松本幸四郎さん&吉田都さん対談!日本舞踊公演「未来座=祭 (SAI)=『夢追う子』」、新国立劇場バレエ団『ライモンダ』を控えるおふたりのスペシャルな顔合わせ♪



 歌舞伎役者・日本舞踊家の松本幸四郎さんと新国立劇場 舞踊芸術監督の吉田都さんというスペシャルな顔合わせが実現!

 幸四郎さんが構成・演出・出演を務める「未来座=祭 (SAI)=『夢追う子』」は国立劇場 小劇場にて、新国立劇場バレエ団は『ライモンダ』を新国立劇場 オペラパレスにて、2021年6月に本番を控えるおふたりの対談をお届けします。日本舞踊とバレエの共通点、それぞれの公演のみどころ、舞台芸術のこれからについてうかがいました。



撮影:阿部章仁


──まずは日本舞踊・歌舞伎とバレエ、お互いのジャンルに対する印象からお聞かせください。

吉田監督)
 幸四郎さんは、今日も本番を終えて取材現場にいらして、明日も本番でいらっしゃる……

幸四郎さん)
 そうですね(笑)。とくに今月はちょっと特殊な公演で、役が日替わりとなっています。今日はこの役を僕が、明日は相手役のほうを僕が演じるという具合です。


吉田監督)
 バレエではなかなか考えられないことです。しかも毎日の公演というだけでなく、さらに大変なことをなさっているのですね! バレエもイギリスでは公演数も多いですが、日替わりで役を替えてというのはさすがに聞いたことがありません。ただ、大変なことだと思う一方で、歌舞伎は毎日公演がある、公演数が多いことはうらやましく思います。

──日本舞踊についてはいかがですか。

吉田監督)
 日本舞踊は重心を下に下にという意識で、バレエはできるだけ体重を感じさせないように上に上に──踊り方という点では真逆とも言えます。ただ、「伝統」という点では共通する部分があると感じています。

幸四郎さん)
 僕から見たバレエの印象は「繊細」。ただし、それは壊れそうな繊細さではありません。繊細さの中に研ぎ澄まされた力強さがある。それは稽古を積み重ねて作り上げられた、鍛錬した「肉体」というものがあるからでしょう。

 先ほど吉田監督がお話された「伝統」については、伝統とその進化ということも含めて、僕も相通じるものがあると思います。古典作品の演出を変える、変えていくということ。舞台に立つ人数が変わることもありますし、道具が変わる、曲が一部変わることもあります。そうやっていろいろなものに対応しながら古典が進化していくという点が似ているように思います。

──6月には幸四郎さんは「未来座=祭 (SAI)=『夢追う子』」が、新国立劇場では『ライモンダ』が控えています。それぞれの公演のみどころは。



撮影:阿部章仁

幸四郎さん)
 未来座は日本舞踊協会の新作公演。日本舞踊のひとつの可能性として、さまざまな題材、音楽、演出を取り入れることで生まれる新たな日本舞踊ということで、毎年、公演を行ってまいりました。残念ながら去年の公演は中止となってしまいましたが、それを今年、第4回日本舞踊 「未来座=祭 (SAI)=『夢追う子』」として上演いたします。

 私が構成・演出いたしますが、ストーリーというよりは、日本舞踊を“得意技”とする日本舞踊家たちが存分に踊る姿をご覧いただく、とにかくみんながひたすら踊っている、そのエネルギーを感じていただきたいという作品です。もちろんそこには、人と人との出会いにより生まれるもの、同じものに向かっている者同士が出会えばそこには競い合うことが生まれ、男女が出会えばまた別の何が生まれる──といったテーマもあるのですが、まずは踊る姿をご覧いただきたいと思います。

── 1年越しの公演ですが、思いや構成に変化は。

幸四郎さん)
 昨年上演するにあたって準備していた道具や曲はほとんど変えていません。逆に言うと、イメージをまっさらにせずに、より進化させています。出演者も、多くの流派の方々で構成された47名でしたので、1年後の上演に際して再びみなさんが集まることができるかとの懸念もありましたが、全員が出演を受けてくださいました。そういう意味では、一昨年から準備を始めましたのでトータルで2年越しの思いが、ここで花開くといいなと思います。

