19世紀末にロンドンで起こった猟奇的連続殺人事件の真相を、新たな解釈で描くミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』。日生劇場にて日本初演の幕が上がりました!
娼婦ばかりを狙った連続殺人事件、通称“切り裂きジャック事件”を追う刑事、記者、証言者、そしてジャック。事件を接点にした男たち、彼らが愛する女たちの人生が絡み合い、哀しい愛のドラマが繰り広げられます。もちろんドラマティックな楽曲、同じ旋律がまったく異なる印象を与えるリプライズなどミュージカルとしての醍醐味もたっぷりです!
ものがたり
1888年ロンドン。
刑事のアンダーソン(加藤和樹・松下優也)は娼婦だけを狙う、“ジャック・ザ・リッパー”と呼ばれる殺人鬼(加藤和樹・堂珍嘉邦)を追っていた。残忍な犯行で解決の糸口も見えないため、マスコミを排除し非公開で捜査を進めようとする。 しかしロンドンタイムズ紙の記者、モンロー(田代万里生)はスクープ記事のネタを狙って アンダーソンに近づく。 モンローは、麻薬中毒者で金が必要なアンダーソンの弱みにつけこみ、情報提供の取引に応じさせてしまう。
4度目の殺人現場で、アンダーソンの前に男が現れ「犯人を知っている」と告白する。「そいつの名前はジャックだ」と。 彼は、7年振りにアメリカからロンドンにやってきた外科医ダニエル(木村達成・小野賢章)。 7年前、ダニエルと元娼婦のグロリア(May’n)はジャックと出会っていた。
犯行が重ねられ事件は混迷を極めていく一方。 アンダーソンはダニエルの告発に基づき、おとり捜査を計画するが、ロンドンタイムズ紙は “ジャック・ザ・リッパー”の殺人予告記事の号外を出してしまう。 そして、アンダーソンと彼のかつての恋人だったポリー(エリアンナ)までもが事件に巻き込まれる。
果たして、殺人鬼“ジャック・ザ・リッパー”の正体とは…?
そして、本当の目的とは…?
未解決連続殺人事件の真相を追うスリリングな展開。ロンドンの街を、時代を憎みながらも愛する男たちの狂おしい愛の物語。 一人ひとりのキャラクターやその過去の描写に余白がある分、ダブルキャストが配されている役については演じる俳優によってキャラクターの見え方が変わります。

ダニエル:木村達成 グロリア:May'n(撮影:田中亜紀)

写真中央)ダニエル:小野賢章(撮影:田中亜紀)
グロリアを見つめる真っ直ぐなまなざし、「…君に会った時から♡」「♪い~まも胸が痛い、(ため♡)、あぁ」、純度100%な愛を放つ木村ダニエル。夢を語るその瞳にもキラッキラの輝き。そんなダニエルが狂おしいほどの愛ゆえに、光から闇に堕ちていく。
自らの研究への強い信念に突き動かされる小野ダニエル。彼の心が歪んでいく、その引き金を引いたのが哀しいほどの深い愛。歌唱披露会のキャストトーク動画で、「グロリアに対してもいろんな感情が生まれる」とお話されていたように、ダニエルの複雑さを芝居ににじませる小野さん。
ただ、どちらのダニエルもグロリアへの思いに嘘はなく、その恋はまばゆいばかりの光を放つ。
ダニエルとグロリアの恋が初恋の甘酸っぱさならば、アンダーソンとポリーのそれは腐れ縁のほろ苦さ。一瞬にして燃え上がる恋と、くすぶり続ける愛とも言えるでしょう。

アンダーソン:加藤和樹 ダニエル:木村達成(撮影:田中亜紀)

ポリー:エリアンナ アンダーソン:松下優也(撮影:田中亜紀)
麻薬におぼれ、退廃的な生活、まるで世捨て人のようなけだるさをまといながらも刑事を続ける男の正義。自らの中にある矛盾のなかで、もがき続ける加藤アンダーソンの憂鬱と絶望。若き日に確かに持っていたであろう清廉さのかけらが見え隠れする松下アンダーソン。繊細過ぎる心を持ったゆえに堕落の道をたどるしかなかった男の悲哀に胸が締め付けられます。
それぞれの印象を植え付けながらも、物語の結末に向けてともに大きな説得力をもたせる二人のアンダーソン。
残忍な殺人を犯す、ジャック登場の音楽はロックテイストの高揚感のあるナンバー。口笛を吹きながら現れる、そのメロディは甘美な響き。

ジャック:加藤和樹 ダニエル:小野賢章(撮影:田中亜紀)

