオリジナルミュージカルがブラッシュアップされて2017年12月に上演されました。劇場空間全体が物語に、そしてキャラクターの心情に寄り添うような贅沢なひとときをくれる作品は、師走に気忙しさの中の一服の清涼剤のような印象を残しました。
 素敵な公演の思い出として、そしてやがて訪れるであろう再会の日のために公演レポートをお届けします。



まっさらなキャンバスのような白を基調としたセットの中でドラマが描かれます
(舞台写真撮影:岩村美佳)

 物語の始まりは12月の東京。イラストレーターの眞人(海宝直人さん)は、とある依頼を受け南国の島へ向かう。依頼の内容はお土産物の絵ハガキ用にそこにある小さな教会を描くこと。



生活のためにイラストを描く日々に漠然と疑問を感じる眞人


恋をモチーフにした楽曲がとめどもなくあふれてくるという英二

 島で待っていたのは、人懐っこいオルガン弾きの英二(上山竜治さん)。島の解放感のせいか、英二の人柄のせいか、停滞気味だった眞人の心もすぐにほぐれ、気がつくと“イラストレーター”から“絵描きさん”に。

 海宝さんと上山さんといえば、『レ・ミゼラブル』でのマリウスとアンジョルラスコンビ!というイメージがありますよね。本作ではその絆を活かしつつも、この物語の関係性をゼロから構築しているように見えます。当たり前のことなのでしょうが、変に素が透けて見えないというか、眞人と英二として新鮮な並びに見えるのです。



 そして、“絵描きさん”と呼ばれた瞬間の眞人の戸惑いとちらりと覗かせる小さなうれしさ、そう呼んだ英二は天然なのか何かを見透かしていたのか。“ひと言”を深み読みしたくなるくらい、細やかなお芝居のキャッチボールをされるお二人です。芝居の相性ってそういうところなのかな、なんてことを思いました。


 島で眞人を待っていたのはもう一つの出会い。教会へやってきた英二の幼馴染の美月(小南満佑子さん)を見て、眞人は衝動的に彼女をスケッチするのです。そして、互いに惹かれ合う二人……唐突なようでいて、そこには理由、もうひとつのラブストーリーが。


 エーゲ海を臨む小島にある教会で美月が見た女性の絵、島に伝わる歌、少女に郵便屋さんと呼び止められた英二、惹かれ合う眞人と美月、謎めいたひとつひとつのピースが動きだすところで第1部終了。

 そんな第1部ラストで歌われる♪届けたいあなたに は、その後、物語が時空を超えるのに十分なエネルギーのある楽曲。海宝さんの力強い歌声に上山さん、小南さんの歌声、想いが重なり合い、小作品ミュージカルという枠を超えたスケールと迫力!
 眞人が一歩を踏み出したのね!あ、あれに見えるはポストマン?!あの女性は!というワクワク感をもって休憩に突入です。


 第2部の舞台となるのはエーゲ海の小島。そこで描かれるのは貧しい漁師のマルコ(海宝さん)と政治家の娘ソフィア(小南さん)の身分違いのラブストーリー。3人のキャストも、それまでのブルーを基調とした衣裳からアースカラーの衣裳へと着替え、奥手の眞人から若さゆえの無鉄砲さをもつマルコ、活発で現代的な美月から古風な箱入り娘ソフィア、朗らかな英二から優しさはそのままに少し影のあるパオロ、もうひとつの人生を生きます。



家族の反対とマルコの愛に揺れる政治家の娘ソフィア
文字が書けないマルコから届く絵を愛おしそうに見つめる


タイトルロール!ポストマン(郵便配達員)のパオロ(上山さん)はマルコの親友
そして、真っ白なドレスに身を包んだ少女は!

 身分の違いを乗り越えて愛を貫こうとする情熱的なマルコと、自らの辛い経験ゆえにマルコを案じるパオロ。愛に戸惑いつつ、大きな決断をするソフィア。それぞれの想い、葛藤が渦巻く第2幕は、芝居も歌も熱量UP!


 教会にて。高価な結婚指輪を買うお金はない、そんな自分がソフィアに捧げられるものは……と思案したマルコは教会の壁に彼女の姿を描く。そこへやってきたのは。



ソフィアからの手紙を代読するパオロ、そこでマルコに伝えられたのは……


情熱的で真っ直ぐなマルコの失意が胸に刺さります

 失意の中でも、友への優しさを忘れないマルコ。



自らも貧しさの中で暮らしているのに、病に冒されたパオロのために薬を買い求める
互いを思いやる二人は、ときどき兄弟のようにも見えます


 相手ことを思えばこそ、その想いのちょっとしたボタンの掛け違いが……、運命を飲みこみ、悲恋に変えていくのです。その中で立ち尽くすパオロ。



一度は島を離れたソフィアだったが、再び島に戻る、しかし……


届かなかった想いをなんとしてでも届ける!それもまた強い想いとなるのです


そして第3部へ。再び現代、教会で目覚める眞人。



そんな眞人を見つめるのは
少女から大人の女性へ、劇中で成長を遂げる小南さんの歌声の可憐さと強さも大きな魅力です!

