芥川賞作家・
平野啓一郎さんの代表作『一月物語』を朗読と音楽、そして身体表現を織り交ぜて上演される
夢幻朗読劇『一月物語』。構成・上演台本・演出は
谷賢一さん、音楽は
かみむら周平さん、振付は
宝満直也さんと各界の才能が集結!さらにキャストも多彩な顔ぶれ。
【感想が届きました!】
♪夢幻朗読劇というだけあって、とても幻想的な舞台でした。静寂やそこに響くピアノの音、ダンスの演出も物語にあっていて世界に入り込めた感じがします。水夏希さんの朗読も榊原さんの怪しげな翁や僧侶のお声も雰囲気があってすごいと思いました。
♪平野啓一郎さんの作品が好きで、本を読みながら文字から描く世界が朗読劇という形でどんな風に描かれるのか興味深く観劇しました。
横関雄一郎さんのパフォーマンスが、動体として視覚を刺激するために、朗読劇にもかかわらずこんなにも多角的にイマジネーションの世界を広げ、感情を揺り動かすことに驚きました。一言も発していないのに! 朗読劇は観たことがなく、地味なのかしらと思っていた。ところがどっこい横関さんの衣装と舞踊で妖しく色彩溢れる世界で観てよかったです。
♪はじめての朗読劇でした。まずはピアノに魅了され、禍禍しい(まがまがしい)世界観に魅了され、演ずる方々により見えない情景が映し出されるようでした。
♪平野啓一郎・谷賢一ということで観劇した。
谷さんは、俳優の演技に止まらず、劇の構造をも演出する方。例えば『テレーズとローラン』(地人会新社)では、時間を遡るように作られていた。
今回の仕掛けは、原作の漢字のイメージ喚起力をピアノとダンスに置き換えているようだ。漢字の日本的な表情が、大きく西洋風に変わってより現代的・普遍的になっていると思う。
♪地の文と高子を担当する水夏希さんが素晴らしかった。地の文を表現してゆく変幻自在ぶりが圧巻美しい小説の文体を感情豊かに伝えてくれました。
地の文では真拆の心情も語るので男役当時を彷彿させる力強く、艶やかな声が聞けますし、一転、高子の儚さとのコントラストも一見の価値ありです。
真拆役はWキャストなので、彩吹真央さんの真拆も拝見したいと思いました。
♪舞台の正面に小説の文章がすだれのようにゆらゆら揺れていましたが、ピアノの音が鳴った途端にはらはらとほどけ消えて三人の朗読劇が始まりました。
真拆役の久保田さん私は初めてでしたが声もよくとても聞きやすくて物語の中にスッと入って行けました。ラストはゾッとしました。原作を読んでいたらもっともっと楽しめたのにと思いました。
♪おどろおどろしく写実的な、独特の文体。劇場の暗闇の中、その情景が鮮明に浮かび上がってくるようでした。美しいものに惹かれてやまない心。
一つ一つの不思議な存在が、最後にパタパタっと一つに繋がり、ラストは身の毛がよだつ程に衝撃的でした。
♪美しい言葉で紡がれるファンタジックな世界観に引かれました。水さんの心を引き寄せられる朗読も素敵ですし、夢と現に惑いさ迷う彩吹さんもとても素敵でした!日本語の語彙の豊富さも堪能出来ますね。
♪朗読劇だけど総合芸術という感じ。幽玄で厳かな雰囲気の中、リーディングを軸に進む物語。合間合間にはさまれる踊りが秀逸!テーマそのもののような、抽象的なものを表現しきっていて、物語に深みと奥行きを加えている。リーディングも素晴らしい。
