第7世代実験室 リモート演劇×シェイクスピア『ヘンリー六世』屋比久知奈さんインタビュー

 今年は、ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』チャヴァ役に始まり、自身初めての再演となるミュージカル『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役で大きな成長を見せ、現在はミュージカル『GREASE』(グリース)にてヒロイン・サンディを切なく、キュートに、大胆に演じている屋比久知奈さんにお話を伺いました。



  次々と大作ミュージカルへご出演されている屋比久さんですが、12月8日(水)には、第7世代実験室 リモート演劇×シェイクスピア『ヘンリー六世』ご出演回も公開となります(YouTube無料配信)。初めて挑むシェイクスピア作品、リモート演劇、演じるということについてのお話には、屋比久さんの“芯の強さ”と“お芝居が好き”が溢れています。

 まず、第7世代実験室 リモート演劇×シェイクスピア『ヘンリー六世』ってなんだろう?という方はこちらの記事からご覧ください。

第7世代実験室 リモート演劇×シェイクスピア『ヘンリー六世』周本絵梨香さんロングインタビュー~この闘いを終わりにはできない~

(周本さんの来し方から、屋比久さんとのちょっと意外な⁉共通点、周本さんから見た屋比久さんの印象やボーナ姫に託した思いなどたっぷりと伺っています)


──まずは、本日も『GREASE』おつかれさまでした! 連日、盛り上がっていますね!

 ありがとうございます。私自身も精一杯作品にエネルギーを注いでいますが、たくさん踊っているほかのキャストのみんなのエネルギー消費量はさらにすごいです。それが熱気となってお客様にも伝わっていると嬉しいです。ここから先も、気合を入れて頑張ろうとみんなで話しています!

──今回、お話を伺うのは、言ってみればそれとは世界観も異なれば、演じるスタイルも異なるリモート演劇×シェイクスピア『ヘンリー六世』についてです。

 本当にまったく違いますね。でも、そこに俳優というお仕事の面白さを感じています。

──まずは、本作への出演が決まるまでの経緯をお聞かせください。

 ミュージカル『NINE』(2020年)で共演した土井ケイトさんに「こんな企画があるんだけど、興味はあるかな?」とお声がけいただいたのがきっかけです。ケイトさんと、この企画の発案者のお一人でもある周本絵梨香さんはさいたまネクストシアターの同期、そんな繋がりで周本さんをご紹介いただきました。

──すると、周本さんとは意外な共通点が。

 時期や作品は異なるのですが、二人とも“琉球大学でミュージカルの舞台に立つ”という経験をしていました。厳密に言うと、周本さんが参加されていたのは履修科目のひとつで、日本語で上演するミュージカル公演、私は課外活動としての英語上演でしたが、どちらも活動が盛んで琉大の中では “二大ミュージカル公演”でした。そこで私はミュージカル『フットルース』に出演しました。

──それが初めての演技経験ということになるのでしょうか。

 何をもって初めてとするのか……というところはありますが(笑)。4歳からバレエを習っていたこともあり、もともと歌ったり踊ったりすることは好きでした。小学生の時にミュージカル『ライオンキング』を観て、ミュージカルにも興味を持つようになり地域の子どもミュージカルに2回ほど参加しました。そのころはまだ幼かったので、演技云々というより、舞台に立つことができて楽しかった!という記憶です。ですので、自分の意思で演技に挑戦したのは、琉大の『フットルース』が初めてと言えます。

──そこから今に繋がることは。

 琉大ミュージカルの公演を通じて、みんなで一つの作品を作り上げるエネルギー、その素晴らしさを知りました。それは今も日々感じていることです。

 また、それまではずっとバレエという身体表現に取り組んでいたので、台詞を発し、歌を歌う、“舞台上で声を出す”ということは私にとって不思議な感覚でした。でも、歌ってみると楽しい! 「私は歌が好きなんだ」ということを改めて感じました。 演技についても、舞台上で自分ではない人(=役)を生きるという経験、学生演劇ではありましたが、その時の自分なりに役のことを考えて、表現することの楽しさを知ったのも、その時です。そこでの経験、恩師との出会いによって、舞台で歌い、演じることの楽しさに目覚めました。

──屋比久さんが俳優になるきっかけを作ってくれた琉大ミュージカルありがとう!という気持ちです。 さて、『ヘンリー六世』にお話を戻しますと、リモート演劇であり、シェイクスピア作品であり……これまでご経験された作品とはだいぶ様子が違う企画。そこへ飛び込むことを決めたのは。

 正直、お話をいただいた時は、ただただびっくりしました。蜷川幸雄さんの薫陶を受けた素晴らしい演劇人のみなさんとご一緒する、それもシェイクスピア劇。これまで台詞劇もシェイクスピアも未経験でしたので「私でいいんですか?」という気持ちはありましたが、同時に、声をかけていただいたことへの嬉しさと、こんな貴重な経験ができる機会はなかなかないという思いもあり、挑戦することを決めました。

