9月14日に博多座で開幕し、10月11月は帝国劇場、その後、12月に御園座、2019年1月梅田芸術劇場まで上演される大作ミュージカル『マリー・アントワネット』の製作発表会見、歌唱披露が行われました。
もはや説明不要なほどの名コンビ、ミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)&シルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)が生み出したミュージカル『マリー・アントワネット』は、遠藤周作の「王妃マリー・アントワネット」を原作に、フランス王妃マリー・アントワネットと貧しい娘マルグリット・アルノー、ふたりのM・Aの運命の交錯を描く歴史ロマン作品。世界各地での上演を経て日本再上陸を果たす新演出版(ロバート・ヨハンソン演出)では、マリーとフェルセン伯爵の悲恋、オルレアン公の野望なども色濃く描き出し、より一層ドラマティックな仕上がりになっているようです!
まずは本作プロデューサーによる主要キャストのご紹介と皆さんのご挨拶、役への思いをどうぞ。
【マリー・アントワネット役 花總まりさん】
岡本プロデューサー)
『エリザベート』、『レディ・ベス』……そして『マリー・アントワネット』、東宝ミュージカルの王妃シリーズのタイトルロールを演じ続けている方です。実は、12年前の初演に向けて企画を立ち上げたとき、イメージキャストとしてお名前が挙がったのが、当時、宝塚歌劇団在団中の花總まりさんでした。こうして、今ここにマリー・アントワネットとして座っていただいていることは、感無量です。花總まりさん) 初演時に名前を挙げていただいたとのこと、こうして新演出版でも、この役を与えてくださったことを光栄に思っております。身の引き締まる思いです。
フェルセンが歌うナンバーに、『なぜ神は彼女にすべてを与え、最期に地獄を見せたのか』という歌詞があります。その歌詞が耳から離れません。とても考えさせられます。マリーは、その人生、(公演では凝縮された)3時間という時間のなかで、ひとりの女性として、母親として、フランス王妃として成長を遂げていく、前向きな女性です。彼女が変化していく様(さま)を追求していきたいと思います。その姿から皆様が何かを感じてくださったらうれしく思います。
【マリー・アントワネット役 笹本玲奈さん】
岡本プロデューサー)
笹本玲奈さんは本作初演で、もうひとりのM・A、マルグリット・アルノーを演じました。10数年を経て、マルグリットを演じた女優が、今度はマリー・アントワネットを演じることにドラマと大きな喜びを感じています。笹本玲奈さん) マリー・アントワネット役で、この作品に戻ってくることができたことをうれしく思います。私は、小さい頃から『いつか帝国劇場で大きなドレスを着てお芝居をしたい』と夢見ていました。憧れのドレスを着て、しっかりとマリー・アントワネットとして(舞台上で)生きます。
マリーを演じる上で大切にしたいのは、彼女が14歳でフランスに嫁ぎ、ギロチン台で命を落とすまで、決して捨てなかった“誇り高さ”。また、彼女が4人の子供たちを自らの手で育てたということから芯の強さを感じます。乳母の手で育てられることが主流だった当時の王族、ベルサイユ宮殿のしきたりのなかで、そこに囚われない自分らしい生き方を模索してきた女性。人間味あふれるマリーにしたいと思います。
【マルグリット・アルノー役 ソニンさん】
岡本プロデューサー)
ソニンさんは、この春に上演されたミュージカル『1789』でも革命に身を投じ、人々を先導するソレーヌを演じられました。どこか共通点のある役に再びキャスティングされる、そのプロデューサー心理をご説明すると、歌の力強さはもちろん、行動力のある女性となるとソニンさんになるのです。ソニンさん) マルグリットは本作中で唯一の架空の人物。だからこそ、この作品が持つメッセージを現代のみなさんに伝える役割を持つと考えています。稽古場では心が病みそうになりながら、なんとか負けないように闘っています。そこがマルグリット(の闘い)と重なります。カンパニーのみなさんと力を合わせて、来年1月まで、上質な作品をお届けしたいと思います。
