新国立劇場『ピーター&ザ・スターキャッチャー』稽古場レポート



ワクワクする!
ひと言で表現するなら、そんな作品、新国立劇場『ピーター&ザ・スターキャッチャー』稽古場の様子をレポートいたします。


【創意工夫と想像力】



 ある孤児の「少年」が、どうして大人にならない永遠の少年「ピーター・パン」になったかを描く本作。名前もなかった「少年」が大海原やジャングルを冒険する物語が繰り広げられる舞台のセットは、いたってシンプル。そこがジャングルにも船内にも大海原にも変化していくから、あら不思議!

 舞台となるのは1885年、ヴィクトリア女王が君臨していた大英帝国。
 冒頭に「みんなの想像力で船の帆をあげるんだ」という台詞があります。まさにその通り、何もない空間にハラハラドキドキの大冒険の物語が立ち上がる原動力は、創意工夫と想像力にほかなりません!そして、その感覚がとっても心地よく“ワクワクする”んです!シンプルだからこその無限の可能性がそこにあります。



ニョキニョキ!植物も生える森の中!?


船の狭いキャビンになったり


【冒険の始まり】

 波止場には2隻の船、スピードは世界イチ、立派な女王の船ワスプ号と、のろまで冴えないネバーランド号。荷の中には2つのそっくりなトランク、ひとつは女王の大切な荷物、もうひとつは……。模型を使って引きの景色を作ったり、人々が集まって寄りの景色を作ったり、その視点も自在に操りながら物語の世界に引き込みます。




 共に向かうはランドゥーン王国!
 ワスプ号にはレオナルド・アスター卿とその娘モリー、と思いきや、アスター卿はモリーを乳母のミセス・バンブレイクとともにネバーランド号に乗せるのです。そこには卑劣な孤児院の校長に売られた3人の孤児プレンティス、テッド、そして「少年」がいました。



 こうして港を出た船にトランクを狙う海賊黒ひげたちが襲いかかり!!「少年」やモリーたちの冒険が始まるのです。




 「少年」、のちのピーター・パンには入野自由さん、勇気とリーダーシップを持った少女モリーには豊原江理佳さんというミュージカル作品でもおなじみのお二人が物語の軸を担います。「大人なんて大大大っ嫌いだ!」入野さんの強いまなざしと声、大人たちを見つめる冷静な視線、反骨精神は「その後」を予感させるものの、まだまだ子どもっぽさもある、気になる「少年」です。その仲間たち、プレンティスはリーダーになりたい男の子、テッドは食べることに貪欲な男の子。船長のスランクや孤児院の校長グレムキンといった悪い大人もこれでもかと憎々しげに登場します。



 そしてこの日のお稽古で見せ場たっぷりだったのが豊原さん演じるモリー!女の子は従うものとされていたこの時代にあって、モリーは好奇心旺盛で勇気がある!賢くリーダーシップもあって、さらには動物が大好きという素敵なキャラクター。豊原さんの声の突き抜け感がモリーのキャラクターにピッタリです。そしてモリーは父と同じように、地球に落ちてきた星のかけら「スタースタッフ」の威力を世界制覇を企む奴らから遠ざける「スターキャッチャー」の見習いなのです。モリーの行動力は、なすべき使命を帯びた者の強さも感じさせます。でも、やっぱりモリーも少女、恋への憧れや戸惑いも。そしてそれは「少年」と接するときにちらちらと見え隠れするのです。はたから見たら絶対意識しているのに、本人は気づかない……そんなキュンキュンもあります。



 ほかにも色男風情な船乗りアルフ(KENTAROさん、美声も!)、アルフとイイ感じになるモリーの乳母ミセス・バンブレイク(岡田正さん!)など個性的なキャラクターがたくさん登場します。そうそう、ミセス・バンブレイクを男性が演じるという仕掛けも面白いのですが、実は物語が進むと、一部の俳優たちは別のキャラクターを演じます。その仕掛けについても細かくキャスティング・ノートとして書かれている緻密な戯曲なのです。さらに意図された役名のある二役演じ分けに限らず、どの俳優も、名もなき船員になったり、植物になったり、扉になったりと、演じることやそれを見る楽しさもギュギュっと詰まった作品です。


【多彩な音楽が物語を運ぶ】

 この作品のもう一つの魅力は音楽。モリーがアルフを追って船内を動き回るシーンでは、船内のキャビンのドアを開けるたびまったく違う空間が出現するのですが、「ギャンブラーの部屋」では狂騒の音楽、「礼拝者たちの部屋」では讃美歌など、音楽が場面の切り替わりがはっきりと楽しく描かれる大きな手助けになっているのです。足音の効果音も世界を作ります! ちなみにこのシーン、さっきまでギャンブラーだった俳優たちが瞬時に礼拝者たちになる様(さま)もとっても面白い!同じ人たちだということは誰の目にも明らか(笑)なのですが、それを楽しめる幸せ!を感じます。でも、狭い空間を移動するみなさんは結構必死!!




