アメリカ映画「ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた」(2007年)をベースに製作された、ブロードウェイミュージカル『ウェイトレス』日本初演開幕! アメリカ南部の田舎町にある、パイが自慢のダイナーを舞台に、ウェイトレスのジェナと個性的な同僚たちとの交流を通して、一人の女性の人生の岐路をキャッチーな楽曲に乗せて描く大ヒットミュージカル! 日本語版を心待ちにさせていた方もたくさんいらっしゃるでしょう。なにを隠そう
(隠していませんが(笑))主人公ジェナを演じる高畑充希さんご自身がその一人! ニューヨークでの初観劇後、ロンドンでリピート観劇、さらにもう一度ニューヨークで…というがっつりどっぷり作品ファンを公言されています。
ポップでキュートなコメディ・ミュージカルと謳われていますが、抱える問題は妊娠・出産・離婚・自立・養育など、なかなかディープ。『ウェイトレス』が見る者の心をとらえる、その秘密にも触れた会見の様子と観劇レポートをどうぞ!
【囲み取材】
初日を迎えるにあたり、高畑さんは
「海外に何度も観に行った作品の日本版に自分が出ているって“なんのこっちゃ”という感じですが(笑)、本当にいいカンパニーに恵まれたと思います。最後のピースであるお客様が入り、一緒にこのミュージカルを楽しめること、かなりワクワクしています!」と意気込みを語り、宮野さんは
「舞台稽古で(はじめてマスクを外して)みんなの顔を見てお芝居ができたとき、『芝居ってなんて楽しいんだ』と思った。そして、この状況下でお越しいただけること、エンタメを求めてくださっていることを嬉しく思います」と苦労をにじませながらも、初日を迎える喜び、お客様への感謝の気持ち溢れるコメント!
宮澤エマさんは
「リモートで音響や照明のセッティングをするという数々の最新テクノロジーを駆使してたどり着いた奇跡のような初日です。コロナ禍の中で、まだ演劇の再開の見通しが立っていないブロードウェイのスタッフから受け取った『あなたたちが先駆者となって、劇場、演劇界を盛り上げていってください』というメッセージ、その思いを胸に初日を迎えたいと思います」と、リモートながら一緒に作り上げた海の向こうの仲間との絆を披露されました。
本作がミュージカルデビューとなるベッキー役WキャストのLiLiCoさんは
「50歳にして、本日デビューします! 歌詞をやっと覚えたと思っても、稽古で充希ちゃんを前にすると『カワイイ♡』という気持ちがあふれてまた間違えてしまったり」と初挑戦ならではのエピソードとともに
「Wキャストのいいところは(舞台を)見られること。私、みなさんより先に見たの、ごめんね。すごく良い作品なので、早くみんなに届けたい!」と太鼓判!
もう一人のベッキー役の浦嶋りんこさんも
「LiLiCoさんがおっしゃったように、Wキャストなので、初日は客席から見るという幸運に恵まれました!お客様が入って、拍手がある中で芝居ができている喜びをかみしめつつ、今日はみなさんを応援したいと思います」と、カンパニーのチームワークの良さを感じさせます。
作品の魅力を
「一人ひとりが愛すべきキャラクター、ひどい旦那も含めて(笑)。ジェナが主人公ですが、それだけでなく、いろんな人の人生が展開していくところが作品を豊かにしている。ただ、ポスタービジュアルを見ると“ポップな女性を応援するミュージカル”とあるのですが、これ大丈夫かなって(笑)。間違ってはいないのですが、お花畑では全然ないです、このミュージカルは。人生の、かなりドロッとしたリアルなところも楽しんでください」と語った高畑さんですが、それは作品を観ると、なるほど!まさに!のひと言。でも、そんな酸いも甘いも味わった末に一歩を踏み出すジェナの姿に人は勇気をもらい、ハッピーになるのです。
会見は終始笑いが溢れる和やか雰囲気で進み、最後に今の気持ちをパイに例えると?との質問に高畑さんの答えは──
「みんなが楽しかったら、それでいいよパイ」。困難な状況下での稽古を経て、ようやく迎える初日。どこか達観したかのようなこのコメントに、ご登壇のみなさんが口々に
「座長!ありがとうございます」。カンパニーの結束を感じました。
【観劇レポ&お寄せいただいた感想紹介】
