KANATA LTD.主催
『伊礼彼方の部屋vol.3~川口竜也×上原理生×伊礼彼方~』が開催されました。
公演のアフタートークより自由で、オモシロ楽屋話からディープな演劇論まで話題の振り幅特大のトークイベント
『伊礼彼方の部屋』。3回目にして初の東京開催!今回は、帝国劇場にて上演中のミュージカル『レ・ミゼラブル』にて同じジャベール役をトリプルキャストで演じる
川口竜也さん、
上原理生さんをお迎えして“星の下に生まれた我らがしゃべーるトークショー”(笑)!これはいったいどんな話が飛び出すのか…まずは部屋主、
伊礼彼方さんの登場です。
伊礼彼方さん
「いつもは公演後の劇場を使ってイベントを開催してきましたが、今回はこのような形での初めての開催です。(超満員の会場を見て)こんなにたくさんの方にお集まりいただきありがとうございます」
そして早速この日のゲストおふたりが登場です!
左より)川口竜也さん、上原理生さん、伊礼さん
海外での観劇にはじまり、ずっと先輩たちの『レ・ミゼラブル』を観てきて2013年の新演出版初演で、ついにジャベール役を勝ち取った川口竜也さん。2011年に『レ・ミゼラブル』アンジョルラス役で鮮烈なデビュー、今回は役替えでジャベール新キャストとしてご出演、「もう革命は……」「昔は俺も戦った」その言葉に会場が深く頷く(&沸く)上原理生さん。そして、『レ・ミゼラブル』カンパニー初参加の伊礼さんというキャリアもタイプも違うお三方なので、それぞれの視点からのお話が興味深くあっという間の1時間半でした。
【稽古場にて】
伊礼:今回改めて感じたことですが、トリプルキャストでの稽古は大変ですね。
川口:稽古期間はほかの作品とそれほど変わらないからね。それをトリプルキャストでというのは、どう考えても時間は足りない。その中で、ちゃんと初日を迎えられるようにスタッフの皆さんがスケジュールを組んでくれているのだけど、俳優にとってはやはり絶対的に足りないという状況。ましてはじめての人はね。
上原:特に今回、ジャベールは3人中2人が新キャスト。
伊礼:そうなんですよ。そういう状況だから先輩が…、なんて言うか一歩身を引いてくれるのかなと思ったら(笑)。僕らが稽古場に行くと、すでに先輩が手袋をはめてスタンバイOKみたいな。
川口:別に「絶対、俺が最初にやるから」ってわけじゃなかったんだけど…。
伊礼:あの光景を見たら、「俺たちやります」って言えませんから(笑)。
上原:(苦笑)
川口:だって…おっさんだから朝起きるのが早いんだよ(笑)!つい稽古場に来るのも早くなって、早々にアップも終えてしまう。ひと汗かいて立ち位置の確認でもやっておこうかなと思う頃に、ふたりが来るんです。
※決しておふたりが遅刻したわけではありません
上原:そして、一度稽古が始まると1つのシーンをたっぷりと時間をかけてやるので、なかなか次の人に順番が回ってこないんですよ。
伊礼:そうそう、つまり今回の問題は。
川口:俺か?!(笑)
会場:(笑)
伊礼:いやいや、そういうことではなく(笑)。一回稽古をして、その後それぞれがオーダーをもらう。でも、それを試せないまま次の稽古を待たないといけないということ。しかも次に自分が稽古できるのは2日後や3日後。
川口:そうなんだよね。今回に限ったことではないんだけど、もらったオーダーに対してこちらの意見も入れた新たなプレゼンテーションを、その場ですることができない。お互いに前回のやり取りの記憶や熱の鮮度は落ちてしまうからね。実はクリス(演出補のクリストファー・キー氏)もトリプルキャスト編成のカンパニーで演出をするのが初めてで、彼も最初は戸惑っていたんですよ。
上原:その都度試せないジレンマは確かにありましたね。
伊礼:いやー、理生くんはすごいよ。ジャベールとしては新キャストだけど、作品には長く関わっているだけあって音楽も世界観も知り尽くしているから。ジャベール再演ですかと思うくらい。それに比べて、俺はあまりにも…。
川口:彼方、ぶっ飛んでいたよね(笑)。
伊礼:稽古場で俳優がお互いに引き出しを見せあって、相手の出方によってこう返していこうと芝居を構築していく。これまでの自分のスタイルが全く通用しませんでした。色々と試そうと思っていたら、驚いたことにいきなり全員動きも台詞もしっかりと入っているじゃないですか!
