ミュージカル『ジェイミー』オンライン稽古場取材会レポート~心の中にあるそれぞれの真実を見つめて~




人生は自分自身のもの 自分らしく生きていい―
Inspired by the Firecracker documentary film Jamie: Drag Queen at 16


 今夏8月8日より、東京建物Brillia HALLにて上演されるミュージカル『ジェイミー』(日本版初演!)、稽古場取材がオンラインで実施されました。一部衣裳を着けての5曲の楽曲披露と、それに対する演出家からのノート、最後にはトークセッションという盛りだくさんの取材会の様子をレポートいたします。


 歌唱披露ダイジェストを追加掲載いたしました♪(7/11)



【稽古はまさにクリエイションの場、創作の真っ只中】


 現在は、来日した日本版『ジェイミー』の演出・振付を手掛けるジェフリー・ペイジさんのもと、2週間ほど稽古を積んだところ。そこはまさにクリエイションの場。というのも、日本版は、これまで上演されたウエストエンドや韓国版とは全く異なる、独自の演出・振付となるのです。つまり新しい『ジェイミー』が育まれている現場なのです。

 そして画面越しに見る稽古場には、昨日から登場したという実寸の仮セットが組まれています。ここを舞台に『ジェイミー』の物語が繰り広げられるのかと想像力スイッチが自然にONなります。



森崎ウィンさん

 まず披露されたのは、本作のオープニングナンバー♪誰も知らない~And You Don’t Even Know It。制服に身を包んだ個性豊かな生徒たちの軽快なステップが躍動感を生むエネルギッシュなシーンです。躍動する生徒たち、そこに登場する教師ミス・ヘッジ(樋口麻美さん/実咲凛音さんとのWキャスト)の進路指導。「なりたい職業は」──、そこから『ジェイミー』の物語が始まります。



 ジェイミーは森崎ウィンさん(髙橋颯さんとのWキャスト)、とても自然体でジェイミーとしてそこにいる森崎さん。それでいて物語の主役、人生の主役たる求心力も感じます。柔らかい歌声から、張りのある歌声まで、いきなり出力全開です。

 ジェフリーさんからは足さばき・ステップについて、「足のセパレーションをはっきりと」という指示がありました。そして「ここで大事な重心移動がすごくよくなってきている!」とお褒めの言葉も!森崎さんにも「よかったよ」の言葉とともに振りのタイミングの確認。こうして演出家とキャストのやり取りを見ることができるのも稽古場ならでは。


【一幕ラストを飾る濃厚タイム】


 続いては♪乗り越えるもの ~Over the Top、これは、ある日ジェイミーが自分の夢をかなえるためにとあるドラァグクイーンのドレスショップを訪れるというシーンです。そこで出会った、石川禅さん演じる、うだつの上がらないおじさん・ヒューゴ(実は伝説のドラァグクイーンのロコシャネル)がジェイミーにいろんなことを教えてくれます。「自分が何になりたいのか、何者なのかだけを考えなさい」、ドラァグクイーンになりたい、プロムにドレスを着て出席したい、そんなジェイミーの夢を後押しするドラァグクイーンたち(ドラァグス)のシーンです。



今井清隆さん、石川禅さん、泉見洋平さん、髙橋颯さん、吉野圭吾さん

 一部衣裳も身に着けてのゴージャスで濃厚なシーン。登場するのは、ヒューゴ(石川禅さん)、サンドラ・ボロック(今井清隆さん)、トレイ・ソフィスティケイ(吉野圭吾さん)、ライカ・バージン(泉見洋平さん)、そして髙橋ジェイミーです。

