ダニエル・キイス原作『アルジャーノンに花束を』の舞台化を成功させたで荻田浩一さんが、再びキイス作品に挑む!
舞台『五番目のサリー』開幕です! 「ネズミのアルジャーノンをどう登場させるのか」、『アルジャーノン~』で見せた演劇ならではの仕掛けと俳優の確かな芝居、そして観客の想像力の融合。舞台ならではの荻田マジックは本作でもさく裂です! ゲネプロと囲み取材の模様をレポートいたします。
ニューヨークで暮らす平凡なウェイトレス、サリー・ポーター(彩吹真央)は深刻な悩みを抱えていた。それは幼少期からたびたび起こる記憶の喪失。それが原因で結婚生活も破綻、二人の子どもたちとも離れて暮らすことを余儀なくされる。
そんなサリーは、主治医である精神科医ロジャー(荒井敦史)から驚くべき事実を告げられる。彼女の中には、デリー(藤田奈那)、ノラ(小寺利光)、ベラ(仙名彩世)、ジンクス(中河内雅貴)という4つの異なる人格が存在していたのだ──。
デリーは楽天家で、ほかの人格との連絡係も務める。自殺願望のあるインテリのノラ、女優を夢見る華やかで奔放なベラ、暴力的で憎悪にまみれたジンクス。彼らがサリーの肉体を支配した時、サリー自身は意識も、記憶も失っていたのだ。
ロジャーの導きで、サリーは分裂した人格を統合してし「本当の自分」になることを決意する。
なぜ4つの人格が生まれたのか、これからの人生を歩むために何が必要なのか。自分を取り戻すサリーの心の軌跡を描く本作。

サリー:彩吹真央さん ジンクス:中河内雅貴さん
主人公サリー・ポーターを演じるのは彩吹真央さん。記憶の喪失に悩み、一人ひっそりと暮すサリーの孤独と不安を繊細な芝居で見せたかと思ったら、次々に現れる人格に支配されると全く異なる顔を見せる。喜怒哀楽、それ以上に複雑かつ神秘的な心の変遷を演じることは、ご本人の言葉を借りれば「役者冥利に尽きる」、そのひと言に尽きるでしょう。これまでの経験を総動員させて挑むという本作は、彩吹さんの代表作のひとつになると確信。

サリーが困難な状況に陥ると表出するほかの人格
こちらはデリー(藤田奈那さん)とサリー
本作を舞台作品として成立させる“今回の荻田マジック”は、各人格を性別も年代も異なる4人の俳優が演じるということ。人格の入れ替わりの見せ方は、オセロの駒をひっくり返すように瞬時に訪れることもあれば、肉体と精神、彩吹さんと各人格を演じる俳優のセリフや動きがシンクロしながら次第に入れ替わることも。いずれにしてもその入れ替わりは観ていてスムーズで、多重人格を感覚的に捉えることができるのです。
サリーの中に存在する4つの人格。例えば、いつも自信なさげのサリーにプライドが高いノラの人格が宿ると。

ノラ(小寺利光さん) サリー
その振舞いだけでなく、言葉、目つき……ゾクッとします。

ベラ:仙名彩世さん 上司エリオット:大山真志さん

ノラ(小寺利光さん)、トッド(井澤勇貴さん)
各人格を演じるみなさん、仙名さんは大胆に、藤田さんはキュートに、小寺さんは高飛車に、中河内さんは鋭利に存在。 ただし実世界では、どちらもサリーとエリオット/サリーとトッドの絡み。人格が入れ替わったことを知らない同僚や上司は“いつもとは別人のよう”と語り 、観客は“そこで起こっていること”を視覚的にも理解するのです。サリーをひとりの人間として認識し、彼女と関わるいくつもの役を演じる小野さん、大山さん、井澤さんの芸達者ぶりも目を見張ります!

看護師ダフィー(小野妃香里さん)、ロジャー、サリー、ベラ
やがて訪れる人格統合のプロセス。統合されることでその人格は消滅するのではないか──。当事者であるベラやノラたちは新たな恐怖に直面します。そこに登場するのが駒田一さん演じるInter Self Helper。各人格とは異なる意識レベルにいるようなこの役が何者なのか、ここでは多くを語りませんが
(見てね!)、そっと寄り添う妖精のような、あったかいお布団のような存在。荒井敦史さん演じる人間味あふれるロジャーも印象的です。

憎悪の塊のようなジンクスを生み出したのは何か

内と外、心の相似形。何を求め、何に委ねるのか。
主治医ロジャーとの関係性も丁寧に描かれます。
ここまでご紹介してきた舞台写真を見てもお分かりの通り、本作の衣裳はモノトーンで統一。アシンメトリーゆえに、見せる角度によって様々な表情を見せる衣裳の意匠
(ダジャレのようで恐縮ですが)にもご注目ください。ちなみにみなさんの衣裳に施されている幾何学柄は荻田さんのイメージをデザインに落とし込んだオリジナルとのこと!贅沢。
また、劇場で流れるサリーの心情を歌うテーマソング(歌唱は彩吹さん)も含め、TAKAさんによる音楽が本作を美しく彩ります。この顔ぶれを見て、歌が聴きたいな、ダンスも見たいな、その気持ちもとってもとってもわかります!! でも、ストプレ。あえてこう記すのは、それをネガティブに受け取ってほしくないと思うからです。 ガッツリ芝居を堪能できるのはもちろん、ミュージカルでも活躍されているみなさんが持つ音楽性や身体表現の美しさがしっかりと活かされた、ジャンルの線引きを超えた豊かさのある作品。とてもセンシティブでシリアスな物語を風通し良く舞台上に立ち上げているのです。そして、それこそが俳優の個性を知り尽くし、俳優を信じる荻田マジックの真髄なのかもしれません。
喜びも痛みも、すべてを抱きしめて生きていく。そのタイトルを噛みしめる帰り道。
サリーの姿を見て、何を思う──。ぜひ劇場で感じてください!
【会見レポ】
ゲネプロの後で行われた囲み取材に登場したのは、彩吹真央さん、仙名彩世さん、中河内雅貴さん、駒田一さん。すべてはみなさんの晴れやかな表情が物語る。
「膨大な原作を2時間に収めた濃い作品になっています。サリーと4つの人格(がもつ性格)は、すべて私の中にもあります。歳を重ねると(枠から)はみ出さないように振る舞うようになっているようになってしまいますが、もっと自由でいいんだ!人間って複雑でいいんだ!私自身そんなことを感じています。本作から受け取るものは様々かと思いますが、お客様に『明日から頑張ろう』と思っていただけたらうれしく思います」(彩吹真央さん)
「稽古場から濃密な時間を過ごしてきたので、初日の怖さより楽しみが勝ります」(仙名彩世さん)
「荻田さんのプランと俳優のアイデアの良いケミストリーが生じた稽古場を経て、自信をもって本作をお届けします」(中河内雅貴さん)
「荻田さんが作り出す稽古場の空気に俳優がうまく乗っていけた、チームワークのよいカンパニー」(駒田一さん)

「ジンクスの役(人格)を中河内さんと共有する上で、宝塚の男役的な凄みを出したら、荻田さんから『男役過ぎるのでやめてください』と言われてしまって(笑)」と彩吹さんが明かし、会場に笑いが溢れる場面も!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人