1969年、帝国劇場にてミュージカル『ラ・マンチャの男』の日本初演の幕が上がった。主演は市川染五郎。それから半世紀、2019年10月4日、松本白鸚襲名後初となる『ラ・マンチャの男』帝国劇場公演が開幕いたしました。
初演時は市川染五郎、松本幸四郎を経て松本白鸚として『ラ・マンチャの男』に挑む
日本初演50周年を迎える今年のラ・マンチャはサンチョの駒田一さん、牢名主の上條恒彦さん、カラスコの宮川浩さんらおなじみのキャストに加えて、瀬奈じゅんさんがアルドンザ、松原凜子さんがアントニアに初役で挑みます。(物語については後述)
【感想ご紹介】
まずは今年の公演をご覧になったおけぴ会員の方の感想、生の声をご紹介!
目の前に見えるのは城か旅籠か
「ラ・マンチャもミュージカル俳優としての白鸚さんを拝見するのもはじめてでしたが、喜寿を迎えても力強い歌声と、その人そのもののように自由に役を生きる姿に感動しました。きっと観る人の年代やその時の状況で受け取るものが変わる作品。未観の方はぜひご覧いただきたいです」
「私、ミュージカルが好きでよく観てきましたが、この作品は初めてでした。結果は今まで観なかったことをとても後悔しました。世界にただ一人の歌舞伎もミュージカルも高いレベルで表現できる白鸚さんと同時代に生きていることに感謝。舞台好き・音楽好きに関係なく、たくさんの方に観て感じてほしい作品です」
「初ラ・マンチャ。歌舞伎の方特有の癖があるだろうと思っていたのが申し訳ない!
白鸚さんの台詞の素晴しさ!!息継ぎも感じさせぬほど淀みなくしゃべり続けるのに、とても耳に心地よく心の奥底までしっかり届く。幾重にも入れ子になったストーリーが、役が、どの瞬間にも、しっかり観客に語りかけてくる・・・女性にとっては辛く悔しい場面もありますが、散りばめられた笑いは楽しい。上演時間も休憩なしの約2時間とコンパクト」
「世界最高峰のミュージカル!自分のミュージカルの概念が変わりました。白鸚さんの台詞や歌は生でぜひ体感していただきたい!フラメンコなどダンス要素も素敵でした」 ラ・マンチャとともに歩んでこられたみなさんからの言葉も熱い!
「染五郎・幸四郎・白鸚の遍歴の騎士を観てまいりました。自分の年齢とともに毎回違った感慨にひたり、涙が止まりません。自分が何者なのか、自分の生き方を問い直す演目です。歌舞伎座で観る高麗屋さんと帝国劇場で観る高麗屋さん。日々精進、尊敬いたします」
「『ラ・マンチャの男』は何度観ても観飽きることがない。
そこには人生の指針が見事に描かれているからだ。どんなに時代が変わろうとも、この物語の主題である『見果てぬ夢』は何ひとつ色褪せることなく、さらに重みを増して心に迫ってくる。1979年から観始めて今日まで50回近くは観てきただろうか。観るたびに新たな気付きがあり、魂が揺さぶられる。こんなに素晴らしいミュージカルに出会えたこと、そして導いてくれた白鸚という役者に心より感謝したい」
「50年目のラ・マンチャ、中学生の頃に初めて行った舞台でした。あれから早20年近く、感情移入するキャラクターが自分の成長とともに変わり、以前まったく刺さらなかった台詞が突き刺さることも長年上演される作品の醍醐味です。
そしてラ・マンチャは、いつも自分の中の夢見る自分を呼び覚まして、オトナになってしまった自分、それでいいのか?と、自身に問いかけてくれる気がします」【観劇レポート~ラ・マンチャの魅力再発見~】
丸い八百屋舞台、そこに舞台上方から降りてくる長い階段。大きなセットはそのくらい、装飾を削ぎ落としたシンプルな舞台です。そこで繰り広げられる芝居、白鸚さんが発する言葉は1800人の観客一人ひとりの魂に語りかけます。そして、その言葉に耳を傾けていると自己との対話を促されるような。とても稀有な体験。
ドン・キホーテの物語の劇化に際しオリジナルクリエイターが用いたメタ構造も非常に効果的。本作は、あくまでも「ドン・キホーテ」を書いた劇作家セルバンテスの物語。即興劇の最中も、時折、白鸚さんはドン・キホーテからセルバンテスに戻り囚人たちに語りかけます。そのコントラストが鮮やか!漆黒の闇のなかスポットライトを浴び、静まり返った劇場に響く白鸚さんの声、すなわちセルバンテスの言葉の力に圧倒されます。
