一年間かけて試演を重ね、その都度、演出家と芸術監督、制作スタッフが協議し、上演作品がどの方向に育っていくのか、またその方向性が妥当なのか、そしてその先の展望にどのような可能性が待っているのかを見極めていく「こつこつプロジェクト」。時間に追われない稽古の中で、作り手の全員が問題意識を共有し、作品への理解を深め、舞台芸術の奥深い豊かさを一人でも多くの観客の方々に伝えられる公演となることを目標とします。
第一期は2019年3月から20年3月まで行われました。演出家・西沢栄治は、プロジェクトがスタートした「令和」という新たな時代に、「昭和」という時代とそこに生きた名もなき人々について思いをはせ、別役実がさまざまなかたちで描き続けた「小市民」シリーズ、なかでもこの『あーぶくたった、にいたった』に惹かれました。ネット上での承認欲求、自己発信だらけの現代において、もはや絶滅危惧種となった「小市民」の有様を見つめ捉えなおすことで、生活者レベルの日本人論にたどり着きたいという西沢。別役戯曲を鮮やかに立体化し、次世代にその魅力を伝えます。
西沢栄治さんからのメッセージ(まるで芝居の前口上を聞いているようなワクワクする言葉!)が届きました。
【演出:西沢栄治 からのメッセージ】
知る人ぞ知る「こつこつプロジェクト」笑。一年かけて芝居づくりに取り組むなんてことは初めての経験で、コツコツ地道にやるのが苦手な私には、まさに未知の企画でした。
けれどもそのおかげで、自分が手掛けるとは思ってもいなかった別役作品と出会い、その魅力を知ったわけですから、人生巻き込まれてみるものです。有り難い限り。
そして今回、再びこの戯曲と向き合う機会をいただいた。かさねがさね有り難い。
『あーぶくたった、にいたった』は"小市民シリーズ"と呼ばれる作品群の中のひとつです。
かつてこの国には、ひたすら普通であることを願い、つつましく生きようとした小市民たちがいた。
(SNSでの承認欲求あふれる現代ではまるで絶滅危惧種のような価値観!)
その名もなき人々に思いをはせることで、僕らなりの「日本人論」にたどり着きたい。そんな大それたことを企んでいます。
平成がいつの間にか過ぎ去り、いまや令和というタイミングで、わざわざ「昭和」をやろうってんだから、古い奴だとお思いでしょうが、今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか。
オリンピックも終わり、祭りのあとの風景に我々は何を見るのか。そこにはどんな風が吹いているのか。この作品を通して考えたいと思います。
と、理屈をならべてまいりましたが、ご見物のみなさまには、クスクス笑いながら観ていただきたい。なんたって別役さんのホンは絶対的に面白いのだ。あとは現場の責任。がんばります。
2020年3月3rd試演会より
あらすじ
婚礼で幕が上がる。新郎新婦は、これから生まれる子どもの将来を想像している。二人の会話の中で彼らの子どもはどんどん成長し、驚くべき結末を迎えてしまう。楽しい新婚時代から子どもが生まれ、落ち着いた結婚生活、そして老境へと。幾千万の名もなき人間が出会うであろう最終景、彼らの上にチラチラと雪が舞いはじめる・・・・・・。
この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました