新国立劇場『骨と十字架』稽古場レポート~Keep Walking~

現在上演中


 小川絵梨子演劇芸術監督が就任して最初のシーズンのラストを飾るのは、野木萌葱さんによる書き下ろし『骨と十字架』。実在した聖職者であり古生物学者のピエール・テイヤール・ド・シャルダンの生涯を描く会話劇です。独自の進化論を探求するテイヤールと「人類は神が作ったものである」と説く教会、進化の道をたどることは神に反することなのか──。史実や実在の人物に着想を得て物語を紡ぐ作風に定評のある野木萌葱さんの新作を小川さんが演出!




 教会の教えと科学的事実の狭間で、己の真実を求め葛藤する。こう聞くと、多くの人が思い浮かべるのは17世紀初頭に自らが望遠鏡で観測した事実から導かれる地動説を唱えたことで異端の烙印を押されたガリレオ・ガリレイでしょう。

 『骨と十字架』の主人公ピエール・テイヤール・ド・シャルダンもまた信仰と学問の狭間で揺れ動いた人物です。20世紀初頭、古生物学者として北京原人の頭蓋骨を発見した聖職者テイヤールと進化論を否定していた教会関係者たち、師の処遇を案じる弟子、学者……。5人の男たちの会話劇はときに狡猾でときに真摯。



 先日、稽古場を取材して参りました。まず初めに、5人の司祭の会話劇と聞き、専門用語が飛び交って眉間にしわが寄ってしまうかな、宗教観とか違うからちょっと……というところは杞憂に終わったということをお伝えします!戯曲を読んでいても、「そうか、その立場だったらそう言うよね」「そこ畏れるんだね」「そうくるか!」と緊張感の中にもユーモアを交えたやりとりへの興味が次第に大きくなります。そしてお稽古を見ると、腹の探り合いのような“立場のある”人たちの生のやり取りにじっくりと耳を傾けたくなるような印象。





 物語の始まりはローマ、イエズス会本部。キリスト教の教義に反する考えを持ったとされる司祭テイヤールの処遇を巡る話し合いの場。

 この日の稽古はそこからもう少し進んだ第二幕、結局、北京へ赴任というか左遷されたテイヤールの主なき研究室の場面。そこでは弟子のリュバック(佐藤祐基さん)とイエズス会の総長(小林隆さん)がテイヤールについて語っています。



小林隆さん、佐藤祐基さん

 それぞれにテイヤールの身を案じる二人のやり取りは“静かに熱い”。なんとか師の力になりたいとすがるリュバック、それを受け止めつつもときどきいなすような知恵者の総長。教育や研究活動に重きを置いたイエズス会の総長たる余裕があります。




 堅苦しいわけではないのですが、心の動きを会話の中でじっくりと見せていくお芝居。ちょっとしたニュアンスの変化で印象が大きく変わります。それだけに稽古場ではいろんなことを試して生まれるものを1つずつ丁寧に拾い上げるような作業が繰り返し行われます。とても印象的だったのはリュバックに対して「彼(総長)を責めるときは、それと同等か、もしくはそれ以上に自分を責めるように」という小川さんの言葉。それによって生じた変化は、リュバックというキャラクターをより鮮明に浮かび上がらせました。それがその後の展開にも関わってくるのです。



 場面と場面の繋ぎについてはこれから作っていくとのことでしたが、大きなセットチェンジはなく、芝居の中で流れるように次の場面へ繋がっていくようで、そこも楽しみです。


 続いては、ヴァチカンの検邪聖省(かつての異端審問所)。ローマへ戻った総長と検邪聖省へ籍を置く司祭ラグランジュ(近藤芳正さん)の場面へ。



近藤芳正さん

 この総長とラグランジュのやり取りは独特の緊張感が溢れ……率直に面白い!旧知の仲の二人の腹の探り合いが、小林さんと近藤さんの芝居の仕掛け合いと相まってタマラナイのです。同じシーンを何度か繰り返すのですが、次は何が飛びだすのかワクワクする稽古です。歴史上の人物が、目の前に生きている人物になる瞬間。理性の鎧で完全武装する総長が、ラグランジュとのやり取りでは別の顔をのぞかせる。そんな二人の攻防戦にご期待ください。



ひとくせ、ふたくせありそうなラグランジュ
とはいえ、立場に忠実な発言という意味では一番正統派かも。


笑顔は武器
その笑顔の奥に秘められたものは……、腹に一物あるように見えてきます。
実は総長のほうが……?!


 突然座りこむ二人。すると小川さんから「その感じ面白いのでキープで」と。ただし、これも暫定。実際に稽古を重ねる中で取捨選択が行われて本番ではどうなるのか楽しみです。


 こうしてテイヤール不在のまま進む2つの場面、でも常に話題の中心にいるテイヤール(神農直隆さん)ってどんな人なの!と興味津々ですよね。そしてもう一人の登場人物、やはり司祭にして学者のリサン(伊達暁さん)とは何者!そこは……ぜひ劇場で!

 私たちは歴史的事実として、北京へ追いやられたテイヤールがそこで人類進化の決定的な証「北京原人の頭蓋骨」を発見することを知っています。未来を知っている立場から見る、司祭たちのやり取りという楽しさもある本作なのです。もちろん作品の本質は、頭蓋骨を見つけた!というところがゴールではなく、その先の思想にあるのですが。(当時、北京原人は、類人猿と人間を繋ぐ、その進化の過程を裏づける存在とされていた)

 そして、人類の進化を語るに欠かせない「二足歩行」。いつも楽しみな公演ちらしチラシにも、

ヒトは歩いたからこそ
跪くことを
知ったのかもしれない。


 ほかにも「歩」ということが比喩としてたくさんちりばめられている作品。信仰、進化、歩み、その先に……。テイヤールが信じる道から、あなたは何を感じるのか!劇場で味わってください。


【公演情報】
新国立劇場『骨と十字架』
2019年7月11日(木)~28日(日)@新国立劇場 小劇場
プレビュー公演:7月6日(土)7日(日)

<スタッフ>
作:野木萌葱
演出:小川絵梨子

<キャスト>
神農直隆 小林 隆 伊達 暁 佐藤祐基 近藤芳正

進化の道をたどることは神に反することなのか――
実在した、古生物学者・神父テイヤールが信じる道とは......

 進化論を否定するキリスト教の教えに従いながら、同時に古生物学者として北京原人を発見し、一躍世界の注目を浴びることとなったフランス人司祭、ピエール・テイヤール・ド・シャルダンの生涯。どうしても譲れないものに直面したとき、信じるものを否定されたとき、人はどうなっていくのか、どう振舞うのか。歴史の中で翻弄されながらも、懸命に、真摯に生きた人々を描きます。

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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