そして、注目すべきは劇場での音作り。もちろんマイクを通しているのですが歌も台詞も“生”っぽいという印象も受けました。それは楽器についても。ギターの牧歌的な調べ、軽やかなフルートのさえずり、気持ちを高ぶらせるティンパニー……楽器本来の音色がシンプルに届けられることで目に浮かぶ景色。一方で、時折、アカペラ合唱で迫りくる歌声。あらゆるものがシンプル。演者、演奏者が発する言葉と音楽と観客の想像力で立ち上がるミュージカル、それが『ラ・マンチャの男』。
それまでの華やかなミュージカルショーのイメージと違い、「哲学的で難解であるがために再演は難しいと思った」、初演の思い出をそう語った白鸚さん。しかしその後、ブロードウェイから声がかかりマーチンベック劇場にて60公演を務め(英語上演)、日本でも凱旋公演を果たすのです。日本の観客にもその魅力は受け入れられ、こうして50年に渡り上演されることとなった『ラ・マンチャの男』。 白鸚さんの見果てぬ夢、遍歴の旅は2019年10月19日(土)17時開演の部にて通算上演回数1,300回を迎えます。
【あらすじ~舞台写真とともに~】
セルバンテスは牢獄での疑似裁判で申し開きの即興劇を始める
税収吏、作家・詩人のセルバンテス(白鸚さん)は宗教裁判にかけられるため従僕(駒田一さん)とともに牢獄へ連れてこられた。そこで法廷に呼び出されるまでの間、牢名主(上條恒彦さん)や囚人たちに向けて申し開きの即興劇をすることに。役者はそこに居る全員。こうして囚人たちによる芝居が始まる。
従僕サンチョを演じる駒田一さん
従僕サンチョは現実的な発言をする。風車を巨人、宿屋を城と言う主人を冷めた目で見つつ、最後には旦那様に巻き込まれる心優しき人物。しっかり者の道化さん。ラスト、階段を上るサンチョの笑顔が忘れられません!!
セルバンテスが扮する即興劇の主人公は騎士道物語の読みすぎで気が違ってしまったアロンソ・キハーナ老人(白鸚さん)。彼は300年も前に姿を消した遍歴の騎士として悪を亡ぼす旅に出る、彼の名はラ・マンチャのドン・キホーテ。
頑なだったアルドンザに訪れる変化
瀬奈さん演じるアルドンザがもっとも変化するキャラクターです。登場時のカッコよさ、何かを見つけて、打ちのめされて、それでも立ち上がる。この位置づけのキャラクターが女性であることも興味深い。
途中、立ち寄った宿屋にいるのは荒くれ者のラバ追いたちや給仕のあばずれ女たち。キホーテはその中に思い姫ドルシネアを見つける。彼女はアルドンザ(瀬奈じゅん)。自分を姫と呼ぶ男を拒絶するアルドンザだが、キホーテの言葉が彼女を少しずつ変えていく──。
「騎士遍歴とは?」問いかけるアルドンザにキホーテが語るのが♪見果てぬ夢(The Quest:探求)
決して強者とは言えない3人組がラバ追いたちをやり込める痛快なシーン
格闘シーンもダンスのように繰り広げられます。
宿屋(城)で主人(城主)から“憂いの騎士”の称号を付与されるキホーテ
厳かながらユーモアあふれるシーン!
上條さんの絶妙な間、とぼけた表情がとてもチャーミング。牢名主としての最後に語りかけるあの台詞はグッときます。
ドン・キホーテの、キハーナ老人の旅の終着点は……。そして、セルバンテスの運命は。
現実を見よ!鏡の騎士に囲まれる男、彼はドン・キホーテなのかアロンソ・キハーナなのか。
日本50周年記念公演、パンフレットに掲載されたお祝いメッセージも豪華で個性的!松本幸四郎さん、市川染五郎さん、松本紀保さん、松たか子さんらファミリーはもちろん、北大路欣也さん(同級生!)、市村正親さん、鳳蘭さん、井上芳雄さん、さらには篠山紀信さん(初演時のスチール撮影)、佐渡裕さん、野田秀樹さん、宮本亜門さん、三谷幸喜さんに松井秀喜さん(ほかにも各界著名人のみなさん多数!)……それぞれの胸に『ラ・マンチャの男』がいるんですね。
帝国劇場ロビーには50年周年の歴史を物語る品々が飾られています。休憩なしの一幕ものですので、ちょっと早めに行ってロビーをひと回り、おすすめします!
▼通し稽古レポも掲載中!(ラ・マンチャ大好きスタッフの見どころ解説も!)
ミュージカル『ラ・マンチャの男』2019 オケ付き通し稽古レポ~遍歴の旅が始まる~
▼サンチョ役・駒田一さんインタビューもぜひどうぞ♪
ミュージカル『ラ・マンチャの男』駒田一さんインタビュー
舞台写真提供:東宝演劇部 感想寄稿:おけぴ会員の皆様
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人