劇作家テネシー・ウィリアムズの出世作にして、自叙的作品、舞台『ガラスの動物園』がシアタークリエにて開幕。
叶わぬ夢にすがりながら懸命に生きる家族、その閉塞感とやるせなさは初演から70年余の時を経ても人を惹きつける。1930年代のアメリカを舞台にし、一家の息子トムが語り部として当時を回顧する本作。時代の変化、美化された過去、家族の不思議、多くの問題を内包する戯曲はこれまでにも数多くのカンパニーで上演されています。
主演の岡田将生さんと演出の上村聡史さんのタッグは『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』に続いて2作目。共演者には上村さんとのご縁も深い麻実れいさんを筆頭に、倉科カナさん、竪山隼太さんという強力な布陣で挑む『ガラスの動物園』は、また新しい景色を見せてくれそうです。
初日を前に行われた、フォトコール(1幕1場)と囲み取材の模様をレポートいたします。
幕開き、バンドネオンのもの悲しい調べ。まず登場するのは物語の登場人物でもあり、語り部でもあるトム(岡田将生さん)。「この物語は追憶の世界だから、ノスタルジックでありリアリスティックではない」そんなことを語りながら、彼も物語の世界へ入っていきます。
1930年代アメリカ・セントルイス。大恐慌時代真っ只中の商工業都市。
登場人物はウィングフィールド家の人々。母アマンダ(麻実れいさん)は南部のお金持ちだった娘時代の華やかな記憶の中に生きている。息子のトムは、倉庫での単調な仕事にも母にも嫌気がさし、この日常を抜け出そうと模索している。そして、母親にうんざりしているトムの苛立ちをなだめ、家族のバランスをとろうと努めるのは姉のローズ(倉科カナさん)。繊細で内気なローズはガラス細工の動物たちが唯一の心の拠り所。この家に父は不在、だいぶ前に家族から離れていった。
落ち着いて、柔らかく、それでいて力強い岡田さんの声。
冒頭の語りで一気に観客を物語の世界にいざないます。
浮世離れした母アマンダ、今風に言えば毒親ということになるのでしょう。
そんな人物に説得力とリアリティをもたせるのが麻実れいさん。
母親への嫌悪感をあらわにすることもあるトムだが、その眼差しには優しさもにじむ。ここが家族の不思議。
岡田さんのもつ柔らかさが、トムという人物の印象にも大きく作用しているように感じます。
ガラスの動物たちを愛おしく見つめるローズ(倉科カナさん)の無邪気な表情。
そんな姉を見つめるトムの悲しい眼差し。
そしてもう一人、この日公開されたシーンでは後ろ姿での登場となりましたが、物語のカギを握る、トムの言葉を借りれば「最もリアリスティックで、現実世界からの使者」青年紳士のジム(竪山隼太さん)。トムの同僚であるジムの来訪がもたらすものは、ウィングフィールド家にとって光なのか闇なのか──。
<ジム登場場面のお写真が届きました♪>
写真提供/東宝演劇部
写真提供/東宝演劇部
【囲み取材】
──初日を前にした心境とご自身の役のみどころは。岡田さん)
1か月半、この4人でこの物語を紡いできました。明日の初日、お客様を迎えることで、この劇は完成すると思っています。今はそれが純粋に嬉しいです。語り部であり登場人物でもあるトム、その切り替えが難しく、稽古では演出家に怒られながらやってきました。厳しい演出家なので(笑)。トムという役をまっとうしたいと思っています。
──怒られながら⁉岡田さん)
ごめんなさい、怒られてはいないです(笑)。僕の俳優としての力量はすべて上村さんにはバレているので、稽古初日から全力でぶつかっていきました。僕がやりたいと思ったこと、上村さんが求めていることをすり合わせながらここまで作ってきたトム、お客様に見ていただくことでもうひとつ階段を上がれるのではないかと考えています。
トムは語りの部分では、一人でしゃべり続けなくてはいけない、説明し、みなさんに理解していただくのと当時に、それを楽しんでいただく。お客様と、この空間を共有することを意識するようにと指摘されることが多くありました。それは僕自身も感じていたこと。そうして作り上げた台詞の“音”も楽しんでいただけると嬉しいです。
──麻実さん、倉科さんはいかがでしょうか。麻実さん)
非常に長台詞が多いので、上村さんには、そこにアクセントをつけていただきました。演出をつけていただくのは『炎 アンサンディ』『森 フォレ』に続いて3作目。この作品は大変手ごわいです、私にとっては。大変豊かな作品なので、4人で幸せな気持ちで大千穐楽を迎えられるように、日々努力してまいります。
倉科さん)
テネシー・ウィリアムズは好きな劇作家です。今回、『ガラスの動物園』のローラを演じられることに感謝しています。憧れの作品だったからこそ、プレッシャーに押しつぶされそうにもなりますが、日々舞台に立てることを楽しみながら、上村さんの演出で、共演者のみなさん、スタッフのみなさんとともに一生懸命に作品を紡いでいけたらと思います。
竪山さん)
テネシー・ウィリアムズ作品をはじめて見たのは中学生の頃。その時から本当に素晴らしい芝居だなと思い、いつか自分もとは思っていましたが、その機会はないと自分の中で勝手に思っていました。ですので、このお話をいただき嬉しく思っています。読み込めば読み込むほど、その解釈は自由で、いい意味でわからなくなっていくところが名作と言われるゆえんかと感じています。そこに上村さんがこうしたらいいよとアドバイスをくださる。稽古で奮闘する仲間を見て、自分も頑張らなければと思い取り組んできました。
──岡田さんにとって、舞台に立つということはどんな位置づけでしょうか。 岡田さん)
初舞台作品の演出が蜷川(幸雄)さんでした。その蜷川さんに「(舞台に)立ち続けなさい」と言われたので、そのお言葉通り、今も舞台をやらせていただいています。舞台に立つことに敬意を持っていますし、僕にとって舞台は自分を試す場所でもあります。そしてお客様にご覧いただくために、日々みんなで稽古を重ねて作り上げていく、その時間も好きなんです。本当に楽しい時間です。
──稽古全体を振り返って。麻実さん)
この4人プラス上村さんなので、本当に和気あいあいと稽古が進んでいましたが、その根底には常に上村さんの厳しさがありました。いい稽古をさせていただきました。
──麻実さんが語るこの言葉に稽古の充実、作品の仕上がりへの自信を感じます。最後に、岡田さんからメッセージを。岡田さん)
不朽の名作と言われる『ガラスの動物園』。多くの演劇人がいる中で、僕たち4人で作る『ガラスの動物園』はとても優しい空間になるでしょう。悲劇的なこともありますが、希望がある作品。ぜひ、たくさんの方にご覧いただきたいと思います。
本当に和気あいあいとした雰囲気の4人です!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人