新国立劇場『夢の裂け目』稽古場レポート

 2001年に井上ひさしさんが新国立劇場に書き下ろした『夢の裂け目』。後に続く『夢の泪』(2003年)、『夢の痂』(2006年)と、市井の人々と東京裁判、戦争の真実について問う「東京裁判三部作」の先駆けとなった作品です。

 2001年、2010年と上演されてきた本作、今年はキャストもほぼ一新して登場。むずかしいことをやさしく…井上流重喜劇はやっぱり“深くておもしろい”。その秘密に迫る?!稽古場レポートスタートです。



天声こと、田中留吉役は段田安則さん

 舞台は終戦の翌年の東京・根津。紙芝居屋の親方、田中天声に起こったある出来事から見えてくる東京裁判の重大なカラクリとは。戦争責任、東京裁判というと重苦しさに包まれ、ずっと眉間にしわが寄ってしまうように思われるかもしれませんが、そこは井上ひさし作!愛おしい登場人物の言動は軽やかで、クスクス笑ってしまいます。

 その中でも、今、生きている私たちの心にグサグサ刺さり、背筋が凍るような闇が見える瞬間も。物語の真髄は、ご観劇していただき味わっていただくとして!本レポートでは、井上芝居の作り方、その魅力に迫ってみようと思います。
 
 

【言葉の裏側を作る、俳優の仕事】


 昭和21年東京、根津の紙芝居貸元「民主天声会」。そこに暮らすのは、明るく、一部ちょっと粗野なところもあるけれど気のいい人々。



道子(唯月ふうかさん)

 空襲のせいもありのびのびになっていた都立第一高女の卒業式を終えたばかりの道子。
 「今日、卒業式がありました」その言葉一つをとってみても、「(卒業なんて)夢にも思わなかった」「でも、あの子も、この子も亡くなった」……そこから伝わる“戦争”の記憶。
 また、紙芝居屋へやってきた復員兵の三郎の「東京に帰ってみると……」。ジャワ島から引き揚げてきて、まず、上陸したのが広島、そして故郷東京へ帰ってきたという記憶。

栗山さんからは
「みんな現代の肉体、それはどうしようもないこと。でも、それぞれの言葉の裏側を作らないと。○○くんも、××ちゃんも、みんな知っている子たちが亡くなった。戦地から帰ってきた、どんな傷を追ったのか、ヒロシマでどんな光景を見たのか。それが言葉にどう反映するのか。ただ暗くなるのではなく、生々しくリアルに。考えることで音は必ず変わる、それを見つけるのが俳優の仕事」



こちらは民主天声会にやってきた謎の闇ブローカー成田耕吉(上山竜治さん)
「日常会話ではないからね。常に周囲を警戒し、お金を受け取ったら身を隠して」(栗山さん)その人物が抱えている状況をとらえていくことが作品をリアルにしていくのです。

 

【井上戯曲の固有名詞】


「たとえば『民主天声会』、これは井上さんの創作。ついこの間までは『愛国』だったものが終戦を機にがらりと変わり『民主』に。その変わり身の異常な早さがある。井上さんは固有名詞にものすごく神経を使っている。それは日本語への愛情の深さ。冒頭の『ところは東京鳥越(と・と・と)』、単なる言葉遊びだけでなく、日本語の面白さをフルに使っている。さらっとやったらもったいない!特に一場にはそんな面白さがたくさん隠れている」(栗山さん)

 そんな民主天声会の人々は……。



紙芝居屋の親方・天声の亡き妻の父で紙芝居の絵描き清風先生(木場勝己さん)と天声の娘の道子(唯月ふうかさん)


元映写技師で今は紙芝居屋の一員の孝(佐藤誓さん)、天声の妹で元柳橋芸者の君子(吉沢梨絵さん)、紙芝居大好きな復員兵の三郎(玉置玲央さん)

 血のつながりがあったりなかったり、肩寄せあって暮らす疑似家族のような天声一家!

