こまつ座第124回公演・紀伊國屋書店提携『母と暮せば』 松下洸平さんロングインタビュー

 この秋、『父と暮せば』『木の上の軍隊』に続く、こまつ座“命”の三部作の最後を飾る舞台『母と暮せば』が誕生しました。戦後まもない長崎を舞台にした、ある母と息子の命の会話劇に、息子・浩二役でご出演の松下洸平さん。『木の上の軍隊』(2016年)の新兵役を好演、また同作は2019年の再演も決定しています。今やこまつ座作品の若き担い手の一人とお呼びしてもいい松下さんに、『母と暮せば』東京公演中にお話を伺いました。



舞台写真提供:こまつ座 撮影:宮川舞子

──東京公演も折り返しを過ぎました。日々公演をされる中で感じていることは。

 「自分も誰かに見守られながら生きていると思うと、頑張って生きなきゃと思う」、作品をご覧になった方から、そういう感想をたくさんいただきます。本当にその通りだなと。この作品は、今の時代に必要な作品であり、それは今に限らずこれからもずっと残すべき作品。日を追うごとに、その思いが強くなります。

──戦後の長崎を舞台にした作品が現代に響く。

 確かにあのときの長崎でなにがあったのか。僕らには、それを伝えていく使命もあります。ただ、不思議なくらい、70余年前の話に、今に通じる部分がたくさんある。それがこの戯曲の素晴らしいところだと思います。「ヒロシマとナガサキとオキナワの3本を書かないうちは死ねません」という井上ひさしさんの遺志を継いだ畑澤聖悟さんによる戯曲ですが、“今に通じる”ということもまた、井上さんの戯曲の大きな魅力。まさに“現代劇”なんですよね。畑澤さんのそんな意識もこの戯曲から受け取りました。

 少し具体的にお話しすると、畑澤さんは東北で活動されています。津波や震災に対しても東京で暮らす僕らよりもっともっと考えることが多かったと思います。劇中に出てくる台詞「津波や地震は天災だけど、あれ(原爆)は人間の仕業たい」、そしてそれを忘れてはいけないというメッセージ。被爆者が原爆調査委員会(ABCC)によって研究対象とされたこと、原爆症が出た人々が受けてきたある種の風評被害ともいえる差別的な扱いは、現代においては福島の現状にも通じる部分がある気がする。あの頃を知ることによって、今を知る。そこにも井上さんの遺志というものを感じます。そしてそのすべてを引き受けた畑澤さんだからこその、力のある戯曲だと感じます。

──開幕後、「まぎれもないこまつ座の新作だ!」という声がたくさん届く理由もその辺にありそうですね。

 それは演じる側としてもとても嬉しいです。


──畑澤さんはもちろん、作品に関わるみなさんには大きなプレッシャーもあったと思います。

 もちろんありました。でも、大きなものを託されたとき、そこで自分に何が出来るのだろうか、どんな自分に出会えるのだろうかと考える時間は、実は楽しみでもあるんです。それは僕が俳優だからかもしれません。大きな信頼を寄せる栗山さんのもとで作るので、作品に対する不安はなく、求められたものにどれだけ応えられるかというところでは、正直、すごい大役をいただいてしまった……と緊張もしましたが、それ以上にワクワクしました。

 稽古が始まる前、台本もまだなかったころ、栗山さんと一緒にお食事をしたんです。そのとき、栗山さんが「なんか俺ね、ドキドキしているんだよ」とおっしゃって。あまりそういう栗山さんは見たことがなかったのですが、でも、その気持ち、すごくわかる気がしたんです。栗山さんからは、素晴らしい作品になると信じ、演劇人生をかけてこの作品に取り組むという意気込みが伝わってきましたし、僕もそれを決して疑わなかった。そこで僕がなにを担い、どう動けるのか。それを想像したら、一緒にドキドキしてきたんです。



