2016年の日本初演で、観客を熱狂の渦に巻き込んだミュージカル『ジャージー・ボーイズ』。今年、再びシアタークリエで幕を開けた公演もますますの盛り上がりを見せています。初演はチームREDで、再演はチームBLUEでボブ・ゴーディオ役を好演されている矢崎広さんにお話をうかがいました。
『ジャージー・ボーイズ』への愛、再演での取り組み、芝居と歌……たっぷりとうかがいました。
【僕をボブに抜擢してくださったことに感謝。それしかない!】
──『ジャージー・ボーイズ』再演、連日熱い公演が行われています。チームRED(赤)からチームBLUE(青)へ、矢崎さんにとって再演の位置づけは。 それぞれの色を知っているという特殊なポジションではありましたが、僕としては、アッキーさん、そして新しく入った伊礼さん、spiくんとだからできる『ジャージー・ボーイズ』を作るべきだという思いで取り組みました。僕が赤でやってきたことをそのまま持ち込むのは、失礼だろうと。もちろん、個人的には、初演での経験があってこそ見えることもたくさんありましたが、チームとして『ジャージー・ボーイズ』を立ち上げるという意味では、そんな意識をもっていました。
だからこそ、赤とも白とも違う青になっていると思います。もちろん赤の良さもありますが、赤ではたどり着けなかった、青の良さがあるんです。
(おけぴ注:ここから作品について、役柄について、矢崎さんご自身が感じたことを率直にお話してくださっています。矢崎さん曰く「白と比較してとかではないですからね、そこはちょっと置いておいて」、お読みください)──初演から演じているボブ・ゴーディオという役は、矢崎さんにとって。 まず、初演で僕をボブに抜擢してくださったことに感謝です。それしかない!
もともと『ジャージー・ボーイズ』という作品は知っていましたが、そこで、「僕がボブ?」って。しかも、ほかのメンバーはミュージカル俳優として実績のあるみなさんだと知り「この中に僕?」でした(笑)。当時、ミュージカルでソロを歌ったこともあまりなかった僕が、とても魅力的で、大きなやりがいのあるボブ・ゴーディオ役に抜擢され、本当にたくさんのことを学びました。ありがたかったです。
そして、そう思えたのは赤のメンバーが、そんな僕をきちんとひとりの俳優として扱ってくださったから。赤チームでよかったです。 実は……、(ミュージカル界隈のことを)あまりにも知らなさ過ぎて、最初は(吉原)光夫さんのことも、「ちょっと怖そうなおじさんだな」と思っていたくらい(笑)。
僕にとって、この役に出会ったことは、ミュージカルを続けるうえでのターニングポイントになりました。
【再演で見えたこと】
──そして迎えた再演。ご自身で変わったと感じることは。 2年前には見えていなかったことが見えてきた。そして、それを表現したいという気持ちが生まれてきたことです。そうやって演出の藤田(俊太郎)さんとも相談しながら、再演のボブ・ゴーディオを作っていきました。
──具体的には。 この戯曲は物語を4つの季節に分けて、ザ・フォー・シーズンズの4人のメンバーそれぞれが語り部となって紡いでいきます。そして、その構造は「春」のアンサーが「夏」、「夏」のアンサーが「秋」……となっている。それならば、「冬」から始めても成立するのではないかという戯曲の読み方をしました。僕が演じるボブの担当は「夏」。劇中では、ボブから見た「夏」が語られるのですが、その後、そのアンサーである「秋」でニックが語る(客観的に見た、実際の)ボブってどんな人物なんだろう。そこから役を作っていったのです。そこが大きく変わりました。
そうやって見ることで、「夏」と「秋」の関係性が変わり、それは「冬」の立ち位置などにも影響を及ぼします。同時に、それまで見えなかった「この台詞とこの台詞が繋がっているんだ!」ということがクリアになる。改めて、よくできた戯曲だということを実感しました。
初演では、とにかくこの役を、この物語を全うすることで精一杯でした。再演によって、戯曲をさらに読み解き、たくさんのことに気づき、新しいアプローチを試した。その余裕ができたことは、うれしい変化です。
【伊礼さんとspiくん、スゴイですよ!】
──青チームのお稽古についてうかがいます。ダブルチームということもあり、限られたお稽古時間。青チームで自主稽古などもされたとのことです。 自主稽古をしたり、とことんまで意見を交わしたり、それが役作りであり、それによって作品が深まるのが『ジャージー・ボーイズ』だと、僕は思っています。これはプロデューサーの手腕だと思うのですが、毎回、どこかにそれぞれの役の気質を持った俳優が集まるんですよね。だから、話をしていても、「それ、トミーっぽいな」とか「わぁ、ニックっぽいな」ということがたくさんあるんです。