 うだつの上がらないどころか、とてもゴージャスなヒューゴ、お声も艶やか、ドレスもウィッグもつけまつげもバッチリです。ほかのドラァグスのお三方も個性さく裂、情報量が多すぎて処理できない!といっても、出オチということは一切なく、一人ひとりがまとう人生の年輪、誇り(またの名を貫禄!)が美しい(たくましい)、愛すべきドラァグスです。みなさんの美声が織りなす、重厚、いやもはや荘厳とでも言うべきハーモニーにも圧倒されます! 髙橋さんのジェイミーは夢に向かうキラキラした瞳、父からの手紙に心ときめかせる16歳の幼さが印象的。背中を押してあげたくなるジェイミーです。



吉野圭吾さん、今井清隆さん、泉見洋平さん

 果たしてジェイミーは一歩を踏み出せるのか!一幕ラストを飾るにふさわしいシーンです。シーンの深化はもちろん、ジェイミー、そしてドラァグスのみなさんの衣裳もここから本番までにさらなる進化を遂げるとのこと!楽しみです。



ジェフリーさんからはポーズからターンのタイミングの変更が指示されました


【噂のジェイミー】



 シーンは二幕冒頭へ♪噂のジェイミー ~Everybody’s Talking About Jamie。教室は、前日に観た、とあるショーの話題でもちきり。ドレスを着たジェイミーがクラスメイトたちの心に変化を起こします。生徒たちのやり取りはもっぱらジェイミーのこと、興奮する生徒たちを、ひとり冷たい表情で見つめるディーン(佐藤流司さん/矢部昌暉さんとのWキャスト)。心の温度差くっきりです。

 続いてはジェイミーの母マーガレット(安蘭けいさん)と母の友人レイ(保坂知寿さん)、そして自信を手に入れ向かうところ敵なしという森崎ジェイミーの3人が歌う♪限定モノ ~Limited Edition。この日、初めて袖を通すというジェイミーの赤いドレスにも注目です!



森崎ウィンさん、保坂知寿さん

 ノリノリのジェイミーとレイに対して、ジェイミーを心配そうに見つめるマーガレット。複雑な親心です。5月の楽曲披露イベントの際は「ヒールを履くには脚力が……」と話していた森崎さんですが、赤いハイヒールもすっかり履きこなし、華麗に振舞います。また、安蘭さんや保坂さんが一瞬にして作り出す空気、それによって伝わる人間関係は圧巻です。

 ここでのノートは独自演出ならではの修正。ジェイミーのドレスの肩の大きなフリルのため、ジェイミーの後ろから顔を出す保坂レイが見えないということが発覚、そんな時は「これは僕のせいだね。あとで(振りを)直します」とジェフリーさん。

 最後は、♪我が子、あなたの子 ~My Man, Your Boy、母から息子、息子から母へ“思い”を伝え合うナンバーです。



安蘭けいさん、髙橋颯さん

 いつもジェイミーを認め、大きな愛で包んでくれる母マーガレットの「あなたはいつだって美しい」という言葉が心にしみます。ジェフリーさんから「今日はどうだった?」と問われ、「芝居からの流れが繋がった」(安蘭さん)「ハグするところがしっくりきた」(髙橋さん)と。これは昨日行われたシーンワークの成果とのこと、ジェフリーさんからも「すごく良い方向へ向かっている」との言葉が。ワンシーンごとに丁寧に作り上げられています。


 こうして5曲の楽曲披露が行われた最後の最後、ジェフリーさんがひときわ大きな声で「マスク無しのみんなの顔が見られることが本当に嬉しい!」と。心の叫びですね。やはり芝居、心の交流ですので、表情が見られない中での稽古はどれほど大変か。互いの顔を見ながらの芝居、歌はまた新たな発見に溢れたものだったことでしょう。ここから1か月、どんな初日を迎えるのか、期待が膨らむ稽古場でした。(ちなみにこの日は、通常のチェックに加えて、より入念な検査をしてのお稽古だったとのことです)


