「さらにビューティフルに!」(水樹奈々さん)
「音楽のハグをいっぱい届けたい!」(平原綾香さん) “A Natural Woman” “You’ve got a friend”などのヒット曲を世に送り出したアメリカのシンガーソングライター、キャロル・キングの半生を、時代を超えて愛される数々の名曲とともに綴ったミュージカル『ビューティフル』。2017年の日本初演から3年のときを経て、2020年秋に帝国劇場に戻ってきました!(演出リステージは上田一豪さん)
主要キャストはみなさん続投、それによってドラマ性が深まり、作品を彩るヒット曲を歌うアンサンブルキャストもスター然としたパフォーマンスにか・な・り磨きがかかっています。「これぞ再演の醍醐味!」がギュギュっと詰まった2020年の『ビューティフル』。キャロル・キングの半生を描くとともに、人生の美しさを讃える作品に万雷の拍手を!
初日カーテンコールでの両キャロルのご挨拶コメントとともに、開幕レポートをお届けします。
キャロル・キング:水樹奈々さん(ダブルキャスト)
「まだまだ大変な状況が続く中、劇場に足を運んでいただきありがとうございます。
3年ぶりの再演、さらにパワーアップした公演を届けられるようにカンパニー一丸となって稽古を重ね、今日まで突っ走ってきました。この勢いで、さらに情熱的に、さらにビューティフルに、そしてさらに笑顔溢れる作品をみなさんに届けていけるよう、千穐楽まで突き進んでいきたいと思いますので、引き続き応援をよろしくお願いします。
さらにパワフルなキャロルを届けられるように、ぶっ飛ばしていきたいと思います!」(11月6日カーテンコールご挨拶より)
キャロル・キング:平原綾香さん(ダブルキャスト)
「私たちはいろんな思いを胸に、この日を迎えました。ハグをするのも、手を握るのも、いいのかな……と、いつもみんなと話し合いながらここまできました。大変な時代になってしまいましたが、キャロル・キングの最初のセリフにもある通り、「自分の思い通りにならない人生だったとしても、必ず人はなにか美しいものを見つける」ということ。私たちはどんな時代になっても、心の豊かさだけは失ってはいけないと思っています。
私たちは、休演日以外は(会場笑)いつもここにいるので、寂しいと思ったらぜひまた会いに来てください。
(客席の)すごくノリが良くて、みなさんがいてくれたから自信をもって前に進めるような気がします。今日はビューティフルな気持ちで胸を張って帰って、また明日公演ができます。私たち、これからも音楽のハグをいっぱいみなさんに届けたいと思います!」(11月5日カーテンコールご挨拶より)
【観劇レポート】
幕が開くと、そこはニューヨークのカーネギーホール。ピアノ弾き語りで♪So Far Awayを歌っていたキャロル・キングが、手を止め、彼女の人生について話し始めます。
物語の舞台は、1958年ニューヨークへ。キャロル・クライン(キャロル・キングの本名)は2年飛び級してクイーンズ・カレッジに通う16歳の女の子。恋愛となると自己評価が低い彼女、でも、誰にも負けないのは音楽への情熱!ただし、あくまでも音楽を作るだけ、彼女は裏方。水樹さん、平原さんの両キャロルが、まぁカワイイ!あえて書くならば、水樹さんは引っ込み思案な女の子(音楽以外は!)、平原さんは機転の利くおしゃまな女の子という印象を受けました。
ジェリー・ゴフィン:伊礼彼方さん
やがてキャロルはカレッジで出会ったジェリー・ゴフィンと恋に落ちる。戯曲を書いていたジェリーの歌詞とキャロルの音楽、ここに稀代のヒットメーカーコンビが誕生するのです!公私ともにパートナーとなり、妊娠・結婚……仕事と子育てに奮闘する二人。
伊礼彼方さん演じるジェリー、学生時代はルックスも抜群のカレッジの人気者。周囲には自然に女の子が集まってくる──、そういう香りをぷんぷん漂わせる伊礼ジェリー。でも本質的には繊細な感性の持ち主だったのでしょう。強い/弱いの二元論では語れないのが人間ですが、はじめは劣等感の塊のようだったキャロルの強さがジェリーの弱さを包み込むような、二人の関係の変化が物語に奥行きを与えます。
キャロルの才能を見出したプロデューサーのドニー・カーシュナー:武田真治さん
キャロルの人生の分岐点で登場するのが名プロデューサーのドニー。武田真治さん演じるドニーは出てくるたびに強烈な印象を残します。気持ちいいほど決断が早く、音楽の才能を見抜く力、時流を読む腕は一流!
