新国立劇場が取り組む「フルオーディション企画」の第4弾に登場するのは、2011年に劇作家・演出家の倉持裕さんによって新国立劇場に書き下ろされた『イロアセル』。
物語の舞台となるのは、発する言葉に固有の色がついてしまう、つまり、“すべての発言が署名入りで可視化されてしまう”島民たちが暮らす小さな島。隠れていても、離れていても誰が何を話したのかが特定されてしまう島民たちが、あることをきっかけに言葉の匿名性を手にした時──。初演から10年、現代のインターネット、SNS社会を風刺したファンタジーが倉持さんご自身の演出で立ち上がります。
稽古場取材時は、初の荒通しを終えたタイミング。
改めて1幕冒頭から順に芝居を確認していきます。まず登場するのが、島の町長ネグロと町議会議員バイツ。二人が運ぶ、なにやら重そうなものは「業務用ファムスタ」。「ファムスタ」とは、色のついた声を拡散させたり、集めたり、逆に発信力を弱めたり……、島民必携のアイテム。 町長が業務用ファムスタの威力で一気に島中に拡散する言葉は「丘の上に設置された檻、そこに誰が収監されるか」について。これが島のもっぱらの関心事。
町長ネグロ(山下容莉枝さん)
町議会議員バイツ(西ノ園達大さん)
胸には黒い何かを食らったような……
その声には濃くて真っ黒な色のつく町長ネグロと声につく色が非常に淡いバイツのやりとりに、倉持さんが細かな演出をつけていきます。バイツの台詞を食うように言葉を重ねてくるネグロ、動きも妙にシンクロ。そうやって二人の言葉や動きの“間”を調整することで生まれるテンポと可笑しみ。同時に、二人の力関係もしっかりと伝わります。
そこにやってくるミステリアスな女性はナラ。二人は彼女への嫌悪感を隠そうとしないのに対してナラは我関せず、淡々とその場を去る。どうやらナラは前科者らしい。
続いては、かの「ファムスタ」を扱う会社、グウ電子の応接室。そこにいるのは二人の社長、大手と下請け、そこにも力関係が。
ファムスタの独占販売企業「プルプラン」社長のポルポリ(山崎清介さん)と下請け「グウ電子」の社長グウ(永岡 佑さん)
二人の関係は商売だけではありません。この物語の世界で人気のスポーツ、採点競技のカンチェラを巡っても微妙な力関係にあるのです。
グウの娘アズル(永田 凜さん)はカンチェラの元世界チャンピオン
声の色は美しいブルー
父グウは娘アズルをサポートするも、近年はポルポリ社長がサポートする現世界チャンピオンのライが勝ち続けている。その辺りの展開もドキドキ。
演出・倉持裕さん自らいろんな動きを試す!
アズルがカンチェラ用具を持って登場する場面。この日の倉持さんは、この用具が扉から“にょきっ”と出る様子にビビットに反応。はじめは面白さを狙ったわけではなかったのですが、見えたものが面白いから拾う! 稽古中、そのような場面が何度も訪れました。「このパターンを見てみたい」→「面白い」もあれば、「やっぱりやめましょう」もある。 その様子は、緻密に芝居を詰めていくというより、なんとも言えない“抜け感”を作り出すといった色が強い。
カンチェラの現世界チャンピオンのライ(福原稚菜さん)
どこか抑圧的で優等生然としたアズルに対して、活発で勝ち気な雰囲気のライ。二人のやり取りはどこにでもありそうな、ごく自然な幼馴染の女の子たちの会話。
そんな二人も大人社会の影響か、ナラに対しては警戒心をむき出しに
ナラ(東風万智子さん)、彼女は何をし、こんなにも島民に忌み嫌われるのか。
【丘の上の檻】
お待たせしました!この島に変化をもたらす異分子、本土から来た囚人と看守の登場です。
とても朗らかな印象の囚人(箱田暁史さん)
囚人がどんな罪を犯したのかは明らかにされません。妄想膨らむ!
看守さん(伊藤正之さん)は隠れ(⁉)アズルファンとお見受け
本土から来た二人の声には、当然ながら色がつきません。そして、不思議なことに彼らと話す時は、島民たちの言葉にも色はつかない──。そのことに島民たちが気づいた時、この島を包んでいた調和というベールがはがされる。
匿名の言葉の暴力性など、非常に今日性の高いテーマながら、物語の中で問われるのは「匿名だから無責任なのか、それこそが本心なのではないか」「本音と建て前」「言っていない=思っていないのか」、村社会的な同調圧力や陰口、折り合いをつけて生活する、歪んだ調和が純粋な若者を苦しめる。今も昔も私たちの社会が抱えている問題だったりします。
果たして無色透明な言葉を手に入れた島民はどうなるのか。この先の展開と共に気になるのは、「声に色がつく」ことをどう舞台上で見せるのか。どちらも本番のお楽しみというところではございますが、そのヒントを少々。舞台効果のキーワードは「映像」「ケムリ」「水」「影」「布」……。ハイテク技術だけでなく、アナログの効果も楽しみなのです。さらに場面転換の際の音楽・音づくりも予想以上のポップさ。SNS社会の弊害を声高に叫ぶ社会派作品というより、テーマ性はしっかりとしていながらも、寓話性の中に真実を浮かび上がらせる。とっても演劇らしい演劇になりそうです。
もうひとつ、本作はフルキャストオーディション企画の第4弾でもあります。取材中は出番のなかったカンチェラ審判のエルデ役・高木 稟さんも含めた、“この作品のこの役を演じるために選ばれた”キャスト陣は盤石。今後、特筆する必要がないほど当たり前のようになるといいな。素直にそう感じる稽古場であり、作品です。
こちらは稽古開始前に行われた取材会レポ!
『イロアセル』作・演出 倉持裕さん取材会レポート
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人