2021年10月16日(土)~24日(日)、赤坂RED/THEATERにて上演中のunrato#7
『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』(作:清水邦夫、演出:大河内直子)、舞台写真と感想で公演をレポートいたします。
撮影:交泰
1977年に発表され、以来、数多くのカンパニーが性別を問わず上演してきた清水邦夫氏の代表作『楽屋』。蜷川幸雄氏のもと、清水作品に数多く携わってきた大河内直子さんが、この美しく静かで強い演劇の言葉を未来へ引き継ぐべく、真正面から取り組みます。4人の“女優”には、保坂知寿さん、大空ゆうひさん、笠松はるさん、磯田美絵さん。劇団四季、宝塚歌劇団、文学座…、それぞれのキャリアの中で培った演劇人としての力を、これでもかとぶつけ合い、2021年、unratoの『楽屋』を立ち上げます。
物語の舞台は、チェーホフの『かもめ』を上演中の劇場の楽屋。女優A(保坂知寿)と女優B(大空ゆうひ)が、舞台化粧をしながら、丁々発止、演劇への勝手な思い出をしゃべっている。そこに現れる若い女優D(磯田美絵)。今、舞台でヒロインのニーナを演じている女優C(笠松はる)のプロンプターらしいのだが……。舞台上で語られるのは、4人の舞台への想い、チェーホフや三好十郎など名作のせりふたち、そして彼女たちが生きた時代。
早速ご覧になった
おけぴ会員の皆様からの感想を交えながら、公演の様子をレポートいたします。
まずお伝えしたいのは、とにかく観ていて面白い!ということ。幕開きは、女優AとBの丁々発止のやりとり。二人のそんなやりとりは、昨日今日始まったことではない──時をしっかりと感じさせつつ、言いたい放題の展開には客席から思わず笑いも。
【女優、役者ということ】
保坂知寿 撮影:交泰
◆女4人芝居、たいっへん見応えがあり面白かったです! 役者の業、足掻きと執着、それら含めて役者と舞台への愛で満ちて。 役者は蓄積、良い言葉です。それをまさに体現されている4人でした。あと、知寿さんの男芝居が観られて得した気分に!
◆4人の女優が紡ぐ芝居に対するエネルギーをしっかりと受け止めました。保坂さんと大空さんの掛け合い!若手の2人の必死さ。歌わないのがもったいない気もしましたが、補って余りある迫力で、人生を語ってくれました。
◆私の中で「歌う人」と言う印象の強かった保坂さんと笠松さんのストレートプレイ。しかも古典作品の台詞を滔々と話す(演じる)役所。結果から言うと「やっぱりうまい!」でした。所々にちょっと擽りの入る台詞を、皆さん少しだけ楽しそうに演じていらっしゃるのが、観劇する側からも楽しい作品でした。磯田美絵 撮影:交泰
◆楽屋を舞台に4人の女優の人間模様が描かれています。他の戯曲を演じる場面もあり、まるでその場で別公演が行われているかのようにも感じました。鏡前での会話で女優心理を表現する保坂さんと大空さん、舞台出演の前後をリアルに演じる笠松さん、その後輩としてライバル心を魅せる磯田さん、皆さんのお芝居がとても素晴らしく、楽屋の中を見ている気分になりました。女優陣の競演を楽しめる、お勧めの舞台です。 別カンパニーでご覧になったことのある方も、初めての方もお楽しみいただけます!いろんなことがわかっていても、やっぱり唸ってしまうんですよね。それも紡がれる言葉、戯曲の強さ。
【戯曲】
笠松はる 撮影:交泰
◆同じ脚本を別の劇団で見る3回目でした。女優AとBのやり取りで、こんなに笑い声が沸いていたのは初めてです。女優Cの血を吐くようなセリフの場面には圧倒されます。でもラストでいつも明るく前向きにされてしまうのです。
◆清水邦夫作品は色褪せる事なく、見る私達の心に訴えかけます。見る度に私の中に残る物を大切にしたいです。出演者の4人は経歴も年齢も様々ですが、見事なお芝居を見せて下さいました。清水邦夫作品を初めてご覧になる方もきっと心に残る時間になると思います。
◆こちらの演目は初めての観劇です。序盤から抱いていた違和感の正体が明るみになった時、演劇に関わる方々の念の強さを感じました。その念を生で受け取れる現状に幸福を覚えます。これからも劇場に足を運び続けたいと思いました。素敵な出会いに感謝いたします。 大空ゆうひ 撮影:交泰
楽屋という閉鎖空間を舞台にしているのですが、舞台上は荒野のような空間に枯れすすきというと化粧前という、ややもすればちぐはぐなセットが組まれています。ただ物語が進んでいくと、それも納得。むき出しの会話が繰り広げられてもドロドロと言うより、からっ風が吹くような雰囲気。そこにしっとりとしたBGMや照明の効果も相まって、なんとも言えない独特な「楽屋」の空間が出来上がるのです。というわけで、続いては【セットと音】についての感想をご紹介いたします。
【セットや音】
撮影:交泰
◆演者さんもみていただきたいが、是非とも舞台のセットも、注目してほしいです。三人の演者が同時に鏡台に向いあうシーンがあるのですが、大抵演者の表情が客席に見えるように 設置されていることが多いなかこれは、違いました。背中を見せての演技です。場所によっては本当に鏡越しでしか見えない、全く見えない分、客が想像する。という手法で魅せてくれます。背後にある無数の鏡にも注目です。
◆確かな演技力のうえの、がっつり組んだ四人の女優さんの女優演技、素晴らしかったです。セットのすすきが、一抹の寂しさを感じさせて感慨深かったです。撮影:交泰
◆保坂知寿さんと大空ゆうひさんのやり取り、笑いあり感動ありで見応えがありました。席から舞台が見やすい劇場でした。舞台セットが美しく凝っていて世界観に引き込まれました。音も凝っていて良かったです。
◆化粧場面が多いので、それにも見入ってしまいます。是非、開演前にパンフレットを読んでからご覧になる事をお勧めします。最後の場面のBGMに背中が冷たくなりました。撮影:交泰
「時」、「時代」を感じ、「演じること」や「生」のエネルギーを受け取る観劇。 戯曲の世界と、今、そこにいる観客の距離感を揺さぶるラストの演出はドキリとさせます。ぜひ劇場で味わっていただきたい作品です。(が、みなさま様々なご事情もあるかと思います。10/23(土)18:00公演は配信もあります!)
感想寄稿:おけぴ会員の皆様
おけぴ取材班:chiaki(編集・文)監修:おけぴ管理人