僕は事前に行われるエコールに参加できなかったので、稽古初日にシュガー(ジャン・バルジャン役新キャスト佐藤隆紀さん)がプロローグの20分くらい歌い続けているのを見てビックリしましたよ。こっちはほんの数行の台詞で右往左往(笑)。そこからもう大変。必死でした。
川口:彼方の作り方は役者としてはあっているんですよ。芝居は身体から作るものではないからね。役について考えて考えて、そして相手とコミュニケーションをとることではじめて手が動くというのが本当。ずっとそうやって“生の感情”で動いてきた人が、つけられた動きをしている中で芝居をしようとしても台詞は出てこないと思う。彼方のことだから、動きと内面の整理がつけば大丈夫だろうと思ってはいたけど。
伊礼:それを見た川口さんが「彼方、やっていいよ」と言ってくれて。
川口:これは…と思って。気づくのが遅いよね(笑)。
伊礼:いえいえ、感謝しています。ただ、稽古は大変でしたが、本番になるとマルチキャスティングの良さを実感しています。それは相手役も変わるから。バルジャンが変わると受け取るものも全然違うんです。理生くん、その辺はどう?
上原:毎回新鮮です。あとですね、(吉原)光夫さんとやると疲れます(笑)。あの方、びっくりするくらい力が強いんです。対決が終わってからの汗や息切れがすごくて(笑)。何を仕掛けてくるのかわからない緊張感も半端ないですし。翌日はシュガーくんとでしたが、気迫は彼もガチでしたが、こと“腕力”については格段に楽でした。
伊礼:光夫さんとの対決はまるで熊と子鹿状態。引っ張る力がすごいんですよ。(ふーんという表情の川口さんを見て)川口さんはもともと力が強いんですよ。光夫さんや福井(晶一)さんがそう言っていましたから、相当です。川口さんから見たバルジャンの違いは。
川口:よくブロックの積み方で表現するんだけど、これまでは「福井晶一とは『レ・ミゼラブル』という作品をふたりできちんと積み上げていきましょうという感じで、吉原光夫とは俺はこうするけれど、お前はどう積む?そうかお前がそうやるなら、今度は俺はこうやるという感じ」と話していたんだよ。それが今年は晶一がちょっと違う。積み上げる角度を微妙に変えてきたりして、それがすごく面白い。
伊礼:僕も最初に本番で福井さんと組んだ時、受け取るものがほかのふたりと全然違ってビックリしました。一瞬、バルジャンってこういう人だっけ?!って困惑したんですが、よくよく考えると、福井さんが一番…なんて言えば伝わるのかな、原作っぽいというか。ガッと詰め寄ってくる時の目つきが見たことのないもので。俳優としてカッコいいと思いましたね。光夫さんは、原作を踏まえて独自のアプローチを試みているような気がしますし、シュガーは最初の場面でいかに囚人であるか。彼は本当に品があって優しいから、芝居でそれを打ち破る努力をすごく積んでいると思います。こういう僕らが感じている3人のバルジャンに対峙するときの違いの面白さ、きっとお客様もそういうところを楽しんでいるのかもしれませんね。
会場:拍手!
川口:きっとバルジャンの3人も、全然違うジャベールで大変だと思っているかもしれないね。俺たちもかなり違うから(笑)。
【ほかの役を演じるとしたら】
伊礼:これはお客様から寄せられた質問、「レミゼでほかの役をやるとしたら、どの役がいいですか」。
川口:僕はアンジョルラスをやってみたいですね。あの死に様に憧れます。
伊礼:僕もそうです!ただ、前に観た時はマリウスとコゼットのシーンを、「なんて甘ったるいんだ、『ああ無情』にこんなシーンいる?」と思ったんです(笑)。でも、この歳になると彼らは希望の光、それこそが彼らの役割なのだと。特によく組んでいた三浦宏規くんと熊谷彩春ちゃんのマリウスとコゼットが本当に初々しくて眩しい!正直、もう見ていられなかったの。おじさんタマラナイって!!
上原:じゃあ伊礼さんの答えはマリウスということで。
伊礼:この歳でマリウス…(笑)。まぁ、コゼットでもいいですけど。♪パパ~パパ~(歌いだす) 理生くんは。
上原:リトル…
伊礼:まずヒゲを剃れ!
