日本で産声をあげたミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイの歴史ロマン大作が、世界各地での上演を経て、2018年秋に日本再上陸を果たします!新演出版『マリー・アントワネット』にフェルセン伯爵役でご出演の田代万里生さんにお話をうかがいました。本格始動前ということでしたが、そこは田代さん!さまざまな興味深いお話を聞かせてくださいました。
遠藤周作の「王妃マリー・アントワネット」を原作とした本作では、マリー・アントワネットと、貧しい庶民の娘マルグリット・アルノー、フランス革命の時代を生きたふたりの“MA”の運命の交錯をベースに、王妃マリーとフェルセンの悲恋が美しくロマンティックに紡がれます。
【『マリー・アントワネット』という作品、フェルセンという役について】
──まず、本作の時代背景は“フランス革命”。意外にもフランス革命の時代を描いた作品へのご出演は初めてとのこと。 ようやくフランス革命作品に初めて挑戦させて頂きます!
ただ、フランス王妃マリー・アントワネットも、もとはハプスブルク家の人間です。ミュージカル『エリザベート』でフランツ・ヨーゼフ役を務めたこともあり、2016年にウィーンへ行き、ハプスブルク家の歴史をたどる旅をしましたが、そのときの経験がどこかで活きてくると思います。
旅のなかで、ホーフブルク宮殿やシェーンブルン宮殿など、自然とマリー・アントワネットやマリーの母にしてエリザベートも敬愛した女帝マリア・テレジアにゆかりのある場所も巡っていました。そのときの感覚は、役に立つだろうと。
田代さんブログ“MARIO CAPRICCIO” フランツ・ヨーゼフ紀行──では、フェルセン役に決まったときは、「あのフェルセン!キタ!」という感じでしたか。 それが、その時点ではほとんど知識がなくて、今回はどんな役だろう?って(笑)。僕、「ベルサイユのばら」も全ては読んだことがなかったので、まずは今回のミュージカルの原作である遠藤周作さんの『王妃マリー・アントワネット』や、歴史的名著であるツヴァイク著の『マリー・アントワネット』、フランス革命の歴史書、ベルばらを全巻読んで、日本初演のパンフレットやライブ盤のCDを聴いて勉強を始めた。そんなスタートでした。
田代さんブログには「フェル“セ”ン」と「フェル“ゼ”ン」の違いなどについてもわかりやすい解説が! ──現時点でフェルセンという人物をどうとらえていますか。 一途すぎますよね……。一般的には王妃マリーの愛人と言われますが、いわゆる昼ドラ的な「愛人」とは違います。宮廷貴族、時代背景を考えると、現代の僕らの感覚だけでは推し量れないものがあるでしょう。命をかけて、愛する人とその家族が生き延びるために奔走する。それは彼なりの純愛の貫き方だっただろうと。
韓国版の舞台映像を観て印象的だったのは、マリーがフェルセンにキスをしようとするのですが、視線を感じて一瞬のためらいがあり、それに気づいたフェルセンはマリーの手に優しくキスをするというシーン。それが(この作品での)フェルセンをよく表している気がします。演出家のロバート(・ヨハンソン)がおっしゃっていましたが、2人は最後まで、あくまでプラトニックな関係だったという解釈です。
ドラマティックな人物ゆえ、当時のものでも根拠のない噂レベルの誹謗中傷資料があり、数多くある文献・小説では、それぞれ異なる描かれ方をしています。まずはロバートの演出と今回の上演台本に描かれた人物像に誠実に向き合って、役を作っていこうと思います。
──フェルセンの楽曲についてはいかがでしょうか。マリーとのデュエット「All I Do(あなたに続く道)」など、とても素敵な曲です。 スコアを見ると、フェルセンの楽曲は高音のロングトーンもありますが、中低音も多いように感じます。「All I Do」も、フランツより低いところもあります。後半はそこから中高音に上がるのですが。ほかの曲も含めた楽曲全体からは、落ち着いていて、大きく包み込むような愛をもった人物という印象を受けます。
「All I Do」も初演時とは歌いだしが逆になっていたり、一部の歌詞が変わっていたりします。また、新曲も大幅に追加されているので楽しみにしていてください。
──作品全体を通して、初演よりフェルセンの存在が色濃く描かれているようです。 幕開きからフェルセンが過去を振り返るように歌います。新脚本的には、この作品はフェルセンの回想録と言っても過言ではありません。こんなにたくさん歌わせていただけるんだと、それは素直にうれしいですね。フランツのときは単独曲もなかったのですが、今度はありますし!
