1847年に刊行されたシャーロット・ブロンテの長編小説「ジェーン・エア」を原作に、ジョン・ケアードの脚本・演出、ポール・ゴードンの音楽により誕生した
ミュージカル『ジェーン・エア』。日本でも2009年、2012年に上演された名作が、2023年に蘇る!
今回の上演では、主人公のジェーン・エアと彼女の人生、価値観に大きな影響を与える、幼き日に出会った親友ヘレン・バーンズを
上白石萌音さんと
屋比久知奈さんが役替わりWキャストで演じます。それによって見えてくるジェーンとヘレンの魂の繋がりの強さ。確かな表現力、作品や役柄に真摯に向き合う姿勢など通じるところの多いお二人ですが、ジェーンとヘレン、その表現はそれぞれの魅力にあふれます。それによって
井上芳雄さん演じるエドワード・フェアファックス・ロチェスターも変化する。豊かな音楽性と物語性で心を揺さぶるミュージカル『ジェーン・エア』をレポートいたします。

ジェーンとヘレンの関係性がより強く感じられる役替わり上演の魅力! ヘレンがジェーンを、ジェーンがロチェスターを……変えていく。
1800年代ビクトリア朝のイギリス。孤児のジェーン・エアは叔母のミセス・リードに引き取られ不遇の幼少期を過ごす。その後のローウッド学院での寄宿生活にもなじめず反抗的な態度をとるジェーン。しかし、そこで出会った親友ヘレンから「信じて赦す」ことを学ぶことで彼女の人生は動き出す。
ジェーン、ヘレン、ロチェスターを演じる俳優以外は、ジェーンと共に彼女の人生を一人称で語り、また、彼女に関わるいくつもの人物を演じます。ジェーンの回顧録、小説を読むような厳かな始まり。

絵画のような舞台セット!(美術:松井るみさん)

幼少期のシーンでは、子役のジェーンを見守るように大人のジェーンもそこに居る。
ヘレン(屋比久さん)、ヤング・ジェーン、ジェーン(上白石さん)
自らを律し幼いジェーンを導く屋比久ヘレン、慈愛の心で包み込む上白石ヘレン。その澄み切った歌声は頑なだったジェーンの心を解きほぐしていきます。登場シーンは決して長くはないのですがどちらもしっかりとジェーンの、観客の心に残るヘレン。
病で亡くなってしまったヘレンの墓へ、毎日、花を手向けるジェーン。幼いジェーンと大人ジェーンの入れ替わりが美しい! さぁ、ここから大人ジェーンの物語が始まります。

女性の自立を語り、自由を求めるジェーンは家庭教師としての働き口を見つけローウッド学院を出る!
ジェーンが住み込みで家庭教師として働くのはソーンフィールドの大きなお屋敷。大きな老トチの大木のあるこの屋敷の主人・ロチェスターの被後見人である少女アデールがジェーンの担当。このアデールが、ちょっとこまっしゃくれた(失礼!)とってもカワイイ子。アデールとジェーンのやり取りも微笑ましく、その端々に教育者としての信念がうかがえる素敵なシーンです。
長く不在だった屋敷の主・ロチェスターの登場、皮肉屋でどこか陰のある謎めいた男です。

どこか似ている……特別な思いを感じながらも戸惑いが先に立つ二人。

ある夜、ロチェスターの寝室でボヤ騒ぎが。
この屋敷でうわさされる女性の幽霊の仕業なのか
……そんなミステリアスな展開も。
戸惑いを隠せず、その言動に反発を覚えながらも互いの本質に触れ確実に心の距離を近づけていく上白石ジェーンと井上ロチェスター。慎重に思いを積み重ねていきます。一方で、屋比久ジェーンとは似た者同士だからこそバチバチにぶつかり合い、それが愛を燃え上がらせるような激しさを感じました。同じように強い心で惹かれ合う過程が、同じ脚本、同じ音楽でありながら、それぞれの色で表現されます。

「誓い」
「誓い」のシーンではロチェスターの問いに、しっかりと彼を見つめ「信じ続ける」と歌う上白石ジェーンの強さ。ゆるぎない信念、包み込むような大きな愛がロチェスターを変えていく。

やがて磁石のように引き合う二人
上白石さんと屋比久さんのロチェスターとのそれぞれの距離の詰め方、いずれも芝居として一本筋が通っているのでしっかりと成立し確かにそこにいるのはジェーン。また、それを受け止め芝居で返す井上さんのすごさも再認識。

