4月25日に開幕、響人3年ぶりの本公演『お月さまへようこそ』にご出演の
海宝直人さん、
西川大貴さん、
中村翼さん、
畠中洋さんにお集まりいただき、稽古場プレトークを開催!
今回の上演に至るまでのストーリー、作品の魅力、そして演出家吉原光夫さんについてなど、たっぷりとお話をうかがいました。稽古風景とともにお届けします。

海宝直人さん、畠中洋さん、中村翼さん、西川大貴さん
【出会いを大切にしたいから引き受けた、それは大正解でした(畠中)】
──まずは今回の『お月さまへようこそ』チーム結成までのストーリーをお聞かせください。西川 はじまりは2015年の『レ・ミゼラブル』公演のころ。光夫さんと海宝くんと僕、そして同じころ(宮澤)エマさんも加わり、このメンバーで何かできたらいいねという話になったんです。そこに(吉田)沙良ちゃんが加わって。でも、なかなかスケジュールが合わなかったり、これだという作品もなかったり。
海宝 そう、“このメンバーで何かしたいね”から始まったんだよね。その「何か」も具体的な「何か」ではなく、コンサート寄りにするか、芝居にするか、居酒屋での激論もありつつ(笑)。
西川 そうそう、ライブって話もあったよね。
そこから3年くらい経ち、スケジュール的にここならイケる!となり、これはやるしかないということで、動き出しました。
海宝 3作品くらいの候補があって、メンバーの家に集まって本読みをする中で『お月さまへようこそ』に決まりました。
──ほかの候補も、音楽があって芝居があってというタイプの作品だったのですか。西川 ひとつは僕が書いた本。それが光夫さんのイチオシ作品でしたが、僕としてはこのメンバーでは…だったんです。そして案の定、イメージがわかずに却下(笑)。もうひとつは何だったか…。
──それほど『お月さまへようこそ』がずば抜けていたのですね。それは満場一致で?海宝 満場一致です。みんなに適当に役を割り振って全編読んでみたのですが、読んだときの感触がすごくよくて!単純に面白いって(笑)。
西川 あの段階でみんな爆笑だったよね。
畠中・中村 へぇ~!!
西川 そうやって作品が決まったら、あと2人必要になり。大人のキャストは光夫さんのほうで、あと1人はオーディションがいいんじゃないかなって、焼肉を食べながら決めました(笑)。なんか近場だけで組むのも面白くないねって。
──そうして仲間に加わったのが畠中さんと中村さん!畠中 僕に関しては、事の発端は駒田一からの一本のラインです。「光夫くんが、(ある作品に)出てほしいと言っている。あとはお前に振ったからな」とのメッセージと連絡先が送られてきました。そして僕のほうから「はじめまして」とコンタクトを取ったわけです。なにせそれまで(吉原さんは)会ったこともしゃべったこともない人だったので(笑)。
海宝・西川・中村 えーー!!そうなんだ。
畠中 そうそう。「一さんからこんな話をうかがいました。ぜひ詳しいお話を聞かせてください」と連絡したら、バカ丁寧な長~いメールが来て(笑)。すごく面白そうでしたし、こういう出会いは大切にしたいと思ったので、お引き受けすることにしました。そして、大正解でした!
淀みのない素晴らしい演出をされる方なので、やっていてすごく楽しい!(中村さんに)楽しいでしょ。
中村 はい!