吉田監督)
 『ライモンダ』は中世十字軍の時代の物語で、古典バレエの傑作のひとつに数えられます。新国立劇場では牧阿佐美先生が改訂振付された『ライモンダ』を全幕で12年ぶりに上演します。

 他の『ライモンダ』演出作品では見られない、牧版『ライモンダ』の特徴としては、プロローグでのライモンダとジャン・ド・ブリエンヌの二人だけで交わす婚約の場面を追加することにより、ストーリーがより分かりやすく伝わる構成となっている点が挙げられます。そして、アブデラクマンを単なる悪役ではなく、相思相愛の恋人がいるライモンダを一途に想う端正な騎士として登場させ、いつの時代にも起こり得る、普遍的な男女の恋愛模様を描いています。

 私も牧版初演の時にライモンダ役を踊りましたが、本作は、ライモンダはもちろん、様々なキャラクターダンスも登場し、作品全体として踊りで見せる部分が多く、そこに苦労したことを覚えています。また、ルイザ・スピナテッリさんによる美術・衣裳の造形はもちろん、特に色彩感覚が美しく、それはバレエ団の宝物とも言えます。このように総合芸術として、踊り、舞台美術、音楽、物語のすべてを楽しんでいただける作品となっています。


──未来座は47名の出演者が一堂に会し、バレエ団は70余名のダンサーが在籍されています。表現者の集団をまとめ、率いていく上で大切にされていることは。

幸四郎さん)
 作品を作るにあたっては出演者の方が「今までで一番いいね」と言われるものにしたいと思っています。そのために、それぞれの個性を見定め、それを引き出すのか、広げるのか。結果として、その人の代表作になることを目指しています。

──現在、まさに個性を見定めている最中というところでしょうか。

幸四郎さん)
 今の段階では、「この人、変わっているね」という要素が出過ぎてしまい、日本舞踊を逸脱したのではないかという瞬間も(笑)。 日本舞踊として、その人の個性が活きるところを引き出したいのですが、どうしても面白い部分ばかりに意識が──、困った性分です(笑)。

──どのような作品になるのか興味津々です(笑)! 吉田監督はいかがでしょうか。

吉田監督)
 私も、ダンサーのいいところを引き出したいと考えています。そのためには、みんなが気持ちよく舞台に立てる、その環境づくりにも気を配るようにしています。また、作品を作るうえでは目標を明確にすることを大切にしています。みんなが同じ認識を持っていないと注意も伝わりませんので、そこは常々心がけています。

──監督就任以来、作品にもその効果がしっかりと表れているように感じます。『ライモンダ』がどう仕上がるのか、ますます楽しみになります。

 ではここからはコロナ禍での芸術活動とこれからについてうかがいます。幸四郎さんは図夢歌舞伎※1などの配信、吉田監督もバレエ公演の配信など新しいことに挑戦されています。制約のある中での芸術活動についてのお考えをお聞かせください。


※1:図夢(ずぅむ)歌舞伎:ビデオコミュニケーションツール“Zoom(ズーム)”に着想を得たオンライン歌舞伎。

幸四郎さん)
 図夢歌舞伎も、昨年の未来座公演のNHK Eテレ「にっぽんの芸能」での放送※2も、公演ができないなら映像・配信だろうと思って動いた結果です。

 僕は歌舞伎や日本舞踊で舞台に立ち、それを見ていただく、それが自分の役目だと思っています。では、あの状況下で芝居をやるにはどうしたらいいか。それを考えたとき、舞台だけじゃないだろうと思ったんです。未来座については、まずNHKさんにお話しました。出演者47人が全員集まることはできない、だったら一人ずつ収録してそれを一つの作品として構成する。そうやって実現しました。まず、掲げてしまうんです!