上原:失礼しました(笑)。テナルディエやマダム・テナルディエという存在も興味深いですよね。
川口:そうなんだよね。実は俺、テナルディエでも受けたことがあるんだ。本当にテナルディエは興味深いよね。
伊礼:ちなみに理生くんは、僕らが憧れるアンジョルラス経験者だけど最初にオーディションを受けた時はマリウスも受けたの?
上原:マリウスは受けていません。初恋は無理だなと…、あの感じは自分には難しい。
川口:そうやって一瞬想像しただけで、すでに照れちゃってるし。かわいいな。
上原:だって、あんなのドキドキするじゃないですか~。壁乗り越えてバルコニーに小石投げたり。
伊礼:今の上原理生で見てみたいよ。確実に、あの門の柵がバリケードに見えるだろうね。小石を投げるといっても本格的な投石ね。バリーンみたいな(笑)。
上原:やっぱりそうなりますよね(笑)。
※ここからはガッツリ作品の核心に触れます。【ジャベールの孤独】
伊礼:こちらもお客様からの質問「『レ・ミゼラブル』では、ジャン・バルジャンとジャベール以外は本役のほかにもいくつもの役を演じます。バルジャンやジャベールは影コーラスなどもしていないのでしょうか」ということですが。
川口:していないですね。
伊礼:逆にどうして複数の役を演じるのかについて人づてに聞いたのですが、悲惨な境遇の役と明るい役の両方をやることでバランスが取れるという言葉が腑に落ちました。
上原:それはアンジョルラスをやっていた時に感じました。体力的にも精神的にも死ぬ(芝居)というのはとても消耗するんです。でも、その後に給仕で出てくることで、ちょっと浮上するんです。なんだか救われるような。給仕に関しては好きにやっていいと言われているので。
伊礼:だからか…、相葉くんが時々すごいことに(笑)。
上原:みんな自由にやっていますね。
川口:その点、俺らは死んで終わりという。
上原:それも自殺ですよ。あれは本当にキツイ。エピローグにも出ることなく、一人さみしく終わっていく。実際にやってみて、この人はこんなにさみしい人なんだと改めて感じますね。
川口:以前、鹿賀丈史さんが「ジャベールは孤独だ」と仰っていたことを思い出した。
伊礼:孤独…、本当にこんなに孤独な役はないですよ。
川口:ほとんど人との絡みもないから2幕頭の学生に紛れ込んでみんなでワーッと行くところ、楽しいでしょ。
伊礼:すごい楽しい!袖で誰かとしゃべることもないんですよね、ジャベールは。
川口:そうだね、いつも一人で出て行って場面を変えなくてはならいんだよね。
伊礼:そう!自家発電のエネルギーが必要なんです。2幕からは、ほかの人が作ったエネルギーに乗って芝居をしていけばいいから。エネルギーの循環としては少し楽になります。
上原:だから「スターズ」を歌い終わるとひと仕事した気がします。そこからは流れに乗れば大丈夫と思えるので。
伊礼:なんかいいですね、俺だけじゃないんだって思えて。本番が始まるとなかなかゆっくり話す時間もないですからね。
【ガブローシュの死】
伊礼:次は「ガブローシュの亡骸を前にどんな思いこみ上げてくるのか」について話しましょう。
上原:まず、その前の流れからお話しすると、バリケードで捕らえられたジャベールはバルジャンによって逃がされます。そこで人の善意に触れたことでジャベールの精神にヒビが入るんです。そして、僕はバリケードが崩壊していく一部始終を下手の袖からずっと見ているのですが、小さなヒビをきかっけに世界は一変し、バリケードにいるガブローシュの姿を見た時に「俺も昔はあんな子供だった」という思いが生まれる。そこからガブローシュが撃たれ、一方で撃っている人は反逆の芽を摘むという彼らの正義に従っているだけ。その全てに胸が痛み始めます。ガブローシュの亡骸を見た時はそういった思いが溢れるのと、これは理屈を抜きに一人の戦士への称賛の思いが沸き起こります。
川口:俺もずっと舞台袖から見ているよ。やっぱり自分の核となるものにヒビが入るけれど、それでも自分の正義、つまり罪を裁くということを貫く。バリケードを築きそこに居る人間は裁かれるべき、死も仕方がない。だから、それが実際の指揮系統として正しいかはわからないのですが、ガブローシュを撃つ、学生たちを撃つ、動くものは全て撃てと命令を下しているのは自分だと思っている。袖で撃てと言い、殺させた。だからその後、バリケードを降りて亡骸をみたとき自分は十字を切ることができない。そこで、もう一つヒビが入る。ガブローシュの存在、そして彼の死はとても大きい。彼方は?
