ミュージカル『ラ・マンチャの男』に、ドン・キホーテ(=キハーナ)とともに旅をする従僕、機知に富みとってもチャーミングなサンチョ役でご出演の
駒田一さんにお話をうかがいました。
【それぞれの感じ方でいいと思うんです!】
──床屋役からサンチョ役になられたのが2009年、サンチョ役として10年が経ちました。 実はその前があってね。僕が『ラ・マンチャの男』に初めて出演したのは1995年の青山劇場での公演からです。その時は荒くれ者のラバ追いを演じていました。それから24年、本当に長く携わらせていただいています。
──駒田さんが思う本作の魅力は。 とにかく感じるものが多い作品、言い換えれば未だに理解しきれていない作品という点かな。
僕らの仕事って、夢を追いかけ、夢を希望や現実に変えているようなところがある。それを生業にしている人間にとって教科書のような作品なんです。だからこそ、実は、やればやるほど難しく、考えさせられるんですよ。
僕が『ラ・マンチャの男』を最初に観たのは20歳くらいだったかな。その頃は、いわゆる華やかなショーミュージカルが好きで、正直、この作品の全てを理解できたとは言えなかった。でも、まず音楽に惹きつけられたんです。その匂いというか熱量というか。そして、理解できなくても、僕の中に強い強い“何か”が残ったんです。そこからご縁があって、こうしてカンパニーの一員となることができた。だからなのか、参加するたびに胸の奥のほうがキュンキュンするんです。それと同時に背筋がビシッとね(笑)。
──劇中に出てくる「一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に折り合いをつけて、あるべき姿のために戦わないことだ」という言葉には、いつも背筋がビシッとなります。 それなんですよね。ついつい折り合いをつけてしまうんです。「それではいかん!」と思わせてくれる素晴らしい本、素晴らしい作品です。
──多層構造も本作の魅力です。そこに難しさもあるのですが。 僕がそうだったように、初めてご覧になったお客様が全てを理解するのは難しいかもしれません。ただ牢屋のお話から、ドン・キホーテのお話へという二重構造はわかりやすいですよね。そこから、騎士道物語を読んだ老人キハーナが周りから狂人扱いをされながら、ドン・キホーテとして己の真実を求める旅に出る。現実と妄想の世界がもうひとつの層、「風車を巨人だと思いこみ突撃する遍歴の騎士」、その様子はまるで「スカイツリーに向かってちょんまげを結った侍が戦いを挑んで進む」というような感じでしょうか。そんな様子をユーモアを交えて見せながら、「事実は真実の敵だ」、真実ってなんだろうという哲学的なところへ向かっていく作品。
でもね、構造の難しさって確かにあると思うんだけど、どんな作品でも100人いたら100通りの見方があるでしょう。どの部分をどう見るか、それぞれの感じ方でいいと思うんですよね。
この多層構造にもつながる話が実は台本の序章にあるんです。ドン・キホーテ物語を演劇でやるのは不可能なのではないか。作者のセルバンテスに焦点を当てたほうが面白いということをマドリッドで感じ書き始めた…。そんなお話から始まる『ラ・マンチャの男』作者デール・ワッサーマン氏の言葉が非常に面白いんですよ。なるべくしてこの構造が生まれた。非常によくできているんです。
【突き詰めていくことは素敵なこと】
──人生の教訓たる素晴らしい言葉に溢れた作品。文語調というか、その心地よさもあります。 独特の台詞回しがありますよね、これはすごいこと。今はなかなかこういう語り口の作品ないですからね。でも、決して古いものをそのままやっているわけではないんです。旦那様(白鸚さん)が仰っているのは固定観念にとらわれてはいけないということ。前回は特に、原語(=英語)で何と言っているのか、この日本語訳がベストなのかというところへ立ち戻りながら稽古を進めていたことを覚えています。50年やっている方がそうなんですから、僕らも決して現状に満足し、折り合いをつけてはいけない。そうやって旦那様を筆頭にカンパニーは戦い続けているのです。これはどの作品でも通じる精神です。そんな旦那様の姿を見ていると、突き詰めていくことは本当に素敵なことだと思います。そこからすでに旦那様とサンチョの関係みたいですよね。
