朗読劇企画「リーディングプロジェクト」第一弾 公演レポート

橋爪功さん演出による朗読劇企画「リーディングプロジェクト」!
橋爪さんご自身が演出を担い、ジャンルを超えた次世代表現者たちと共に作り上げる、エンタテイメント性を追求した朗読劇のプロジェクトの記念すべき第一弾。俳優の井上芳雄さん、タップダンサーのRONxIIさんが出演、さらに読売日本交響楽団在籍のチェリスト渡部玄一さんが生演奏で参加! 余計なものをそぎ落とし、表現者の力量と観客の想像力を信じる潔いステージ。贅沢な公演となりました。


【第一幕『関節話法』】




作家・筒井康隆さんのSF短編「関節話法」を、橋爪さんの朗読とRONxIIさんのタップダンスの融合でお届けする朗読劇。2019年に行われたRONxIIさんの活動20周年を記念したライブ『From Here』でも披露された作品がフルバージョンとなりパワーアップして上演されました。このお話が持つ不思議な感覚やドタバタ喜劇の要素、おもに主人公「おれ」のモノローグで展開する構造がこのプロジェクトと相性抜群であることを客席で改めて実感。

活字や雄弁に語ることを離れ、関節を鳴らすことによるコミュニケーション(関節話法)をとるようになった惑星マザングとの国(星⁉)交樹立、交易開始のために地球から大使として派遣された主人公の物語。




幕開きはRONxIIさんのパフォーマンス。これがまず素敵。そこに登場するまったく同じ出で立ちの男(橋爪さん)。向き合って「おれが君、君がおれ」とばかりに指差し確認、はい、これで二人の関係性成立! 奇妙な形態の劇なのですが、観客もそれを自然に共有できてしまうのです。そこからは橋爪さんが朗読で、RONxIIさんが身体表現で物語を進めます。関節をポキポキ鳴らすようなマイムに合わせて足を踏み鳴らす、コツコツコツ、グキッ、タラララ……そのバリエーションは豊富で主人公が追いつめられ関節話法でまくしたてる場面では狂乱の舞のような瞬間も。一方で橋爪さんはキャラクターの姿が目に浮かぶ声の芝居で観客を魅了。主人公の上司である局長を鼻持ちならない曲者キャラとして印象付けるなど瞬時に声色を変え、また主人公の虚しさや、置かれた理不尽さを声で表現。
舞台上に確かに「おれ」が存在し、そこはまさにマザングでした。



また笑いに包まれる作品の中にも、組織に翻弄される人間の哀愁や言葉を発することの放棄、なにを下品と失礼と感じるかひっくり返った価値観など、チクッと刺さるようなところもしっかりとあります。ラストシーンの見た目と言葉のアベコベが象徴的。

シンプルな舞台、照明と音、表現者が作り上げる一つの世界。
観客の想像力を信じ、観客は表現を信じる。しあわせな共犯関係のもとに成立するステージ。カーテンコールでも観客の手拍子に合わせて再びRONxIIさんのタップ、するとそこに登場した橋爪さんが客席を煽る煽る(笑)。そうなったら観客もRONxIIさんもノリノリで手拍子、タップ……。そこに言葉はなくとも“楽しい”が溢れる心の会話。これは間違いなく体感していただきたい作品です。こんなにも朗読劇に適した作品はほかにあるのだろうか。そんなことを思いながら休憩へ。


【第二幕『船を待つ』】




橋爪さんが昨年出演した三國月々子さん原作のNHKーFMラジオドラマ「船を待つ」を橋爪さんご自身が再構築。新たなリーディングドラマとして上演されました。

「死んだ人間は船に乗ってあの世へ行く」
浜辺で船を待つ老人と青年の会話で進む朗読劇。
ある男の記憶と再生の物語がファンタジー仕立てで届けられます。

こちらも椅子に座ってというスタイルではなく動きながらではありますが、基本的に台本を手にし、そこにある言葉を読む(ただそれが見事に芝居に昇華されている)。台詞を覚えているとか覚えていないとかではなく、すごく芝居だけど芝居じゃない、でもステージの完成度は高い。伝わりにくいとは思いますが、これがリーディングプロジェクトなんだと妙に納得してしまうのです。だからなのか、観劇後はこれを演劇作品で見てみたいという気持ちは不思議なほどわきませんでした。この形でまた見たいというのはかなりありますが!



こちらの幕開きは渡部玄一さんによるチェロの調べ。台本と橋爪さんからのリクエストをもとに書き下ろした音楽が作品世界へいざないます。音楽とともに印象的だったのは夕焼けのようなちょっと切ない美しさを、記憶の底に眠る思い出したくない“そのこと”を蘇らせるような鋭さを、漆黒の闇を……作り出す光(照明)。




舞台上に一人の男(橋爪さん)が登場し、やがて照明が切り替わると井上さんが同じ衣裳でそこにいる仕掛けで観客にひとつの情報が受け渡されます。まるで老人のような手だとその手を見つめる主人公タツヤ(井上さん)。

青年や少年を演じる橋爪さんは、はつらつとした声や導き手としての穏やかで柔らかな声を自在に使い分け。自らを老人のようだと言い、歳を重ねた哀愁をのぞかせつつ無理な老いの演技はない井上さん。