ただ言葉が難しいので、朗読だけでは情景が浮かんでこないかも。私は原作を何度も読んだので、字からもらった情景が浮かんだ分楽しめた。原作を読んでからの観劇が個人的にはおすすめ。【はじめまして座談会】
原作の持つ古典的で幻想的な妖しさを朗読とダンスと音楽で表現……、これはどんな舞台になるのだろう。まだ見ぬものへの興味と期待を、キャストの
水夏希さん、横関雄一郎さん、彩吹真央さん、久保田秀敏さんに投げかけてみました。公演がますます楽しみになる座談会レポートスタートです。

久保田秀敏さん、彩吹真央さん、水夏希さん、横関雄一郎さん
──みなさんがお揃いになるのは今日が初めてとのこと、まずは軽めに自己紹介から!水:わたくし、宝塚を卒業し…
横関:それはよく存じております(笑)。
水:ありがとうございます(笑)。卒業から8年経ちました。この方(彩吹さん)とは宝塚時代から一緒に。私がトップのとき二番手でね。
彩吹:はい。彩吹真央と申します。私は久保田君とも2016年に『九条丸家の殺人事件』で共演しましたが、今回はダブルキャストということで、一緒に舞台に立つことはないんですよね。
水:男女のダブルキャストってミラクルですよね。
久保田:どうやっても全然違う感じになりますよね。今の段階では、全く想像できません。
改めまして、久保田秀敏と申します。31歳です。僕は、いろんなタイプの舞台をやっています。昨年末の『スカーレット・ピンパーネル』が初のグランドミュージカル出演、今は、新撰組の舞台をやっています(『駆けはやぶさ ひと大和』)。
水:新撰組!ここ、沖田(水さん)、土方(彩吹さん)だったんですよ。
久保田:そうなんですね!僕は榎本武明役なのですが(笑)。これからも幅広いジャンルの舞台に挑戦していこうと思っていますので、ご指導よろしくお願いします。
横関:バレエダンサーの横関です。ずっと海外で踊っていたのですが、10年ほど前に日本に帰ってきて、そこからは日本で活動しています。
水:ずっとバレエをされているんですよね。私たちって、歌やお芝居、ダンスもバレエ、日舞、タップ…といろんなことを幅広くやってきたので、その中の1つをずっとされているというのはすごいことだなと。
横関:僕から見ると、いろんなことができることは憧れです!第一に、セリフを覚えるとか…できませんから(笑)。
水:これもご縁なので、お互いに培ってきたことを持ち寄り、今日からよろしくお願いします!
一同:よろしくお願いします!
──夢幻朗読劇『一月物語』へのみなさんの印象は。水:原作や上演台本を読みましたが、読めば読むほど「これは文字を見ながら読むものだ」と感じます。使われている言葉(文体)、漢字が生み出す独特の雰囲気や情景があるので。それを(音としての)言葉で伝えるのは非常に難しいという印象。ただ、そこで大きな助けとなるのがダンスと音楽だと思います。
横関:僕は反対に、みなさんの素晴らしい声で表現され、お客様の想像力で膨らんだ世界に、ビジュアルで入ったときに変なことは出来ないなと。そこがちょっと怖いです。
水:もう横関さんがまとっているその雰囲気で、すっと歩くだけでいいと思います。ゆみこ(彩吹さん)はどう?