──『母と暮せば』は二人芝居。母・伸子役の富田靖子さんとは、まさに親子の絆のような信頼関係が見てとれました。



初日前囲み取材より

 富田さんが僕を受け止めてくださったおかげです。これまでにも何作か二人だけの会話劇を経験していますが、そこで大切なのは、相手をリスペクトして全身全霊で信じる。富田さんは、真っ先にそこを担ってくださり、たくさん支えてもらいました。だからこそ、僕は、富田さんがシンドイときは支えなくてはいけないと奮い立ちました。とてもいい相互関係が築けたと感じています。

──二人の姿は、親子のようで、恋人のようで。

 “二人で生きてきた”ということがとても重要なんだと思います。父を亡くし、兄をなくし、小さな頃からずっと母と二人で生きてきた。その絆は、なににも代えがたいものがある。支え合って生きてきたんだな、この二人は。そう感じていただくためにはどうしたらよいのか、それをずっと考えていた気がします。



舞台写真提供:こまつ座 撮影:宮川舞子

──実は、元気いっぱいの息子・浩二の登場は、勝手に思い描いていたものとはちょっと違って意外でした。なんていうか、もう少しファンタジックにすっと出てくるのかなとか。

 足、透けている感じですか?(笑)
 浩二像を作る上では、『父と暮せば』が大きなヒントになりました。おとったん(父・竹造)を見ていると、だれよりも元気で、ついつい死んでいるということを忘れてしまうんです。そして、お饅頭が食べられなかったりすると、はっと気づく。そのイメージがありました。
 『母と暮せば』では、後半、僕らはみなさんに辛い現実も突きつけなければいけない。楽しいところは目一杯楽しく、浩二という少年がどんな子だったのかを表現し、伝えたほうが、後半で描かれることがダイレクトに届くのではないかと。栗山さんともたくさんお話しました。

──この作品では、劇中盤で“なぜ浩二が出てきたのか”が明確になります。そうすると、今度は最初の明るさが、また違った意味も持ってきます。

 そうなんです。根っからのひょうきんな少年かというと、決してそうではなかったと思うんです。浩二には無念もあるでしょうし。あの笑顔と明るさは、母を元気づけるための明るさでもある。母を引っ張り上げること、死者である浩二という存在にはそういう仕事も託されていると思います。

──こうしてお話していると、観終ってからもさまざまな思いが巡りますね。そして、後半の辛いと言われたシーン。熱か、熱かという浩二の声。あの声は、写真を見る、書物を読む、資料で知るものとはまた違う大きな衝撃を私たちにもたらします。今も、あの声が耳に残っています。

 あのシーン、本読みの段階では栗山さんからは具体的な指示はありませんでした。台本には、「熱か 熱か 熱か 熱か 熱か」と、20個ぐらいかな。ただただ、その2文字が羅列していて、最後に「……」と。それをどう表現するか。あれは僕の選択ですが、なんて大変な選択をしてしまったのか(苦笑)。でも、その選択をしたことは間違いではなかったと思っています。

 栗山さんからは「人が焼かれて死んでいくってどういう状況かわかるか」と訊かれました。そして、インドの火葬を見たときのことを話してくれました。ガンジス川のほとりで焼かれる人間(亡くなった方)の様子を教えてくださって、「そこまでやっていいよ」と。「ああ、栗山さん、やはり逃げてない」と思いました。そこにはリアルが必要なんです。やる側も、きっと観る側もきついですよね。でも、一瞬のうちに人間がそうなってしまったという残酷なことが実際にあった。

── 一瞬。

 あのシーンは浩二の様子を時系列で追っていきます。徐々に身体が燃えていくところを、全身の感覚としてだけで表現する。思考はついていかないんです。自分でもなぜこうなっているのかわからず、気づいたらこうなっている。落ち着いてあの日のことを回想するのではなく。だから間も空けないですし、息継ぎをすることも忘れる。そこまでもっていきたいと思いながら稽古しました。



