新国立劇場『骨と十字架』Keep Walking 観劇レポート~アダムとイブと蛇と北京原人とヒト~



新国立劇場では本日7月11日(木)に演劇「骨と十字架」が開幕しました。

進化の道をたどることは神に反することなのか────
実在した、古生物学者・神父テイヤールが信じる道とは......




左から)神農直隆さん、近藤芳正さん

 2018/2019シーズンの最後を飾る『骨と十字架』。本作は新世代の社会派劇作家として大きな注目を浴びている「パラドックス定数」の野木萌葱による新作書き下ろしです。

 進化論を否定するキリスト教の教えに従いながら、同時に古生物学者として北京原人を発見し、一躍世界の注目を浴びることとなったフランス人司祭、ピエール・テイヤール・ド・シャルダンの生涯。どうしても譲れないものに直面したとき、信じるものを否定されたとき、人はどうなっていくのか、どう振舞うのか。歴史の中で翻弄されながらも、懸命に、真摯に生きた人々を描きます。  

 演出を手がけるのは芸術監督でもある小川絵梨子。5人の俳優による濃密な会話劇にご期待ください!




【観劇レポ】


アダムとイブと蛇と北京原人とヒト──



ホワイエディスプレイより

 「信仰と学問のはざまで揺れ動く」、「立場の異なる5人の男の会話劇」と聞くと、互いの正義をぶつけ合う火花バチバチの論破合戦を予想される方もいらっしゃるかもしれませんがそれとはちょっと趣が違う『骨と十字架』。しなやかな強さがありました。もちろん議論を戦わせる場面もあるのですがあくまでも静かに熱い。穏やかな緊張感が張り巡らされているだけでなく、ときにポップだったりもするのです。あやとりのように目の前の景色が変わっていくワクワク。あの人の考え、この人の思いが構築する世界を楽しむ際には戯曲や演技に加え舞台美術、照明、衣裳、音響……そのすべてが重要な構成要素であることを改めて感じます。

 「この格好は久しぶりだよ」というテイヤール、そのシンプルないでたちが雄弁。衣裳は私たちにある情報を与えてくれるとともに、もしかしたらそこに惑わされているのかも……そんなことも感じます。「ヴァチカン」とか「検邪聖省」という言葉も距離を感じさせますが、テイヤールやリサンが赴任した中国の発掘調査の場面の服装からは「意外に最近の出来事?」なんて近しい印象も。(100年ほど前のことですが)

 と、本筋からはちょっと違うところをご紹介しましたが、本筋も見ごたえあり!信仰と学問の両方を愛した男、それぞれに愛した男。ひと言でこうも明確に“違う”ことが印象付けられるとは。「あなたの神はどこにいらっしゃる」その問いとそれに対する答えも忘れがたいものです。

 神農直隆さん演じるテイヤールはとてもニュートラルに存在します。内面の葛藤をお腹の奥のほうへグッと落として穏やかに語る。周囲が語ることで浮かび上がるテイヤール像も興味深い。そこにスパッと切りこむ学者リサン。伊達暁さんの強い声がイイ!!(一幕ラストなどうわぁ!と思いました。ここの照明も!) 師の身を案じるリュバックを演じるのは佐藤祐基さん。彼がテイヤールのために行った“あること”。リュバックのひた向きな姿に自然と共感していました。そして、小林隆さんと近藤芳正さんが演じる総長とラグランジュの二人。蛇とマングース?キツネとタヌキ?小気味よいやりとりはそれだけで楽しくなってきます。互いを知りつくしているからこその一撃に思わずニヤリ。

 小川絵梨子さんが新国立劇場演劇部門の芸術監督に就任して初めての書き下ろし新作、手掛けるのは野木萌葱さん。パンフレットにもありましたが「外国が舞台なんだ」という驚きは確かにありました。でも、翻訳劇とはちょっと違う、滑らかに作品世界へ入っていける感じがします。




 そしていつも楽しみな公演ビジュアル!今回も凝っています。そこからの情報を読み解くのも楽しくなってきます。天秤に乗せられたパンと赤ワイン、一方には頭蓋骨と白いユリ(ユリはそちらなんだとも思ったり)。その下にある言葉は「信仰か」「新考か」。うーん、なるほど!


公演をご覧になったおけぴ会員のみなさんの感想もご紹介いたします!



