ミュージカル『ミス・サイゴン』日本初演30周年記念公演 製作発表会見レポート



 『レ・ミゼラブル』を製作したチーム(プロデュース:サー・キャメロン・マッキントッシュ、作:アラン・ブーブリル、作曲:クロード=ミッシェル・シェーンベルク)の第2弾作品として誕生したミュージカル『ミス・サイゴン』。1992年の日本初演以来、通算上演回数1463回を重ねる大ヒットミュージカルが、今年、日本での上演30周年を迎えます。


 帝国劇場を皮切りに全国9都市で上演される「『ミス・サイゴン』日本初演30周年記念公演」の製作発表が行われました。この公演には、2020年に上演が予定され、稽古を進める中で新型コロナ感染防止のため中止となった前回カンパニーのキャストがほぼ再集結。中止の悲しみと悔しさを乗り越え、ミュージカル『ミス・サイゴン』を届けます。

物語の舞台となるのは、ベトナム戦争末期、陥落寸前のサイゴンの街。
キャバレーを経営する通称“エンジニア”と呼ばれる父はフランス人、母はベトナム人の男。戦禍で家族を失った17歳のベトナム人少女キムは生きる術を求めてエンジニアの店「ドリームランド」に働きに出る。そこで、キムはこの戦争に疑問を抱く米兵クリスと出会い恋に落ちる。
愛し合うも、サイゴン陥落の混乱で引き裂かれるキムとクリス、その運命の糸を操りながらしたたかに「アメリカン・ドリーム」を掴もうとするエンジニア。
それぞれの人生が時代の荒波に翻弄されていく。
※エンジニアと呼ばれているが、「技術者」ではなく、「やり遂げる、たくらむ」の意



 製作発表会見にはエンジニア役の市村正親さん、駒田一さん、伊礼彼方さん、東山義久さん、キム役の高畑充希さん、昆夏美さん、屋比久知奈さんがご登壇されました。みなさんのコメント、質疑の模様をレポートいたします。


【初演よりエンジニア役を務めるミスター・サイゴン市村正親さん】



 2年前に上演する予定だったものが中止となりましたが、何事も前向きに捉え、28周年より30周年の方がキリがいいなと思うようにしています(笑)。30周年の年に上演できることを嬉しく思うとともに、30年やってきたエンジニア、これで最後とは言いません。足腰が立つ限り演じ続けていきたいと思います。かなり元気な73歳です!



(初演から携わってきた市村さんが選ぶ『ミス・サイゴン』三大ニュースは)
 まず思い出すのは、(舞台機構などの制約で)“サイゴン”は帝劇でしか上演できなかったこともあり、初演後しばらく公演がありませんでした。(2004年に)博多座と帝劇でもう一度やると決まったときは本当に嬉しかった!

 次は、2012年の新演出版初演。(東京で開幕した後、)広島のALSOKホールでオーバーチュアのヘリの音が鳴ったときは鳥肌が立ちました。限られた劇場でしか上演できなかった“サイゴン”が、四季時代からいろんな作品で訪れた広島の劇場でも上演できることに、新演出になってよかったと心から思いました。

 3つ目は、初演の頃は44歳。週1回のマッサージで、週10公演務めていました。それが、再演からは週に3回マッサージに行かないと持たない。驚きですよね(笑)。それが三大ニュースです。


【2014年からエンジニア役を務め、3度目となる駒田一さん】



 40余年の俳優人生、大先輩の市村さんの背中をずっと追ってきました。30年前の市村さんのエンジニアももちろん観て、そのときから「いつかはこの役を演じてみたい」と思っていました。3度目の正直でオーディションに受かり、はじめてエンジニアを演じた2014年の公演は、記憶がないくらい無我夢中でした。2回目はなんとなく地に足をつけ、2020年の3回目は作品全体を見ながらもっとチャレンジしようというところで中止に。今回は、3回目なのか4回目なのかよくわかりませんが(笑)、30周年ということもあり背筋がピシッと伸びております。最後まで全員で完走したいと思います。

(市村エンジニアについて)
 市村さんから感じる(エンジニアという役だけでなく)ミュージカル界を生き延びていくエネルギー。それは僕ら誰しもが同じように持っているものです。ただ、どんなに真似をしても市村さんにはなれない、駒田のエンジニアを作らなければいけない。それを教えていただいています。



(駒田さんが思う作品の魅力は)
 なんといっても楽曲のすばらしさではないでしょうか。先ほどの歌唱収録の際に3人が歌うキムのナンバー♪命をあげようを聴きましたが、なんていい曲なのだろうと涙が出てきました。我々が歌う♪アメリカン・ドリームも泣くような曲ではないのですが、グッとくるんです。


【エンジニア役新キャストの伊礼彼方さん】



 製作発表は2度目。再演の気分ですが、まだやっていないという不思議な感覚です。今日は初演のCD、市村さんの歌声を聴きながら会場入りしましたが、歴史を感じました。4人のエンジニアでの♪アメリカン・ドリームの歌唱収録では、生で市村さんの厚み、包容力を感じ、ちょっとウルウルしてしまいました。この30周年のマスクが一番似合うのが市村さん。稽古で、大先輩の背中を必死に追い、盗めるモノはすべて盗み、その上でオリジナルなエンジニアを作り上げたいと思います。僕ら(伊礼さん、東山さん)は市村さんが初演を演じられた40代、まだギラギラしています。貪欲です。若い世代もいるということを忘れないでくださいね!