マリー・アントワネットとマルグリット・アルノー、フランス王妃とストリートガールですので、対照的というのはもちろんそう。でも、それ以上に違うのは、マリーはベルサイユ宮殿という、とても小さな世界でしかものを見てきていない。それに対して、マルグリットは、その目でたくさんのものを見てきた。“目”で勝負したいと思います(笑)。
【マルグリット・アルノー役 昆夏美さん】
岡本プロデューサー)
かつてシアタークリエのコンサートで本作の楽曲「100万のキャンドル」を歌う昆夏美さんを観たときから、いつか本公演でもと思っていました。ようやく実現しました。昆夏美さん) 12年ぶりの上演を心待ちにされていたたくさんの方がいらっしゃると思いますが、私もその一人です。そして今回は、自分が出演!驚きと感謝をしながらお稽古しています。
マルグリットを象徴する言葉は「正義」。劇中、彼女自身、その言葉を何度か発します。正義とは何か、それはこの作品のテーマの1つでもあります。彼女は信念をもち突き進んでいくなかで、さまざまな人と接していくことで気づき、葛藤する。物語の最初と最後では、大きく変化する役です。ダイナミックさと繊細さ、そこをしっかりと構築しなくてはならない、まだまだもがいて肉付けしていきたい。
【フェルセン伯爵役 田代万里生さん】
岡本プロデューサー)
フェルセン役に必要な、貴公子然とした雰囲気と知性を感じさせる役者として田代万里生さんをキャスティングしました。万里生くんは普段、話をしているだけでも育ちの良さを感じる青年、さらにみなさんご存知の通り音楽学校出身で歌唱力に定評のある役者です。 田代万里生さん) 12年前の初演からは、楽曲・脚本がだいぶ変わっています。先日、初演時にフェルセンを演じていた井上芳雄さんが稽古を見学されましたが、「ほとんど知らない曲だった…」と感想をおっしゃっていました。それほど新鮮な作品となっています。
史実に基づいて描かれているところもありますが、ただの歴史大河ミュージカルではなく、フィナーレでは、現代にこそ伝えたいメッセージが浮き彫りになる脚本・演出になっています。稽古場で、6人の子役たちが涙をこらえることができないということがありました。おそらく、フランス革命、政治的な思惑など、そのすべては理解していないはずなのに、何かを感じとってくれた。作品がしっかりと育っていることを実感しました。
フェルセンは時代の先を読みマリーを救い、支えていく。どうしても愛人という言葉になりますが、昼ドラ的なものとは違います。ときには度を超えた兄妹のような……、もしかしたらプラトニックなものかもしれないと演出のヨハンソンさんも仰っています。スウェーデンからやってきた貴族・軍人という立場をわきまえ、抑制をきかせながら、マリーとフェルセンの繋がりを表現したいと思います。ほかにもマルグリットやオルレアンとの数少ないコンタクトも大切に演じたいと思います」
【フェルセン伯爵役 古川雄大さん】
岡本プロデューサー)
もうひとりのフェルセンは古川雄大さん。歌唱力にシビアなリーヴァイさんのオーディションをパスし臨んだ、ミュージカル『モーツァルト!』ヴォルフガング役も、初日から大千穐楽まで、常に上昇のベクトルを描きました。また、毎公演後、必ず自分の出演場面をチェックする、演技オタクな一面も持っています。古川雄大さん) この衣裳を着て控室にいたら、光夫さんに『君だけ(「花より男子」の)道明寺みたいだね』と言われました。しかしながら(僕が今回)演じるのはフェルセン伯爵です。正直、僕も万里生さんの衣裳を見てあまりの違いにびっくりしましたが……。今日の衣裳のように、タイプの違うフェルセンを演じていきたいと思います。
フェルセンはマリーの愛人。でも、この作品では、恋愛しようという思いより、彼女を守ろう、救い出そうという思いを強く抱いて登場します。そして、彼女と接するときは常に自分の中でブレーキをかけているのですが、彼女を目の前にすると、そのブレーキがいつの間にか外れてしまう……。彼女といるときもいないときも葛藤している人物。そこから醸し出される“憂い”を自分のテーマとしています。
【オルレアン公役 吉原光夫さん】
岡本プロデューサー)