気難しく変わり者と噂されるロチェスター
荒々しく振る舞うかと思えば、焼きもちを焼かせようとわざと意地悪をする、だいぶ屈折したロチェスター。ジェーンが変わることでその芝居の強弱(どこが立って見えるか)は変わるのですが、人物像、彼が抱えている闇の深さや心の奥底で愛を求めているということなどは決してブレることはない。孤独を抱える男の色気も! そして……なんと申し上げましょうか、伝わりやすくシンプルに表現しようと思ったらこんな言葉が出ました……歌が上手い。音程がとかそういうことだけでなく、心にダイレクトに響く歌唱。本作がミュージカルであることの素晴らしさ。やっぱりミュージカルが好きだなと思うのです。もちろんそれは俳優が奏でるアンサンブルまでを含めたすべてのキャストに言えることです。
こうして心が通じた二人を待ち受ける困難。

メアリー(水野貴以さん)ブランチ(仙名彩世さん)レディ・イングラム(春野寿美礼さん)
ロチェスターの妻候補⁈、イングラム家の令嬢ブランチを演じる仙名さんの優雅な歌声と自信に満ち溢れた振舞いはジェーンにとっては上流階級の洗礼。

家庭教師の自分とい令嬢ミス・イングラムとの差に嘆く「描く肖像」。
「描く肖像」はジェーンの中にある激しさが表出する楽曲です。音域や感情表現の幅もさることながら、自分に向けてナイフを突き刺すような歌。歌い切った瞬間、内容的には拍手は似合わないのですが、それでも拍手を送りたくなる!

写真左)メイスン(大澄賢也さん)
メイスンの訪問が、二人にさらなる試練を与える。
ジェーンとロチェスター、運命の歯車は、果たして──
ここからはジェーンに関わる人々をご紹介。スポットが当たる場面ではしっかりと役を生き、そっとコロスに戻り、ときにはキャストの着替え(身支度)も手伝うという作品を支える実力あるみなさんが揃っています。

幼いジェーンにつらく当たるヤング・ジョン・リード(神田恭兵さん)、ミセス・リード(春野寿美礼さん)写真右)ミス・スキャチャード(樹里咲穂さん)
そこに立っているだけで役の空気をバシバシ発するみなさん。とくに春野さんの威厳たるや! またこちらのみなさんがコーラスをされるのですが、その厚みはそれはもう鳥肌モノです。

優しい朝の陽ざしに包まれるジェーンとフェアファックス家の個性的な使用人たち。
ベッシィ(樹里咲穂さん)、ジェーン、ソフィ(仙名彩世さん)、リア(水野貴以さん)
ミス・スキャチャードからのベッシィまで樹里さんの守備範囲の広さ。さらにお役はあるのですが、それも含め樹里さんのあらゆる魅力をお楽しみください。

お屋敷のことを任されているミセス・フェアファックス(春風ひとみさん)
厳しくも温かくジェーンを見守ってくれるフェアファックスさんの笑顔は安らぎ。

行倒れたジェーンを助けてくれたシンジュン・リヴァーズ(中井智彦さん)
一瞬で強烈な印象を残すシンジュン。中井さんはジェーンの父も演じられます!
こうして盤石のキャスト、スタッフで紡ぐ文芸大作。改めてクレジットを見ると、この人数であのスケールの物語を届けていることに驚きます。もちろんジェーンの、ロチェスターの話ではあるのですが、観劇後にもふとした瞬間に物語に登場したいろんな人の顔が浮かぶような作品です。「アデール元気かな?」というような。時代はかなり前の話で、今とは社会における女性の位置づけや価値観の違いはあります。でも、今の時代にも響く、愛すること、信じること、そして赦すこと。「ジェーン・エア」の物語が色あせることはありません。最後にとても印象的なグレーのケープを纏ったジェーンを(このお衣裳大好き!、衣裳は前田文子さん)。

思慮深さと大胆さを持ち合わせ、ロチェスターをまるごと受け止める人間の大きさを感じさせる上白石さんのジェーン

未熟さも感じさせながら一歩ずつ強くなる。壁を打ち破っていく魂はロックな屋比久さんのジェーン
二人のジェーンをお見逃しなく。下記の公演情報に配信情報も掲載!
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おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人