【感想追記】こまつ座 第141回公演『貧乏物語』開幕!



 4月9日に13回忌を迎えた劇作家・井上ひさしさんが遺した名作、24年ぶりの再演が叶ったこまつ座『貧乏物語』。観劇されたおけぴ会員のみなさんから寄せられた感想をご紹介いたします。

◆タイトルから予想される重いイメージをしょっぱなから覆され、女性たちのテンポの良い掛け合いには、内容の重さを忘れてしまうくらい爽快感がありました。さすが「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」の井上ひさしさんだけあります。

◆舞台好きは必見です。シンプルなセットに登場するのは6人の女性のみ。
互いに干渉し合いながらも尊重し合い、自分の最も大切なものを貫いていく。その過程が、しっかり伝わる快感が味わえます。役者さんの力量が素晴らしい!特に保坂知寿さんの凛とした風情がから目が離せませんでした。

◆観ているこちら側も「7人目のメンバー」になった感覚で舞台に集中できたのは不思議な感覚でした。見終わった後、「肚(はら)で感じて行動するクセ付けをしなきゃ!」と感じました。

◆自由に発言ができない時代を背景に、女たちがしゃべるしゃべる。言葉の力を信じていた作者の強い思いを感じた。井上ひさしの脚本では、どんなことも観念的な言葉ではなく生活者の言葉で表現される。いつものことながら味覚を通して観客に舞台を共有させる。今回はライスカレー、牛鍋、うなぎなどが効果的に使われていた。

◆華も実もある6女優のお芝居に笑わされ,泣かされ、最後にずしんと重いものが残りました。今この時代だからこそ「観てよかった」と思えるお芝居でした。

◆主義主張を理念中心で追及する男性とはまた違う、もっと身近な、生活に根差した視座で繰り広げられる女性の静かなる闘いや覚悟がよく描かれていると思った。河上夫人と娘の凛とした姿が印象的でした。

◆年月は経っても色褪せない井上ひさし氏の戯曲ここにありという素晴らしい公演です。言葉を大切にする氏の魅力的な台詞の数々は、やはり心に響きます。見応え充分な作品でした。お勧めです。

◆栗山民也さんの光の演出が綺麗な作品でした。初めて見る役者さんや、井上ひさしさんの戯曲でしたがとても面白かったです。笑いがありながら、今の時勢を考えさせられました。

◆俳優6名による骨太な会話劇。演じきるのは当然なので、+αの要素としては、皆さん声が良い。声だけでキャラクターが見えてくる位、きちんと人物がそこに居ます。滑稽でたおやかな女性が活躍するお話です。

◆キャストの6人の女優さんたちがみな素晴らしかったです。
そして貧乏についてというより、人としての生き方がテーマだと思いました。6人みんな立場も性格も個性も違うのに、自分で生きる道を決めている。誰にも流されずに力強く生きていく力と明るさを感じました。作品の舞台は昭和初期だけど、とても現代的なセンスを感じる女性たちでした。笑いも多く、けれど時代的な辛さ苦しさもある、奥深い作品でした。

◆大切にしたい信条や自分の選択について思い悩んだり、内面の悩みと人間関係の問題が同時に起こって滅入ったり、そんな中でも冗談で笑える仲間のありがたさにグッと来たり、きっと誰しも何か経験に重ねて思うところのある物語だと思う。

◆河上肇を知らずに観ました。こまつ座のお芝居を見るたびに、どうしてこんなに現代に響いてしまうのだろうと思います。女性たちの連帯の物語でした。是非たくさんの方に観てほしいです。

◆井上ひさしさんならではの軽妙さと重厚さが織りなす会話劇。
時代に翻弄され、国家に抑圧されながらも、自分の信念に従ってまっすぐに生きる女性たちの姿が素敵です。6人の女優さんたちのたたずまいとせりふ回しは最高。まさに熱演です。保坂知寿さんと安藤聖さんの凛とした姿、枝元萌さんと那須凛さんのややコミカルな演技。それぞれの役柄に演者の個性も相まって、素晴らしい舞台を満喫しました。

◆終演後に客席が明るくなり、帰り始める人がいても鳴り止まない拍手。ミュージカルでも無く、コメディでも無い、昭和初期の物語。「今」の時代に響くものがあってこその拍手でした。

◆キーワードは「たった一言」。ことばの重みを集約したこのひとことを書くか書かないかは、これまでの人生を否定にも肯定にも変え、天国と地獄の苦しみとを取引するものです。