【質疑応答】



今井清隆さん 石川禅さん 安蘭けいさん 森崎ウィンさん 髙橋颯さん 保坂知寿さん ジェフリー・ペイジさん

──保坂さん演じるレイのキャラクター、初共演となる安蘭さんと親友役ということについて。



保坂さん)
 私の役は、マーガレットの親友レイ、安蘭さんとは初共演ですが“はじめて感”がまったくありません(笑)。(この発言に、安蘭さんも「私もそうそう」と同意!)最初からすごく心の距離が近かったので、ありがたく思っています。また、レイがジェイミーとマーガレットという愛すべき親子が一歩を踏み出すのをサポートする、寛容である、そうする理由として、彼女にもまたマイノリティな一面がある。ジェフリーと相談しながら、レイをそのようなキャラクターとして作っています。


──石川さん、今井さんに。数多くのミュージカルに出演されてきたお二人から見た『ジェイミー』の楽曲の魅力。また、それぞれの役を演じる上で感じていること。



 どちらが先に答えるか、なんと“じゃんけんぽん”が始まりました(笑)。結果は──。

石川さん)
 はい、どうぞ!

今井さん)
 ではお先に(笑)。楽曲はとにかくロック調でノリがよくて楽しい。客席で一緒に踊りたくなるようなナンバーです。

 あと…(はじめて衣裳を着て)ちょっと自分が怖い(笑)。このカーラーを巻いたサザエさんのようなヘア、楽屋裏ということでこれが正しいヘアということにいささかショックを受けました。こうして鏡を見ると、座り方なども含め、いろんな注意点が出てきたところです。ただ、ドラァグクイーンのしゃべり方を一生懸命練習していると、もうひと役の父親の台詞も影響されてしまいそうで……そうならないように気をつけながら頑張ります!

石川さん)
 楽曲は、まさに“現代のミュージカル”ですよね。昭和に生まれ、昭和歌謡で育った私たち(“たち”でいい?と今井さんに許可を求めるところが可愛らしい)的には、リズムをキャッチするのがとても難しく、いっそのこと“ド演歌”で行っちゃえ!なんて冗談で言っています(笑)。そんな“今”のリズムの入った、とても洗練された音楽だと思います。

 役どころに関しては、ドラァグスは一人ひとりがとても魅力的、とっても素敵な人たちなんです。主人公が憧れたパフォーマーなのでね。僕が演じるヒューゴはその中でも(ドラァグクイーンとしてのジェイミーの)育ての親のようなところもある。とても楽しく演じています。ただまぁ、このハイヒールにつけまつげ、マニキュア、わたくし57年間の人生の中で初なので──

今井さん)
 綺麗よ。

石川さん)
 ありがとう。ファラ・フォーセットです…あ、全然通じていない人ばかりだ(笑)。

(おけぴ心の声:わかりますよ!というかむしろツボです!)

MC)
 きっと画面の向こうのみなさんは初めてとは思えない身振り、手振りとドレスさばきだと思われているでしょう。

石川さん)
 そう?頑張るわよ!でも実は、すっ転びそうになりました(笑)。



MC)
 本日公開した楽屋のシーンとはちがう、完全バージョンのドラァグスのシーンもありますのでお楽しみに!


──ジェフリーさんへ。本作に込められたメッセージ、また日本版クリエイションの感想をお聞かせください。



ジェフリーさん)
 この稽古場に座ってみんなを見ていると、改めて思うことがあります。様々なバックグラウンドや文化を持った、様々な世代の役者がそろっていると。そんな才能あふれるみなさんと一緒に時間を過ごすことで、より深い意味でお互いの“違い”に感謝や尊敬の念を持つことができる。ここはそれを育んでいく場所です。そうやって、若い方も先輩方も互いに学ぶ、それがみんなの糧になると信じています。

 そして、そのことは『ジェイミー』のもつメッセージにも繋がります。この作品には、「我々は社会、コミュニティの中でどうあるべきか」という問いがある。“違い”を乗り越えて、お互いの中にあるそれぞれの真実に焦点を当てるということです。ですから、ウィッグを着けていようが、ドレスを着ていようが、ズボンをはいていようが、大きなピンクのサングラスをしていようが、ジャージでもジャケットでも……、そういった表面的なものを超越した何かをお互いの中に見つけ、心の中にあるそれぞれの真実を見つめることができればいいな。そういう作品だと思っています。