「日本の芸能の歴史、紙芝居屋というのは、ある種、闇の集団ですから(笑)。組織を大きくするために、仲間に引き入れる。♪紙芝居ソングでは、そんな力も感じさせてほしい。そしてその勢いに飲まれて三郎も思わず……。そして一度入ったら、一丁上がり!とばかりに無責任なほどに口先だけで歌う。カラーの画面がさーっと白黒になるような(笑)」(栗山さん)

 その力の満ち引きのようなものが凝縮されたのがこちら!



にこやかに近づき勧誘。 紙芝居は……!このポップなメロディが頭から離れない♪


ついに自ら歌いだす三郎!
笑顔の天声(段田さん)に潜む凄みにゾゾッ。


君子(吉沢梨絵さん)の芸者仲間だった妙子(高田聖子さん)もやってきて……。
そうなると始まる優しい勧誘タイム♪


【理想と現実】


 「だけど」や「でも」で、状況がくるりと裏返る展開も井上作品の魅力。
 そして、民主天声会の日常に突然“裁判”がやって来る……。



威勢はいいけれど小心者の天声


GHQ国際検事局に呼び出された天声。そこで待っていたのは民間検事局勤務の川口ミドリ(保坂知寿さん) 讃美歌のような荘厳な歌声は、それまでの軽快さとは真逆!


堅物なミドリと庶民派な天声。そのやり取りのギャップが笑いを生むのです。
緊張感漂う場面でもユーモアたっぷり!


 また、本作でたくさん登場する歌の中にブレヒトの『三文オペラ』のマック・ザ・ナイフがあります。その異化効果についても栗山さんから解説が、「歌っている内容……そうじゃないだろ!反発を呼び覚ますような効果を生むために、歌に入るときは気持ちを入れ替えて!」

そんな歌のシーンをいくつかご紹介!



しゃべる男の半生を歌い踊ってご紹介♪


井手茂太さんの振付も楽しい!



君子と妙子の元芸者コンビのレビューのような多彩な魅力あふれるシーンもお楽しみに♪


【真摯に向き合う】



栗山さんを囲んでのダメ出しタイム




「はい!」一生懸命にメモを取りながら真っ直ぐに役に向き合う!


栗山さんの遊び心に思わず笑みも!


 歌もいっぱい、台詞もいっぱい、メッセージもお楽しみもいっぱい詰まっています!
 世の中の仕組み、この国の仕組みから、劇場とは……というところまで、井上ひさしさんが新国立劇場に、私たちに遺した素晴らしい作品。開場20周年の年に上演されることの意味も考えさせられます!

 公演は6月4日から新国立劇場小劇場にて!

【公演情報】
新国立劇場『夢の裂け目』
2018年6月4日(月)~24日(日)@新国立劇場 小劇場
2018年6月27日(水)18:30、6月28日(木)13:00@兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

<スタッフ>
作:井上ひさし
演出:栗山民也
音楽:クルト・ヴァイル、宇野誠一郎
音楽監督:久米大作
美術:石井強司
照明:服部 基
音響:黒野 尚
衣裳:前田文子
ヘアメイク:佐藤裕子
振付:井手茂太
演出助手:北 則昭
舞台監督:加藤 高

<キャスト>
段田安則 唯月ふうか 保坂知寿 木場勝己
高田聖子 吉沢梨絵 上山竜治 玉置玲央 佐藤 誓

<ものがたり>
昭和21年6月から7月にかけて、奇跡的に焼け残った街、東京・根津の紙芝居屋の親方、天声こと田中留吉に起こった、滑稽で恐ろしい出来事。ある日突然GHQから東京裁判に検察側の証人として出廷を命じられた天声は、民間検事局勤務の川口ミドリから口述書をとられ震えあがる。家中の者を総動員して「極東国際軍事法廷証人心得」を脚本がわりに予行演習が始まる。そのうち熱が入り、家の中が天声や周囲の人間の〈国民としての戦争犯罪を裁く家庭法廷〉といった様相を呈し始める。そして出廷の日。東条英機らの前で大過なく証言を済ませた天声は、東京裁判の持つ構造に重大なカラクリがあることを発見するのだが......。

公演HPはこちら

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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