海宝 いいお返事(笑)。
中村 僕はSNSでオーディションの情報を見つけて、応募しました。オーディションでは2編の戯曲を読んだのですが、『お月さま…』は30代の役。30代の役のオーディションを受けている自分…17歳と考えたら、ちょっと難しいかなと思ったのですが、まさかの展開でここにいます!毎日必死で頑張っています。
西川 現在、絶賛格闘中です。淀みのない演出を真っ向から受けてね。
畠中 ちょっとずつだけど階段を上がっている。すごくイイ経験をしていると思うよ。やりたいようにやればいいんだよ。
西川 そう。彼がメインで出る6つ目のセクションでは、彼が寂れた田舎町に残っている男、海宝くんが都会に出て戻ってくる男を演じます。町に居続けた男のもつピュアなところ、翼にしか出せないものがきっとあると思うよ。
中村 そうなれるように頑張ります。こうしていつも先輩方に教えていただく毎日です。
【『お月さま…』は深い人間ドラマがあるコメディ(中村)】
──とても充実した毎日ですね!では、ここからは作品について。6つの短編からなるとのことですが、みなさんはこの作品にどのような印象を抱きましたか。西川 光夫さんともよく話すのですが、「海外の戯曲ってむずかしいよね」というのがあるんです。翻訳のこともそうだし、僕らがジョンとか名乗ったり呼び合ったりすることも(笑)。あともうひとつ大きいのが価値観の違いからくる引っかかり。でも、『お月さま…』にはそれがなくて、日本人にフィットするんです。そして、2018年を描いている作品ではないけれど、2018年の僕らに通じる部分や、2018年にやる意味を感じました。
また、今回、池田朋子さんに新翻訳をお願いしたので、より一層2018年っぽくなっています。
海宝 僕は、このメンバーでやったら面白くなるなという感覚が真っ先に来ました。沙良ちゃんは今回が初舞台ですが、歌手である彼女が芝居をすることも含めて、面白くなるだろうなと直感的に。
西川 (作者の)シャンリィが詩人だということもあり、ちょっと歌詞っぽいところもあるんだよね。だから沙良ちゃんとの親和性も高い。
──あの歌の表現力を目の当たりにすると、お芝居にも期待してしまいます。西川 期待してください。光夫さんも驚いています。舞台に立つときはこうしてああして、手とり足とりって感じではなく。普通にディレクションして、それに応えていますから。
──すごく楽しみです!では、作品の印象に話を戻しますと。中村 6つの短編からなる作品ですが、何かがどこかで繋がっているなということを感じました。そして、コメディですが、あっけらかんとしたコメディというより、深い人間ドラマがあるコメディという印象です。
畠中 僕は、言葉の難しさと重要性をすごく感じました。ただペラペラとしゃべるのではなく、やっぱり言葉の意味、立てどころが肝心。自分の中できちんと落とし込まなくては表現できない本なんですよ。全ての言葉、それ自体に意味があり、同時に、次に渡すきっかけでもある。そこをみんなすごく上手に演じているんですよ。僕はちょこちょこっとしか出ないのですが、そういう使われ方って逆にとても楽しい。そこで空気を変えることができればいいなと思っています。これからさらに稽古をしてどう仕上がっていくのか楽しみです。あと、歌が素晴らしいんですよ。
西川 歌はすごく重要なんです。短編集なのですが、どこかで繋がっている。海宝くんが演じる全ての役に流れるものがあり、僕が演じる役にも何かが流れている。そして僕と海宝くんがすれ違うときには、何かが受け渡されるような感覚がある。そういうものを紡いでいくために音楽・歌があるんです。そこに調和するように、台詞も詩的な比喩が多いので、ただ発してしまうと変な感じ、例えば、僕はエンピツに固執した男だったり、海宝くんは人魚に会いたいとずっと言ってみたりね(笑)。
海宝 役に落とさないと、ただの変なヤツで終わってしまうよね。そして変な演劇になる。
畠中 台詞と真意のギャップという意味では、お客様に対してどこまで大嘘をつけるかってことにもなるんじゃないかな。
西川 そこにシャンリィの創意を感じます。現代に響くからこそ、比喩表現を使わないと生々しかったり、えぐかったり、鋭利すぎたりする。そこで「エンピツ」とか「人魚」とかにジャンプすることで、具体的なテーマをマイルドにしているように感じます。だから、本質的には、この作品は抽象的な話ではないんです。
【焦りは自分が引き受けて、役者に負わせない演出家(海宝)】
──お話をうかがっていると「このメンバーでやったら面白そう」の説得力がぐんぐん増します。続いては「演出家・吉原光夫さん」について語り合ってください。畠中 語って語って!(西川さんに、付き合い)長いんでしょ。
西川 長いですけど…(笑)。
光夫さんの演出はわかりやすいです。そして潔い。演出家によっては最初からプランがあって「こういう画を見たい」と提示する。それに対して役者が違和感を抱いてもそれを貫き通す。そういうタイプの方もいますが、光夫さんはブレたらブレたと言う。「ゴメン間違った、そっちじゃなかった」とか「ごめん、俺わからないんだけど、どう思う?」と投げかける。こういう小さい現場だからできるという部分もありますが、そこの潔さはすごいと思う。演出家として、それは勇気がいることなんですよね。(やや間を置いて)メチャメチャ尊敬しています。
