「春のめざめ」で知られるドイツの劇作家フランク・ヴェデキントの「LULU二部作」(『地霊』『パンドラの箱』)を大胆に翻案する unratoプロデュース『LULU』。
いよいよ2月28日に初日を迎える(28、3/1はプレビュー公演)注目舞台より、美しき “ファム・ファタル” ルル役に挑む霧矢大夢さんと、ルルに翻弄される女流画家ゲシュヴィッツを演じる紫城るいさんのインタビューと稽古場写真が届きました!
◆宝塚時代以来の共演!
魅惑の女性ルルと、彼女を愛し追いかける女性 【霧矢大夢×紫城るい インタビュー】(提供:公演主催者 執筆:河野桃子 撮影:宮田浩史)写真左:紫城るいさん、写真右:霧矢大夢さん
(写真中央は演出の小山ゆうなさん)
希代の“ファム・ファタル”。周囲の人々を魅了し、本人の意思とは別に破滅に追いやってしまう女性ルルを描いた舞台『ルル』が、2月28日(木)~3月10日(日)に赤坂RED/THEATERで上演される。ルルを演じるのは霧矢大夢。プロデュースは演劇ユニットunrato(アン・ラト)による。
ルルが周りの男性たちを翻弄するなか、唯一女性ながらルルに惹かれ、身を捧げていくゲシュヴィッツを演じるのは、紫城るい。霧矢と宝塚時代に同じ組で何度も共演をしている。今回、数年を経て、始めて真正面からぶつかりあう共演が叶った。
霧矢と紫城の2人に、劇作家フランク・ヴェデキントによるドイツの名作戯曲『ルル』について、また、共演についての思いを聞いた。
みんながルルの言うことを聞いてしまう
それほど魅力的な女性
──タイトルにもなっているように『ルル』を巡り、周囲が、そしてルル自身も翻弄されていく物語です。魅惑の女性を演じることになったお気持ちは?霧矢 最初に脚本を読んで、手強い役だな、と思いました。主人公のルルは、これまで日本でも大竹しのぶさんや秋山菜津子さんなど、個性も実力も兼ね備えられた方々が演じてこられた役です。奔放で、自分にはないものばかりを持った女性なので、なかなか親近感がわかない。でも、手強いからこそ挑戦しなければいけないなという感覚になりました。
紫城 すごい作品ですよね。自分の日常からはかけ離れているので、だからこそやってみたいという魅力はとてもよくわかります。ルルという魅力的な女性を前に、周囲のみんなが心を奪われ、翻弄されていく……。
霧矢 だから実際の自分と役柄のギャップがすごくある! 台詞でみなさんがものすごく褒め称えてくれるし、出番の前に「すごくいい女だな」みたいに期待を煽られると「出ていきにくい!」という気持ちになってしまうんですよ。
紫城 あはははは(笑)
霧矢 そこで私が一瞬でも「いや、私なんてそれほどでも……」という気分になったらもうダメ! 今はとにかく自己暗示をかけて、みんなを翻弄して、ちょっとした破滅においやっていかないと。
紫城 ちょっとした破滅じゃないでしょ、だいぶ破滅ですよ。
霧矢 たしかに(笑)でもルル自身は自覚してないんですよね。けして悪女ではない。求められていることをして、その時に必要な人についていったら、勝手に周りが破滅してしまう。ギリシャ神話の『パンドラの箱』がモチーフになっています。神が初めて女性をつくり、人間界に送り込み、災いがいっぱい詰まった箱を開けてしまう。パンドラ(ルル)は無邪気でピュアで、それが返って残酷なイメージです。今はまだまだ難しい、という気持ちしかないですね。きっと本番が始まってからも、追求する気持ちは変わらないんだろうなぁと思いますね。
紫城 まだ稽古場で、衣装もないし、台詞も完全に覚えていないから、もう少ししたらもっと馴染んでくるんでしょうね。
霧矢 そうかもね。登場人物みんながルルに翻弄されて冷静じゃないからこそ、私たちが冷静に物語の土台を作りあげていかないといけない。ひとつひとつの台詞や設定の意味を深く掘り下げないと、ちょっと変わった人たちが出てきて大騒ぎするお話になってしまうので、きちんと物語の芯をつくっていきたいです。俳優も、ひとりが何役かを演じていて、そのことにとても意味があるので、深く掘り下げれば掘り下げるほど面白い。観る方々の想像力をかき立てる作品です。
──紫城さんもまた、そんなルルに惹かれるゲシュヴィッツを演じますね。紫城 ゲシュヴィッツは女性だけれど、ルルのことがとにかく大好きで、自分を犠牲にして尽くすんです。ハタから見ていると、なんでこんなにコロって騙されちゃうんだろうと思うくらい簡単に騙されちゃうんですよね。
霧矢 別にルルは騙そうとしてるわけではないんですよ。けして女性詐欺師ではない。巧みではないし、ただその時に思いついたことを言って、それをみんなが素直に聞いてしまう。
紫城 そうなの。ルルはそれほど魅力的な女なの。
霧矢 簡単に翻弄されていくので、物語の展開が早いです。場面が変わると、数年経って登場人物の関係性が変わったりしています。描かれなかった間になにが起こったのかハッキリ出てこないので、展開の早さに驚くかもしれません。お客さんもルルの数奇な人生に翻弄されるかも? でも、時間の余白がたくさんあるからこそ、想像して楽しめる余地があるんでしょうね。