──私たちもうれしいです! もちろん歌だけなく、フェルセンはお芝居のシーンもたくさんあります。台詞芝居も同じくしっかりと大切に演じていきたいと思います。
──歌と芝居、これまでのキャリアの集大成になりそうですね。【共演者のみなさんについて】
──続いては、ご共演のみなさんについて。組み合わせの妙も味わえるダブルキャストも楽しみのひとつです。まずは、マリー・アントワネット役のおふたりから。 花總まりさんは、宝塚でも、退団後の『1789-バスティーユの恋人たち-』(2016年)でも、マリー・アントワネットを演じられています。『エリザベート』公演時に、井上芳雄さんが「花總さんは“日本エリザベート協会の会長”」とおっしゃっていましたが、おそらく“日本マリー・アントワネット協会”でも会長さんですよね(笑)。
花總さんは不思議な魅力の女優さんです。背中を見てついて行きたくなるタイプやぐいぐい手を引っ張ってくれるタイプ、先輩にはいろんなタイプの方がいらっしゃいますが、花總さんが演じている役柄と見つめ合うだけで、僕はもう自然とその世界に存在することが出来るんです。
ということをもう一人のマリーの玲奈ちゃんに話したら、「プレッシャーになるから、やめて~!」と言われました(笑)。玲奈ちゃんもまた違った素敵な魅力があり、僕の中からそれぞれ違うフェルセンが生まれるかもしれません。
──笹本さんと田代さんは、マリーとフェルセン同様に同年代。 そうなんですよ。ただし、キャリアは10年以上違う大先輩!玲奈ちゃんは20周年で、僕はまだ9周年ですから、僕の中では大女優様(笑)。
初めて共演したのは『ウーマン・イン・ホワイト』の再演、僕はデビューから3作品目で、まだ何もわからない頃でした。玲奈ちゃんは、その作品を数年前に一度経験され、実年齢よりずっと上の40代前後の役を演じて読売演劇大賞優秀女優賞と杉村春子賞を受賞されました。その再演ですから、それはもう貫禄十分なところで初共演でした(笑)。最近はプライベートでも母になり、今年『ジキル&ハイド』で、久しぶりにご一緒しました。20代のころとはまた違う魅力をルーシー役で放っていたので、この作品でまた共演できることが楽しみです。
きっと、どちらのマリーもすごいことになりますよ!これ以上ないおふたりなので、しっかりとフェルセン役を務めたいと思います。
──ダブルキャストでフェルセンを演じるのは古川雄大さんです。 古川くんとは、『エリザベート』でルドルフとフランツ、父子として共演。地方公演では楽屋が2人部屋で一緒に過ごす時間も長かったですが、舞台上では対立しつつ、楽屋では和やかでマイペースなふたりでした。
──印象的なエピソードなどはありますか。 ある日楽屋で、古川くんがモーツァルトの管弦楽やピアノ曲の動画サイトを熱心に見ていたんです。そして「今からピアノを習ったらどれくらい弾けるようになりますか?」などと相談されたり、「見てくださいこれカッコイイんですよ!」と、中国人の人気女性ピアニスト、ユジャ・ワンが弾く、ファジル・サイのアレンジを元にしたトルコ行進曲のジャズ・バージョン
(検索キーワード例:Yuja Wang Turkish march)の動画を見せてくれたり。僕もそのアレンジは元々大好きでスコアを持っていたので、翌日その楽譜をプレゼントしました。
今年、そんな古川くんが主演した『モーツァルト!』を観劇させていただきましたが、本当に素晴らしかったです。座長として作品を背負う、その経験を経た古川くんから学ぶこともたくさんあると思います。一緒に切磋琢磨し合えることが楽しみです。
──歩んできた道も違うおふたりのダブルキャスト、タイプの違うフェルセンになりそうです。 古川くんは稽古場でも楽屋でも、常に予習復習、身体のケアも含めてとても真面目。そういう誠実なところがフェルセンにすごく合っていると思います。
ふたりで役を作っていくところもあると思いますが、出てくる色は絶対的に違うものになると思うので、それぞれのフェルセンをご覧いただければと思います!