ただ、付き合いが長いせいか、イライラを僕にぶつける率が高いんですよね…そこはどうにかしてほしいということも付け加えさせていただきます(笑)。
海宝 西川さんという存在のおかげで、僕らに対してはとてもやわらかく接してくれます(笑)。普段、役者同士として現場でご一緒するときのほうがピリッとしているかな。今はちょっと近づけないなというときがあるので(笑)。演出家のときは、先ほどから話題に出ている落とし込む作業に関しても決して役者を焦らせない。自分をコントロールしている気がします。そこにはもちろん光夫さんが役者であるということも働いていると思います。内心では焦っているところもあるのかもしれませんが、そこは自分が引き受けて、役者に負わせない。その感じってなかなかないんですよね。
畠中 不安を僕らに投げかけてくれるんですよ、わからないって。そんなときは、みんなで話し合うのですが、それを経て次に演出をつけるときに淀みがないんです。気持ちイイくらいに迷いがなく、言っていることも的確でわかりやすい。だからすごく信頼できる。素晴らしいですよ。それはやっぱり彼も役者をやってきて、いろんな演出を受けて、感じていた部分があっただろうと思うんです。だからオープンだけど、ある部分では演出家として、役者にこんな部分を見せてはいけないとかもあるだろうしね。
中村 僕にとっては優しい方です。後に続く人に伝えていきたいということで、本当に経験値も少なく芝居もダメダメな僕を拾ってくれて、「ここまで上がって来い」とずっと言ってくださっているような。それに応えたいのですが、僕はまだまだで。本当だったら、もうお前はだめだと諦められるところを、根気強く引っ張ってくれる。優しい方。
西川 演出家も諦めるのは簡単。「じゃあもう、ここから何歩歩いて、こっち向いてこのくらいの声量で、このタイミングで台詞を言って」そうやって進む現場もある。でも、ここではギリギリまでそれをやらないことを宣言して、光夫さんも手加減なく翼に向き合っている。それに対して食らいついているのは素晴らしいと思うよ。
畠中 素晴らしい経験になると思うよ。
中村 はい!頑張ります。
【役を深追いすると向こうが逃げていくような感覚(西川)】
──では、最後にこれから始まるお稽古に向けての意気込みを!西川 頭ではこういうことだと分かっているのに、そのままの言葉ではなく、(台詞として)ほかの言葉を言わなくてはいけない。それを感覚に落とし込む作業が続いています。考えすぎて、思考に陥ってしまうのもダメ。だけど全部手放すと本当に何でもないただの単語・音になってしまう。その距離感がすごく難しいんです。役を深追いすると向こうが逃げていくような感覚もある。今日もその距離感を探りながら、稽古をしていきたいと思っています。
中村 大貴さんみたいにすごいことは言えないのですが、(オーディションのときから)挑戦しようと思って飛び込みました。今日も挑戦します!
畠中 僕は結構俯瞰で見られる役どころなので、みんなの芝居に刺激を受けつつ、それをちゃんと拾って自分自身も役を掴んでいければと思います。とにかく楽しみます!
海宝 最後まで、とにかくチャレンジしていきます。商業演劇の現場では、早い段階からフィックスして、完成させていかなくてはならない。役者が落とし込めていようがいまいが、とにかく形にしていくことが優先されてしまうこともあります。この現場ではそれを求められることなく、それで作ってきた形が多少崩れても、相手との交流、そのときの感情のやりとりを何よりも大切にしています。しっかりと交流することを最後まで課題としてやっていきたいと思います。
──素敵なお話をありがとうございました!本番がますます楽しみになりました。 続いては、お稽古の様子をちょこっとレポート!
【お稽古見学】
この日はオープニングから海宝直人さんと宮澤エマさんがメインで登場する、10代のピュアな恋のシーンのお稽古が行われていました。
一連のシーンをまずは歌を確認、続いて動きも付けてなど何度か繰り返します。そこでの演出からも、この現場で大切にされていることがビシビシと伝わってきました。

吉原光夫さん
導入部の空気の作り方、役者たちが物語の中の人として生き始める瞬間などが理屈でなく感覚的に伝わります。また、キャラクターが発する言葉で景色が見えたり、街灯と月灯り光を感じたり、連なって動く、すれ違う…ムーブメントの妙など、イメージとリアリティのバランスが心地よく、イマジネーションを刺激します。藤本藍さんの音楽も素敵!
緊張や期待、精神的にも一瞬にして繋がったり、少し離れたり…舞台上でのやりとりがそこで起きたことへの生のリアクションなので、同じシーンを何度見ても新鮮に映るのです。密な空間で『お月さまへようこそ』の世界を感じる。贅沢なひとときになることでしょう。

やあ!
物語の展開は見てのお楽しみ!ですが、まぁ何というか、キュンキュンのやり取りにお客様のお顔デレデレ警報です(笑)。お二人のナチュラルさに、思わず口をついた「当て書きですか?」の言葉。ご観劇をお楽しみに~。

歌もいい!!
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影)