(エンジニアの魅力、公演に向けての意気込み)
 エンジニアの人間臭いところがとても好きです。フランス人の父とベトナム人の母のもとに生まれた、2つのルーツを持つ彼のアイデンティティと自分のそれが重なることもあり、居場所がないと感じるエンジニアの心理は理解できます。そして、狡猾さも含めて、ここではないどこか、自分の居場所を探してもがいている彼の姿は、僕にはとても寂しい一人ぼっちの男の子に見えます。それを魅力ととらえ、掘り下げていこうと思います。

 40歳になって迎える『ミス・サイゴン』、それが30周年記念公演というのはきっと神様からの試練(ギフト)。冷静に、細かなところまで言葉、音楽を突き詰め、役者とのコミュニケーションもしっかりとって役を、作品を作っていきたいと思います。


【エンジニア役新キャストの東山義久さん】



 2019年にオーディションに受かり、2020年3月に稽古が始まる、夢のようなスタートを切りました。それが道半ばで、まさに夢のように終わってしまい、心にぽっかりと穴が空いてしまいました。観客のみなさんも同じように悲しい思いをされたでしょう。今回、こうして作品を届けられること、それも日本での上演30周年という佳節の公演に参加できることに心から感謝しています。大千穐楽まで、市村さんを筆頭にキャスト・スタッフのみなさんと一丸となって走っていきたいと思います。

(市村エンジニアについて)
 ミュージカルやエンジニア役に限らず、舞台役者として神。はじめて観た市村さんの舞台「ニジンスキー」での、狂気をはらんだニジンスキーに強烈な印象を受けました。その後、僕もニジンスキーを演じたこともあり、市村さんは、常に僕らの一歩も二歩も先を行く表現者という印象です。



(エンジニアの魅力、公演に向けての意気込み)
 やはり人間臭いところが魅力。「夢が叶えばいいな」ではなく、「夢をつかみ取る、もぎ取る」というエネルギーがエンジニアの最大の魅力。生命讃歌、人間力を探求して、みなさんとは違うエンジニアを見つけたいと思います。

 この2年、コロナ禍で様々な思いを巡らせる中でエンターテイメントに対する考えや、舞台に立つ意識が全然違うものになりました。エンターテイメントは必要なものだという誇りを胸に、新しく生まれ変わった僕で2022年のエンジニアを演じていきたい。今度こそ、アメリカン・ドリームを叶えたいと思います。


【キム役新キャストの高畑充希さん】



 2年前は、歌稽古も終わり、途中まで立ち稽古も進んだところでの解散でした。みんなと楽しく稽古が始まった矢先にバラバラになってしまう悲しみが大きく、もっとこの稽古場にいたいと思っていました。今日、こうして久しぶりにみなさんの顔を見て、またあの稽古の日々が始まると思うとすごく楽しみです。2年延びて、30歳、30周年になったことですし、パワフルな公演になるように頑張りますので、楽しみにしていてください。

(キムという役をどうとらえているか、公演に向けての意気込み)
 キムについては盲目的で、熱くてたぎっているけど、それは青い炎のようなイメージを抱いています。静かな湖の底にマグマが潜んでいるような人。

 ただ、歴史的背景を学ぶ中で感じたことは、キムというキャラクターですが、“ある女の子”の話なのだということ。ある女の子があの状況に置かれたときに、どんな選択をしていくかという話。当時、たくさんのキムのような少女がいた。だからキムが3人いるということも素晴らしいことだと思っています。それぞれまったく違うキムになるでしょう。

 前回も昆ちゃんや屋比久ちゃんを見ているだけでインスピレーションがわいたり刺激をもらったり、嬉しくなったり楽しくなったりということが、稽古場で本当にたくさん起こりました。今回も、自分なりのキムを探していく稽古期間になると思います。今回の稽古場でいろんな人と話すことでどんなキムになるのか、自分自身も楽しみです。