 お芝居がしたい、踊りを踊りたい、それを掲げることが行動するエネルギーになる。立ち止まるのもすごい決断だと思いますが、僕は半歩でも、一ミリでも前進し続けたい。そのために何ができるかを思ってやっています。配信、これは舞台とは違う魅力だと思いますので、舞台が開いても配信での歌舞伎も継続していくでしょう。今は、100年続くうちの1年目だと思っています。どんどん進化していけばいいと思っています。

*2:昨年中止となった「夢追う子」公演の企画を活かしたいという幸四郎さんの願いが通じ、2020年7月にNHK Eテレ「にっぽんの芸能」にて、「踊れ、今こそ~幸四郎と舞踊家47人の挑戦~」と題し、映像作品「夢追う子~ハレの日への道しるべ」を制作、番組内で制作現場の模様とともに放送されました。



撮影:阿部章仁

吉田監督)
 これまで私の中での舞台芸術は、やはり劇場にいらしていただいて、この空気の中でみなさんが同じエネルギーを共有して──という考えでした。それがコロナ禍の中で公演の配信を行ったところ、配信によって劇場だけでなく世界中が観客になりました。その広がりに驚くとともに、これまで劇場に足を運ぶ機会のなかった方にもアプローチできるという意味でも大きな可能性を感じました。

 私たちはまだ中止となった公演の配信という段階にいて、幸四郎さんのように配信を前提としたコンテンツ制作にはまだまだ追いついていませんが、幸四郎さんの試みは大変興味深く拝見しています。バレエという芸術をより広く知っていただくためにも様々な発信を続けていくことが必要だと実感しています。

──公演を楽しみにされているみなさんへメッセージを!

幸四郎さん)
 2年の思いの詰まった新作日本舞踊公演。思い続ければ、いつか夢は叶う。夢を持ち続けることが大きな力になるということ、それをみなさんと共有したいと思っています。ぜひ、見に来てください。

吉田監督)
 大変な状況が続いておりますが、まずは無事に上演できるように自分たちができることに取り組んでまいります。『ライモンダ』は美しい舞台美術と衣裳に彩られた舞台で全幕バレエの醍醐味を堪能していただける作品です。多くのお客様に足を運んでいただけると幸いです。



『ライモンダ』ビジュアル
Photo by Satoshi Yasuda


【公演情報】
「未来座=祭 (SAI)=『夢追う子』」
2021年6月4日(金)~6月6日(日)@国立劇場 小劇場
構成・演出:松本幸四郎

振付:水木佑歌、西川大樹、若柳里次朗、花柳大日翠
音楽:仙波清彦
テーマ曲作曲:久米大作
脚本:鈴木英一

出演者:松本幸四郎
泉秀彩霞、岩井寛絵、尾上博美、尾上紫、勝見嘉之、中村光都靖、西川一右、西川扇里治、西川扇重郎、花ノ本寿、花柳曄小菊、花柳喜衛文華、花柳邦秀雅、花柳秀衛、花柳寿之真瑠、花柳輔悠奈、花柳寿々彦、花柳寿万籠、花柳寿美柚里、花柳摂月華、花柳雅あやめ、花柳真珠李、花柳基はるな、坂東扇弘、坂東信兎音、藤蔭里燕、藤間勘楚恵、藤間晃妃、藤間皓也、藤間翔央、藤間笙三郎、藤間扇里、藤間涼太朗、松島昇子、松本幸雅、松本幸凜、水木歌蓮、水木紅耶、水木都亜歌、水木佑阿、吉村輝洸、若見匠祐助、若柳杏子、若柳弥天、若柳佑輝子、若柳勒彩(※50音順)

日本舞踊協会ホームページ

新国立劇場バレエ団『ライモンダ』
2021年6月5日(土)~6月13日(日)@新国立劇場 オペラパレス
振付:マリウス・プティパ
改訂振付・演出:牧 阿佐美
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
美術・衣裳:ルイザ・スピナテッリ
照明:沢田祐二

6/5(土)14時【ライモンダ】米沢 唯 【ジャン・ド・ブリエンヌ】福岡雄大
6/6(日)14時【ライモンダ】小野絢子 【ジャン・ド・ブリエンヌ】奥村康祐
6/11(金)14時【ライモンダ】柴山紗帆 【ジャン・ド・ブリエンヌ】渡邊峻郁
6/12(土)14時【ライモンダ】木村優里 【ジャン・ド・ブリエンヌ】井澤 駿
6/13(日)14時【ライモンダ】米沢 唯 【ジャン・ド・ブリエンヌ】福岡雄大

指揮:アレクセイ・バクラン
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

『ライモンダ』公演HP

おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人

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