ミュージカル俳優・福井晶一さんインタビュー、2018年の活動についてうかがった
前編に続く、後編では、2019年の活動アルバム『Voce』、コンサート、『レ・ミゼラブル』への思いをうかがいました。
【『レ・ミゼラブル』、『ジャージー・ボーイズ】から『RENT』まで多彩なナンバーを収録】
──2019年1月30日にリリースされる2ndアルバム『Voce』(ヴォーチェ)についてうかがいます。せっかくの機会ですので、欲張って、全曲への思いをお聞かせください!まずは、♪スターズ(『レ・ミゼラブル』より)、福井さんも2013年に演じられたジャベールのビッグナンバーです。 もともと僕は、ジャベールを演じたくて『レ・ミゼラブル』のオーディションを受けました。中でも、この楽曲が大好きでした。“レミゼイヤー”にリリースするということで、あえて舞台では歌わない♪スターズを収録しようと決めました。
──続いて、『RENT』から♪One Song Glory。ちょっと意外な気も! 25年ほど前のことになりますが、僕が劇団四季でアンサンブルをやっていた頃、先輩の下村(青)さんに『RENT』というミュージカルを知っているかと訊かれたんです。「お前たちの世代にピッタリ、今、これからの時代のミュージカルだから、こういう作品も勉強したほうがいい」とアドバイスされ、早速CDを買いました。聴いてみたら、曲がメチャメチャカッコよくて、大きな衝撃を受けました。みなさんご存知の通り名曲揃いの作品ですが、僕の心をつかんだ曲はこの曲でした。
──アレンジにもこだわっていらっしゃるとのこと。 この曲に限らず、タイトルを『Voce』と付けたように、「声」や「音」をじっくりと味わっていただこうというコンセプトのもと、シンプルな編成で楽曲を聴いていただくことにしました。アレンジと演奏を美野春樹さんにお願いしましたが、レコーディングも最高の時間でした。僕はミュージカルはやっていますが、音楽畑の人間というわけではありません。でも、美野さんとのセッションでは、「こう演奏してくださるなら、僕はこう歌ってみよう」という即興的なやりとりのなかで、僕の中にあった音楽的な感性を引き出していただいた気がします。そのときのフィーリングで生まれたものを大切に、何度も録り直すこともせずにレコーディングしていきました。
──『アスペクツ・オブ・ラブ』からは♪恋のさだめは。 僕の中では石丸幹二さんの印象が強い楽曲です。昔から、僕の声域、声質にピッタリだと言われ、やはり劇団時代に先輩にひそかに勉強しておくように言われた楽曲です。僕自身もいつか歌ってみたいと思いつつ、これまではあまり歌ったことはなかったので、今回挑戦することにしました。
──そして、超が付くほどのビッグナンバー、『ラ・マンチャの男』から♪見果てぬ夢。 実は、2年前の正月に初夢を見たんです。そこで、僕が歌っていたのが『ラ・マンチャの男』の楽曲でした。それ以来、心のどこかで気になっていました。多分、その前の年に観劇してとても感動したことの表れなのだと思いますが(笑)。♪スターズと通じるような詩的で哲学的な歌詞、そしてロマンのある憧れの曲です。
──『ジャージー・ボーイズ』からは♪My Eyes Adored You(瞳の面影)を選ばれました。 この作品の中で僕が一番好きな曲です。いつもアッキー(中川晃教さん)が歌うのを袖で聴きながら一緒に歌っていました。この曲も美野さんの手で、劇中とはまた違う素敵なアレンジに仕上がっています。アレンジが一番好きなのは、この楽曲かもしれません。
──ミュージカルナンバーが続く中、最後に収録されているのが♪ユー・レイズ・ミー・アップ。スタンダードナンバーです。 はじめは全曲ミュージカルナンバーで構成しようと考えていたのですが、今年は各地で自然災害があり多くの方が被災されました。9月には北海道でも大きな地震がありました。そんなとき、石丸幹二さんが、この曲を歌われている映像を観る機会があり、その歌声、そして御徒町凧さんの歌詞が心に染みました。そのときの自分の気持ちと切り離すことができませんでした。この歌がもつ力、それが人々を勇気づける。その思いから、この曲を収録することにしました。
──福井さんのあたたかい歌声に励まされ、やすらぎを感じる方も多いと思います!2月には、アルバム発売記念のコンサートも東名阪の三都市で開催されます。 コンサートは2年ぶりかな。『Voce』の曲はもちろん、1stアルバムの曲やシャンソンなども交えながら、大人の時間になればいいなと思っています。