── 矢崎さんもボブっぽい? 「どういう青にしていこうか」とか「どう見せていくか」、それを考え始めると、そこでは僕のなかの“ボブ脳”が働きだしているのかもしれません(笑)。
── 赤と青、中川さん演じるフランキーと対峙して感じる違いは。 カラーが如実に出るのが、2幕、「秋」でのジップ・デカルロの地下室のシーン。青では、赤でも白でも見たことのないアッキーさんのフランキーが出てくるという印象です。
「秋」もかなり話し合いました。もちろん決まりごともあるのですが、今のところは動きの自由度も高いですね。それが可能なのは、稽古においてハートメインで作ってきたから。お互いに、なにが来ても大丈夫。どう動いても、気持ちを切らさずに繋がっているんです。ただ、ここからは取捨選択をしていき、いい意味で固まってくるでしょう。なにせ、まだ本番、7回しかやっていないのでね。だから、本当の青、その色はここからもっともっと色濃くなっていくと思います。
──開幕直後もしっかりと青のカラーを感じましたが、ますます色濃く! 青、スゲーと思いますよ(笑)。初日から自分たちのカラーを打ち出すって。初演のときのことを思うと、伊礼さんとspiくん、スゴイですよ。
──そこは、初演を経験されたお二人がいたからこそ成し得たことでは? ないです、ないです!もちろんアッキーさんの存在は大きいと思いますが、僕はないです。やっぱり伊礼さんとspiくんが『ジャージー・ボーイズ』への愛をもって入ってきてくれて、一緒に高みを目指してくれたのがデカい。僕らじゃない。あの二人です。
【『ジャージー・ボーイズ』はお芝居のミュージカル】
──『ジャージー・ボーイズ』を観ていると、不思議な気持ちになります。あれほどまでに音楽にあふれた作品でありながら、芝居なんだなと……。(ここで、矢崎さんが「フフッ」と不敵な笑みを浮かべたことを、ここにご報告申し上げます。ちょっとボブっぽかったです!) その違和感を、青は強く押し出していると思います。「あれ、ミュージカルだけどストレートプレイを観た感じがする」ということを。これは『ジャージー・ボーイズ』をどうとらえるか、そこでの俳優のチョイスの仕方が大きい。僕はお芝居のミュージカルだと思っています。伊礼さんもspiくんも同じ気持ち。アッキーさんに関しては、もはやどちらとかいう次元ではないと思うんです。絶対的なフランキーなので。
僕ら青の3人は「なにを担い、なにを選択し、どう去っていくか」そこを追求していった。その結果がそう感じさせるのだと思います。
──まさにそれこそが、日本版『ジャージー・ボーイズ』の色とも言えるのではないでしょうか。 本当にそう思います。実際、ブロードウェイ版は、割とあっさりしているんですよね。そこにも理由はある。観客はフランキー・ヴァリのこと、ボブ・ゴーディオのことをすでによく知っているという前提があるからだと思うんです。でも、僕らはそこも含めて作品をお客様に届けたい。だから芝居寄りになっていくのではないか。それは日本版ならでのアプローチだと思います。
──そして、日本版と言えば、あの階段。ラストシーンのおヒゲのアイデアも秀逸ですよね。 あのシーンは藤田俊太郎氏の演出の妙。どうやって表現するのだろうと思っていましたが、ああなりました(笑)。正直に言うと、最初は「つけヒゲ?!」と思いましたが、ちゃんと“そう見える”からね。
【♪Cry for Meを芝居にするために】
──続いては、再演で深まったお芝居、その裏付けとなる「歌」についてうかがいます。5月に行われたミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート、最終公演をご覧になっていた吉原さんが、カーテンコールで舞台上へ。そこで開口一番……、矢崎さんに。 「歌、ウマくなったな」と言ってくださいましたね(笑)。
──コンサート、再演に向け、しっかりと準備をされた結果ですね。 あくまでも自分比ですが。初演のときに、福井小百合さん(本作の音楽監督補・ヴォーカルデザイン)の指導を受け、この方について行こうというか、この方なら僕を引き上げてくださるという可能性を感じたんです。出来ない僕をわかったうえで、教えてくださった。そこから、少しずつレベルを上げていきましたが、次のレベルに行けたとき、すごく嬉しくて!
