シアタークリエにて
ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』(作:ウィル・アロンソ&ヒュー・パーク、翻訳・訳詞・演出:上田一豪)が開幕しました!
近未来を舞台にしたロボットたちの物語。 そう聞くと、もしかしたらメタリックな世界をイメージする方もいらっしゃるかもしれません。でも、本作はキービジュアルの通り、温かく、優しく、そしてとっても可愛い作品なのです。本記事ではダブルキャスト中川翔子さん、坂元健児さんバージョンのGPをレポートいたします。
◆ 主人公のオリバーはお役御免となった旧型ヘルパーロボット。リタイアしたロボット専用のアパートで規則正しく暮らしている。
大切な植木鉢くんの世話と大好きなジャズのレコードや専門誌に囲まれて暮らすヘルパーロボット3のオリバー
オリバーを演じるのは
浦井健治さん。いつもご機嫌なオリバーくんをちょっとコミカルな動きを交えて表現する序盤から、プログラミングを超えて“感情”を知っていく変化を芝居巧者の浦井さんがナチュラルに、豊かに表現します。
“コンコンッ”、ある日、オリバーの鉄壁のルーティーンに乱れが!彼の部屋のドアをノックしたのは隣人クレア。彼女はヘルパーロボット5、つまりオリバーより2世代新しいロボット。ちょっと不器用で少年のように純粋なオリバーとは対照的に、臨機応変で現実主義のクレア(もちろんオリバーより多機能)。効率の良さを追求し進化した2世代の違いが、まさにジェネレーションギャップとしてドタバタコメディ要素を生むのです。
充電器を借りにオリバーの部屋を訪ねたクレア。オリバーがドアを開けるとそこには充電が切れフリーズしたクレアが!そんな初対面!
勝気なクレアをキュートに演じるのは
中川翔子さん(花澤香菜さんとのダブルキャスト)。オリバーに充電器を貸してもらっているのにどこか上から目線で振り回すクレア、少しイラッとしながらもオリバーも徐々にクレアのことが気になって──これぞ王道ラブコメ!
こうして二人はロボットにはプログラミングされていないはずの感情に戸惑いながらも、お互いへの気持ちを育むのだが──。
オリバーと元の持ち主ジェームズとの関係も物語の重要な要素です
所有者と所有物という関係を超えて、「ジェームズは友達だ、いつか迎えに来てくれる」と信じるオリバー。一方で、「自分たちは旧くなったから捨てられた、そんなことはありえない」と考えるクレア。果たして真実は?
ジェームズ、ほか複数役を演じるのは
坂元健児さん(斉藤慎二さんとのダブルキャスト)。物語の幕を開けるシンガーとしてジャズナンバーを歌ったかと思ったら、劇中では柔らかな歌声もオリバーの回想の中で歌うデュエットナンバーの力強さも!多彩な歌、芝居、そして着替えに(!)大活躍なのです。というわけでジェームズ以外のシーンをいくつかご紹介!
レコードや雑誌を配達してくれる郵便屋さんは、物語に四季の移ろいや時の経過も運んでくれます
旅先のホテルのお兄さん
シンガー!
◆ それぞれの目的のため共に旅に出るオリバーとクレア。その旅での経験が二人の関係をぐっと深くします。
はじめはクレアのほうがお姉さんっぽかったのですが、しだいに包容力を増すオリバーにキュン。終盤、以前のオリバーだったらこんな表情をしなかっただろうというドキリとするような顔を見せるんです!
そしてそんなときの浦井さんの手の芝居もいいんですよね。雄弁!
もちろんクレアの変化も見逃せません!
より精密にプログラミングされたクレアもわからなかったことを旧式のオリバーが教えてくれた。そのことの意味はとても大きい。
オリバー拗ねる
ときどき「あら、オリバーって妖精だったかしら?」「いやいやロボットです」というやり取りが脳内で行われるようなキュートなシーンも!
愛を知ることで、痛みも知る。
オリバーとクレア、二人が、それぞれが選ぶ“メイビー”幸せな結末とは。
プログラム通りにはいかない。他と交わることで影響を及ぼし合い思いもよらないことが起こる!一つひとつのシーンが有機的にかかわりながら、感情を積み重ねていく過程が丁寧に描かれる物語。音楽もオリバーの部屋のプレイヤーから流れるLPレコードの音のような温かさのある楽曲ぞろい。(生演奏!)
そっと手のひらで包み込みたくなる、アナログな手触りが心地よい作品です!
そしてこうしてさまざまな制約の中で稽古、上演準備を進め、幕が開き、千穐楽まで公演を重ねることのありがたさ、作品に気づかされ癒される喜びを改めて感じます。まだまだ諸手をあげて「ぜひ劇場へ!」とは参りませんが、状況が許せばぜひ。
【おまけ】
温かくて可愛くて切ないラブストーリー!おまけに曲もイイ!もうそれだけでも素敵な作品なのですが、もう一つの側面から見てみると。
彼らはロボットなので見た目は老いることはないのでしょう。ただ状況は、役割を終え、やがて来る、すべての機能が停止する日までの余生を過ごしている。その境遇は切ないものです。そんな人間で置き換えると、少々生々しく感じる老いや死、看取りといったものをロボットを主人公とし、柔らかな音楽で彩り、笑いも交えながらロマンティックで、軽やかなエンターテイメントとして届ける。ミュージカルの力をこれでもかと活用した上で、物語が大きな比喩になっている非常に演劇的な作品ともいえるでしょう。もちろん、観た後に語りたくなる度も高い!!
本作が生まれた韓国で人気を集めるのも納得!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人