──安蘭さん、髙橋さん、森崎さんはお稽古の手応え、課題をどのように感じていますか。また、楽しみにされているみなさんへのメッセージを。



安蘭さん)
 私は母親役ということで、母親像をより明確に出したい、そのためにも息子たちとのコミュニケーションを深めていこうと思います。学生たちのシーンは元気を、ヒューゴさんたち大人の濃いメンバーのシーンは笑いを、私はお客様に共感してもらえるようなシーンを担っていければと思います(笑)。

 開幕までの1か月、もっともっと役を深めて参ります。このようなご時世なので、お友達をお誘いあわせの上……とは言いにくいのですが。そうは言っても多くの方に見て欲しい!それが今の正直な気持ちです。



髙橋さん)
 えっと、(稽古の手応えについてお話すると)謝罪会見になりそうで怖いのですが(場内笑い)、開幕までにやるべきことはたくさんあります。それは自覚しています。

 そして僕自身も幕が開くのを楽しみにしています。伝えたいメッセージをちゃんと届けますので、気楽に、余裕のある方は覚悟を持って受け取りに来てください。



森崎さん)
 まだまだ稽古途中ではございますが、今日を迎えられたことを嬉しく思います。昨日、稽古場(仮セット)が仕上がったのですが、こうしてエンタメできていることが嬉しいんです。

 ここからたくさん努力をして、幕が開くまでに自分にできることを目いっぱい詰め込んでいきたいと思います。ぜひぜひ、『ジェイミー』の世界に飛び込んでいただき、日常を一瞬だけでも忘れて、エンタメを感じてください。そしてみなさんが劇場を出る時には、ポンと背中を押せるような作品をキャストスタッフ一丸となって作ります。劇場でお待ちしております。




 公演は東京公演ののち、大阪・新歌舞伎座、愛知・愛知県芸術劇場 大ホールへと続きます!


【公演情報】
ミュージカル『ジェイミー』
2021年8月8日(日)~29日(日)@東京建物Brillia HALL
2021年9月4日(土)~12日(日)@新歌舞伎座
2021年9月25日(土)・26日(日)@愛知県芸術劇場 大ホール

<スタッフ>
音楽:ダン・ギレスピー・セルズ
作:トム・マックレー
日本版演出・振付:ジェフリー・ペイジ
翻訳・訳詞:福田響志

<キャスト>
ジェイミー・ニュー:森崎ウィン/髙橋颯(WATWING)
マーガレット・ニュー:安蘭けい
プリティ:田村芽実/山口乃々華
ディーン・パクストン:佐藤流司/矢部昌暉(DISH//)

ファティマ:伊藤かの子
ミッキー:太田将熙
サイード:川原一馬
サイ:小西詠斗
ベックス:鈴木瑛美子
ヴィッキー:田野優花
ベッカ:フランク莉奈
リーバイ:MAOTO
(五十音順)

ミス・ヘッジ:樋口麻美
ミス・ヘッジ(女性役U/S):実咲凜音
トレイ,ライカ(男性役U/S):永野亮比己
※U/Sアンダースタディ

ライカ・バージン:泉見洋平
トレイ・ソフィスティケイ(ヒューゴ/ロコシャネル役カバー):吉野圭吾

レイ:保坂知寿
ジェイミー父/サンドラ・ボロック:今井清隆
ヒューゴ/ロコシャネル:石川 禅

※ジェイミー、プリティ、ディーン役及び、ミス・ヘッジ、トレイ、ライカ役につきまして、公演により出演キャストが異なります。

公演HPはこちらから

オフィシャル撮影 田中亜紀
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人

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