『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンでありジャベールである吉原光夫さん。「彼が舞台に出てくると演劇が始まる」そう感じさせる俳優です。そして、私は背後に青白い炎が見えるような彼のジャベールが大好きです。ソウルで本作を見ていたら、自然と光夫くんのオルレアンを思い描いていました。吉原光夫さん) 本当はフェルセンをやりたかったのですが、稽古を見ていてやはりオルレアン公がしっくりきているなと……(笑)。
僕は遠藤周作さんのファン。正直、新演出版は原作のテイストをやや飛び超えた構成になっています。さみしい気持ちもありますが、今上演するなら、そのほうが合うと感じています。マリー・アントワネットは、この世の中で初めてメディア(当時は新聞、現在はSNS)で中傷され、嘘偽りのなかで殺されていった人間。それは現代にも通じる社会の暗い部分です。それでもアイデンティティを持って生きたマリー。最期は斬首されますが、稽古場でおふたりのマリーを見ていると、そこでは切なさよりも、芯の通った、生きるに値した力強さを感じます。
オルレアン、彼もまた野心を持ち、何かを目指した男。自分が観る立場だったら、舞台上で、最初から、ただ“悪”が“悪”として見えていたら面白くない。“悪”の部分よりも、どうして彼がそれをやろうしたのか、彼はどんな視点で世の中を見ていたのかというバックグラウンドを見せたいと思います。簡単なことではないけれど、王族を倒そうとする民衆の生きるエネルギーとともに、オルレアンの野心も二重のエネルギーとして客席に放出することができれば、それを見た天にいる(と思う・笑)オルレアンも頷いてくれるんじゃないかな」
岡本プロデューサー)
ほかにも佐藤隆紀さん、原田優一さん、駒田一さん、彩吹真央さんはじめ、多彩な俳優たちが揃いました。プロデューサーとしては渾身のキャスティング。どうぞ楽しみにしていてください。続いて、歌唱披露の様子をレポート!
♪100万のキャンドル(昆さん+アンサンブルのみなさん)~祈りにも似た響きをもつ人気の楽曲~ 世の中、王族への問いかけを切々と歌い始め、やがて、あたかも眼の前に100万のキャンドルがあるかのような崇高な時間が流れました。「正義」がキーワードとなるマルグリットの成長と変化を見届けたい!そんな気持ちになりました。
♪遠い稲妻(田代万里生さん)~フェルセンがマリー・アントワネットに現実を見るよう諭す新曲~ 会見では終始、微笑みの貴公子だった田代さんのフェルセンが歌唱披露で見せたのは「強さ」。愛するがゆえの厳しさ、軍人としての冷静なものの見方が集約されているような楽曲です。
♪私こそがふさわしい(吉原光夫さん)~王になることへ執着したオルレアンのエネルギッシュな楽曲~ エネルギッシュ、かつ、孤独を感じさせるオルレアン。ただの悪じゃない、その時代を生きた男の生きざまには色気が漂うだろう、そんな予感を抱かせる歌唱披露でした。シャウトカッコいい!!
♪孤独のドレス(笹本玲奈さん)~フェルセンと言い争いをしたあとに歌うという新曲、王妃であるがゆえに結ばれることのない二人……~ピアノ演奏はシルヴェスター・リーヴァイさん
一曲の中に大きなドラマのあるビッグナンバーの誕生です。この曲が内包するマリーの心情は図りしれず、それがリーヴァイさんが紡ぎ出すメロディに乗せられて会場がマリーの世界に!
♪もう許さない(ソニンさん)~初演時は心の声というタイトルで人気を博した楽曲、新タイトル通り、怒りを集約した力強い楽曲~ 写真からも、溢れんばかりの怒りのエネルギーは伝わることでしょう。民衆を力強く導くようなソニンさんの歌唱。感情が爆発!「心の声」の熱狂が忘れられない皆様も、また一味違う高揚感が生まれるシーンへ期待してください。
♪あなたへ続く道(花總まりさん&古川雄大さん)~マリーとフェルセンのデュエット曲~ 王妃の気品と恋するときめき、そして貴公子の憂いの絶妙コラボレーション!!寄せては返す波のようなメロディに乗って、会場はとてもロマンティックな空気に包まれました。そして、お二人の手と手が、触れそうで触れない……ドキドキ、キュンキュンしてしまいました。
男性アンサンブルキャストより)小原和彦さん、中西勝之さん、榎本成志さん、杉山有大さん
女性アンサンブルキャストより)真記子さん、今込楓さん、遠山さやかさん
なぜフランス革命モノが人気?との問いに、それぞれとても興味深い回答が!