 意気込みは……楽しくやりたいです!みんなと一緒に力を合わせて、最後まで走り切れたら最高だなと思います。



(前回公演の中止となったとき、再び挑戦できることが決まったときの率直な心境は)
 中止になったときは、すごく悲しかったですが、なんとなく「今じゃなかったのかな」と意外と落ち着いていました。それは、みんなで助け合いながら稽古を重ねていましたが、海外スタッフはいつまでいられるのか、幕を開けるために十分な準備ができるのか、不安もありましたので。そして、しばらくして、また挑戦できると決まったときには「このタイミングを待っていたのかも」と。それからは今回の公演までに少しでも成長したいと思って、ほかの仕事をしながらも、ときどきCDを聴いたり、稽古場で録った音源を聴いたり、すごくポジティブな気持ちでいました


【2014年よりキム役を務める昆夏美さん】



 この作品のファンで、帝国劇場の客席で市村さんのエンジニアをずっと見てきた私が、2014年にはじめてキムとして参加できたときは感無量でした。そんな大好きな作品の30周年の公演に出演できることを嬉しく思います。前回は、キム役のみんなでお互いのいいところや、この方はこういうキムになるんだろうなというカラーが見え始めたところで中止になってしまいました。2020年の稽古を思い出しつつ、より深めて各々のキムを作っていきたいと思います。

(昆さんが思う作品の魅力は)
 いち観客としてはじめて観たときの衝撃は、今も忘れられません。物語、登場人物の境遇、それを演じる俳優の気迫、音楽の素晴らしさに圧倒され、1幕が終わっても立ち上がれないくらい“喰らって”しまいました舞台の、作品の熱とパワーがお客様を包み込む作品です。舞台に立つ側になっても、この作品の持つエネルギーや物語をしっかりとお届けしたいと思います。



(市村さんとの共演について)
 2014年の『ミス・サイゴン』で初共演。キムが息子のタムを呼ぶ、その表現について「そこには母親の決意や愛情が込められているから、いろんな呼び方があるよ」アドバイスをいただいたことをよく覚えています。あれから8年、(成長した)自分なりの表現を市村さんにお見せしたいと思っています。



市村さん:一つのセリフでありながら、作品のテーマを象徴するひと言だよね。お三方の「タム」が、どう聞こえてくるか楽しみです。

【キム役新キャストの屋比久知奈さん】



 2年前に中止になったときは、悔しさ、悲しさ、もどかしさ……いろんな感情が渦巻いていました。こうして2年後に、30周年の節目に、またキムを演じるチャンスをいただけたことを嬉しく思います。キムに対して抱いていたあのときの思いをしっかりと昇華させられるように、役と真摯に向き合っていきたいです。今度こそ、この素敵な皆さんと一緒に全公演上演できることを願いながら、精一杯務めたいと思います。

(市村さんとの共演について)
 昨年、(『屋根の上のヴァイオリン弾き』で)共演させていただいたときは、パパと娘でした。あのときの頼れるパパとしての存在感、エネルギーを、今度はエンジニアとキムとして舞台上で感じられることが楽しみです。また、『ミス・サイゴン』30年の歴史のすべてを知る市村さんから、たくさんのことを学びたいと思います。



(キムという役をどうとらえているか、公演に向けての意気込み)
 前回の稽古を重ねる中で、キムという女性がより多層的に見えてきました。そして一人の人生を生きるためにより深く考える必要を強く感じました。あの時代を生きた一人の女性の生き様、どんな状況で何を選択したのか、選択しなければならなかったのか、深く彼女を理解し、愛したい。そして彼女の強さも弱さも、汚いところも美しいところもすべて表現できるようにしっかりとキムに向き合いたいです。

 この2年で経験してきたことが糧となり、意識せずとも2年前とは違うキムの見方、歌い方、演じ方になると思います。あまり真っ直ぐになりすぎず、力みすぎず、純粋な気持ちで、今の私でキムを演じたいと思います。



(最後に市村さんから締めのコメントを)
 『ミス・サイゴン』は、本当にいい作品です。
 そう言えるのは、エンターテイメントでもありながら、「命」や「生きること」、絶対に起こしてはいけない戦争と、それが生み出す真実をしっかりと描き出しているからです。それによって微力ながらも、世界を覆う不穏な空気がなくなったらいいなと思っています。コロナ禍ですが、劇場も対策し、最高の舞台を見せたいと思います。そうだよな、みんな!

みなさん口々に:「はいっ!」「そうだ、そうだ!」

 みなさんで、力強く会見を締めくくってくださいました。




感染防止のための特製マスクを着用して会見に臨まれたキャストのみなさん。

【公演情報】
ミュージカル『ミス・サイゴン』
2022年7月29日~8月31日@帝国劇場
(プレビュー公演7月24日~28日)

大阪:9月9日~19日@梅田芸術劇場メインホール
愛知:9月23日~26日@愛知県芸術劇場大ホール
長野:9月30日~10月2日@まつもと市民芸術館
北海道:10月7日~10日@札幌文化芸術劇場hitaru
富山:10月15日~17日@オーバード・ホール
福岡:10月21日~31日@博多座
静岡:11月4日~6日@アクトシティ浜松大ホール
埼玉:11月11日~13日@ウェスタ川越大ホール

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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