こまつ座131回公演『きらめく星座』稽古場レポート~市井の人々へのエールであり、喝でもある井上ひさしさんの音楽劇の代表作~



 『きらめく星座』は太平洋戦争前夜の昭和16年12月7日までの約1年間を描いた物語。その舞台となるのは、ジャズなどの音楽(いわゆる当時の敵性音楽)を聞かせる東京・浅草のレコード店「オデオン堂」。今では建国記念の日と名を変えた紀元節(2月11日)、文化の日の明治節(11月3日)など戦前からの祝日のオデオン堂の出来事を切り取り場面が構成されます。1985年の初演より繰り返し上演される井上ひさしさんの音楽劇の代表作です。近年では2014年、2017年と上演され、2017 年公演は8回目の再演にもかかわらず第72回文化庁芸術祭演劇部門にて大賞を受賞。これは現代にも響く作品であることの証ですね。

 稽古場を取材しましたが、一部新キャストを迎えての2020年の公演もイイ!ピアノの生演奏にのせて歌われる、「月光値千金」「一杯のコーヒーから」など昭和初期の流行歌の軽快なメロディーに物語も観客の心も弾みます。




ちゃぶ台囲んでお茶を飲む(ここではコーヒー!)人々

 オデオン堂に暮らすのは、店主の小笠原信吉・ふじの夫妻(今風に言うと歳の差夫婦)、その娘みさを、下宿人の竹田と森本。そこに脱走兵の長男・正一、憲兵伍長“蝮の権藤”、みさをの夫・源次郎らが加わって巻き起こる騒動の数々。激動の時代を懸命に明るく生きた一家の姿が描かれているのですが、この集団は“ゆる家族”というか“ゆるコミュニティ”という側面も持っています。ふじは後妻として小笠原家に嫁いだ継母、下宿人たちもいわば他人。それでも互いを思いやり、全力で優しい嘘をつき、笑い踊る。毎朝、毎晩茶の間でちゃぶ台を囲んで食事をしたりお茶を飲んだりしていたことが想像できる素敵な人々。まさに「狭いながらも楽しい我が家~」を地で行くコミュニティなのです。

 正一を追ってやってくる憲兵に至ってはオデオン堂の敵ですし、娘婿で愛国主義の源次郎も最初は家族ののんきさにあきれ果てるのです。でも、そんな人々もオデオン堂という場所で交わり、変化していくさまがときにシリアスにときにユーモラスに描かれます。



みさを(瀬戸さおりさん)の様子がおかしいことに気づくふじ(松岡依都美さん)と信吉(久保酎吉さん)

 どうやら近所の人がオデオン堂を非国民の家と呼んでいるらしい。そして家族が自分になにかを隠している、きっと砲兵隊に入営している兄・正一になにかあったのではと問い詰めるみさをに、「我こそは非国民」の名乗りを上げる人々。アカ教師のレッテルを貼られた過去があり我こそはと名乗りを上げる竹田さん、ジャズがかったピアノを弾く我こそはとピアノで主張する森本くん、そもそもそんな店をやっている自分こそと言うのはお父さん。ついにはミスクリスタルという横文字の名で歌手活動をしていたお母さんこそが非国民と呼ばれる資格があるという始末。だいぶ無理のある主張だったりもするのですが、それもこれもみさをを思うがゆえ。その必死さが面白く美しい!

 松岡さんのふじさん、肝の座った貫禄と艶っぽさの絶妙なバランスがいいんです。久保酎吉さんは気のいいレコード店のオヤジであり、家族をやさしく見守る親父、ジャズを愛する粋な信吉を愛嬌たっぷりに演じます。



下宿人の竹田さん(大鷹明良さん)

 人を見つめる優しさと社会や権力に対する厳しさを持つ広告文案家の竹田慶介には大鷹明良さん。こまつ座常連の大鷹さん、あれ?竹田役は何度目かしら?と思うほどそこに居るのは竹田さんそのもの!なんとも軽妙で、でも核心を突く鋭さも!言葉を扱う竹田ならではの世の中の見方、表現、そしてそれはあの名台詞へとつながるのです。



