ミュージカル『太平洋序曲』海宝直人さんインタビュー~ソンドハイムを歌い、演じるということ~



梅田芸術劇場×英国メニエールチョコレートファクトリー劇場 共同制作第1弾として上演されるのは、近代日本の夜明けを描いたスティーヴン・ソンドハイム作曲の『太平洋序曲』。本作にて浦賀奉行としてペリーとの交渉に臨み、次第に西洋文化に傾倒していく香山弥左衛門を演じる海宝直人さんにお話を伺いました。(香山役は廣瀬友祐さんとのWキャスト)



【ソンドハイム作品へ再び挑む】

──ソンドハイム作品の印象からお聞かせください。

ソンドハイムさんの作品への出演はこれが2作目となります。最初は『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(2013年)、若手の出演者で構成されたカンパニー一丸となってソンドハイム特有の難しさに挑んだ思い出深い作品のひとつです。

そこでの難しさというのは、精密な音楽をハーモニーとしても芝居としても成立させるということ。それに取り組むことは大変でもありましたが、音楽のスキルとして大きな財産にもなりました。その意味でも。こうしてまたソンドハイムさんの作品へ出演できることを嬉しく思います。

特に、この『太平洋序曲』のように日本を舞台にしたブロードウェイ作品というのはなかなかありません。また、初演は高く評価される一方で、それだけでない、いい意味で賛否がわかれた作品です。演出によって、作品の持つ空気感やメッセージ性が大きく変わる本作、俳優としてマシュー・ホワイトさんの立ち上げる『太平洋序曲』に参加できることを光栄に思います。


【ソンドハイムを歌う】

──『太平洋序曲』という作品、そして楽曲の印象は。(過去上演の印象となります)

まず、英語で歌舞伎調というところに面白さを感じました。
楽曲については、パッと思い浮かんだのはソンドハイムさんならではの緊張と緩和が感じられ素晴らしいと思った♪Chrysanthemum Tea、 また♪Someone in a Treeが歌われるシーンでの秘密裏に進められた交渉を実は名もなき人々が見ていたということにも見せ方も含め大きな意味を感じました。

僕が歌う楽曲については、序盤に登場する♪There Is No Other Wayは、オリジナルでは歌唱に合わせて香山と妻のたまてがマイムや舞踊などの身体表現をしていましたが、今回は二人のデュエットになります。とても美しい旋律ですし、同じモチーフのリフレインの効果で、聞けば聞くほど味わい深くなる“するめ”のような魅力があります(笑)。それはこの楽曲に限らず、『太平洋序曲』の楽曲全体に言えることです。

香山とジョン万次郎が親交を深めていく♪Poemsは連歌のようなスタイルの印象的な楽曲。今回の日本語詞がどのようになるかも興味深いです。そして香山というキャラクターを象徴するのが♪A Bowler Hat、この一曲の中で香山という人物が変化していく様(さま)を描く、楽曲の表現力に圧倒されます。この曲自体は本作の中ではキャッチーと言えるかな、気づいたら口ずさんでいるような楽曲です。

──技術と表現力を必要とする楽曲へどのようなアプローチをされるのでしょうか。

ミュージカル作品で「歌う」ということ。そのアプローチ方法は作品や楽曲によって様々です。例えば、今上演している(取材時)『ミス・サイゴン』では演劇に寄せたリアリティ、エモーション(感情)優先でしゃべるように歌うということを求められます。もちろんこれは現在の『ミス・サイゴン』での話で、以前はもっと歌っていたと思います。そのように作品、楽曲(作曲家)、演出家によって表現方法は変わってきます。

ソンドハイムさんの作品については、氏が譜面に描いた繊細な旋律-その遷移が半音なのか全音なのか-そこに込められたキャラクターの感情を丁寧に、忠実に表現していくことが大切だと感じます。さらにオーケストラとの音との反発や融合を通して、不協和音が緊張を生み、それが緩和されるなど、音楽で物語が綴られていく過程をしっかりととらえたいと思っています。その意味で、さきほどお話したたまてとのデュエット♪There Is No Other Wayは旋律が表現する哀愁や寂しさを感じられる代表的な楽曲だと言えます。今回なにを求められるのかはまだわかりませんが、現時点ではこのような印象をもっています。

──ほかに舞台に立つうえで大切にされていることは。

舞台上でしっかりと交流するということです。相手の話をちゃんと聴く、ただ物理的に音を聞くのではなく。その言葉を受け取って、それに新鮮に反応する。当たり前のことですが、それがなかなか難しい。常にそれを意識すること、それは俳優として一生の課題だと思っています。


【香山弥左衛門というキャラクターを通して】

──本作には将軍、老中などその役職を役名とした、ある種、戯画化されたキャラクターが多く登場する中で、海宝さんが演じるのは実在のモデルもいる香山弥左衛門という名を持つキャラクターです。

デフォルメされたキャラクターが多く登場する中で、香山はとてもニュートラル、普通の人として描かれています。激動、変革の時代をなんとか知恵を絞って乗り切ってく、その過程では友との決別や大切な人との別れを経験し、次第に西洋文化に傾倒していく香山は日本人を象徴していると感じました。観客は香山と自分を重ねて見ることができ、彼の苦悩や悲しみに共感できるのではないかと思っています。

──1976年のブロードウェイ初演、2000年の宮本亞門さん演出による日本語での初演(同プロダクションは2002年にニューヨーク、ワシントンD.C.で上演の後、日本で凱旋上演を果たす。2004年ブロードウェイ再演も宮本亞門さんが手掛けトニー賞の最優秀再演ミュージカル賞を含む4部門にノミネート。2011年にも宮本亞門さん演出で別プロダクションにて上演)という歴史をもつミュージカル『太平洋序曲』。2023年は、西洋のクリエイターによって描かれた 「日本」を日英合作で上演します。