写真中央)ジャック:堂珍嘉邦(撮影:田中亜紀)
加藤ジャックは場の支配力をさく裂させる。さながらジャック劇場。そのパフォーマンスは独特の陶酔感を生み出し、人間の中に潜む悪に火をつけます。堂珍ジャックは妖しく美しく場を支配するミステリアス度の高いジャック。気が付くとそこはジャックの世界。
そして両ジャックが生み出す客席の熱狂が、当時のロンドンの人々の事件に対する熱狂と重なるような恐怖も感じさせます。
そこにモンローも加えた、三つ巴ならぬ四つ巴の男たち。多くの言葉を交わすこともなく、さしたる心の交流はないにもかかわらず、“殺人鬼ジャック”に引き寄せられるように互いに追い、追われ、求め、求められ……、それぞれの運命の糸は複雑に絡み合います。その中で浮かび上がる人の心に潜む光と闇。やがて解き明かされる真実。もうゾクゾクします。
また、この物語の中のキャラクターの対比や関係性ゆえに、組み合わせが変わることで、ダブルキャストの違いが有機的に作用していく面白さにも期待。木村ダニエルの放つ光と小野ダニエルの放つ光は微妙に異なり、それはアンダーソンやジャックも同じ。この連鎖反応が『ジャック・ザ・リッパー』という作品を"生もの"にするのです。

写真中央)モンロー: 田代万里生(撮影:田中亜紀)

アンダーソン:松下優也 モンロー:田代万里生(撮影:田中亜紀)
一方で、記者モンローは田代万里生さんがシングルキャストで演じます。
特ダネ目当てにアンダーソンにまとわりつき、事件と聞けば遠慮なしに現場に踏み込む、序盤は本当に五月蠅い(おもわず漢字で書きたくなるほど、褒めています(笑))!さらに事件周りを嗅ぎまわっていたところから、一歩、二歩と真髄に足を踏み入れてからのむき出しの欲望、壊れっぷりも誰も見たことのない田代万里生さんです。
世の中を切り取る記者の目という視点が固定されていることも面白い!夜空を切り裂く稲光と人工的なカメラのフラッシュの光、それぞれが映し出す像。 舞台上に立ち上がるロンドンの街のセット、それを照らす光の演出も大きな見どころです。傾斜や高低差のあるセットにたたずむオールキャスト、その景色は壮観。そこに暮らす一人ひとりに物語があると感じさせます。また、抑えた色調の街のセットに浮かび上がる赤いドレスや翻す赤いマントの美しさも印象的です。
グロリアとポリー、二人の女性もシングルキャストで、それぞれMay'nさんとエリアンナさんが演じます。ロンドンの街に生きる女として決して弱いだけではない。この生活から抜け出したいともがくグロリアが、ダニエルという光、希望に出会った喜び。この街で生きる、踏ん張って自らの力で立つポリーの献身と包容力、ふとした瞬間にアンダーソンにもたれかかる健気さ。儚く切ない。
街や時代の閉塞感や、つかの間の華やぎ、野次馬の無責任さ……、『ジャック・ザ・リッパー』の世界を作り上げるアンサンブルの活躍(大忙し!)も作品を支えます。
全てが終わったとき、やるせなさとともに「そうだったのかもしれない」素直にそう思える。そして始まるカーテンコール!韓国ミュージカルではおなじみの、役の持ち歌を歌いながら登場する、あのパターンです♪ また、開演前、終演後のアナウンスを担当するのは加藤和樹さんと田代万里生さん。その声がなんとも優しい!

ダニエル:木村達成 ジャック:堂珍嘉邦(撮影:田中亜紀)

ジャック:加藤和樹 ダニエル:小野賢章(撮影:田中亜紀)
こうして無慈悲な連続殺人鬼ジャック・ザ・リッパー事件の真相を描く、スリリングなミステリーを生々しい愛(&憎)のドラマに立ち上げたのは白井晃さん。ロンドンという街を、時代を、社会を憎みながらも愛する。そこに生きる人々を描き出すミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』。上演時間は、2時間30分(休憩20分を含む)を予定。東京公演は9月9日(木)~29日(水)まで日生劇場にて、その後10月8日(金)~10日(日)まで大阪・フェニーチェ堺 大ホールにて上演。
ホリプロステージ Horipro Stage YouTubeチャンネルにてダイジェスト映像も公開されています!
ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』(2021) ダイジェスト映像【木村達成×加藤和樹×堂珍嘉邦ver】Musical "Jack the Ripper" 2021 TOKYOミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』(2021) ダイジェスト映像【小野賢章×松下優也×加藤和樹ver】Musical "Jack the Ripper" 2021 TOKYO
写真提供:ホリプロ
おけぴ取材班:chiaki 監修:おけぴ管理人