──もうひとりのMA、マルグリットはソニンさんと昆夏美さんです。 マリーとマルグリットは表と裏。最初は対立していたところから、最後にマルグリットは……。民衆を体現化したようなマルグリットという存在については、これからもたくさんのことを考えさせられると思います。
この作品の肝となるマルグリットを演じるソニンさんは『スウィーニー・トッド』(2011年)以来なので、本当に久しぶり。昆さんはミュージカル作品では初共演です。
──昆さんとは初共演!ちょっと意外です。 コンサートではご一緒したことがあるんですけどね。昆さんと最初に会ったのは、だいぶ前のことになりますが、個人的に数日間受けていた芝居のワークショップ。ミュージカル俳優はほとんどいないなかで、「ジュリエットの人だ!」と思ったことを覚えています。そこで課題となるシーン、役がいくつかあったのですが、立候補制で配役が決まっていったんです。僕の役が決まり、相手役をやりたい人は……となったとき、昆さんだけが真っ先に手を挙げてくれたんです!それがとても印象的です(笑)。
──微笑ましいエピソードですね!続いては、単なる恋敵とはまたちょっと違いますが、マリーの夫、ルイ16世は佐藤隆紀さんと原田優一さんです。 後半はルイとフェルセンだけが同じ旋律を歌うようなところもあるようなので楽しみです。
原田さんは実は初めて。まさかの24年前にレミゼのガブローシュを演じてフランス革命のその後の時代を経験されていらっしゃいますし、玲奈ちゃんと同じように、同世代ながら大先輩です。シュガー(佐藤さん)とは、まだ“ミュージカルの舞台上”では共演はしていないので、ふたりとも初共演ですね!
──佐藤さんとは同じフランツ役でしたからね! 一緒に地方公演も初めてなので、『マリー・アントワネット』開幕の博多では、シュガーと一緒にご飯を食べに行ったりできるかなと、そんなことも楽しみにしています。
──こうしてダブルキャストのみなさんの印象をうかがうだけでも、ミュージカル界をけん引する多彩な顔ぶれが揃うことがわかります。 吉原光夫さんをはじめとする先輩方が引っ張ってくださるなかで、作品の核になるところを、若手ベテランを問わず全員がしっかりと担っていく。そんな稽古場になると思います。今から、一丸となって頑張るぞ!という意気込みです。
──では、最後に、公演を楽しみにされているみなさまへのメッセージを。 12年前にご覧になっている方もたくさんいらっしゃると思いますが、新演出、新曲、セットも登場人物もリニューアル。韓国版も手掛けられた生澤美子さんによる衣裳もさらにバージョンアップとのこと!
また、演出のロバート・ヨハンソン氏にとって日本デビュー作となります。韓国の『エリザベート』の演出家でもあり、そちらは僕も生で観ていますが、日本の小池修一郎さんバージョンとは、また違う解釈や役作りをされていると感じました。我々キャストとヨハンソン氏の感性で作る新しい『マリー・アントワネット』が、決定版として、今後、長く愛されるミュージカルになるように全力で挑みます。2018-2019年の公演にどうぞご期待ください。
──新しく生まれ変わる『マリー・アントワネット』がますます楽しみになりました!ありがとうございました。【こぼれ話~MAとの出会い~】
本作初演時、12年前は、まだデビュー前。その頃はミュージカルと無縁だった田代さんは当時の様子を知る由もなく……。
「あるとき『MA』というミュージカルの存在を知ったのですが、僕の中ではミュージカル『ま!』って何だろう?って(笑)。今では笑い話です」 おけぴ観劇会のダブルキャスト組み合わせはマリー・アントワネット:
笹本玲奈さん、マルグリット・アルノー:
昆 夏美さん、フェルセン伯爵:
田代万里生さん、ルイ16世:
佐藤隆紀さんです♪ 観劇会詳細は
こちらのページをご覧ください!
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影)