 ほかにも旅立ちのときは気持ちを奮い立たせるようなドラマチックな歌が登場し、そうかと思えばジャジーなナンバーが始まり、まるでレビューショーのような盛り上がりを見せます!先ごろ公開された公演HP内のインタビュー記事で入野さんがおっしゃっていた「ファンタジックなストーリーなので、かわいらしい顔ぶれになるかなと思いきや、骨太(笑)」という濃いめの俳優陣による全力のラインダンスなど楽しさいっぱいです!田中 馨さん(音楽監督でもあります)と野村卓史さん、お二人の演奏にもご期待ください。


【やさしさを感じる作品】



 演出はノゾエ征爾さん。遊び心のあるアイデアがバシバシ飛び出します。とにかくやってみよう!この日の稽古場で見たものが決定ではなく、これからもどんどん変わっていくのだろうな、その変化をも楽しみ、糧にして作品がより豊かになっていくと感じる楽しい稽古場でした。もうひとつ印象的だったのは、ノゾエさんがとてもわかりやすく的確な言葉で演出されているということ。その「わかりやすく的確な言葉」というのはそのまま作品にも表れていて、翻訳作品でありながら、歌の歌詞でさえするすると頭に入ってくる心地よさがあります。それはこれまでに親子向けの舞台、高齢者が出演する舞台、野外劇など多様な舞台作品を手掛けてきたノゾエさんの真骨頂なのでしょう。今回、子どもも楽しめるというコンセプトのもと制作されている本作ですが、特定の誰かのためだけでなく、幅広い層に向けて手を広げてくれているようなやさしさを感じる作品になりそうです!!


 また、本作の作者はリック・エリス氏。ミュージカルファンの皆さんにはミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の脚本共同執筆者のお一人というご紹介がわかりやすいかと思います。物語を前に前に推し進める力強さ、音楽の使い方、爽快さの中にちょっと仕込まれたビターな後味。全く違う世界を描いていますが、その巧みさはどこか似ているような、そんな気もします。




 公演は12月5日、6日のプレビュー公演を経て、12月10日に開幕です!さぁ、みなさんも「少年」やモリーと共に冒険の旅に出てみませんか!そして、ピーター・パン誕生の瞬間を味わいましょう♪



こちらの記事では、翻訳 小宮山智津子さん&演出 ノゾエ征爾さんのコメントを紹介しております!
【公演情報】
『ピーター&ザ・スターキャッチャー』
2020年12月10日(木)~27日(日)@新国立劇場 小劇場
<プレビュー公演:12月5日(土)6日(日)>

<スタッフ>
作:リック・エリス
原作:デイヴ・バリー、リドリー・ピアスン
音楽:ウェイン・バーカー
翻訳:小宮山智津子
演出:ノゾエ征爾
音楽監督:田中 馨

<キャスト>
入野自由 豊原江理佳 宮崎吐夢 櫻井章喜
竹若元博 玉置孝匡 新川將人 KENTARO
鈴木将一朗 内田健司 新名基浩 岡田 正
【演奏】田中 馨 野村卓史



ものがたり
ビクトリア朝時代の大英帝国。孤児の少年(のちのピーター・パン)は仲間とともに、卑劣な孤児院の院長により「ネバーランド号」に売られてしまう。船内で出会ったのは、好奇心旺盛な少女モリー。モリーは、父アスター卿と同じく「スターキャッチャー」として、世界制覇を企む奴らから、地球に落ちてきた星のかけら「スタースタッフ」の威力を遠ざける使命を帯びていた。宝がつまっているトランクを狙う黒ひげたち海賊は船に襲いかかり、少年とモリーたちはトランクとともに海中に放り出されてしまう。やがて不思議な島モラスク島にたどり着いた彼らには、更なる冒険が待ち受け、そして......。

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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