彩吹:私は、本を読み、その世界観の深さたるや……と圧倒されました。そして、最初に読んだときと、二度目、三度目に読んだときで私の中での解釈や感じ方が変わっていったんです。その感覚は、公演をご覧になったお客様にも起きうることだと思うんです。そんな未知なところが楽しみでもあります。
久保田:それすごくわかります。読みこむほどに、いろんな見方ができるようになるんですよね。
そして、読んでいるだけで鼓動が早くなっている。特に後半。お客様もワクワクキドキ、感情が揺さぶられると思います。その上で、彩吹さんと男女でダブルキャストということを考えると、僕らが変わったことでどんな変化が起きるのか、それも楽しみです。
──ここで改めて配役をご紹介すると。地の文と運命の女・高子を水さん。彩吹さんと久保田さんが青年詩人・真拆(まさき)ということですね。あらすじ(オフィシャルより)
明治三⼗年、奈良県⼗津川村。
神経衰弱の気鬱を逃れ、独り山中をさまよう⻘年詩⼈・真拆は、⽼僧に毒蛇から救われ、⼭寺に逗留する。俗世から隔絶された奇妙な時空の中で、真拆は、いつしか現実と夢界の裂目に迷い込み、運命の女と出逢った。それは己の命を賭けることでしか成就しない愛、だが、刹那に失われる運命の愛だった……。古典的風格さえ漂う端麗な筆致で描かれた聖悲劇。
彩吹:一瞬、疑問に思いますよね(笑)。私たち二人が真拆って。私も最初は少し戸惑ったのですが、役者として一つのキャラクターと向き合うということでは他と同じ。そこでは16年やってきた男役の引き出しを開けてみようかなとも思いますが、それだけで表現できる世界でないこともわかっています。今の自分ならではの表現になるように、しっかりとお稽古しようと思います。
──真拆という人物をどうとらえていますか。彩吹:台本を読みながら、どこかで本能的に共通点を見つけようとしていたからかもしれませんが、旅をしながら自分を癒すとか、私と似ているところがありました。蝶に誘われることへの感覚も。真拆は特殊な人に見えがちですが、彼の内面の悩みや葛藤、欲望というものは誰しもが持っているもの。演じる私たちだけでなく、作者の平野啓一郎さん、谷さん、もっと言うとご覧になるみなさんもご自身を投影できる人物だと思っています。だから、みなさんが最終的に真拆になったらいいな。
久保田:明治時代の話ですし、難しい言葉で描かれているので難しく解釈しがちですが、現代の僕らと同じだと思います。彼がさまざまな力で導かれるように、僕らもいろんな出来事、人に出会っていく。それも奇跡だし、不思議なこと。そして、あることをきっかけに普段はあまり表に出さない感情、情熱が出てくる。それも誰にでも起こりうることですよね。ただ、それを言葉で伝えていく難しさ……、そこは課題でもあります。
水:「情熱」という件がすごく好きなんです。ノーブルで淡々とした印象の真拆が秘めている生きることへの情熱。それが高子との出会いをきっかけに、一気に燃え上がるところがいいんです。きっとそういう秘めた情熱って、ゆみこが言ったように谷さんにも通じるものがあると思うの。まだ、ちょっとご挨拶したのとSNSでの印象だけど(笑)。絶対情熱的!
──水さんは、その高子と地の文を読まれます。物語との距離感や温度がだいぶ異なる2つのパートです。水:そうなんですよ。一刻も早く谷さんと相談したいと思っているんですけど(笑)。でも、語り(地の文)と高子を“ひとりの役者”が読むという意味が必ずあると思うので、それをしっかりと見つけたいと思います。それにしても、この作品には果てしない深さを感じます。この沼は、どこまで底が深いんだろうなって。池じゃなくて沼ね(笑)。
──横関さんはいかがですか。横関:僕、最初に読んだときは話の奥行きとか、いろいろなことがよくわからなくて。それが何度も読むうちに、リズム感や色彩感覚が鮮明になり、まるで8K テレビを見ているかのように鮮やかに自分に入ってくるようになっていったんです。そんな登場人物の感情のアップダウン、温度差を毎回、舞台にリアルに乗せる。そのためのアクセントになれればいいなと思っています。
そして、キャストが変わることもそうですが、一回一回がライブ。感覚、感性をオープンにして、毎回新鮮な気持ちで臨もうと思います。
水:リズムと色彩!やっぱりとらえ方も新鮮。きっと稽古場でも、横関さんのパフォーマンスからたくさんのインスピレーションをもらえそう!そんな予感がしています。