脱走した正一(高橋光臣さん)は逃亡の旅の途中でオデオン堂へ立ち寄り──
自らの目で見て、耳で聞いたことから“ある真実”に気づきはじめ、それを語り聞かせる。

 久しぶりの我が家に笑顔の正一ですが、非人間的な扱い、その記憶が呼び起こす軍隊の狂気。次第にあぶりだされる戦争の愚かしさ、それは人間を壊してしまうことなのです。



音楽大好きな正一さんも歌い踊ります!森本くん(後藤浩明さん)のピアノも軽快♪

 軍隊が人間を画一的に変えていこうと訓練する時代、オデオン堂の面々は実にデコボコしていてカラフル。ゆるく柔らかい人々なのです。




 なにかというと歌い出し、踊り出す人々。でも──、この人たちならさもありなんと思えるから不思議。栗山さんの言葉を借りれば「(歌の場面では)そこに生活する人が、思わずそうなった(歌い踊る)という即興性を持たせてほしい」とのこと、まさにそんなシーンです。


 続いてはオデオン堂を訪れる堅物チーム(失礼!)。


正一を追ってオデオン堂へやって来た憲兵の権藤(木村靖司さん)


 木村さんの権藤が登場すると、そのピリッと切れのある動きと声で思わず見ている側も背筋が伸びる気がします!でも、時折見せる隙のようなものに、この男の本来の姿が見え隠れするんです。その塩梅が絶妙!




こちらはみさを(瀬戸さおりさん)と夫の源次郎(粟野史浩さん)

 生粋の愛国主義者で傷痍軍人の源次郎。みさをが文通を通して励まし続けていた数多くの傷痍軍人の中から夫に選ばれたのが源次郎。ジャズを愛し、コーヒーの香りにうっとりするオデオン堂の面々に呆れ、軽蔑する源次郎。でも、彼も権藤さんも悪人ではない。ただ自らの正義を信じ貫いているだけ。そんな源次郎に寄り添い、しっかりと前を見つめるみさを。瀬戸さんが若さゆえの正義感、一本気なみさをを好演!



 ここからそれぞれの葛藤がはじまるのですが、軍隊コミュニティからオデオン堂コミュニティという180度違う環境に身を置く源次郎さんの葛藤たるや──。そして最初はオデオン堂を“非国民の家”と叩いていたかと思ったら、みさをの結婚を機に今度は“美談の家”と持ち上げる。無責任な社会、民衆の身勝手さも、現代とどこか通じるのです。

 比較的インターバルが短い中での再演となる、また前回公演が高い完成度だったことから、正直、前回キャストの印象も強く残る中での上演となります。秋山菜津子さんのふじさんをはじめ、田代万里生さんの正一、山西惇さんの源次郎さん、木場勝己さんの竹田さん……。しかしながら2020年版も驚くほど、(もちろんいい意味で)“前”を感じさせないオデオン堂のみなさんなのです。当然、声も姿も違います。でもそこにいるのはふじさんであり、竹田さん。そこに変わりはありません。これこそが作品の強さだと実感しました。そしてそれにはこの方の力も大きい。演出は井上ひさしさんが絶大な信頼をよせ、その死から10年、井上戯曲を生かし続ける栗山民也さんです。

 音楽が大好きで人並外れて耳の良い正一。逃亡先の銚子の町で合唱団を結成していた彼が家族を相手に指揮をするシーンがあります。そのシーンについての栗山さんの「正一にとっての音楽、コーラス隊は特別なもの。その美しさ、ありがたさがあのシーンに表れているんです。家族のコーラス、それが本来の共同体の形。それが『歌は活力源です』という台詞につながる」という言葉が印象的でした。舞台となるのはレコード店、その名もオデオン堂(オデオン=劇場ということを大鷹さんのコメントで知りました!)、音楽の力に乗って届けられるこの一家の日常。劇場に集う観客もまた、そのとき限りのゆるコミュニティ。そこで多様性を感じたり、異なる価値観の人間の考えに耳を傾けたり、隣の誰かを気遣ったり。演劇にはどこかそんな拠り所という側面もある。そんなことも改めて感じる作品です。

