宝塚歌劇 星組『鎌足-夢のまほろば、大和(やまと)し美(うるわ)し-』観劇レポート

 記憶に残るトップスター、それが紅ゆずる。観劇後に浮かんだのはそんな思いでした。

 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演中の宝塚歌劇星組 『楽劇(ミュージカル)「鎌足-夢のまほろば、大和(やまと)し美(うるわ)し-」』観劇レポートをお届けいたします。


主演は、次回大劇場作品での退団が発表されている星組トップスターコンビ、紅ゆずるさんと綺咲愛里さん

 日本の歴史のなかで、長く権力の中枢にあり続けた藤原氏。その始祖である中臣(のちに藤原)鎌足の生涯を、宝塚歌劇らしい想像の翼を広げて描いたこの作品。紅ゆずるさんと綺咲愛里さんのおふたりならではの関係性の魅力、そして“星組に残していくもの”を強く感じさせる、作り手の愛情あふれるオリジナル作です。

 蘇我入鹿を滅ぼし、中大兄皇子とともに大化の改新をすすめた中臣鎌足は、古代日本史上の重要人物のひとり。しかし『あかねさす紫の花』などの宝塚歌劇作品や、その他のフィクション作品でも、影の黒幕的なダークな描かれ方であったり、やや地味だったりと、エンターテインメント作品の主人公にはなりにくい印象でした。

 その鎌足を宝塚歌劇の主人公に。しかも主演は紅ゆずるさんと聞いて「なるほど、そうくるか!」と膝を打ちました。これはあくまでもおけぴスタッフの個人的見解ですが、紅ゆずるさんといえば、カッコつけない姿がカッコいい、情けない表情が切ない、必死で笑う心意気で泣かせる、そんな天賦の才能をお持ちの方。作演出の生田大和さんが描いた本作での鎌足は、まさにその紅さんの魅力を大きく引き出す、コンプレックスいっぱいで、運命に流され、けれども決してゆずれない愛を貫いた人物でした。
 

鎌足初登場15歳!教科書で学んだこの先の真実を知っているだけに切ない笑顔です。
写真左から:蘇我入鹿(鞍作)役・華形ひかるさん、中臣鎌足役・紅ゆずるさん、車持与志古郎女役・綺咲愛里さん

 一幕で描かれるのは、同じ学塾で学び友情を育む鎌足と入鹿の少年時代から、やがて政治、権力の力、そして愛を知ったふたりが道を分かち、乙巳の変が起こるまで。

 最新の大陸文化として仏教が伝来した飛鳥時代。鎌足の生まれた中臣家は神道の神祇官を務める家柄。仲間たちから馬鹿にされ、自分の生きる道を自由に選べない窮屈さから、すっかりいじけている少年鎌足を、紅さんがくるくると変わる表情で繊細に演じます。

 綺咲愛里さんが演じるのは、有力豪族の娘で、のちに鎌足の妻になる幼なじみの与志古(よしこ)。お互いにからかい、ふざけ合う姿に「ああ、このふたりは相性ぴったりなんだな」と見ていて微笑みが浮かぶほど(役柄も、トップコンビとしても)。愛らしい笑顔に、鎌足ならずともメロメロに。二幕クライマックスで見せてくれる強さとの対比もお見事。綺咲さんの2つの魅力が引き出されています。

 時の権力者・蘇我氏の嫡子である入鹿を、抜群の存在感で演じるのは、専科の華形ひかるさん。前回、星組に出演した『ANOTHER WORLD』での“びんちゃん”こと貧乏神役とは全く違う役柄で、スターの貫禄を見せてくれます! 大悪人として描かれることが多い入鹿ですが、本作では正義感のある秀才で、少年時代の鎌足に“志”を教えるという役柄。子供時代、学塾の机に座っている姿からすでに只者ではないオーラが醸し出されている華形・入鹿。そんな入鹿が修羅の道に落ちていくのは、ある人への愛を知ったからなのでした…。


二人の視線の絡まり合い、そして…音と照明、演者の動きが合わさって作られる劇的空間。一幕の大きな見どころです!
左から:蘇我入鹿役・華形ひかるさん、皇極帝役・有沙瞳さん

 入鹿がすべてを捧げることになる皇極天皇を演じるのは、実力派娘役の有沙瞳さん。即位の儀式で姿をあらわすときの、あでやかな美しさ! 手を触れることが許されない存在から、愛を求める女性へ。声色や体の動きをたくみに使い分ける演技に唸らされました。足元に倒れた入鹿に背を向ける皇極の苦しげな表情も必見です。