右から)神農直隆さん、近藤芳正さん

◆出演者が芝居巧者ばかりで、登場人物ひとりひとりにリアリティがありました。あと、正直、日本人の描くキリスト教には違和感を覚えることが多いのですが、舞台上の会話も出演者の立ち振舞いも、それらしく、安心して見ていられました。シンプルなセットも、とてもよかったです。

◆作品のすべてが美しく、強さがありました。演者のみなさんの丁寧かつ熱を持った台詞運びにはとても説得力があり、観ながら思わず頷いてしまいました。舞台の左右にある席だと、また全然違った見え方になるだろうと思うのでリピートしたくなります。そして戯曲が読みたい!

◆「ほねじゅう」というSNSでの呟きが気になり、信仰と科学の間で葛藤する人の話というザックリとした前知識のみで挑みました。面白かったー!なんという感情のぶつかり合い!己の信念を貫こうとするそれぞれの感情が、動揺や不安、畏れに揺れ動きながらも絡み合ってぶつかって、なおも信念に向き合う、静かで熱い会話劇でした。観てよかった。
キリスト教をベースとしない自分にとっては、人類の進化の過程に神が介在しないということがなぜ神の否定に繋がるのか腑に落ちなかったので(偶然の積み重ねこそ必然なのでは?)誰かに解説して欲しいです(笑)。

◆科学と宗教の関係を描いた作品。この二つが教条主義と不寛容と絡み合って物語が展開していく。20世紀初頭が舞台であるが、きわめて現代的な問題だ。部分しか見ることができない、全てを見ることがかなわない運命の人間が、神の視座を渇望するあまり科学と宗教を生み出したのかもしれないと思った。

◆台詞の一つ一つを集中力を切らさずに聞かなければならないが、最後まで飽きることがなかった。絶妙なタイミングでユーモアが散りばめられていて、休憩の後もコンパクトに作られていたのも効果的だと思った。

◆宗教や思想のお話は難しいかと思っていましたが、とても観やすくて楽しめました。実在の人物に着想を得て書かれたということで、なんだか翻訳劇を観ているような感覚でした。作家の目の付け所に感服です。5人の登場人物が個性的で、立場の違いや考え方の違い、キャラクターの違いもあって魅力的でした。

◆馴染みの薄いテーマではありますがテイヤールをメインにそれぞれのセリフの応酬が面白くキャラクターがわかりやすく描かれているので最後までテンポよく観られました。舞台美術、照明、衣裳、音楽も素晴らしいです。

◆前田(文子)さんの衣裳が好きなので今回聖職者の衣裳はどういったものになるのだろうと楽しみにしていました。黒衣は各演者に合わせたシルエットでとても美しかったですしボタンの羅列、裾の広がり方や動いたときにできる布の動きがいつまでも見ていたくなるものでした。

◆主人公テイヤールと共に中国(北京)へ追われたエミール・リサンの生活が自由で楽しそうでテイヤールもずっとここにいればいいのに…と思いました。

◆宗教や人類学にまったく知見がなくても、譲れないものが衝突したら…という誰にでも起こりうる話にも通じて、いろいろ考えながら見てしまいました。シンプルな舞台に照明や音楽が効果的に映えて美しかったです。

◆観劇後に、あれやこれやと考えるのが好きな人には是非オススメしたい作品。洗練された美しい舞台美術と衣装は、台詞に集中しじっくり考えることを助けてくれます。思っていたよりも台詞は難しくなく、宗教や進化論についての知識が深くなくても問題ありませんでした。




『骨と十字架』おけぴ稽古場レポートはこちらから
【公演情報】
新国立劇場『骨と十字架』
2019年7月11日(木)~28日(日)@新国立劇場 小劇場
プレビュー公演:7月6日(土)7日(日)

<スタッフ>
作:野木萌葱
演出:小川絵梨子

<キャスト>
神農直隆 小林 隆 伊達 暁 佐藤祐基 近藤芳正

進化の道をたどることは神に反することなのか――
実在した、古生物学者・神父テイヤールが信じる道とは......

 進化論を否定するキリスト教の教えに従いながら、同時に古生物学者として北京原人を発見し、一躍世界の注目を浴びることとなったフランス人司祭、ピエール・テイヤール・ド・シャルダンの生涯。どうしても譲れないものに直面したとき、信じるものを否定されたとき、人はどうなっていくのか、どう振舞うのか。歴史の中で翻弄されながらも、懸命に、真摯に生きた人々を描きます。

公演HPはこちらから

舞台写真提供:新国立劇場 感想寄稿:おけぴ会員のみなさま
おけぴ取材班:chiaki 監修:おけぴ会員

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