意外や意外!? 舞台初共演の【
渡辺えりさん・
高畑淳子さん】ダブル主演!
何とも身につまされるようで、グッと惹きつけられるタイトルの中身は……
笑って泣けて共感できる喜劇作品!!この夏、新橋演舞場と大阪松竹座で上演される
『喜劇 老後の資金がありません』の製作発表記者会見の模様をお届けいたします!
マギー(演出)今日は緊張しながらホテルに入ってきたのですが、ちょうどそのとき、えりさんと高畑さんがご挨拶されているタイミングで。お二人が「あ〜〜!」「いや〜〜!!」と言い合っている姿が、
明るく大きなお花が二輪、パッとそこに咲いているようで……「この舞台ってこういうことだよな」と思いました。
この作品は原作がすごく面白い。脚色するにあたって、
「老後の資金がありません……」という内向きな独り言を、「老後の資金がありません!!」と歌い上げることで、明るく表現できればと思いました。歌や踊りや笑いで、この生活感あふれる作品を“エンターテイメント”にしたいと思っています。
渡辺えり(主婦の“後藤篤子”役)本当に老後の資金がないんですね、私(笑)。
去年コロナで大赤字を出したりして。そんな今、66歳でこの芝居をすることが興味深く、楽しみです。
老後の資金はないけど、もっと必要なものがあるな、と、この一年考えています。友情や家族の愛情、目に見えないものが本当に大きいのだということをつくづく考えた一年でした。
この作品は、長年一緒に暮らす夫婦の間に、資金がないとわかったときにちょっと亀裂が走る。信頼していたものに対して「そうじゃないのでは」と微妙に疑いを持つ……そういったことを乗り越えていく話だと捉えています。
歌も踊りもありますから、
とにかく明るく!夢のように明るく演じたいと思います。だって「老後の資金がない」んですから!(笑) 不安の奥にある夢の部分をパッと華やかに現出できたらと思っています。
高畑淳子(夫とベーカリーを営む“神田サツキ”役) とにかくえりさんはエネルギッシュな方。今回の公演日程も私にとってはなかなかエネルギッシュです。私、こう見えて意外とか細くて(隣からえりさん「え!」)、だいたい芝居の途中くらいで無声映画のようになってしまい、千穐楽は声が何も出なかったということが以前にもありました。今回は自分の体力と帳尻を合わせて、最後まできちんとお客様に満足していただけるように努めます。
この時代、一番枯渇しているのは心の滋養。不安なんですよね。このあいだ、映画館の客席に座り、スクリーンを見た時点でダダ泣きしてしまって。映画館のような場所に来ること自体、魂が震える。やはり
劇場には不思議な力があって、何かを強くしくれる魔法のような場所だと私は思います。そういう意味でもお客様に何かを満たして帰っていただける作品になればと思っています。
──お互いの印象について。渡辺) 昔から共演したいと昔から思っていたけれど一回もなくて。『女たちのシェイクスピア』で酔っぱらいの男役を演じているのを見て、すごい役者さんだ、いつかご一緒したい!と思い、それから30年です。
井上ひさしさんの作品、明治座、青年座……たくさんの舞台を拝見していますが、
“全部違う”ところが好き。高畑さんは高畑さんなのですが、全部心根を変えている。そして、台詞を言わない時の表情が面白い。稀有な役者さんのひとりです。
高畑) 20年、25年ほど前でしょうか、PARCO劇場であるお芝居をしていたところ、えりさんがお客様で、ドドドドッと楽屋にいらして。出演者の一人を捕まえて、
「あんた、あの役わかってる!?」と言い出したんです。すごいな、この人は、と。その人とお芝居をするのかと思うと……(笑)。
渡辺) 若いときは演出をしていて、
友達とは言いたいことを言い合って高め合わなくてはと思い込んでいたんです。亡くなった(中村)勘三郎さんとも「おかしいよ」「嘘ついたでしょ」とか言い合って、お互いに高め合っていました。今は絶対にやりません! 60代ですから。今やったらパワハラになってしまう!!
高畑) ものを作るということはそういう刺激あってのこと。でも、そこから遠ざかっている自分がいます。誰も言ってくれない“裸の王様”になりつつある年代。できうる限り、体力をみながら最後まで立つことが一番ですが、いま久々に
“お芝居を作れる”という楽しみにあふれています。
──今回は「歌あり、踊りあり」の舞台。渡辺) 歌があることで時間が“飛べる”。小説をそのまま脚色すると長いお芝居になりますが、歌と踊りを入れることで時間を飛ばして、その部分を歌で解説することができる。気持ちもスカッと切り替えられます。
ディズニー映画のシンデレラも歌うじゃないですか。「好きだよ」と言う気持ちを歌って踊って表現する。言ってはいないけど、「二人は愛し合っているんだな」というのがわかる。そういう気持ちを端的に説明できるという意味で、歌と踊りはいいな、と。私は好きです。
高畑) 私は苦手です。特に歌はドレミファ「ソ」くらいからファルセットになってしまう。ひとりで歌うときはいいんですが、えりさんと一緒に歌わなきゃいけなくて。えりさんすごくお上手で野太い声なので……(笑)。
渡辺) え? 私、見ましたよ。(高畑さんの)リサイタルのビデオ。すごくよかったですよ。
高畑) 歌、酷いんです。声がすぐ漏れる。神野三鈴さんに「お姉ちゃん、歌は一生やめた方がいい」と言われました(笑)。
マギー) 楽しみ!どんな感じになるんだろう。
──脚色・演出のプランについて。マギー) まさに先ほど、えりさんがおっしゃったこと。心象風景、心の中の独り言みたいなものを、モノローグで語ったら暗く内向きになる。そこを歌と踊りにすることで、
明るく、時にはバカバカしくさえ感じるように伝えることができるとしたらすごくいいな、と。そういう脚色にしています。
──今の状況で劇場に立つこと、お客様をお迎えすることについて。マギー) コロナ禍になる前に書かれた作品。世界観としてはコロナになる前の世界として描くつもりです。閉塞感のある世の中、
マスクの中でゲラゲラと開放感をもって笑っていただいて、そんな気持ちで劇場の外へ出てもらうことが、我々がお客さんに届けるべきことかなと思っています。
渡辺) 本当に孤独でつらい生活を送られていると思います。そこで生の演劇を見ると救われますよね。わたしもこの一年間、劇場にいる時だけほっとする。劇場にいると、ここが自分の居場所だなというくらい本当に穏やかな気持ちになります。ですから、
お客様がほっとできるような、大笑いできる芝居にしたい。この芝居を稽古し、本番をやることで、自分自身の精神も救われるのではないかという気がしています。
高畑) 今回、特にご高齢な方のお申し込みがとても多いんです。やっぱり心が欲しているんでしょうね。
舞台の上は安穏なことばかりでなく、例えばこの作品の中で、“うちのパン屋”がうまくいかなかったりもする。でも、それが人生。コロナだって、こんなことになるとは思わなかったけれど、思いもよらないことにぶち当たってしまうのが“生きている”ということ。
私はこの世界が好きで、
小説や映画、舞台は心を強くしてくれる存在。お客様も絶対そうなっていただけると信じて、心を込めて演じたいと思います。
おけぴ取材班:hase(文・撮影) 監修:おけぴ管理人