初演はブロードウェイのクリエイターによる制作、続いて日本人の感覚で作り上げた亞門さんバージョンがあり、今回は共同制作。海外クリエイターと日本の俳優で作り上げるというところも興味深い流れだと感じています。西洋の視点と舞台となる日本の感覚の融合という新しい形でのアプローチによって新しい『太平洋序曲』になると期待しています。

本作は♪Nextという曲で締めくくられますが、そこにはこの国の「変化」についての特殊性が色濃く描かれています。黒船来航、開国から明治時代を迎え、ガラリと西洋化する日本。また第二次世界大戦では敵国だったアメリカに対しても敗戦後にはその文化や経済システムを取り入れ、焼け野原から一気に高度経済成長を成し遂げ世界トップクラスの経済大国になる。変化を受け入れる能力、良くも悪くも高い順応性をもつ日本人は、外から見ると非常に特殊に映ったのではないか。この国に生きている僕らはあまり意識していないことですが。

──初演の1976年は、日本はまさに高度経済成長期を経て、安定成長期、そしてバブル期を迎えようとしていた時代。そこから時を経て、NextのNext、現代はまた違うフェーズへ突入しています。

例えば古い建物、街なかの歴史的建造物を遺す、景観を守る意識の高い海外に対して、日本はどんどん新しいものへと変化させることを選び、そこに価値を見出すという独特のメンタリティがある、もしくはあったと感じます。この作品を日本のキャストと海外のクリエイターで作ることで、僕自身、世界からどう見えているのか、俯瞰でこの国を、日本人を見つめ直す機会にしたいと思っています。グローバル化し、アイデンティティもわかりづらくなっているこの激動の時代に、この作品を上演することで発見があるのではないかと期待しています。

──英国の演出家というヨーロッパの視点が加わることも興味深く思います。

やはり英国というと、その文化的背景としてシェイクスピアの国、演劇の国という印象があります。これまで仕事をしてきた英国のクリエイターからも俳優との対話を大切にし、丁寧に作品をつくる印象を受けました。マシューさんとの創作が楽しみです。

──作品を少し離れ、本作タイトルにあるオーバーチュア(序曲)について。ミュージカル作品には名オーバーチュアがたくさんあります。オーバーチュアが好きな作品は。

観客としても俳優としてもオーバーチュアが流れると体温がガッと上がります。それによってスイッチが入るような感覚、そうやって作品世界へいざなってくれるのがオーバーチュア。今、思い浮かんだのは『アナスタシア』、バン!と始まる『アラジン』もいいですね。

──海宝さんのコンサートも毎回壮大なオーバーチュアで始まりますね。

音楽監督・指揮の森亮平くんが作ってくれています。そこで毎回気持ちが上がり、音楽の力というものを実感します。

──音楽の力を感じる、まさにその通りですね。本作オリジナルの幕開けは無音からの拍子木、講談のようなスタイルで狂言回しが語りだしていましたが、果たして今回はどんな幕開けが待っているのか! ワクワクします。

撮影:岩村美佳
ヘアメイク:本名和美(RHYTHM)
スタイリスト/津野真吾(impiger)
衣装協力/suzuki takayuki




『太平洋序曲』を今、日本で上演することへの期待が膨らむステキなお話をありがとうございました。初演では、お話に合ったように歌舞伎調で女性の役も男性が演じていました。一方で、今回は将軍に朝海ひかるさん、老中に可知寛子さんなどがキャスティングされている点も興味深いです。ここからマシューさんのもと立ち上がる2023年の『太平洋序曲』が楽しみです。





ものがたり
時は江戸時代末期。海に浮かぶ島国ニッポン。
黒船に乗ったペリーがアメリカから来航。鎖国政策を敷く幕府は慌て、浦賀奉行所の下級武士、香山弥左衛門(海宝
直人・廣瀬友祐)と、鎖国破りの罪で捕らえられたジョン万次郎(ウエンツ瑛士・立石俊樹)を派遣し、上陸を阻止すべ
く交渉を始める。一度は危機を切り抜けるものの、続いて諸外国の提督が列を成して開国を迫りくる。
目まぐるしく動く時代。狂言回し(山本耕史・松下優也)が見つめる中、日本は開国へと否応なく舵を切るのだった。

【公演情報】

ミュージカル『太平洋序曲』
【東京】2023年3月8日(水)~29日(水)日生劇場
【大阪】2023年4月8日(土)~16日(日)梅田芸術劇場メインホール

<スタッフ>
作詞・作曲 スティーヴン・ソンドハイム
脚本 ジョン・ワイドマン
演出 マシュー・ホワイト
翻訳・訳詞 市川洋二郎


<キャスト>
狂言回し 山本耕史・松下優也(Wキャスト)
香山弥左衛門 海宝直人・廣瀬友祐(Wキャスト)
ジョン万次郎 ウエンツ瑛士・立石俊樹(Wキャスト)
将軍/女将 朝海ひかる
[老中] 可知寛子/ [たまて] 綿引さやか/ [漁師] 染谷洸太/ [泥棒] 村井成仁/ [少年] 谷口あかり/ [提督] 杉浦奎介/
[提督] 武藤寛/ [提督] 田村雄一/ [提督] 中西勝之/ [提督] 照井裕隆/ [水兵] 藤田宏樹/ [少女] 井上花菜 (登場順)

公式HP:https://www.umegei.com/pacific-overtures/

おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人

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