◆やはり井上ひさしは全部観ておかないといけない。必見の傑作。
最上級レベルの女優の演技合戦が味わえる。コロナにロシアのウクライナ侵攻など現在の物々しい雰囲気が今作とぴったり合致。今作を味わう旬はまさに今なのかも知れない。国家権力によって如何様にも踏み躙られていく弱者の暮らしと、そこで最後に手元に残った希望とは?ゴーリキーの『どん底』が通底、共鳴していく。那須凛さんの突き抜けたコメディエンヌ振りが最高。最高の六種の具材が揃った牛鍋のような旨味、面白い。もう一度観たい。

◆芝居巧者の女優さんばかりで見応えがありました。保坂さんが登場されると空気が一瞬で変わりました。安藤さんの涙ながらの熱演も印象に残りました。先日杉村春子賞を受賞された那須さんには勢いを感じました。



これは本当の豊かさのお話。劇場で自分の軸を確かめる!

 『貧乏物語』、そのタイトルからどんな物語をイメージしますか。暗いじめじめっとした印象を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品に登場するのは凛としてたくましい6人の女性です。彼女たちが繰り広げるリズムのよい会話劇はエンターテイメントとしても見応えあり! ただ、これは豊かに生きるための尊厳のお話でもある。そんな“井上ひさしさんの戯曲に唸る!” こまつ座 第141回公演『貧乏物語』(こまつ座としては)24年ぶりの再演が開幕です!



左から)松熊つる松 枝元萌 山﨑薫 安藤聖 保坂知寿 那須凜(撮影:宮川舞子)

まずは「貧乏物語」について。
「貧乏物語」は1916年に大阪朝日新聞に連載され、翌年に出版された大正時代のベストセラー。執筆者はマルクス経済学者の河上肇。貧乏を経済学の問題として提起した現在にも通じる評論。

 物語の舞台は、1934年(昭和9年)東京・中野にある河上肇の自宅。河上は、その前年に治安維持法違反の容疑で逮捕、懲役五年の刑に服している。(時代背景は『組曲虐殺』の頃ですね)

 主人不在、家族も留守をしている河上家に、ひとりまたひとりとゆかりの女性がやってくる。そんな始まり。

(『太鼓たたいて笛ふいて』『きらめく星座』などなどこまつ座の作品にはたびたび登場するちゃぶ台のある風景。これが大好きなおけぴスタッフ!河上家にもありますよ、小さなちゃぶ台。それを囲んで食事をし、お茶を飲み、おしゃべりし……、笑いも涙も染みついたちゃぶ台の記憶。栗山民也さんの演出でちゃぶ台があって、これ間違いない!)



左から)松熊つる松 那須凜 枝元萌 (撮影:宮川舞子)

 誰もいない家にやってきたのは、かつて河上家でお手伝いとして働いていた田中美代(枝元萌さん)。留守でもお構いなしの様子から、家族との関係、大らかな人柄がすぐさま伝わります。孤児院育ちのお美代さんが持つ、生きていくための知恵、力強さと枝元さんの気持ちのいい台詞回し、名調子がピッタリ合っています。最初に登場し、舞台にエンジンをかけるような活躍!時々ちゃぶ台をトトンと叩くのもお美代さんらしい。

 そこに同じ時期を河上家で過ごした竹内早苗(松熊つる松さん)がやってきます。河上の教え子と恋に落ち結婚、その夫は政府の役人。河上家とは敵対する立場にある夫を持つ早苗がここへ来た理由とは。松熊さんの落ち着いた語り口で伝えられる“賢妻”としてぐぐっと堪えてきた早苗の葛藤。そして気心の知れたお美代とのやりとりに早くも客席は泣き笑い。

 懐かしい再会を果たした二人に、ひょんなことからもう一人加わります。隣家から転がり込んだのは、新劇女優で河上肇の著作の熱心な読者でもある金澤クニ(那須凜さん)。演劇を愛する強い心持つ、ちょっとユニークなクニの存在は絶妙! そして声がいい!迷いなく突き進む声がいい!(二回言いました)

 夫や嫁ぎ先、パトロンに理不尽な目に合わされ……言わばちゃぶ台をひっくり返す勢いで元いた場所を飛び出した三人が集まったのが河上家。



左から)枝元萌 安藤聖 那須凜 山﨑薫 (撮影:宮川舞子)

