特別な誰かの話じゃない、これは私たちの物語♪
キャスト5人が紡ぐ、オリジナルミュージカル
『Indigo Tomato』(作・演出:小林香さん、音楽:堀倉彰さん)が博品館劇場で産声を上げました♪
オリジナル、小作品、ミュージカル……好きがいっぱい詰まった公演の様子をレポート。
前列左より)平間壮一さん、大山真志さん
後列左より)溝口琢矢さん、安藤聖さん、剣幸さん(Wキャスト)
物語は、サヴァン症候群で“共感覚”をもつ青年
タカシ(平間壮一さん)と弟
マモル(溝口琢矢さん)を軸に展開します。タカシは、数字や記憶に突出した能力をもち、コミュニケーションは苦手。もっと外の世界と関わるようにと言われているのだけれど、なかなか……。マモルがバイトをして兄弟の生活を支えている。
(共感覚:数字や音が色や質感などを伴ってとらえられる) そんなタカシは植物公園のカフェの新入り店員
あやちゃん(安藤聖さん)が作るトマトジュースが大好き!毎日10時01分にトマトジュースを美味しそうに飲むタカシに、あやも興味津々。思い切って聞いてみると、なぜってそれは
「好きだから」!
「そっかー、好きなんだ」と受け入れるあやちゃん、
イイ!色眼鏡で見ない人、
イイ! そんな公園に人気クイズ番組の司会者
ユーゴ・オブライエン(大山真志さん)が脳科学者の
高野先生(剣幸さん、彩吹真央さんのWキャスト)を伴ってやってきて、タカシは才能を見いだされクイズ番組への出演を持ちかけられる。最初は拒むタカシだが……。
そこから先は観てのお楽しみ♪ もちろん描かれるのは“楽しい”だけではありません、それでも観てのお楽しみ♪なのです。デリケートな問題も、とても真摯に向き合っている。そんな作品の生みの親、
作・演出は小林香さん(シアタークリエ10周年記念公演『TENTH』総合演出、『ミュージカル『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』訳詞・演出など
おけぴ関連レポ)。
小林さんによって、あて書で書かれたキャラクター一人ひとりが本当に愛おしい。そして、俳優さんたちが脚本に書かれたキャラクターをそこに生きる“人間”として立ち上げています。
タカシという青年は、平間さんだからこそ“あのタカシ”になり、マモルも溝口さんだからこそ、あやもユーゴも、いくつもの役を演じ分ける剣さん、彩吹さんも、それぞれの魅力で役を生きています。そうやってキャラクターと俳優が二人三脚でたどり着いたからこその“力”。さらにその人々が出会い、互いに影響を与えあう。そのキラメキが美しい!
平間さんはダンスの名手という印象が強かったのですが、役を身体に落とし込み、その人として生きる、表現の名手なのですね。タカシの世界、そこで心が解き放たれた歌声の確かさ、現実世界での居心地の悪そうな声や動き、そのすべてがリアル。
溝口さんは背負ってきたものの大きさを感じさせるマモルです。そのスマートな容姿からは想像できないくらいの骨太な芝居と歌に、マモルに幸あれ!という感情が自然にわき上がりました。マモル役を離れたとき、終盤の「お前は無理」と襲い掛かる動きの圧、満面の笑みで歌い踊る軽やかさ……いろんな魅力を見せてくれます。
安藤さんのあやは本当にステキ。タカシが出会う外の世界の人であるとともに、タカシが自分の世界へ招き入れる人でもある。そんな特別な人。“共有”することの美しさがそこにありました。ナインナイン♪あのシーン大好き!!歌います!踊ります!最高にミュージカルですね~!
ユーゴ・オブライエンの大山さんはトランプのカードの4つの振りが最高(ってそれだけではないのですが・笑)。随所でタカシに生理的に嫌われる(失礼)ところのリアクションも何とも言えずイイ!ドンマイッ!どこか憎めないユーゴなのです。ほかにも道行く人などさまざまな役で登場しますが、正直、どう見ても“ユーゴ役の人”なんですよね(笑)。でも、それも含めて微笑ましい。客席との共犯関係を成立させる、それも小作品の魅力です。
剣さんと彩吹さんのダブルキャストとなる高野先生ほか…は、まず物理的にも大変!!2時間ノンストップの中で、くるくると変わるキャラクター。さらにはアンサンブルのようなところも担い、数字も図形も絵も描く!
さらに演じる5つの役、すべてが個性的で象徴的。なんて言うか……剣さん・彩吹さんという存在自体がキーパーソンなのです。役どころの詳細は控えますが、どの役も際立って見えるのは、おふたりの人間力の大きさなのだろうな~。そんなことを思いました。ローズさんの強さに共感!
最初、サヴァン症候群の青年の物語と聞いたときは、“特別な誰かの話”なのかなと思いました。でも、観劇後に心に残ったのは、日々、なにか抱えながらも頑張っている
(自分で言ってしまいました・笑)私たちの話なのだということ。日本のオリジナルミュージカルの底力、恐るべし!思わず口ずさんでいる楽曲(クラーキーさんこと、堀倉彰さん)の心への浸透力も、舞台美術や照明の状況説明を超えた、物語世界の可視化という効果。それぞれのピースがカチッとハマった優しさあふれる作品をお見逃しなく。東京公演は5月30日まで、大阪公演は6月9日、10日にサンケイホールブリーゼにて!
10時01分、今日もタカシはトマトジュースを飲んでいるのかなぁ~。
舞台写真提供:atlas
おけぴ取材班:chiaki(取材・文) 監修:おけぴ管理人