はじめは「これはどういうこと?」「なにが起きているの」と感じるのですが、それは決して観客を物語から遠ざけるようなわからなさではなく、むしろそれによって物語の世界に引き込まれていくのです。やがて全てが明らかになったとき、それまで行われていたあれこれ、配役も含めたすべてに合点がいく。なんとも言えないカタルシスがあるのです。

井上さん演じるタツヤが葛藤し、答えを見つけていく過程を、幼い日の記憶の層を1枚ずつはがしていくように描かれる物語。遠い日に封印した記憶が露わになったときの彼の痛み。壮絶な芝居の中にも、この人ならきっとまた歩き出せる。絶望の中に希望を見出せる人物に作り上げています。

目に見えるものと真実の差異、これは脳や認識のズレと言ってもいいかもしれません。その面白さ、終演後にはそこに、ある種の整合性があると感じるのです。ちょっと不思議で、とても温かい作品。こんなにも朗読劇に適した作品はほかにあるのだろうか。あれ、デジャブ(笑)。



愛されなかった記憶、愛されたかった記憶、はじめての友達──
その象徴としての黒い塊。
隕石と呼ばれたり、アスファルトと呼ばれたりしながらずっと“ある体”で進む黒い塊。ラストシーンで主人公タツヤがポケットから取り出す“それ”は、まぎれもなく「星の欠片」だと思うのでした。これって舞台だからこそ味わえる記憶と現実、2つの世界のリンク! シビレマシタ!


この日はアフタートークが開催されました。

『関節話法』の主人公として会話や演説などに合わせて身体を駆使するRONxIIさん(その動きに合わせて、タップを踏んで音を出すというなかなか活字ではお伝えしにくい“超絶話法”を見せるのです)。お稽古では、台詞を模造紙に書き出し、見えるところに置いて動きをつけていったそうです。その様子はこちらに(RONxIIさんのInstagram)。


それについて井上さんは「僕らは本を読む、台詞を覚えなくていいのが朗読劇なのですが、劇中で声を発することのないRONxIIさんだけが台本をすべて暗記していたんです」と。
そんなアベコベもなんだか皮肉めいていて、作品と繋がっているようなエピソードでした。
また、RONxIIさんや渡部さんが「もはやタップダンスではない」「もはやクラシック音楽ではない」と語る表現の新しさ。それを昇華し、作品として成立させるのが確かな技術。橋爪さん、井上さんも含めたプロフェッショナルたちの競演が生み出す新しい世界なのでしょう。

また、今回は第一弾と銘打っているので、当然のように次を期待する観客。その声を代弁する井上さんに「もうやらない!」とわがまま小僧のような笑顔で答える橋爪さん(そもそもトークショー冒頭に話を振られた際には「お口にチャック」された橋爪さん(ト、ト、トークショーなのに・笑)。その後、発言するときにマイクを口元に持っていくのを忘れ井上さんに幾度となく「マイク、マイク」と指摘されながらも、次第に気持ちも乗ってきて「そうだそうだ」と話し始める一幕も。橋爪さんは二部構成の一幕、二幕とも出演し、この日はマチソワ公演、とてもとてもお疲れだと思うんです。さらにアフタートークも! 超人です!(ちなみに、この日は橋爪さんの81歳のバースデー、おめでとうございます!!)



話を戻しますと、このリーディングプロフェクトのこの先の展開は「お客様のご要望次第」(橋爪さん)とのこと、客席からは大きな大きな拍手が送られました。

最後にトークショー冒頭にRONxIIさんが仰った「二幕を舞台袖から見ていて感じるステージ上に作り出される空気」について少し考えてみました。
舞台にいる人間が発するひと言、一音がすべてを支配する世界。
それによって観客の目の前に世界が広がる。これはもしかしたら活字を読む、読書のそれに近いのかもしれません。ただ違うのは現実として、俳優やダンサー、音楽家の肉体や息づかいがそこにあるということ。それは、まぎれもないリアル。それが場の空気、温度を作り出すのかもしれません。
表現力×想像力の融合で像を結ぶ、このリーディングプロジェクトの楽しさはその辺りにあるのではないか。そんなことを考えました。

またトークショー内で、『船を待つ』での女性の声は橋爪さんと同じ演劇集団 円所属の高橋 理恵子さんがラジオドラマに引き続き務められていること、劇中の星座を結ぶ歌は大貫祐一郎さんの作曲である(それをお二人が独自のアレンジで、渡部さんがラストに原形で⁉演奏されている)ことが明かされました。

第二弾が楽しみですね。あー、楽しかった!!

初日コメントなどは開幕レポートにてご紹介しています!
【公演情報】
「リーディングプロジェクト」
2022年9月16日(金)~19日(月・祝) 草月ホール
9月16日(金)18:30
9月17日(土)13:00/17:00※アフタートーク
9月18日(日)13:00
9月19日(月・祝)13:00

演出・出演:橋爪功
出演:井上芳雄 RON×II
演奏:渡部玄一

【公式サイト】http://readingprostage.com

舞台写真提供:グランアーツ
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人

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