舞台写真提供:こまつ座 撮影:宮川舞子

──まるでドキュメンタリーのようです。

 栗山さんも「あれはドキュメントだよ」と。それは、この作品全体に言えることなんです。これは物語ではなく、ドキュメント。ゆっくり感情を込めて炎に焼かれることを語っていると、それは物語になってしまう。そうではなくて、あくまでも本当にあった話として伝えていかなくてはいけないのです。

──そして、受け取った側が物語にする。

 はい。最後に、残された命をどうつなぎとめていくか。そこは映画では描かれなかったところです。
 台本上は、「目を覚ました伸子が、塩水を飲む。そして、助産婦の七つ道具を取りに行き、それを並べる伸子」で終わっていて、僕もそうやって母一人のシーンで終わるんだなと思っていました。すると、栗山さんから「洸平、それをあそこに座って見ていて」と言われたんです。鳥肌が立ちました。栗山さん、すごいなと。

──とても印象的な景色です。そんな母の背中を見つめる息子。思い出すだけで胸にこみ上げてくるものがあります。

 僕が泣いている場合じゃないので(笑)、稽古場では必死で涙をこらえました。

──変な言い方ですが、こらえられるってすごいです。

 僕たちがやらなくてはいけないのは、お客様に託していくこと。完結してはいけないんです。ラストシーンで、そっと浩二が母の背中を見つめている。その景色を渡して、あなたはどうしますかというところで終わりたい。問いを投げかけ続ける。演劇って、そういう役目もあると思うんです。
 本番では、僕は、「この二人を観て、お客様はなにを思うのだろう」と思いながら母の背中を見ているんですよ。

──東京公演が終わると、地方公演が始まります。

 残念ながら、今回は長崎へは行けませんが、各地に、この作品をお届けできることを嬉しく思います。たとえば関西方面は、震災で大切な人を亡くされた方もいらっしゃると思いますし。その土地土地で、ご覧になった方がいろんな答えを出してくれれば嬉しいです。


──そして、来年、『木の上の軍隊』の再演が発表されました。

 そのとき自分が持っていたもののすべてを出し尽くした初演。その向こう側って、なにがあるんでしょうね。それは僕にもわからない境地です(笑)。でも、ひとりの俳優として、今年は『TERROR テロ』という作品で初めて森新太郎さんの演出を受け、それまでに経験したことのなかったたくさんのことを教えていただきました。そして、この作品を通して学んだこともたくさんあります。再演ではそういった経験が、演技のスキルというものひとつをとっても、初演の時とは違ってくると思うし、『木の上の軍隊』という作品の濃度をより高めてくれると思います。

──そういえば、上演中は数回だけお水が飲めるなんてお話もありましたね。

 あれは……、2回は飲めますね(笑)。

──大変だとは思いますが、観客としては楽しみでなりません。

 そう言ってくださるみなさんがいる限り、続けていきたいと思います。


──次回作は『スリル・ミー』、長いお付き合いの作品になりました。

 かれこれ7年ですね。その間、『スリル・ミー』という作品が僕を大きくしてくれた部分があります。

──初演は、今はなきアトリエフォンテーヌ。

 新納(慎也)さんと(田代)万里生くんペアの当日券に並ぶ長蛇の列の横を、僕たちもいつかこうなりたいなと思いながら楽屋入りしていたことを、昨日のことのように覚えています。受付で係の方が「松下柿澤ペアのチケットもおススメです!」と言ってくださっている声も聞こえてきてね(笑)。

──作品がみなさんを大きくしたとも言えますし、みなさんが作品を大きくしたとも言えるのではないでしょうか。今回は、追加公演も組まれるほど盛況です。

 そうですね。本当にありがたいことです。

──そして、こちらも栗山さんの演出です。

 栗山さんから教えてもらったことが、僕の演劇のすべての芯となっています。もちろんほかの方との出会いも必要でしたし、これから先、ご一緒したい演出家さんもたくさんいますが、栗山さんから教えていただいたことを武器にしてそれぞれの作品と闘っていきたいと思います。