客席に座ると、舞台上左右のパイのショーケース(?)が目に入ります。
(雰囲気づくりかなと思っていたら、幕間や劇中に開け閉めするとはビックリ!) 緞帳はパイの網目模様。開演前からワクワク!します。バンドは舞台上にいて、臨場感あふれるアメリカンな音楽を奏でます♪
物語の舞台は、アメリカ南部の田舎町にあるジョーのダイナー。日々のあれこれ、その時の思いがパイ作りのインスピレーションになる
(現実逃避ともいう)パイ作りの天才ジェナはこの店のウェイトレス。仲良しの同僚のベッキー、ドーンと楽しく働いている。でも、どこか浮かない顔。このネガティブスタートのヒロインというのも新鮮。モラハラ夫のアールとの生活に疲れ、そんな中で彼の子を妊娠していることが発覚。「産むけれど、おめでとうじゃない」というジェナが下す決断とは。さらに担当の産婦人科医ポマター(既婚者!)とダメだダメだと思いながらも互いに気持ちが抑えられず一線を越えてしまうという!どうなる?どうするジェナ状態。
会見で高畑さんがおっしゃっていた通り、ドロッとしたリアルな内容、でも、冴えるパイ作り! ジェナにとってのパイ作りとは、ある人との心の繋がりへ思いを寄せる時間でもあるのです。 次々に登場するジェナが焼くパイは思わず、お客様の心と食欲を刺激します。
パイ作りの場面もあります!材料を混ぜ合わせたり、生地をのばしたりという一連の動きが滑らかで美しいダンスのよう。アンサンブル(少数精鋭!)キャストのみなさんとの連携で神聖で幻想的なシーンになっています。
高畑さんはジェナを地に足のついたお芝居で、応援したくなるキャラクターとして立ち上げます。それはたとえ見る側が彼女の境遇とは全く違う、考え方も違うとしても、ジェナの葛藤がどこか心に響く。それでいて魅せるところは魅せる!弾けるところは弾ける! どこにでもいる等身大の女性をミュージカルの主役として成立させる、真摯な姿勢と確かな技術、華をもちあわせた稀有な才能を感じさせます。そして、独特な振付も印象的なこの作品、高畑さんの身のこなし、手のしなやかな動きが美しい!
もう、こんなの反則~♡な、おちゃめなシーン
甘いところは甘く!
これも反則と言ったら反則⁉(笑)
ポマターはどこか頼りなく、挙動が…なところもあるのですが愛すべきキャラクター。公私ともに順風満帆に見えるポマター先生、なぜ!という気もしつつ、糖質制限中にパイの甘い香りに抗えなかったり、厳しく律するあまり極端な行動に──というのも人間味あふれるところですよね。とても不器用なところがポマター先生~~っ! どこか憎めないキャラクターとして存在する宮野真守さんと高畑ジェナの息の合った掛け合い、どうしようもなく惹かれ合う引力、コミカル仕立てのシーンも必見。
人生の岐路に立つのはジェナだけではありません。ドーンはおたくである自分に悩みながらも出会いを求め投稿したプロフィールに、なんと、メッセージが!その主はオギー。夫の介護と仕事を両立させている姉御肌のベッキーは店の料理人カルと喧嘩ばかりですが──。
ドーンとオギーのカップルのハマりっぷりには客席大盛り上がりです。このご時世なので、拍手とマスクの下の笑顔ではありますが、客席の温度が上がる感覚。宮澤さんの徹底した役作りはもちろん、おばたのお兄さん!! 登場から醸し出すただものではない感、そして次々に放つ“矢”のようなパフォーマンスのクオリティ! 芝居の間、声のトーン、佇まい、アクロバット、真っ直ぐな愛──そのすべてが観客の心を射抜きます。
ベッキーのたっぷりしたナンバーも大きな見どころ聴きどころ! 自身の生活も大変な中でもかわいいジェナとドーンのことを心配し、応援する。 夫婦関係もキレイゴトだけで描かない、考えさせられるところもあるのですが、それもこれも飲み込んで力強く生きるハートの大きさを感じさせるベッキー! Wキャストのお二人、ナイスキャスティングです。勝矢さん(美声!)演じる、ちょっぴり、いや、だいぶ?粗野な感じのカルとの並びも容赦ない言い合いもパワフル。ベッキーとカル、街の人々に愛されているダイナーで働く市井の人々の人生を描く本作の、小さな幸せ、折り合いをつけて生きていくまさにリアルを体現する二人とも言えます。
ジェナを苦しめる夫のアール──全力でだめな夫を演じる渡辺大輔さんというのも新鮮