キャロル&ジェリーと競い合うようにヒット曲を生むシンシア&バリー、そこにもドニーの手腕を感じます。
キャロルたちがドニーのオフィスで出会うのが、作曲家のバリー・マンと作詞家のシンシア・ワイル。こちらもソングライターカップル(そこに至る過程での二人のやり取りも面白い!)。中川晃教さんとソニンさんが演じるバリー&シンシアコンビもユニークさに磨きがかかっています。シンシアの自己紹介シーンはまるでショーのように華やかで、バリーのつかみどころのない佇まいや言動は絶妙(そして、ひとたびピアノの前に座れば、絶対にこの人には特別な音楽の才能がある!と思わせる説得力)。そして二人は心優しい。キャロルたちのライバルであり親友となる、創作スタジオの愛しき隣人カップルからも目が離せません。
相性抜群!
バリー・マン:中川晃教さん、シンシア・ワイル:ソニンさん
言葉を交わすシーンは決して多くはないのですが、互いを気に掛けている二人。
地に足の着いた生活を望むキャロルとすれ違うジェリーの心、次第にその均衡がとれなくなり……。
キャロルの母ジニー:剣幸さん
キャロルが歌手になることを反対したり、ジェリーのことで小言を言ったり、母娘の確執もあるのですが、劇中でキャロルも言うように、ジニーはここぞという時にイイことを言うんです!いろいろあってもあっけらかんとしたところが好き!
女性の生き方に対して保守的な考え方だったキャロルと新しい感覚を持つシンシア
60年代~70年代初頭のアメリカを舞台にしながら、現代にも通じる問いもちりばめられています。
はじめはあくまでも裏方、作曲家だったキャロルが自ら歌う決意をする。そして彼女は自立する。その才能と強さは、彼女が元々持っていたものなのか、人生経験の中で手に入れていったものなのか。おそらくそのどちらでもあるのでしょうが、平原キャロルには前者を水樹キャロルには後者を感じました。
タイプの違う二人のキャロルが、それぞれの表現力で帝国劇場をカーネギーホールへ変える。キャロルがたどり着いた場所は特別で、それは彼女が類まれなる才能の持ち主だからなしえたことかもしれませんが、その過程では、誰の人生もそうであるようにたくさんの笑顔や涙がありました。
カーネギーホールのシーンで目の前に広がるのは、まさにキャロルが音楽で紡いだ彼女の人生、タペストリー。そして、見ている観客も皆、それぞれの人生の主人公。なにで紡ぐか、どう紡ぐか、出来上がったタペストリーの大きさや色、風合いはみんな違うけれど、きっとそのどれもが美しい!本作で、キャロル・キングの人生を通して描かれるのは“人生讃歌”。だからこそ、この作品に、その音楽に癒され、励まされるのでしょう。劇場に、えも言われぬエネルギーがみなぎっていました!
“You’ve Got a Friend”
西海岸に引っ越すことを決めたキャロルが作った歌を一緒に歌う仲間たち。素敵なシーンです♪
【ヒット曲を歌うスターたち】
本作の見どころはキャロルのドラマとそれを彩るヒット曲の数々。ザ・ドリフターズにシュレルズ、ライチャス・ブラザーズなど、実際にヒットさせたグループをアンサンブルキャストが歌うショーシーンもパワーアップ!歌唱シーンはスターたちがステージの主役!その一部をご紹介いたします。
ザ・ドリフターズ(伊藤広祥さん、神田恭兵さん、長谷川開さん、東山光明さん)
こちらはバリー&シンシアの♪On Broadway カッコイイ!!
その歌唱・ハーモニーだけでなくフォーメーションやダンスにもご注目ください!
シュレルズ(リードボーカル:高城奈月子さん、MARIA-Eさん、塚本直さん、菅谷真理恵さん)
キャロル&ジェリーの♪Will You Love Me Tomorrow鮮やかな衣装チェンジも素敵!
「シュレルズに提供する曲を作る!なんとしても採用されるぞ!」創作に燃える2組のソングライターズコンビの奮闘ぶりにもご注目!(劇中では、ソングライターが楽曲を提供するところから、自らが歌うシンガーソングライターの台頭という音楽業界の変遷も描かれています)
ライチャス・ブラザーズ(山野靖博さん、山田元さん)
バリー&シンシアの♪You’ve Lost That Lovin’ Feeling
お二人の“持ち歌感”が半端ない!出てきた瞬間から「待ってました!ライチャス・ブラザーズ」という空気を作り出しています。
リトル・エヴァ(MARIA-Eさん)
キャロル&ジェリーのThe Locomotionを歌ったエヴァ。思わず身体が動き出してしまいそうになるようなワクワクするシーンです。
ほかにもノリのいいヒットソングの数々にやっぱり音楽ってイイ!を実感。難しいことは考えずに、ただその音楽に身をゆだねて気分をリフレッシュ!そんな楽しみ方もおすすめです。
舞台写真提供:東宝演劇部
おけぴ取材班:chiaki(取材・文) 監修:おけぴ管理人