花總さん)
市民の思い、王族たちの思い、それが大きな時代の流れのなかであまりにも複雑に絡み合って革命が起きた。その絡み合った思いの“何か”が、観客の皆様の心を揺さぶるのではないでしょうか。そして、その“何か”は、観た方によって違う。決して1つではないところがフランス革命の魅力だと感じています。
笹本さん)
花總さんがおっしゃったとおりだと思います。加えて、これほどまでにフランス革命を扱った演目が多いのは、やはり『ベルばら』がヒットしたことによると思います。ドレスも素敵で、目にも華やか。マリー・アントワネット、ロベスピエール、ルイ、フェルセン……歴史上のビッグネームがたくさん登場し、まるでドラマにさまざまな“うねり”もある。人の興味を引くポイントがたくさんありますよね。
ソニンさん)
『1789』では、革命家たちが英雄的に描かれ、私もそちら側の一員として立っていました。ところが、演出のヨハンソンさんから「フランス革命は世界で最悪の革命だったといわれている」と聞き、「この間まで、革命を信じて闘っていたのに……」と自分を否定されたような気がしました。稽古序盤の出来事です(笑)。
でも、稽古を進めていくと、この時期のフランス革命では人々が革命という響きに酔いしれて、自分を見失う、それはまさしく“狂気”。その意味で、私は前作とはまったく違うフランス革命を体験しています。フランス革命モノと一口にいっても、作品ごとに切り取り方が異なる。そういった奥深さが魅力なのではないでしょうか。
昆さん)
私が稽古場で感じているのは怖さです。暴徒のシーンがあるのですが、本当に怖いです。それぞれ信念を持って進んでいるのですが、集団となって突き進む姿は傍から見ていると狂気でしかない。同じようなことは、現代社会でも起こっていると思います。遠い出来事のようで、実は近い。恐ろしいけれど、ちょっと見てみたい。フランス革命の時代を生きた人たちに、そんなことを感じています。
田代さん)
フランス革命を改めて調べると、互いのことを何ひとつ知らないままに、ただ自らの信念だけを貫いて闘わせていたのかと感じます。正義と信じたものが、違う視点から見るととんでもないことだったり……、そこが最悪の革命と言われる理由。それを遠い話ではなく、僕らの話として、もし自分がこの状況に置かれたとしたらどう行動するだろう。作品を見ることで、考える機会を与えてくれる、それも観劇の魅力だと思います。
古川さん)
この時代は、いろんなことが目まぐるしく変化していった。そしてその登場人物、だれにスポットを当ててもドラマティックになるのでお話にしやすいのかな。僕自身、『1789』でロベスピエールを演じたときは、あれほどまでに懸命に革命成功を目指していたのですが、昨日の通し稽古で、(フェルセンとして)マリーがされている仕打ちを見たときは、本当に胸が苦しくなりました。誰に感情移入するかによっても、心に残るものが違うということを実感しています。
あとは、フェルセンについて言うと……。やっぱり“禁断の愛”は、みんなしたいんじゃないかと。(会場笑い)以上です。
吉原さん)
人はいつの時代も革命を欲している。居酒屋でも、毎日、革命の話ばかりですよ。どこかの会社で、誰かを引きずり降ろそうとか。フランス革命も、そういうところから火がついていったところがある。つまり人々はいつも闘っているんです。劇中の何か変えようとするエネルギーと、観ている人が欲するものがどこかで重なるんじゃないかな。
ただし、それと生きていくことは別。革命は応援するけれど、自分たちの生活・人生はぶれることはない。この作品では洗濯女のシーン、『レ・ミゼラブル』では、ターニングがそれを描いています。いつの世も、女性たちは日々の営みを続けていく。そしてそれが時代を作っていく。
フランス革命モノでは、浅はかな青春に向かって熱く生きた男、それを見て憧れ、涙を流すけれど生活は別モノとして続ける女性、その両方がエネルギッシュに描かれているところが人の心をとらえるのではないか。そしてそれは各国共通の普遍的なことだと思います。
◆ 博多座での開幕が楽しみになるお話&歌唱披露でした!ここからもおけぴは『マリー・アントワネット』総力取材いたします!!博多でお披露目される新演出版、10月には帝国劇場に降臨です。そして、帝劇開幕後まもなくの土曜日にはおけぴ観劇会開催。ぜひご参加下さい♪
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田代万里生さんインタビュー
「フェルセンは、命をかけて、愛する人とその家族が生き延びるために奔走する。それは彼なりの純愛の貫き方だっただろうと。
韓国版の舞台映像を観て印象的だったのは、マリーがフェルセンにキスをしようとするのですが、視線を感じて一瞬のためらいがあり、それに気づいたフェルセンはマリーの手に優しくキスをするというシーン。それが(この作品での)フェルセンをよく表している気がします」
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) おけぴ管理人(撮影)