ひとりの青年の目覚め、成長、破滅を、意外性あふれる音楽にのせて描くミュージカル!
芹香斗亜さん主演、宝塚宙組 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演「『群盗-Die Räuber-』-フリードリッヒ・フォン・シラー作「群盗」より-」観劇レポートをお届けいたします。
伯爵家の嫡男として生まれながら、“群盗”の首領となるカール(芹香斗亜さん)
シラーが10代の頃から取り組み、戯曲第一作として発表した『群盗』。18世紀ドイツの文学運動“疾風怒濤”(シュトゥルム・ウント・ドラング)の代表作のひとつとして、後世の作品にも大きな影響を与え…云々、ときくと、なんだか難しそうな気もしますが、これはズバリ、迷える若者たちの青春劇です!
マンガやアニメ、映画など“原作あり”の作品を見事に“宝塚化”する手腕に定評ある小柳奈穂子さんの演出で、ストーリーは大変わかりやすく、ポップさとクラシカルな宝塚らしさが絶妙にまじりあう仕上がりに。スピーディな展開で、客席を飽きさせません。
ベートーヴェン「月光」の旋律とともに幕が上がり、そのまま『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』を彷彿とさせるアニメソング調のナンバーに突入するオープニング。文句なくかっこいい芹香斗亜さんの登場で興奮は一気に最高潮に。そのまま突っ走るかと思いきや、いかにも宝塚らしい貴族の館に場面が移り、物語は進みます。古い世界と新しい世界、衣裳や音楽のチョイスにも演出家の思いが込められているのかもしれません。
◆ 主演の芹香斗亜さんが演じるのは、人々の自由のために正義の犯罪をなす“群盗”の首領となった貴族の青年カール。
故郷をはなれ、大学で新しい思想に出会い、最初は巻き込まれるような形で“群盗”に加わったカールですが、あることをきっかけに反体制の魂に目覚め、元の世界には引き返せない一線を超えてしまいます。
星組、花組と移動が続き、現在は宙組の2番手男役として活躍する芹香斗亜さん。本作が宙組での初主演作です。一作ごとに男役としての色気が増していき、本作でも舞台に登場するだけでスターとしての存在感が抜群! 若手メンバー中心の座組のなかで、もはや別格の輝きを放ちます。
物語前半の屈託のない笑顔も素敵ですが、次第に追い詰められていくカールの鬼気迫る表情、ふとみせる悲しい笑顔がたまりません。衣裳も前半と後半ではがらりと印象が変わり、ひとつの作品で二度おいしい気分に。ビジュアルだけでなく、カールの揺れる心を繊細に表現する演技、特に目の表情に惹きつけられました。
◆ 子どもの頃からカールとともに育ち、やがてほのかな想いを寄せるようになる従姉妹のアマーリア役を演じるのは天彩峰里さん。
『阿弖流為-ATERUI-』の菟穂名(うほな)や、『異人たちのルネサンス』サライなど、少年役での好演が続きましたが、本作では可憐さと強さをあわせもつ魅力的なヒロイン像を見せてくれました!
まっすぐな眼差しが印象的なアマーリア。カールを想う演技も切なく、故郷を離れる彼に指輪を渡す場面では、「なぜ彼女の想いに気がつかないんだ!」とカールにツッコミをいれたくなるほど。立ち姿の美しさと、うるうるの瞳、安定した歌唱。純白の花嫁衣装姿も、はっと胸を打たれるような感動があり、彼女が演じるヒロインをもっと見てみたい、そんな気持ちに。物語のクライマックスでアマーリアが選ぶ道、運命を受け入れる瞬間の表情にもぜひご注目ください。
写真左から:フランツ役 瑠風輝さん、アマーリア役 天彩峰里さん
カールの腹違いの弟で、太陽のような存在の兄に屈折した想いを抱くフランツ役は、新人公演の主演経験も多い、宙組の若手スター瑠風輝さん。
父にカールを勘当させ、家督とアマーリアを奪おうと画策するフランツですが、単なる悪役ではないところがポイントです。身分の低い母から生まれ、父に蔑ろにされた過去。兄カールへの複雑な気持ち。そしてアマーリアへの想い。どこか観客に共感させる余地をもたせる役作りが作品の余韻を深めます。
金髪ロングヘアーで、貴族の衣裳もさっそうと着こなす瑠風さん。長身同士、芹香さんと並ぶさまも絵になります! さらに見逃せない(聴き逃がせない)のが歌唱力。低音から高音まで自在に駆使するソロ曲は、作品中一番の難曲。地べたから太陽を見上げるようなフランツの心情を繊細な表現力で聴かせてくれました。
◆ 写真左から:シュヴァイツァー役 穂稀せりさん、ロルラー役 なつ颯都さん、ラツマン役 愛海 ひかるさん、カール役 芹香斗亜さん、シュフテレ役 雪輝れんやさん
カールの学友で後に“群盗”となる仲間たちに穂稀せりさん、愛海ひかるさん、雪輝れんやさん、なつ颯都さん。それぞれのビジュアルも特徴的で、芹香さん演じるカールと陽気につるむ様子はまるでスカーレットピンパーネル団!? ダンスや歌唱の見せ場にもご注目ください。
物語の狂言回しでもあるヴァールハイトを演じるのは鷹翔千空さん。長身で押し出しの強さがある男役さんという印象でしたが、本作では大貴族と民衆の板挟みになる小役人役。カールたちの運命を見届け、彼自身が目覚める場面が爽快です。
カールの父・モール伯爵役は、芝居巧者の凛城きらさん。若手中心の座組のなかで、さすがの存在感をみせてくれました。
このほか、歌よしダンスよしできらりと光る華妃まいあさんがみせた哀しい女の恋心、子ども時代のフランツを演じた真白悠希さんの強い眼差し、グーテ(=善)・ベーゼ(=悪)と名付けられたダンサーたち(衣裳がかわいい!)、ツタの絡まる舞台装置など印象的なポイント多数。
本編終了後のフィナーレは、瑠風輝さんを中心にした男役の変わり燕尾での群舞から。舞台の隅々、最下級生までしっかりと見ることができるのがシアター・ドラマシティ公演のよいところ♪ ここでもやはり、座組のなかでの男役最上級生、凛城きらさんの動きがずば抜けて目を引きました。
続いて太陽のように真っ赤な衣裳に身を包んだ芹香さんが加わり、劇中でも使用された「歓喜の歌」にのせたダンス、そして芹香斗亜さん、天彩峰里さんのデュエットダンスへ。
古い体制や大人たちに反抗する若者の姿を描いた作品の原点ともいわれるシラーの『群盗』を見事に宝塚歌劇化。観劇後にどこか清々しさも感じるミュージカル『群盗-Die Räuber』は、2月17日まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演中です。
(東京 日本青年館ホール公演は2月26日から3月4日まで)【新調された梅田芸術劇場シアター・ドラマシティの【緞帳】が本公演でお披露目!】
芹香斗亜さん、花音舞さんが登場したお披露目式の模様はこちら↓
【宝塚歌劇宙組 花音舞さん 芹香斗亜さんコメントも】梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 新緞帳お披露目!
おけぴ取材班:mamiko(文、撮影) 監修:おけぴ管理人