 時空の隔たり、幻想の中の想い人、マルコが描くソフィアなど見え方がその時々で変わる薄いカーテンがとても効果的です。時々揺らめくのも風のような、波のような。



美月にただならぬものを感じつつも、島を去ろうとする眞人
そんな眞人に英二が……その行動は英二なのかポストマン(パオロ)なのか、2つのキャラクターが想いがひとつになっていくようです


 眞人(マルコ)と美月(ソフィア)の恋が軸にありながら、タイトルは『ポストマン』。でも、物語の旅を終えると、その存在の大きさに納得なのです。ポストマン、次は隣に佇む少女の想いを届けにいくんだろうなぁ。

 この作品のもうひとりの大切な登場人物は少女(井手柚花さんと宮島瑠南さんのダブルキャスト)、少女の届けたかった想いもキューッと胸が締め付けられるようなこと。そして、オープニングや劇中で♪いにしえの恋歌を透明感のある声で届けてくれるお二人も昨年のミュージカル『レ・ミゼラブル』にリトル・コゼット/リトル・エポニーヌとしてご出演されていた実力派さんです!


 現代パートの二人の恋がこれから始まる!そんな明るい希望に包まれたエンディングに、前向きな清々しい気持ちで劇場を後にすることができるミュージカル『ポストマン』。丁寧に作り上げられたオリジナルミュージカルがこれからも磨き上げられ、多くの方のもとに届けられることを心から願います。

 最後になりましたが、本作は原案・作曲の河谷萌奈美さん書き下ろしの楽曲から誕生しました。河谷さんの楽曲たちに脚本・作詞の中井由梨子さんが物語を、演出のtekkanさんが芝居をつける。ゆえに物語と音楽がとっても密接なのです。心情のすべてが言葉では語られない場面での台詞の行間を埋めるようなメロディ、そしてしっかりとドラマを伝える細やかなお芝居。楽曲も歌唱が容易なものばかりではないのですが、心の機微を表現する繊細なメロディも台詞のようにすんなりと届けるキャストの底力も観劇後に改めて実感します。(観劇中はすんなりドラマに浸ってしまい気づかない、それほどどうだ難曲を歌っているんだ感がない!)そして、作品全編から常に優しさが感じられるのも、初演から7年、3人のクリエイターとキャストの手で丁寧に育まれた作品だからこそです。

 そんな音楽と芝居の関係への徹底したこだわりは、小規模の作品ながら生演奏(キーボード、ヴァイオリン、マルチリード、ドラム)で届けられるというところにも表れています。生の息遣いが生み出す心地よさや、高揚感を間近で感じられるのは小劇場ミュージカルの特権ですね!
 ただ、小劇場ミュージカルの贅沢さと引き換えにチケットは即日完売となった本作。今回、観劇が叶わなかった方もいらっしゃるかもしれません。でも、またいつかどこかでミュージカル『ポストマン』と会える日が来るでしょう。それを楽しみに、レポートを終えようと思います。


<お知らせ>

 等身大の若者、眞人と情熱的な漁師マルコを演じた海宝直人さん(vocal)のバンド“シアノタイプ”が1月24日にデビュー・シングル発売!ギターの小山将平さん、ベースの西間木陽さんと共にロックの世界に生きる海宝さんも新鮮です。デビュー・シングルには、現代に生きる全ての人に捧げる力強いメッセージ・ソング「光」と海宝さん作詞のミディアム・バラード「赤茶けた」の2曲を収録。(おけぴ公演NEWSでもご紹介!)


レーベルSHOPサイトはこちらです。

【リリースツアー開催!】
2018年
2月02日(金)19:00開演 大阪MUSE
2月04日(日)17:00開演 shibuya duo MUSIC EXCHANGE
2月16日(金)19:00開演 博多Gate’s 7

チケットのお求めはこちらから


<祝・受賞>

 海宝直人さんが公益財団法人市川市文化振興財団(千葉県市川市)より「第1回 市川市文化振興財団芸術文化奨励賞」を授与されることになりました(2018年1月15日)。おめでとうございます♪



ミュージカルで役を生きる海宝さん、ロックの世界を生きる海宝さん……幅広いフィールドでますますのご活躍を♪


【公演概要】
ミュージカル『ポストマン』
2017年12月22日(金)~26日(火)@時事通信ホール

<スタッフ>
脚本・作詞:中井由梨子
原案・音楽:河谷萌奈美
演出:tekkan

<キャスト>(五十音順)
海宝直人 上山竜治 小南満佑子
(Wキャスト)井手柚花 宮島瑠南
(アンダースタディ)立崇なおと

演奏
河谷萌奈美(キーボード) 中村千鶴(ヴァイオリン) 
船木喜行(マルチリード) 川島浩平(ドラム)

公演公式サイトはこちらから

写真提供:オフィス・ストンプ 舞台写真撮影:岩村美佳
おけぴ取材班:chiaki(取材・文) 監修:おけぴ管理人

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