──また、この作品には、鴉揚葉(カラスアゲハ)、蛇、夕影鳥(ホトトギス)など生き物たちが登場します。水:私、結構縁があって。大蛇の役をやったこともあるし、『エリザベート』のときは蛇のような爬虫類系をイメージしてやったり、トップになったときに作ったグッズが蝶の柄だったり。しかも、鴉揚葉を調べたら、私がデザインした蝶と色調も似ていて。ここで繋がったなと思っています(笑)。
彩吹:最近、ある神社に日をおいて2度行ったんです。そうしたら、2度とも同じ種類の蝶が飛んできて。さすがに同じ蝶だとは思いませんが(笑)、これは歓迎してくれているのかなと良いほうに解釈しています。
──不思議な感覚、縁ですね!彩吹:ちょっと真拆っぽいでしょ(笑)。あと、夕影鳥の鳴き声も調べて聴きながら本を読んでイメージが膨らみ、作品の持つ奥深さをより一層感じることができるんです。みなさんにも視覚、聴覚を研ぎ澄ませてご覧いただきたいですね。
久保田:僕が思ったのは、良くも悪くも「虫の知らせ」って言うじゃないですか。台本を読んでいても真拆の心情の変化、その前ぶれのように蝶や蛇が出てきているのかなって。そこを意識すると、物語の展開をより面白く感じられるかと思います。横関さんは、そういった登場人物以外の生き物を表現するところも担いますよね。
横関:実は……、僕、動物関係が全くダメで(笑)。蛇とか、写真も絶対見られないくらいです。なので、台本にも「蛇(そして女であり、蝶であり、運命であるもの)」とあるように、言葉を頼りに自分なりの蛇のイメージ、あくまでも架空の蛇として作りあげようと思います。
── 一つひとつのことがらに対してみなさんのアプローチが多様で興味深いです。それこそがこの作品の奥深さなのかもしれませんね。最後にひと言ずつメッセージを。 久保田:僕は一番の若者なので……。
誰からともなく:それ、わざわざ言わなくても……(笑)。
久保田:(笑)!! 青年・真拆として、作品にいい影響を与えて、まだ誰も観たことがないような朗読劇の世界を立ち上げたいと思います。
彩吹:男性、女性というものを越え、真拆というひとりの人間が、果たして生きに行っているのか、死にに行っているのかというところに、この物語の美しさがあると思いました。私自身が、ひとりの人間としてこの役に対峙して物語を生きることができれば、死に切れる。集中して取り組もうと思います。
横関:お話も舞台の画も、非常に厳かなものになるでしょう。その緊張感、空気感、温度が伝わる舞台になるように感覚をどんどん研ぎ澄ませていけたらと思います。そのためにも早くリハーサルを始めたくて仕方ないです。
水:言葉の難しさから、最初は戸惑う方もいらっしゃるとも思います。でも、その世界に一度足を踏み入れていただけたら、真拆とともに壮大で世にも美しいジャーニーを体感していただけると思います。頭や心を開放して、この夢幻朗読劇の世界に浸ってください。
水さんオフィシャルインタビューはこちらから<ちょっとブレイク>
──「夢幻」朗読劇にちなみ、最近見た夢は?久保田:僕、本番が近づくと、舞台上に立っている自分の夢をよく見るんですよ。そこでお芝居をしているんですけど、自分の台詞が出てこない。そろそろ自分の出番だといことはわかるのに、台詞が…どうしようって。
水:わかる!!そこで目が覚めるのよね。ゆみこはない?
彩吹:宝塚時代にはあったけれど、最近はないですね。私は予知夢を何度か見たことがあって。夢に出てきた人が、次の日に公演を観に来たということがあるんです。
三人:へぇ!!!すごい!
水:私は、振りが出てこないとか、着替えが間に合わないとか。あと、初日直前に切羽詰まってくると、坂が上れない夢とか。ものすごく急なの。そうかと思えば、上れてホッとする夢とか。その時の状況、気持ちが夢に直結ですよ!!
横関:僕も、坂を上る系はあります。ほかにも大きなものが上から降ってきたりとか、走っていたら突然崖で、下に地面がなかったりとか。僕も直結タイプかな(笑)。
──この作品の初日前にはみなさんどんな夢を見るのか……楽しみ?!ですね(笑)。 みなさんのお話をうかがって、夢幻朗読劇が音楽とダンス、そしてもちろん朗読という表現の要素を持つことが腑に落ちました。この構成だからこそ、原作が持つ世界を舞台に立ち上げることができるのだろうと。舞台を見ると、おそらく真拆が女性と少年の透明感を持つ男性のダブルキャストというのも、なるほど!と思われることでしょう。夢幻朗読劇『一月物語』、間もなく開幕です。
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)hase(撮影) 監修:おけぴ管理人