ジョーを味わい深く演じる佐藤正宏さん
そんなみんなをいつもの席に座り、ジェナのパイを食べつつ見守るのはオーナーのジョー。憎まれ口をたたくこともあるのですが、心の奥ではジェナたちを気にかけ、店やパイを愛する心優しきオーナーです。
ジェナの出産日は日に日に迫り──一体どうなる⁉
タイプは全く違う二人の親友の支えもあり、悩み苦しみながらも道を切り開くジェナの姿に、最後はやっぱり元気をもらうミュージカル!登場人物に完璧な人はいません、でも、それが現実。失敗したり、寄り道したり、欠落したところを周囲の人と補い合いながら生きるのが人生! 決してライトではない内容ですが、帰り道は芳醇なバターの香りに包まれるような幸せな気持ちです。
ここからは『ウェイトレス』をご観劇されたおけぴ会員のみなさんから寄せられた感想をご紹介いたします。
♪高畑充希さんの、感情豊かで伸びのある歌声に圧倒されました。序盤のジェナのどこか人生に諦めを感じている様子から、恋をして浮き足だち、最後の決意に至るまでの心情の変化を、どこまでも突き抜けるような素晴らしい歌声と共に演じきっていた姿が素晴らしかったです。
♪予期せぬ展開が次々と起こり続け、目が離せません!コメディなので基本笑えるところ満載なのですが、観終わった後、ふと気づくと人生について考えさせられています。
充希ちゃんの舞台上での美しい身のこなし、丁寧な歌唱、説得力のあるお芝居、見応えがあります。日本でもこのウェイトレスな世界が観られるなんて、凄いです。
♪キャストのインタビューなどで女性向け作品と思っていたが、男性の私も十分楽しめました。
♪ポップなポスターからは想像できない人間ドラマが繰り広げられて、ドキドキしました。キャラクターが個性豊かで、良い面ばかりではない人もいますが、こんなこともありそうだよね、と思いながらお話に引き込まれます。シリアスあり、コメディあり、キワドイシーンもありの盛りだくさんな展開で楽しめました。
♪期待を裏切らない、ポップなアメリカンコメディでした。あっと言う間に終わってしまいました。ジェナとポマターのデュエットはどれも胸キュンで必聴です!登場人物がそれぞれに悩みながらも、最終的に前に突き進む姿が爽快でした。楽曲が軽快で場面転換のテンポも良いです。ミルクや小麦粉、パイ生地を使ったレストランらしい演出が斬新で、劇場がレストランになったような臨場感があり見飽きませんでした。
♪ポップな“ザ・アメリカンミュージカル”と思いきや、なかなかのディープでダークなストーリー。が、そこは、高畑充希さんの透明感溢れる歌声はじめ、実力者揃いで聞き応え、見応えたっぷり。特に、おばたのお兄さんの好演に拍手です。
♪高畑さんの歌が素敵でした。下ネタもたくさんあったけど、高畑、宮野ペアがコメディに昇華してくれてみちゃくちゃ笑えました。なによりもおばたのお兄さんのオギーが最高でした!出てくると空気が変わるし、運動神経の良さに驚きました。
♪高畑充希ちゃんと宮野真守さんのペア、絶妙にコメディで、歌う時の声の重なり方もとても良いです!そしておばたのお兄さんがいい仕事してます(まじで)。動きも良いし、歌も違和感ないし、とても面白い。期待以上です!
♪日本初演で楽しみにしていました!一人一人のキャラクターが魅力的で(唯一の悪者?アールですら憎まれ役の魅力あり)女子のリアルなおしゃべりや友情がとにかく楽しい。ちょっと笑いがアメリカン?なところがあり、ん?ん?となったりしましたが、歌を聴かせるシーンあり、笑いあり、涙ありそして最後のそれぞれのハッピーな未来へ向けた始まりが希望と強さを感じました。
♪高畑充希さんが、出ずっぱりなんだけど、とにかく歌うし、キュートで抱きしめたくなる可愛らしさ。それでいて、あまりミュージカルで見かけないカッコいい女性らしさもあり、魅力的。憎まれ役がトコトン振り切っていたり、それぞれのキャラの個性が際立ち、説得力のある演技でストーリーをグイグイ引っ張る、あっという間のミュージカルでした!
東京公演は30日(火)まで日生劇場にて上演、その後、博多座、梅田芸術劇場、御園座にて上演されます!
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人