遠藤周作の「王妃マリー・アントワネット」を原作に、ウィーンミュージカル界のヒットメーカー、ミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)&シルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)をクリエイターに迎えて制作された日本発のオリジナルミュージカル『マリー・アントワネット』が東急シアターオーブにて上演中!
マリー・アントワネットとマルグリット・アルノー、同じM・Aのイニシャルを持つ二人の女性の運命の交差を軸に、華やかな宮廷とそこに渦巻く陰謀、フランス王妃とスウェーデン貴族・フェルセン伯爵の禁断の恋、貧困に喘ぐ民衆の怒り、市民革命・王政崩壊の足音──を描く大作ミュージカル。 華やかなコスチューム、オーケストラ、傾斜のついた周り盆をはじめとする舞台装置など、これぞグランドミュージカルというスケールの大きな作品の開幕に一年の始まりを感じたという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
マリー/マルグリットは2018年の新演出版初演より続投となる花總まりさん、笹本玲奈さん/ソニンさん、昆夏美さんがそれぞれWキャストで務め、フェルセン伯爵は田代万里生さんに加え甲斐翔真さんが新登場! 物語の黒幕オルレアン公にはともに新キャストの上原理生さん、小野田龍之介さんという若手実力派が抜擢という心躍る顔ぶれで届けられる2021年の『マリー・アントワネット』公演をレポートいたします。(
速報レポはこちらから)
◆ フェルセンの「まさか……」の歌声で物語の幕が開きます(♪マリー・アントワネット)。こうしてフェルセンがマリーとの出会いから彼女の最期のときまでを語る、回想録のような形で展開します。
田代万里生さん
甲斐翔真さん
続いて舞台はパレ・ロワイヤルへ、カラフルなマカロンのような色彩のキュートな世界。「ボンソワール♪」豪華な舞踏会の主役はもちろん王妃マリー・アントワネット!
花總まりさん
笹本玲奈さん
王妃の秘密の恋(公然の秘密)のお相手に納得の麗しき甲斐フェルセン
♪あなたに続く道 はロマンティックな中にマリーの身を案じ警告するフェルセンの思いが込められた名デュエット。
誠実さあふれる田代フェルセンの歌声!
一方でパレ・ロワイヤルの外の世界は漆黒の闇、そこにいるのは飢えた人々。マルグリットが貴族たちへの憤りをこめて歌うのが ♪100万のキャンドル。
ソニンさん
昆夏美さん
名曲ぞろいの本作の中でも人気の高い楽曲。語るように歌い、やがて劇場中を飲み込むようなエネルギーを感じさせる。一曲の中のドラマを歌で表現するマルグリットの大きな見せ場です。ソニンさんは覚醒から確信へ、昆さんは悲しみから怒りへ、描く軌道にそれぞれのマルグリットの色が見えます。そしてやがてその怒りが一幕終盤の♪もう許さない へ繋がっていくのです。
フェルセンとマルグリットも折々で短いながらも会話を交わします。フラットな視点で接するフェルセン(それでも身分の差から不用意に傷つけてしまうことも)、そして「彼の中にはいつもマリーがいる」そのゆるぎなき事実にマルグリットの女性としての一面も見え隠れします。
フェルセンがどんなに警鐘を鳴らしても、マリーの耳には届かない。♪遠い稲妻 から♪孤独のドレス への流れでは感情爆発!
さらに♪私たちは泣かない、♪あなたを愛したことだけが などマリーとフェルセンの情熱的かつ切ないデュエット盛りだくさんな本作。理性と愛情のはざまで揺れ動く、「グッとこらえてこらえて……でも愛情に抗えない」、その塩梅が田代さんと甲斐さんで絶妙に異なるところも見どころです。国王一家を脱出させるために自らの危険も顧みない、変り果てたマリーを抱き寄せる、フェルセンの究極の愛を感じます。
王妃の世話係として宮廷に潜入したマルグリットとマリー、いよいよあの舞踏会以来の直接対決(と言いたくなるほどのぶつかり合い!)♪憎しみの瞳。ただ、このことを機に王妃と一市民から、等身大の一人の人間同士として対峙することで互いの見え方も変化していくのです。
マリーを演じるお二人は、そこに居るだけで”王妃“な花總マリーは、次第にその鎧を脱ぎ(ときに強制的に脱がされ)ひとりの人間としての姿を晒す。少女がそのまま王妃になったような天真爛漫な笹本マリーは、王妃ゆえの苦しみの果てに全てを受け入れて裁判に臨む。最期はいずれも王妃として運命を受け入れ断頭台へ。ラストシーンの気高さにこそ、マリー・アントワネットという女性の真の美しさを見ました。
舞台の回転とともに、背中合わせになった世の表と裏が描かれるようなドラマティックな演出、物語の動力となる力強い音楽。「これを待っていたんだ」、改めて無事の開幕を嬉しく思う観劇でした。
こうして天と地ほどの違いがある王政側と民衆側。その天と地が瞬く間に逆転する様をドラマティックに描く本作。その展開はみなさまご存じかと思いますので、続いては物語の登場人物、役に命を吹き込むみなさんをご紹介いたします。
レポ後編へ続く
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人