紫城 その間に何があったんだろうってみんなですごく話しますね。脚本の余白を埋める作業に時間をかけて、稽古がなかなか進まなかったりすることもある。
霧矢 そうなんですよね。大雑把にしか決めてないと、演じている途中に引っかかって、立ち止まって考えたりする試行錯誤を繰り返しています。芝居を創るってそういう積み重ねの作業ですけれど、演出の小山(ゆうな)さんが役者に委ねてくださる部分が多いので、自分でも「考えなきゃ!」と緊張感のある稽古場ですね。
──余白が多いうえに、ルルを中心に展開していく物語なので、ルルを演じる方によって全然違う作品になりそうです。霧矢 稽古をしながら「あの方だったらもっとこんな感じだったんだろうな」と考えてしまうのですが、同時に、自分なりのルル像はどんなものだろうと模索しています。自分だからこそのルル、このキャストだからこその関係性、小山さんの演出だからこそ観せられる世界を日々探している最中ですね。
宝塚の経験があるから
性別のボーダーラインを越えられる
──宝塚を退団されてから、これほどしっかりと共演されるのは初めてですね。紫城 楽しみでもあるけれど、良くない方向に影響しないようにとは気をつけています。
霧矢 そうだよね。とくに私たちは同じ世代で同じ組で、共演経験も多い。私はずっと男役で、るいちゃんは女役も男役もしていたけれど、当時から観てくださっている方はイメージを持っているかもしれないですよね。だから『ルル』を観ると「えっ、こんな関係性なの!?」と驚くかもしれないです。
紫城 いい意味で驚いてもらえるようにしたいですね。そもそも女性の主役を追い回すなんて設定は、宝塚ではないですから。
霧矢 逆はあるけどね、主役の男を女性たちが次々好きになっていくっていうのは(笑)
紫城 ドン・ファンみたいなね。でも『ルル』は宝塚と逆! 圧倒的なトップスターは女性ですから。しかもその女性を、女性である私が恋愛として大好きで追いかけるという……
霧矢 性別のことで言えば、宝塚の舞台はもともと性別のボーダーラインを越えているからそんなに違和感がないかも。そういう性別にとわられない曖昧なボーダーラインを越えることができるといいね。
紫城 それが宝塚出身の私たちの使命なのかも?
霧矢 でも私、宝塚の時からそんなにモテキャラがなかったので、ちょっと照れが出ちゃうんですよ。1月のミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』でも男性をはべらせる役だったので、2019年上半期の霧矢大夢は、男女ともに人生最大のモテ期なんですよ!
紫城 (爆笑)
──久々に共演してみて、お互いの変化などはありましたか?紫城 あまりないですね。霧矢さんはあいかわらずサッパリしてるなぁと思いました。ずっと変わらない。でも、蓄積されたものはすごいなと感じます。宝塚を退団して、いろんな舞台に立って、深さや幅が広がっています。それらが積み重なってきたなというのは稽古で実感しています。もともと霧矢さんは宝塚の枠にはまらない方だったんですよ。ダンスも飛び抜けて上手で、歌も上手くて、なんでもできますという魅力のある方。
霧矢 褒めなくてもええで(照)
紫城 いや、そうなの。それがさらにフィールドが広がって新しいものが吸収されて、違う魅力が出てこられたんです。
霧矢 るいちゃんだって、年齢を重ねて、結婚して子どもを産んで、きっと母性も培われて、さらに女優としての蓄積も感じられます。そもそもるいちゃんは、愛嬌のある容姿ですけれど、あまり宝塚っぽくない人だったんですよね。夢見るタイプじゃなくて、娘役でも問題を抱えているような深みのある役が多かった。闇があって、幸薄くて……
紫城 そう。お姫様じゃなかったんです。
霧矢 私はそれがすごく好き! そんなドラマチックな役を演じられるところにるいちゃん自身の人生経験が積み重なって、深さが増しています。お互いに大人になったからこそできる表現があるので、同じ舞台の上で、宝塚時代の先輩後輩の関係も気にせず、同じフィールドでやろうねと言っています。
紫城 でもね、なぜかちょっとだけ当時の関係が出ちゃうんです。しょうがないのかなあ。
霧矢 出てるね(笑)でも、打ち破っていこう。遠慮せんといてね。
紫城 はい、 遠慮なくルルを追いかけ回すようにします!
◆ 新聞社の編集長シェーンに拾われた少女ルル。シェーンの愛人になり、老博士に嫁がされたルルは、カメラマンや女流画家、シェーンの息子の劇作家アルヴァなど、彼女を取り囲む男と女の心を惑わし、破滅へと進んでいく…。
ドイツ出身の新鋭・小山ゆうなさん(『チック』で読売演劇大賞優秀演出家賞、小田島雄志翻訳戯曲賞受賞)による演出、松田眞樹さんによるオリジナル音楽、霧矢大夢さんのダンスシーンにも期待が高まる舞台『LULU』。いよいよ開幕です!