──新しい世界へ飛び込む、最初はきっとドキドキでしたよね。

 メチャメチャ緊張しました! 最初のリモートでのお稽古の時は、緊張で手がガタガタ震え、スマホを何度も落としてしまうくらいでした。「大丈夫か、私」みたいな(笑)。でも、経験がないことは動かしがたい事実なので、見栄を張らずに、わからないことは隠さずに質問し、教えを乞う。実力も経験も備わっているみなさんからいっぱい吸収しよう、学ぼうという姿勢で臨みました。温かく迎えて入れてくださった共演者のみなさんには感謝しています。

──お稽古はどのように進んだのでしょうか。

 同じシーンに出ているみなさんと読み合わせをして、シーンの構成や意図を共有。それをそれぞれが持ち帰り、役と向き合い、理解を深める。そしてまた集まって。それを2度、3度繰り返しました。お稽古はすべてリモートで行いました。

──リモート演劇ならではのご苦労は。

 「ここでは右側を見て」とか「カメラ目線で」とか、画面越しの動きや目線、対面でお芝居をしている時は自然にやっていることを、細かく状況を共有してシーンを作っていくという過程は新鮮でした。そして、実際の撮影は、それらを踏まえて俳優自身が一人で、稽古中の動画を元にした資料映像と共演者の音声に合わせて芝居をするので、相手の表情などは想像しながらの芝居になります。そこには独特の難しさがありました。また、自分の出るシーンについては台詞のないところでも芝居を続け、それを長回しで撮るので、ちょっとした間違いでも最初からやり直し。納得するまで、もう一度、もう一度と予想以上に体力と集中力を要する作業でした。

※撮影方法については、本記事ラストの【撮影みせます!「ヘンリー六世」リモート撮影解説♪】も併せてご覧ください。

──シェイクスピア作品に挑戦したことでの発見は。

 まず感じたのは言葉が違うということです。言い回しも独特ですし、そもそも自分の中にはないボキャブラリーもありました。そこに実感を持たせるところが、自分の課題でした。一方で、役に向き合う、その姿勢はこれまでの作品と大きく異なることはありませんでした。

──今回演じた、フランス王ルイの妹・ボーナ姫について。制作サイドから、今回はボーナ姫に強さを求めたというお話を伺いました。

 “根底には可憐で純粋な女性像がありつつ、立ち上がる力、芯の強さを併せ持つ人物”、私自身もその解釈に共感し、ボーナ姫をカッコイイ女性ととらえました。(イングランド国王の妃に迎えたいとの申し出に対して)「お兄様の仰る通りにします」と言う、その言葉の裏には彼女なりの強い意志がある。ただ弱い立場で終わる女性では悔しいじゃないですか!だから、その字面だけではない含みを持たせようと。その上で、状況に応じて、どう振る舞うかの駆け引きがある。あの時代の人々の攻防を演劇として見せることで、現代の人に向けて「さぁ、これを見てどう思いますか」という提起をする。それはボーナ姫のシーンに限らず、作品全体にちりばめられているので、いつの世も変わらぬ人間たちの振舞いを楽しんでご覧いただければと思います。

──まだ完成した映像はご覧にはなっていないとのことですが。

 今は、編集の方にすべてを委ねて完成を待つ、これもまた、あまり経験のしたことのないドキドキです。それぞれのお芝居がひとつになった時、画面上にどう映し出されるのか、楽しみです。



──今の段階でこの企画を振り返っていかがですか。

 改めて、とても意義深い企画だと感じています。コロナ禍で、演劇が危機的状況に陥った時に、リモート演劇という形で発信する。それも、舞台映像を収録するのとは違う形、違うジャンルを構築し、新たな映像作品としての無料配信です。それによって、劇場に来られない方はもちろん、劇場に来たことのない層へもアプローチし、いつか劇場へ足を運んでいただくための入口を作る。その試みには心から賛同します。そして、映像作品でありながら、そこには常に生の舞台へのリスペクトが溢れていることにも感動しました。

──第7世代実験室のみなさんは屋比久さんと同世代の若い演劇人のみなさんだというところには。

 その強い意志、行動力、情熱には大きな刺激を受けました。私たちや、もっと若い世代が演劇界に新しい風をもたらす、私たちの世代だからこそできる挑戦を続けていく必要があると強く感じました。

──この経験は、今後の俳優人生に何をもたらすでしょう。

 今回のお稽古、撮影の過程、そして編集を施された映像作品になる(まだ見ていませんが(笑))ということは、新しい経験でした。そもそも歌でない表現というところも。歌での表現は、音程やリズムをとるという技術的なところを反復練習で身体にしみ込ませ、そこに感情を乗せていきます。感情を乗せる、そこでは歌も芝居と何も変わらない。そうありたいと思うのですが、『レ・ミゼラブル』などのミュージカルでは、その素晴らしい音楽が感情を紡いでくれる、逆に言うと音楽に助けられているようなところがあります。

 今回の経験は、音楽の助けなしに、自分の中で言葉と感情を繋げ、実感を伴って発することを深く追求する機会になりました。難しかったですが、楽しかったです! 台詞をしゃべることに対する認識、取り組み方はステップを一歩先へ進めることができたように感じています。そして、今度はそれを歌の表現にも還元したいと思います。