 栗山演出で届けられる軽やかで力強い『きらめく星座』。これは市井の人々へのエールであり、喝でもあるのです。最後に井上さん、栗山さんの言葉を紹介します。



~人間は奇蹟そのもの。人間の一挙手一投足も奇蹟そのもの。
だから人間は生きなければなりません~

 言葉を扱う発信者側の責任、発信された言葉をどう受け止めるかという受信者側の責任、この二つの責任をどう考えるかは、今もわたしたちの課題でありつづけていますが、それを「うんとおもしろく」書いたものがこの作品です。ですから、うんと楽しんでいただければそれでいいのです。そして皆様のお心のどこかに受信と発信の関係について少しでも残るものがあれば、それこそ作者冥利に尽きます。──井上ひさし(「こまつ座通信」1996年1月より)


 日常のニュースのなかに平然と流れる、「排除」「選別」といった言葉が人間に対して平然と使われる今の時代は、『きらめく星座』で描かれる時代と怖いほどに重なる。こういう芝居が必要ないと「排除」されるのなら、もう私たちの生活から物語や文化というものが、どこかへ葬られてしまう事になる。ちゃんと守らなくては、と切実に思う。──演出家・栗山民也(2017年公演「開幕によせて」より)



バケツ体操!



【おけぴ過去レポ】

★こまつ座第106回公演『きらめく星座』稽古場レポート(2014年)

★こまつ座第120回記念公演『きらめく星座』稽古場レポート&田代万里生さんインタビュー(2017年)

★こまつ座第120回記念公演『きらめく星座』開幕レポート~栗山民也さん&キャストコメント&舞台写真&感想が届きました~

★こまつ座第120回記念公演『きらめく星座』 井上ひさし誕生日特別トークショーレポート~辻󠄀萬長さん、木場勝己さん、久保酎吉さん、後藤浩明さん~

あらすじ
 昭和 15 年の浅草。小さなレコード店に、四人の家族と、二人の間借り人が仲良く暮らしていた。
 しかし、この平和なオデオン堂に、大事件が起こる。陸軍に入隊していた長男の正一が、脱走したという。「敵前逃亡」は重罰。すぐさま追手がかかって、憲兵伍長「蝮の権藤」がオデオン堂に乗り込んできた。さらにもう一人、堅物の愛国主義者が家族に加わる。長女みさをが、「ハガキの束から選んだ」夫、源次郎。この家の住人たちの、ジャズがかった音楽好きが、傷痍軍人の源次郎にはどうしても許しがたい。こうして、オデオン堂には、ときならぬ大嵐が吹き荒れることとなる。


【スペシャルトークショー】
★追加開催 3月12日(木)13:00公演後 松岡依都美、久保酎吉、後藤浩明、木村靖司
★3月13日(金) 13:00 公演後 高橋光臣・粟野史浩・瀬戸さおり・大鷹明良
※スペシャルトークショーは、開催日以外の『きらめく星座』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。 ただし、満席になり次第ご入場を締め切らせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。



後記
 『きらめく星座』のほとんどのシーンは紀元節や明治節などの戦前からの祝日に設定されています。そこには「戦前の国家的な祝日が、名前を変え、趣旨を変え、戦後も抜け目なく祝日になっている。世の中変わっていると言うけれど、あまり変わっていない──」、そんな井上さんの思いが込められているのです。

【公演情報】
こまつ座第 131 回公演 『きらめく星座』
2020年3月10日(火)~15日(日)@紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
※3月5日から8日の公演は中止となりました

【スペシャルトークショー】
★追加開催 3月12日(木)13:00公演後 松岡依都美、久保酎吉、後藤浩明、木村靖司
★3月13日(金) 13:00 公演後 高橋光臣・粟野史浩・瀬戸さおり・大鷹明良

作:井上ひさし
演出:栗山民也

出演
松岡依都美、久保酎吉、高橋光臣、粟野史浩、瀬戸さおり 後藤浩明、髙倉直人、村岡哲至、木村靖司、大鷹明良

※上演時間:3 時間予定(休憩含む)

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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