 入鹿と皇極帝、そして鎌足の運命も変えてしまう、皇極帝寝所の場面の振付を手がけたのは、日本舞踊家の藤間勘十郎さん。歌舞伎作品の振付師としてもおなじみの勘十郎さんが、宝塚歌劇と出会うとこうなるのか! と嬉しい驚きに満ちた場面です。歌舞伎的見せ方と、歌劇ならではのロマンチシズムのバランスが絶妙。愛に流されていくふたりの姿から目が離せません。



写真中央:中大兄皇子を演じる瀬央ゆりあさん。
育ちの良さ、若さを感じさせる一幕から、権力を手にした二幕への表情の変化に注目です。

 同じく藤間勘十郎さん振付の飛鳥寺の場面で、天命に導かれるように鎌足と出会う中大兄皇子役は、これからの星組での活躍が大いに期待される男役スター瀬央ゆりあさん。蹴鞠(けまり)の振付がなんともかわいらしい中大兄皇子。はじめは若く自信のない様子を見せますが、次第に権力者としての力と恐怖を認識し、皇極帝の思惑にのせられ、とんでもない要求を鎌足に突きつけることになります。(中大兄皇子の得意技(!?)といえば…『あかねさす紫の花』をご覧になった方ならもうおわかりですね?) 瀬央さん、この一幕から二幕にかけての変化が秀逸。物語のクライマックスで、ある真実をさとった瞬間の表情、セリフ無しで心の内を表現する中大兄皇子に注目です。


中臣という名を嫌い、新たな名を希望していた鎌足ですが、名よりももっと大切なものを奪われ…紅ゆずるさんの迫力の演技に引き込まれます!

 鎌足と入鹿の関係を中心に、乙巳の変までを一気に見せる一幕。そして権力を得た中大兄皇子と鎌足の“志”、そして与志古も巻き込み、鎌足の“ゆずれないもの”を強烈に見せてくれる二幕。万葉集にもおさめられている鎌足の歌「われはもや 安見児(やすみこ)得たり 皆人の 得かてにすといふ 安見児得たり」が、まさかあんなシチュエーションで登場するとは! 史実がどうであれ、舞台上で苦しげに歌を詠む紅・鎌足の姿は、確実に観客の心にのこるはず。笑っているようで泣いている、紅ゆずるさんの真骨頂ともいえる演技が胸を打ちます。思い合う鎌足と与志古を羨ましいと言う安見児役に抜擢された星蘭ひとみさんも硬質な持ち味を生かした適役です。

 『天皇記』『国記』を編纂し「歴史は勝者によって作られるもの」とうそぶく恵尺(えさか/天寿光希さん)と、幼い日の鎌足と入鹿に学問を授けた僧、旻(みん/一樹千尋さん)。ふたりがこの世ならざるところで語る鎌足の生涯は、まるでそのまま紅ゆずるさんの宝塚人生と重なるようで(と、もちろんこんなに血なまぐさくはありませんが…)、さまざまなことを乗り越え、飛鳥の夕日に照らされながら微笑み合う鎌足と与志古の柔らかな表情に、思わず涙を誘われました。

 新元号とともに開幕した、日本初の元号「大化」をめぐる物語。元号といえばお約束(?)の“あれ”(美稀千種さんの表情に注目♪)、トップコンビによるさりげない壁ドン、次回大劇場作品とのクロスオーバー設定(!?)など、ファンを喜ばせるお楽しみも満載です。上演時間は約2時間45分。5月13日(月)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演中です。(東京公演は5月19日(日)から25日(土)まで日本青年館ホールにて)
 
 歴史は書かれるもの。であれば、こんな「もしも」をたくさん盛り込んだ物語もまた歌劇の歴史。トップスター紅ゆずるさんが星組に残していくものをぜひ劇場でお確かめください!

宝塚歌劇 星組 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演
楽劇(ミュージカル)
『鎌足-夢のまほろば、大和(やまと)し美(うるわ)し-』

作・演出:生田 大和
主演:紅 ゆずる、綺咲 愛里  

梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
公演詳細(宝塚歌劇公式サイト)

おけぴ取材班:mamiko(文/撮影)   監修:おけぴ管理人

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