──先ほどのお話に出た『TERROR』もそうですが、次々に高い壁に立ち向かって行く松下さん。今年の演劇シーンを語るに欠かせない作品へのご出演が続いています。

 自ら行っているつもりはないのですが(笑)。
 こんなにガッツリ演劇のことを考える人生が待っているなんて、それこそ10年前には思ってもみませんでした。不思議ですよね。でも、すごく嬉しい。僕は運がいいなと思います。僕になにかを課してくれる作品に出会い、そこで素晴らしい先輩、先生方に出会えて。だからこそ、“演劇の力”を繋いでいきたい。そこを担える人間になりたいんです。


──最後に。すっかりこまつ座ファンにはお馴染の松下さんですが、ご出演された2作品は井上ひさしさんの戯曲ではありません。“繋いでいく”、次世代の象徴する存在だとも言えますが、どうしても、いつか、井上ひさしさんの言葉を……。

 しゃべりたいです。僕は、一度も井上ひさしさんとお会いすることはできませんでした。でも、この公演中も、袖でスタンバイしながら、井上さんに「行ってきます」と言って舞台上へ出るんです。すると、笑って「いってらっしゃい」と送り出してくださっている感じがして。お会いしたこともなく、井上さんの戯曲をやったこともないのに、すごくすごく井上さんに支えてもらっています。
 きっと、おとったんや浩二のように、僕らを見守ってくださっているんだろうな。いつもそう感じています。


──素敵なお話をありがとうございました。これからもずっと続いていく作品、『母と暮せば』の誕生を改めて嬉しく思います。ここからはいよいよ全国公演!スケジュールは下記の通りです。


『母と暮せば』全国公演スケジュール


【茨城公演】
■水戸芸術館 ACM劇場
2018年10月27日(土)14:00開演
お問合せ:029-225-3555(水戸芸術館)※9:30〜18:00/月曜休館
 チケットは完売いたしました。キャンセル券等がある場合、公演当日の朝9:30より電話029-225-3555にて受付いたします。10:00を過ぎても残席がある場合は、エントランスホール内チケットカウンターでも販売いたします。

【岩手公演】
■花巻市文化会館
2018年11月3日(土・祝)14:00開演
お問合せ:0198-24-6511(花巻市文化会館)

【滋賀公演】
■滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
2018年11月17日(土)14:00開演
お問合せ:077-523-7136(びわ湖ホールチケットセンター)※10:00〜19:00/火曜日休館(休日の場合は翌日)

【千葉公演】
■市川市文化会館 小ホール
2018年11月23日(金・祝)14:00開演
お問合せ:047-379-5111(市川市文化会館)

【愛知公演】
■春日井市東部市民センター
2018年12月1日(土)13:00開演
お問合せ:0568-85-6868(公益財団法人かすがい市民文化財団)

【埼玉公演】
■草加市文化会館
2018年12月8日(土)14:00開演
お問合せ:048-931-9325(草加市文化会館)

【兵庫公演】
■兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2018年12月11日(火)13:00
お問合せ:0798-68-0255(芸術文化センターチケットオフィス)※10:00〜17:00/月曜休館(休日の場合は翌日)

監修:山田洋次
作:畑澤聖悟
演出:栗山民也
出演:富田靖子、松下洸平

ものがたり
1948年8月9日。長崎で助産婦をして暮らす母親の前に、3年前に原爆で死んだ息子がひょっこり現れる。その日から、息子は時々母親の前に現れて言葉を交わすようになる。奇妙だけれど、喜びに満ちた二人だけの時間は永遠に続くように見えた──。

公演HPはこちらから
舞台写真提供:こまつ座
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)、hase(撮影) 監修:おけぴ管理人

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