 まだまだ未熟ですが、私の中ではミュージカルも演劇・会話劇も同じだと考えています。歌うように語り、語るように歌う。そんな表現者を目指してこれからも努力していきたいと思います。

──お話を伺っていて、屋比久さんのエポニーヌの演技をご覧になった周本さんの感想が思い出されました。「俳優は演劇という大きな嘘をつく。だからこそ芝居で小さな嘘をついてはいけない。その意味で屋比久さんのお芝居には嘘がない」と。

 すごく嬉しいです!まだまだですが、それは私が追求していきたいと思っていることだからです。自分とは違う人の人生を生きる。演劇という虚構、嘘の中でいかに“本当を生きる”か。そのために自分の感情に嘘をつかず、その人として舞台に立つ自分自身を信じられるようにこれからも学び、鍛錬し続けなければなりません。おそらく一生満足することはないのでしょうが(笑)。

 改めて、俳優というのは、なんて面白くて、なんて大変な仕事なのだろうと思います。それをやりたいと思い、生業にする私も相当変わっているのでしょうが(笑)。でも、やっぱりこのお仕事が好きなんです!

──感謝も込めて、俳優はなんて素敵なお仕事なんでしょう!も付け加えさせてください! お話を伺っていても、一つひとつの作品への姿勢を拝見していても屋比久さんの「好き」はビシビシ伝わってきます。これから先に控える作品もとても楽しみですが、まずは『ヘンリー六世』映像公開が楽しみです。

 小さなシーンではありますが、作品のために自分が役割を果たし、ボーナ姫としてそこに存在できていればいいなと思っています。



【屋比久知奈 プロフィール
1994年沖縄県出身。2017年琉球大学法文学部国際言語文化学科英語文化専攻卒業。
2016年に開催された「集まれ!ミュージカルのど自慢」で最優秀賞を受賞。2017年3月に全国公開されたディズニー・アニメーション映画『モアナと伝説の海』ヒロイン・モアナ役日本版声優を務め、主題歌「どこまでも~How Far I'll Go」を歌唱し、デビュー。出演舞台にオフィス3〇〇 40周年記念公演『肉の海』、ミュージカル『タイタニック』、リーディングドラマ『シスター』、ミュージカル『レ・ミゼラブル』(2019、2021年)、ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』、ミュージカル『NINE』、ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』がある。現在、ミュージカル『GREASE』に出演中。2022年はミュージカル『next to normal』、『ミス・サイゴン』が控える。
また、2021年12月30日(木),31日(金)には舞浜アンフィシアターにて開催される「ディズニー・オン・クラシック~ジルベスター・コンサート2021/2022」への出演が発表された。


 第7世代実験室 リモート演劇×シェイクスピア『ヘンリー六世』の撮影の様子、屋比久さんのお話の中にもありますが、なかなか「実際どんな感じ?」かはイメージがつきにくいところも。そんなみなさんに、こちらの動画をご紹介! カメラや照明セッティングから小道具の準備まで、裏側見せちゃいます!!


撮影みせます!「ヘンリー六世」リモート撮影解説♪


【配信情報】
#playthemomentリモート演劇×シェイクスピア『ヘンリー六世』
作/ウィリアム・シェイクスピア
訳・監修/松岡和⼦(特別協⼒)
企画・制作/第7世代実験室
協⼒/彩の国さいたま芸術劇場

<配信⽇程>
9⽉15⽇(⽔) 20:00〜
毎週⽔曜更新予定。

<出演>
宮崎秋⼈ ※内⽥健司 章平 ⼟井ケイト 池⽥努 ※周本絵梨⾹ 中⼭求⼀郎 ⻘柳尊哉 結城洋平
秋元⿓太朗 藤原季節 ⼭本直寛 ※松⽥慎也 ※佐藤蛍 ※髙橋英希 ※鈴⽊真之介 ⾓健⼠ 杉浦奎介 屋⽐久知奈
※續⽊淳平 ※阿部輝 宮本伊織 中⼭慎悟 牧純⽮ ⽯原滉也 根岸裕貴 溝⼝悟光 國崎史⼈ ⿑藤隼平
(※さいたまネクスト・シアター)

第7世代実験室とは―
故・蜷川幸雄が主宰するさいたまネクスト・シアターのメンバーを中⼼とした演劇企画ユニット。数多くの海外戯曲に蜷川と共に取り組んできたメンバーと、新しい⾵を吹き込むフレッシュな俳優たちとが集まり、技術を分かち合いながら次世代の演劇を模索する場所。
2020 年 2 ⽉に旗揚げ公演。コロナ禍で⽣まれた配信企画 「#playthemoment ―いま、このときを演じる。 また劇場で会う⽇のために―」第⼀弾では⾃粛期間にシェイクスピア作品を連続リモートドラマに仕⽴てた『リチャード三世』をYouTubeで配信。
公式YouTubeチャンネル「ダイナナチャンネル」の登録者数は現在も伸び続け演劇の拡散を⽬指すコンテンツとして注⽬が集まっている。

おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人

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