でも、まだまだです。
そもそも、「コンサート?!?!……どうしよう!」でしたから。ミュージカルですし、『ジャージー・ボーイズ』ですし、コンサートをするのもわかるのですが、僕がコンサートに出るって。芝居があって、歌があるというのはミュージカルもやっている俳優なので考えられるのですが、歌が主役のコンサートですよ。マイクと口の距離感から教えてもらわなくてはならない僕が、シアターオーブでソロを歌うことには、「よいのか???」と思わざるを得なかったですね(笑)。
──よいのか?と思われたのですか、……素晴らしかったです。 ありがとうございます(笑)。
なんて言うか、要するに初演が悔しかったんですよ。自分が表現したかったところに到達出来ていないことを強く感じたので。♪Cry for Meというナンバー、僕はあの曲が4人のすべてだと思っています。だからといって、あの曲をただ上手に歌えるようになりたいとは思ってはいません。僕は、あの曲を芝居にしたかったのです。
たとえば、映画『グレイテスト・ショーマン』のワークショップセッションで、キアラ・セトルさんが♪This is meを歌う動画がありますよね。歌い手である俳優の感情が高ぶり、周りを巻き込みながら、最後は台詞のように歌う。僕はそういう瞬間に感動し、涙がでちゃうんです。♪Cry for Meもそんなシーンにしたかった。でも、イメージは思い描けても、力が足りませんでした。芝居どころじゃなかったんです。まず、歌うことでいっぱいいっぱいでしたから。それが悔しかったので、まずは歌を自分のものにする、その上ではじめて芝居を乗せることが出来る。その思いがヴォイストレーニングを続ける力になりました。
そして今は、歌を褒めていただくことを純粋に嬉しく思う僕と、「まだまだだぞ」と思う冷静な僕、その両方が居ます。でも、前回よりはちょっといい感じかな。ボブが一人で歌い始め、フランキーが入ってきてくれて嬉しい、ニックが入ってきてくれて嬉しい、トミーが入ってきてくれて嬉しい、なにこれ!楽しい! それが出来始めているから。
【『ジャージー・ボーイズ』とこれからの僕】
──改めて、『ジャージー・ボーイズ』の魅力は。 なんでしょうね。一つひとつのシーンについて語り始めたら止まらない、そんなふうに、いろんなお客様に共感してもらえる要素が散りばめられていることでしょうか。
僕がすごく共感するのは、フランキーの最後の言葉、「なにが最高だった?」という問いへの答えです。数々のヒットナンバーを出したフランキーの「街灯の下に4人で立って、……はじめて僕らのサウンドを作ったとき。……ただそこにあるのは音楽だけだった。あのとき、あれが最高だった」という台詞は、こうして演劇をやっている僕にもすごく響く言葉です。
これからも演劇を続けていくなかで、そう思える瞬間にいっぱい出会ってきたいですし、それをお客さんと共有していきたい。『ジャージー・ボーイズ』は、そうやってたくさんの人と共有していきたい作品の一つです。
──では、その先、『ジャージー・ボーイズ』再演を経た矢崎さんのこれからは。 今は、毎公演、録音した自分の歌を聞き、反省の日々。芝居も、毎終演後、藤田さんのところでノート。こうやって、まだまだよくなる!と、全力で向き合える作品を11月までやり遂げたなら、きっと、終わって3週間くらいは、なにが来ても怖くないんじゃないかな。まぁ、3週間過ぎたら、ケロッと忘れてしまいそうですが(笑)。
でも、真面目な話、芝居に関しても、歌に関しても『ジャージー・ボーイズ』で培うものは非常に大きく、それは確実に自分のスキルになっています。
『ジャージー・ボーイズ』の一員であることを誇りに思い、これから出会う作品にも同じ姿勢で挑んでいきたいと思います。がんばります!
──ますますの進化が楽しみです。『ジャージー・ボーイズ』は東京公演が終わると、いよいよ全国ツアーです!11月の凱旋公演まで、まだまだ続きます。 先ほども言いましたが、すごくたくさんやった感じですが、まだ一ケタの公演回数。毎日が濃いからかな。開幕してから、常に僕のなかに『ジャージー・ボーイズ』があるような感覚です。
全国ツアーは、どうなるのか。楽しみですね。何と言っても、僕ら、シアタークリエでしかやったことないですからね。あとはオーブ?!(笑)。ほかの劇場の感じが……。
──各劇場、お客様は熱狂をもって迎え入れてくれる、それは間違いありません。全国に素敵なジャージー旋風を巻き起こしてください。 はい!行ってきます!
◆『ジャージー・ボーイズ』おけぴ観劇レポートTEAM BLUE編『ジャージー・ボーイズ』おけぴ観劇レポートTEAM WHITE編【こぼれ話】
──♪Dawn(Go Away)悲しき朝やけ でのボブの台詞「僕たちを本当に理解し、僕たちをトップに押し上げたのは彼ら彼女たちだった」、ぐっとくるシーンです。 いいですよね、あのシーン。そして、アメリカっぽいなと思います。先日、朗読劇『ラヴ・レターズ』(藤田俊太郎さん演出)に出演しましたが、あれは同時代のアメリカの富裕層のお話でした。アメリカの成り立ちを肌で感じるという意味で、それも大きな経験となっています。
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影)