──シャンソンも歌われるのですね。 先日も行われましたが、ここ数年、『岩谷時子メモリアルコンサート』にお声がけいただき、そこでシャンソンの名曲たちに出会いました。素敵な歌詞をもつ素晴らしい曲の数々、その中からも披露する予定です。
僕にとって、コンサートはお客様と一緒に作っていく時間・空間です。お互いに楽しみながらひとときを過ごせればと思います。
──東京ではHAKUJU HALL、クラシックホールです。 HAKUJU HALLでのコンサート初めてですが、何度もコンサートをしているアッキーによると、シンプルな編成がおすすめとのこと。アルバムのコンセプトとも合致するので、これまでとは編成も変え、ピアノと弦と歌声でお届けしようと思っています。
【生で本物に触れることの価値を届ける】
──そして、コンサートが終わると、いよいよ『レ・ミゼラブル』です。2019年は、実に29年ぶりとなる札幌公演が行われます。 北海道に住む知人、友人たちは、2013年に、僕がこの作品に携わるようになってから、ずっと北海道でも上演してほしいと言ってくれていました。来年、僕にとってはもちろん、北海道のみなさんの念願が叶います。特に、全国ツアーを経た大千穐楽を北海道で迎えるなんて、夢のようです。
──劇団四季は北海道での公演もされていますが、ほかの大作ミュージカルの上演機会は決して多くはありません。もしかしたら『レ・ミゼラブル』で生の舞台・ミュージカルに出会い、志す方もいるかもしれませんね。 そうなると嬉しいですね。僕自身、この世界を志したきっかけは、TVで観た音楽座の『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』ですが、生で観た初めてのミュージカルは劇団四季の『キャッツ』札幌公演です。そのときの感動、生で本物に触れることの価値を実体験として知る者として、故郷・北海道への恩返しという思いも込めて、ジャン・バルジャン役をしっかりと務めたいと思います。
──改めて、ジャン・バルジャンという役は。 自分のすべてを捧げなくては務まらない役です。それだけの覚悟も、準備も必要な大変な役。でも、ミュージカル作品の中で、これほどの役はないと思っているので、今回も全身全霊を注いで挑みたいと思います。
2019年の公演には、劇団四季で一緒だった濱田めぐみさんも初出演ですし、テナルディエ役にはトレンディエンジェルの斎藤司さんも!宿屋のシーンなど、どうなるのか楽しみです。でも、やっぱり気になるのは、新ジャベールの二人。上原理生くんと伊礼彼方くんが僕をどんな風に追いかけ、追いつめるのか。そこが一番の楽しみです。『ジャージー・ボーイズ』では、彼方とは別チームでしたし、アンジョルラスの理生とは、役として、そこまで対峙する関係性でもなかったので。もちろん川口(竜也)さんも、今回はどのようなアプローチでくるのか楽しみです。
──ジャベール役が変わると、それを受ける福井さんのバルジャンにも変化が生まれる。さらに進化した福井バルジャンとの再会を楽しみにしています。
こうしてお話をうかがっていると、2019年も大活躍の充実した一年になりそうですね。その幕開け、元旦の深夜、日付変わって1月2日0時~1時、NHK FM特集オーディオドラマ 「サウンドミュージカル 雪色オルゴール」が放送されることも発表されました。 ラジオドラマも初めての挑戦です。こうしていつまでも新しいことに挑めることはとても嬉しいことです。また、NHKオーディオドラマの番組として初めてのミュージカル作品です。これをきっかけにオーディオドラマの可能性も広がるかもしれない作品に参加できることを光栄に思っています。
その後、1月末にアルバムリリース、コンサート、そしてそこからは『レ・ミゼラブル』の一年になります。帝国劇場から始まり、9月の北海道まで、札幌公演はちょうど地震から一年が経つころです。今一度、この作品を上演する意味に向き合い、僕なりの思いをもって、最後までしっかりと務め上げたいと思います。
──素敵なお話をありがとうございました。それぞれの話題について、丁寧にその想いを紡いでくださる福井さん。これからもミュージカル、コンサートで、包み込むあたたかいような歌声がみなさんの心を癒してくれるでしょう。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人