そして、50年以上前に誕生した作品と聞くと、古き良き時代のミュージカルかと思われるかもしれないけれど、現代にも響く古さを感じさせない作品です。若い方にもどんどん見てもらいたい。感想は「難しかった」ひと言でもいいんです。じゃあ、何が難しかったのか、そこから何を考えるのか。この作品は、「人間とは、人生とは何ぞや」という哲学的な作品。簡単にわかるテーマではない。でも、人生の節々で“感じる”ことのできる作品なんです。だからこそ、2回目には2回目の、3回目には3回目の見え方があるんですよ。
──駒田さんの人生と『ラ・マンチャの男』、たくさんのエピソードがあると思いますが、ひとつお話しいただくとしたら。 本当にたくさんあるのですが、初めて出演した95年。6月の公演だったのですが、5月に父親を亡くしたんです。稽古中も病院へ顔を出しながらという感じで。稽古も本番も、キハーナの言葉と親父の言葉がダブるようなところもあり、たまらなかったですね。まさか自分がこの作品に携わることができるなんて…というところから24年、親父が『ラ・マンチャの男』と引き合わせてくれたのかなと思うことがあります。
──本当に「ご縁」ですね。続いて、サンチョ役への思いは。 ほかの作品、ほかの役については客席から見て、この役をやりたいなと思うことがあるんです。でも、サンチョはそういう役ではありませんでした。作品自体に対しても、あのカンパニーに自分の居場所はないだろうと思っていたところがあります。それってある意味ジェラシーだったんだろうな(笑)。そこから幸運にもラバ追いとしてカンパニーの一員となって、『ラ・マンチャの男』を経験していくなかでサンチョ役をやりたいという思いが芽生え、それに向かって頑張ってきたところがあります。
【苦労の先に楽しさがあるから】
──『ラ・マンチャの男』といえば、舞台中央に表れる“階段”も印象的です。 旦那様が颯爽と階段を上がっていく姿がカッコイイですよね。実は……サンチョ役はその前を行くので見ることはできないんだけど。ラバ追いや床屋をやっていた時は毎ステージあの姿にグッときていました。毎回、号泣ですよ。
──2019年の『ラ・マンチャの男』は。 今年は日本初演50周年記念公演です。カンパニー全体を見るとキャストもだいぶ変わります。また新しい発見にあふれた稽古場になるんじゃないかな。
──駒田さんにとって「見果てぬ夢」とは。 いつまでもお芝居に携わり続けるということかな。僕が生きる場所はやっぱり劇場、舞台、稽古場なんですよね。そのためには健康管理も必要だし、苦労もしたい。苦労の先に楽しさがあるから。
「苦しみを苦しみで終わらせるのではなく、苦しみを勇気に、悲しみを希望に変えるのが俳優という職業」、これはそのまま白鸚さんの言葉なのですが、僕はこの言葉に感動しているんです。やっぱり旦那様は偉大です。だから、僕も夢を夢で終わらせるのではなく現実にしていくそのための努力を続けていこうと思います。そして、漠然としているけれど、これからも新たなことに挑戦したい!
──素敵なお話をありがとうございました!公演がますます楽しみです。<『ラ・マンチャの男』台本の序章が興味深いとのお話がありました> 英語の台本が家にあったことを思い出し、辞書を片手に読んでみたところ、確かに面白い!テレビ版に90分の演劇として誕生したのちにミュージカルになった。創作は“冒険”だった。まさにドン・キホーテ流の夢を共有した人々の粘り強さによって作られた。などなど『ラ・マンチャの男』自体が、それに携わる人々の見果てぬ夢が結実したものなのだということを感じさせる素敵な序章でした!
「観劇が体験になること」を実感する『ラ・マンチャの男』、
2019年10月26日(土)12時@帝国劇場にておけぴ観劇会開催です!まさに“ラ・マンチャの男”その人 松本白鸚さんと機知に富んだ駒田一さんのサンチョの名コンビはもちろん、人生哲学の詰まった作品を体験しましょう!!
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影)