 やがてこの家のお嬢さん、つまりは河上肇の娘・ヨシ(安藤聖さん)と彼女に付き添い世話を焼いている初江(山﨑薫さん)が帰ってきます。日本共産党の運動に身を投じ、拷問で足を痛めたヨシ。陰のある女性。初江は婦人記者を目指すも父の死後その夢が絶たれ、それを機に母と衝突して家を飛び出し河上家へ。ペン先職人だった父の形見の万年筆でヨシの健康日誌をつけている。突然、留守宅に三人がいても動じないヨシ、常にヨシを気にかける初江、若い二人の理知的なたたずまいは物語に奥行きを作り出します。普段はひっそりと静かに暮らしていたんだろうな。落ち着いたトーンの安藤さんの芝居は新鮮で、透明感のある山﨑さんの芝居に希望が見えます。(このペンを持った初江という存在は観察者のような役割も。記録し伝えていく、俯瞰する冷静さもある初江。山﨑さんがしっかりと務めます)

 そして遂に!この家の奥様、河上肇の妻・ひで(保坂知寿さん)の登場です。「咲きこぼれる笑い声(が外にも聞こえていましたよ)」、その表現だけでもひでの感性、知性が伝わります。すっと物語のど真ん中に存在するひでの人間力の大きさ。きらびやかというではないのですが、芯の通ったカッコよさがビシビシ伝わってきます。保坂さん演じるひでがしゃべりだすと自然と耳を傾けたくなる不思議。(ひでさんが脱いだ羽織を当たり前のように受け取り畳むお美代さんのグッジョブ)



左から)安藤聖 枝元萌 那須凜 保坂知寿 松熊つる松 山﨑薫(撮影:宮川舞子)


左から)安藤聖 那須凜 保坂知寿 松熊つる松 山﨑薫 枝元萌(撮影:宮川舞子)

 こうして役者は揃った!
 芝居を打てる喜びを全身で表現するクニの姿に笑い、美代や早苗が語る夫とのなれそめや身の上話に泣き笑い。獄中にいる病弱な夫を励まし続けるひで、傷を負ったヨシ、そして初江。逆境の中でもたくましく生き、「今夜は牛鍋!」の声に心躍らせる6人ですが、河上家に迫るのは思想弾圧、国家権力。大きな力の前に、果たして6人の女性たちは何を選択し、どう生きていくのか。

 夫、父、ご主人様、夫の恩師、愛読書の著者……、それぞれの関係性の中でこの家の主を慕う女性たちの姿、眼差し、言葉から浮かび上がる「河上肇」という人物。これは本人が登場しないちょっと変わった評伝劇でもあるのです。そして河上肇が説いたのは、貧困、格差といった今も私たちの目の前にある社会問題。さらに言えば感染症で生まれた分断、国際情勢も日々の暮らしに暗い影を落とす今。この作品に登場する6人は私たちかもしれません。



保坂知寿 安藤聖 (撮影:宮川舞子)

 そんな社会問題への鋭さとともに、人と人との繋がり、人のぬくもり、あたたかさ……市井の人々への温かな眼差しで井上ひさしさんが描いた『貧乏物語』。終盤のヨシやひでの言葉には、そこまで強くなれないよと自分との格の違いを感じたというのが正直なところですが、それでもぎゅっとこぶしを握って自分へのエールのように聞いていたような気もします。6人の女性たちが河上家での時間を通して自分を取り戻していったように、劇場は自分の信念に向き合い、生きていく軸を取り戻す場所だと感じる2時間でした。あるべき姿のために。



 数々の舞台経験のある保坂知寿さん、松熊つる松さんは初こまつ座でも確かな存在感、『私はだれでしょう』での好演でおなじみの枝元萌さんもさすが!それに加えて、昨年の『愛するとき死するとき』でも芝居と歌でキラリと光っていた山﨑薫さん、そしてこちらも初こまつ座となるお二人、『Indigo Tomato』でハツラツとした芝居を見せた安藤聖さん、『ザ・ドクター』で素敵だなと思った那須凜さんといった、これまでに見た舞台で気になる!と思っていた俳優さんの顔合わせで届けられる令和の『貧乏物語』。お見逃しなく!



『貧乏物語』スペシャルトークショー開催決定!
★4月17日(日)2:00公演後 保坂知寿・安藤聖・山﨑薫
★4月19日(火)2:00公演後 枝元萌・松熊つる松・那須凜
※トークショーは、開催日以外の『貧乏物語』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。
※本編上演時間:2時間予定(休憩無し)


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【公演情報】
こまつ座 第141回公演『貧乏物語』
2022年4月5日(火)~24日(日)@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

<スタッフ>
作:井上ひさし
演出:栗山民也

<出演>
保坂知寿、安藤聖、山﨑薫、枝元萌、松熊つる松、那須凜

<公演HP>
http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html

おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人

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