伊礼:ガブローシュ、マリウスもそうなんだろうけど、自分から見たら子供のような彼らを見てジャベールがずっと心にしまい込んでいた人間の部分が解放される。罪を裁くのが正義、その前では誰であろうとも容赦はしない。死んで当たり前だと思っていた敵の子供の死を目の当たりにし、その抑えが効かなくなる。気づくと僕はガブローシュの亡骸に手を触れています、無意識に。そして、自分でもよくわからないのだけど、触れた瞬間にバルジャンのせいだという思いが沸き起こってくるんです。
上原:それ、わかりますよ。あそこで、こんな状態になったのは全てバルジャンのせいだと。
伊礼:川口さんはそこで「バルジャーーン」と叫んでいらっしゃいますよね。
川口:はい、そうさせていただいています(笑)。やっぱりいろんな思いがよぎりながらも最終的に口をついて出てくるのは「バルジャン」なんだよ。
伊礼:向かう先はバルジャン、それは一緒なんですね。理生くんはそこでは。
上原:バルジャンのせいだというのも含め、どうにもならないはじめて沸き起こった感情に対する表現として「ぐわぁーー」って、獣の方向ですね。
伊礼:俺はバルジャンへの気持ちが空回りして、フンガフンガ言っている。
川口:なんだかんだ結局3人ともベクトルは一緒なんだよね。それぞれの話を聞いていて思った。
上原:ゴールは一緒だけど通り道は違う、でも、それぞれ成立しているということですね。
川口:だからクリスはなにも言わなかったんだろうね。それをよしとしてくれた。
【9月の大千穐楽まで、どうありたいか】
伊礼:では、最後に2019年の『レ・ミゼラブル』公演は9月の札幌公演まで続きます。
川口:本番を重ねていく中で自分に起きた変化を素直に受け入れ、常に客観的な視点を持ちながらロジカルに再構築し続けていきたいと思います。
上原:どうありたいか。僕にはまだ、それを掲げられるほどの力がありません。一回一回を精一杯務めて、それを続けていったその先、札幌で自分がどうなっているのかを僕自身も楽しみにしています。
伊礼:僕は、1つの役をじっくりと掘り下げてみたいという思いもあり、長期公演である『レ・ミゼラブル』に出たいと思いました。今思うのは、もし許されるなら再演、再々演とまたこの役をやりたいということ。何の気負いもなく自由にジャベールを生きてみたい。川口さんや福井さん、光夫さんを見ていてそう思うのです。きっとご本人たちの中ではいろいろとあると思いますが、僕から見るととても自由に役を生きているんです。それが役者の醍醐味。今はまだジャベールであるために、ああしよう、こうしよう、それを作っている自分もいます。ただそこに居る、それだけでジャベール。いつかそこにたどり着きたい、そこからの景色を見たいと思います。
僕らカンパニー一同、毎公演『レ・ミゼラブル』に心血を注いでいます。スタッフのみなさんも自然に袖で口ずさんでいるくらい、みんなこの作品が大好き。そして、役者に関してもオーディションで役をつかみ取った人たちなのでそれぞれが強い思いを持っています。アンサンブルのみなさんの芝居への情熱も熱い!このエネルギーをどんどん増幅させていき、最終的に2019年のレミゼよかったねとお客様はもちろん、関わったすべてのみなさんにそう思っていただけるようにこれからも取り組んでいきます。ぜひ、最後まで見届けてください。本日はありがとうございました!
今回の会場は 丸の内vacans(バカンス)
HP/
Twitterさん、ご協力ありがとうございました!
【次回開催は博多!】
「伊礼彼方の部屋vol.4~相葉裕樹×伊礼彼方~in 博多」
あの頃は一緒にラケットを振ってたね・・・
それがまさか、バリケードで再会するなんて・・・
2019年8月18日(日)
Open16:30/Start17:00(博多座昼公演終演後、約1時間半予定)
博多座 エントランス
第一次販売はご好評いただき完売いたしました、ありがとうございます
6月16日(日)午前11時より「伊礼彼方official site」にて受付開始(先着)
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人